044-246-0910
平林良人「品質マニュアルの作り方1994年対応版」アーカイブ 第2回
このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「品質マニュアルの作り方1994年対応版」全200ページです。
先に1987年版対応の「品質マニュアルの作り方」をお届けしましたが、今回はISO規格の改訂に伴い、全面的に1994年版規格に合わせた内容に更新したアーカイブです。
1.3 ISO 9000シリーズ規格と企業組織の関係
品質マニュアルの説明に入るまえに,ISO 9000シリーズ規格と企業組織の関係について簡単に触れておく。9001から9003まで3モデルあるISO 9000シリーズ規格のなかから,最も広域をカバーし,代表的でもあるISO 9001を例にとって,その条項と企業組織との関係をまとめたものが表1.28(ISO 9001と企業組織との関係)である。全20項目中,以下の7項目は企業の全組織が対象となっている。
- 4.1 “経営者の責任”
- 4.2 “品質システム”
- 4.5 “文書及びデータの管理”
- 4.16 “品質記録の管理”
- 4.17 “内部品質監査”
- 4.18 “教育・訓練”
- 4.20 “統計的手法”
一方,残りの13項目はある特定分野の組織を対象として活動を進めていく条項である。すなわち;
4.3 “契約内容の確認”
- この条項では,営業部門が主管となって他の関係部門(設計部門,技術部門,品質保証部門)と協働して契約内容の確認をする。社内文書化された各種標準書類と契約内容とが合致しているかどうかを常に見直しをし,記録していく。
4.4 “設計管理”
- 設計部門が主管部門であり,設計を顧客の要求に確実に適合させるためになさなければならない各種規定について述べている。開発部門,技術部門,品質保証部門がこれに参加する。
4.6 “購買”
- 部門が中心になって行う購買活動の各種規定について述べている。技術部門,生産管理部門,品質保証部門が,この規定に関係して活動する。
4.7 “顧客支給品の管理”
- 顧客(客先)からの支給品がある場合で,営業部門が窓口となり,生産管理部門,物流・倉庫部門,品質保証部門がこれについて規定された活動を行う。
4.8 “製品の識別及びトレーサビリティ”
- 企業内の全工程において製品の識別を行えるようにしておかなければならない。
技術部門,購買部門,生産管理部門,物流・倉庫部門,製造部門,品質保証部門が関係する。主管部門は企業の組織のあり方による(ここでは品質保証部門とした)。
4.9 “工程管理”
- 全工程を管理された状態にするべく,技術部門,生産管理部門,物流・倉庫部門,製造部門,営繕・メンテナンス部門,品質保証部門が関係する。通常,品質保証部門が主管する。
4.10 “検査・試験”
- 製品の検査,試験について規定した条項で,技術部門,購買部門,生産管理部門,物流・倉庫部門,製造部門,営繕・メンテナンス部門,品質保証部門が関係する。通常,品質保証部門が主管する。
4.11 “検査,測定及び試験装置の管理”
- 会社内にある検査,測定,試験の装置を管理し,校正し,維持することを規定している。開発部門,設計部門,技術部門,物流・倉庫部門,製造部門,営繕・メンテナンス部門,品質保証部門が関係して活動する。通常,品質保証部門が主管する。
4.12 “検査・試験の状態”
- 製造および据付けの全課程にわたって製品の検査および試験の状態を識別することを規定している。購買部門,生産管理部門,物流・倉庫部門,製造部門,品質保証部門が関係する。通常は品質保証部門が主管する。
4.13 “不適合品の管理”
- 不適合品の識別,文書化,評価,隔離,処置などの活動を,購買部門,生産管理部門,物流・倉庫部門,製造部門,営繕・メンテナンス部門,品質保証部門が連携しながら推進する。通常は品質保証部門が主管する。
4.14 “是正処置及び予防処置”
- 不適合品の原因を調査し,再発防止の処置を講ずる活動を全社的に展開する。したがって,企画部門,開発部門を除く全組織が連携をもって活動する。通常は品質保証部門が主管する。
