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平林良人「品質マニュアルの作り方1994年対応版」アーカイブ 第6回
このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「品質マニュアルの作り方1994年対応版」全200ページです。
先に1987年版対応の「品質マニュアルの作り方」をお届けしましたが、今回はISO規格の改訂に伴い、全面的に1994年版規格に合わせた内容に更新したアーカイブです。
第2章
ISO 9000シリーズ規格の解釈
ISO 9000シリーズのISO 9001,ISO 9002,あるいはISO 9003の品質保証モデルの品質システムを確立するためには,当然のことながらISO 9000シリーズ規格の要求事項の意味をよく理解しておかなければならない。よく理解できて初めて品質マニュアルの編集が可能になる。
本章ではISO 9001規格を例にとって各条項の解釈を述べ,同時に品質マニュアルに盛り込むべき内容を示唆する。記述は各条項ごとに,次の項目について解説する。
- 【ポイント】その条項における要求事項のポイント。特に断わらなくても,全条項に共通して“文書化して実施する”ことが要求される。
- 【背 景】規格が規定している要求事項の背景と品質マニュアル編集にあたって配慮すべき事項の筆者なりの解説。ここでISO 9000シリーズ規格と日本式TQCの融合についても若干触れている(詳しくは別の機会にゆずる)。
- 【企業内実施例】規格の規定している要求事項を実際の企業活動のなかで実施していこうとした場合の実施例。規格の要求していることの意味をより具体的に理解できるのではないかと思う。
- 【審査時の質問事項】審査登録機関が審査を行う際に質問するであろう質問事項の例。
筆者が英国で認証業務に従事していたときに用いた例である。質問事項に対してスムーズに答えられるように品質システムを構築していただく意味で掲載した。 - 【不 適 合】実際の審査登録においての不適合の判断はそれぞれの審査登録機関に委ねられる。ここではあくまで筆者の経験に基づいた不適合の例を掲げた。重大な不適合(MajorまたはHold point),軽微な不適合(Minor または On going improvement)についての水準の標準化は,今後の大きな課題である。
なお,読者の便を考え各条項ごとに枠で囲んであるので,品質マニュアルの編集だけでなく,ISO 9000シリーズに関する入門教育などにも活用していただきたい。
条項 4.1 Management responsibility(経営者の責任)
条項 4.1.1 Quality policy(品質方針)
- 【ポイント】
- ① 経営者は品質に対する方針と目標および責務を明確にし,かつ文書化しなければならな い。この品質方針は顧客の期待と要望に関連づける。
- ② 品質方針が,組織のすべての階層で理解され,実施され,維持されるように全社に徹底 する。
- 【背景】
- ① 社会的責任を持つ企業はその経営にあたって社是,社訓,理念などを持つ場合が多いが,ここではそれを補完するものとしての品質方針を求めている。
品質の確保は全従業員の協力があって初めて達成できるものであり,全員の力を結集するポリシーが必要なのである。
しかも,それは書かれたものでなくてはならない。 - ② 品質はともすると空気や水と同じで,問題が起きて初めてその大切さが理解されることが多い。
組織のすべての階層で,毎日毎日仕事を繰り返すなかで,この品質方針を意識して仕事への取り組みをしていく工夫が求められる。 - 【企業内実施例】
- ① 社長(事業部長)は品質方針を定め,文書化している。
- ② 事業方針ならびに顧客の期待と要望との関連づけが明確になっている。
- ③ 品質方針を理解させる手段がはっきりしている。
- ④ その手段を実行しており,その証拠がある。
- ⑤ すべての階層の人が品質方針について答えることができる。
- 【審査時の質問事項】
- ① あなたの会社には品質についての方針がありますか?
- ② その方針はどこにありますか?
- ③ あなたはそれを知っていますか?
- ④ あなたは部下に,それをどのように理解させていますか?
- 【不適合】
- ① 品質方針がない。
- ② すべての階層への徹底の手段がない。
- ③ 記録,証拠がない。
- 〔注〕方針を空で覚えている必要はない。概要が言え,どこにあるか答えられればよい。
条項 4.1 Management responsibility(経営者の責任)
条項 4.1.2 0rganization(組織)
条項 4.1.2.1 Responsibility and authority(責任及び権限)
- 【ポイント】
- ① 品質に影響を与えるすべての人々の責任,権限およびその相互関係を明確にする。
- ② 次の事項について特に明確にする。不適合予防,製品品質問題の記録,解決案の勧告・提供,解決案の実施,不適合品の管理。
- 【背景】
- ① 組織は決まっていても,往々にして,その役割分担がはっきりしていない企業が多い。
品質問題が起こったとき,その原因を調べてみると,多くの場合,いろいろな部門が複雑にからみあった複合的な要因によって引き起こされていることがわかる。 - ② 組織の相互関係を定義するときに,異常時を想定して考えることが大変重要である。
- ③ よく「全員の力で」というが,どこがイニシアチブをとるのか,しっかり決めておくことが大切である。
- 【企業内実施例】
- ① 品質に関するすべての部門の責任・権限が明確にされ,文書化されている。
- ② 部門の業務内容が明確になっており,それに従って仕事が進められている。
- ③ 設計・技術・検査・生産管理部門などの標準類変更の責任者が決まっている。
- ④ 品質問題を記録する方法がすべて文書で決まっており,実際に実施されている。
- ⑤ 誰がラインストップ,出荷停止の権限を有しているかが決まっている。
- ⑥ 責任・権限にそって定められた部門で解決案・変更などの指示が出されている。
- ⑦ 装置校正異常,工程異常,市場クレーム等の品質問題の責任部門が決まっている。
- 【審査時の質問事項】
- ① あなたの会社には分課分掌規程がありますか?
- ② それはどこにありますか?
- ③ 標準類変更の責任者は誰ですか?
- ④ 品質問題の記録はありますか?
- ⑤ ラインストップ,出荷停止の責任者は誰ですか?
- 【不適合】
- ① 職務の責任・権限が文書に明確に定められていない。
- ② 定められた人以外の人が決裁している。
- ③ 記録,証拠がない。
- ④ 品質問題を処置する責任部門がはっきりしていない,決まっていない。
条項 4.1 Management responsibility(経営者の責任)
条項 4.1.2 Organization(組織)
条項 4.1.2.2 Resources(経営資源)
- 【ポイント】
- ① 検証する経営資源(手段)への要求事項を明確にして十分な経営資源(手段)を用意する。
- ② 内部品質監査を含む検証手段には,十分に訓練された人を割り当てる。
- 【背景】
- ① 自分のところで作ったものは,だれしも良いものであると考えがちである。自主点検,自浄作用など自らが結果を検証することは理想ではあるが,どうしても甘くなりがちである。
- ② 内部に独立した,結果を検証する訓練した人を養成する必要があり,そのためには計画 的なプログラムが必要である。
- 【企業内実施例】
- ① 設計,技術,製造,検査,アフターサービスなどの各部門でそれぞれ検証するステップが明確になっている(手順が文書化されている)。
- ② 具体的検証の手段,内容を定め,検証が行われている。
- ③ 検証をするに必要な資格,検証の時期,ステップが明確になっている。
- ④ 検証する人は十分に訓練されている。
- 【審査時の質問事項】
- ① 検証する手段への要求事項は何ですか?
- ② 検証の手段を挙げてください。
- ③ 検証する人の訓練記録を見せてください。
- ④ 内部で行われている検証の記録を見せてください。
- ⑤ 検証の手順書を見せてください(1つの例を②の答えから指定する)。
- 【不適合】
- ① 十分に訓練された人が検証していない。
- 〔注〕十分に訓練されたと見なせる記録があればよい。ここでいう十分のレベルについては,企業がその水準を決めておくこと。
条項 4.1 Management responsibility(経営者の責任)
条項 4.1.2 Organization(組織)
条 4.1.2.3 Management representative(管理責任者)
- 【ポイント】
- ① 品質システムを構築,履行,維持していく権限と責任を持った管理責任者を明確にする。
ここで管理責任者とは,品質システムを社長(事業部長)に代わって統括する責任者のことをいっている。 - 【背景】
- ① 製品品質またはサービスの品質を,何ごとにも優先する最重要事項と標榜していても,部門の体面上,売上確保など,他の要因で品質が犠牲にされる場合が多い。
- ② 品質についての社長(事業部長)からの委嘱を社内に明確にし,管理責任者が全権限を持って活動できる位置づけにする。
- 【企業内実施例】
- ① 品質システムの履行,維持のために全権限と責任を持つ管理責任者が決めてある。
- ② 管理責任者は品質システムの管理を行っている。
- 〔注〕通常は品質保証部長が適切である。
- 【審査時の質問事項】
- ① 誰が品質の管理責任者ですか?
- ② それはどのようにして明確にされていますか?
- ③ 管理責任者は,品質システムの実施状況を,どのようにして,経営者に報告していますか?
- 【不適合】
- 〔注〕「他の責任と関係なく(irrespective of other responsibilities)……」とは,とくに品質保証部長でなくても,実質的に品質システムを管理していくことができる人ならよい,という意味である。利害関係のないことが望ましい。
条項 4.1 Management responsibility(経営者の責任)
条項 4.1.3 Management review(マネジメント・レビュー=経営者による見直し)
- 【ポイント】
- ① どのようなメンバーで,どのような間隔で,どんな場面で(定期,トラブル時,内部監査時など),どのように品質システムを見直すかを定め,その記録を残す。
- 【背景】
- ① 品質システムは生きものである。一度作ったからといっても万全でなく,常時改善していかなければならない。定期,トラブル時,内部監査時に品質システムの見直しをし,結果を残していくことにより,品質システムの実現をはかっていく。
ISO規格20項目のなかで最も重要性が高いものの1つにランクされている。 - ② したがって参加する人は役員,事業部長,部長などのかなり高位のレベルの人たちで,その人々によって品質システムを見直す必要がある。
- ③ 日本従来の“QC診断”“社長診断”と考え方は同様であるが,対象を品質システムに絞り,より実務的に行う。
- 【企業内実施例】
- ① 品質システムを見直す基準がはっきりしている。
- ―どのような場面か(定期,市場クレーム,工程異常時,内部監査時など)。
- ―何を対象にするか
- ―誰が参加するか
- ―どのような方法でやるか
- ② 基準通りに実施され(基準には品質方針および目標への適合性を含む),記録が保管されている。
- 【審査時の質問事項】
- ① 経営者による品質システムの見直しの記録を見せてください。
- ② 品質システムを見直す基準を聞かせてください。
- ③ 品質システム見直しの手順を教えてください。
- 【不適合】
-
〔注〕経営者とは通常,役員のことをいうが,ここでは事業部長,部門長,品質保証担当者の入っている会議を意味する。
記録としては規程,基準などの改訂履歴か会議録でよい。