4.15 “取扱い,保管,包装,保存及び引渡し”
- 製品の取扱い,保管,包装,保存および引渡しについて規定しており,設計部門,技術部門,物流・倉庫部門,製造部門,品質保証部門がそれぞれの立場で関係する。通常は技術部門が主管する。
4.19 “付帯サービス”
- 付帯サービスについて規定した条項で,設計部門,技術部門,営業部門,品質保証部門が関係する。営業部門が主管する。
1.4 品質マニュアルの定義
それでは品質マニュアルとは具体的にどのようなものをいうのだろうか。品質マニュアルという言葉は,前述のように4.2項“品質システム”に出てくるが,ISO 8402(1994)“品質管理及び品質保証一用語”の3.12項“品質マニュアル”のなかにも以下の記述がある。
- “品質方針を述べ,組織の品質システムを記述した文書。”
- “品質マニュアルは組織の活動全般に関するものであるか,又はその-部のみに関するものである。マニュアルの題名及び適用範囲で適用分野が反映される。品質マニュアルは,通常は少なくとも下記を含むか引用している。
- a)品質方針,b)品質に影響する作業を管理,実施,検証又はレビューする要員の責任,権限及び相互関係,C)品質システム手順及び指示,d)マニュアルの見直し,改定,管理に関する記述。”
また,ISO 9004-1Quality management and quality system elements-Part 1:Guidelines“品質管理及び品質システム要素 ― 第1部:指針”(JISZ 9904)の5.3.2項“品質システムの文書化”には以下の記述がある。
- 5.3.2.1 “品質システムを実証又は記述する主要な文書の典型が“品質マニュアル”である。……”
- 5.3.2.2 “品質マニュアルの第一の目的は,品質システムの構造の概略を定義するとともに,品質管理システムを実施し,維持するうえでの永続的な参考資料として役立てることにある。”
- 5.3.2.3 “品質マニュアルの内容の変更,修正,改訂,又は追加を行うための手順書を作成する。”
- 5.3.2.4 “品質マニュアルを支える文章として,品質システムの手順書(例えば,設計,購買及び作業指示書)がある。これらの手順書は,下記の事項の考慮により,種々の形式を取りうる。
- ― 組織の規模,
- ― 活動の性質,
- ― 品質マニュアルの適用範囲及び構成。
- 手順書は,組織の一部にだけ適用してもよい。”
ISO l0013”品質マニュアル作成の指針”には,品質管理マニュアルと品質保証マニュアルの2つに分けて説明がなされている。
- “品質管理マニュアル(Quality management manual)品質方針を宣言し組織の品質システムを記述した文書であって組織の内部だけで使用される文書。
- 注〕品質管理マニュアルには外部秘の情報が含まれることがある”
- “品質保証マニュアル(Quality assurance manual)品質方針を宣言し組織の品質システムを記述した文書であって組織の外部でも使用できる文書。
- 注〕品質保証マニュアルには通常外部秘の情報は含まれず,顧客及び第三者の評定者がこれを使用することができる”
ほかにも,ISO 10011-1の5.1.3項,同じく5.2.1項,同じく5.4.2項のなかにも品質マニュアルに関する記述があるが省略する。
これらの記述から品質マニュアルを定義付けると,「品質システムを書き表し,実施するために用いる主要な文書の典型的な形式」であり,その目的は「品質システムを実施し,維持するうえでの永続的な参考資料として役立てること」である。そのためには「内容の変更,修正,改訂,または追加を行う方法を確立する」ことがよい。また,品質マニュアルは監査を受けるさいの「予備審査の対象となる」ものであり,本審査のさいの「基準となる文書」である。
以下,ISO l0013“品質マニュアル作成の指針”にそって品質マニュアルの作成のポイントを説明する。