平林良人「パフォーマンスの改善」(2000年)アーカイブ 第57回

パフォーマンス論理

組織の評価指標から、プロセスの最段階の評価指標、上流プロセスの評価指標、機能(部門)の評価指標、個人/業務チームの評価へと、これらの評価指標間の繋がりが明確に存在することを確実にする別の方法は、パフォーマンス論理を展開することです。パフォーマンス論理は、組織規模の健全性を測る最も重要な1つから3つの指標を使い最高位レベルから開始されます。現在数多くの組織が、会社か部門のパフォーマンスの指標として、純資産利益率(RONA:return on net asset)、又は経済的付加価値(EVA:economic added value)を使用しています。
EVAを使用するとしましょう、EVAは税引後営業利益から資本コストの総和を引いたもの(Tully、1993)です。どんな評価指標がEVAに影響するのか考えた結果、それは資本コスト、税、及び税引後営業利益であると結論付けます。では次に、3つのそれぞれに影響する評価指標は何でしょうか。収入と総利益が、税引後営業利益に影響を及ぼすと決定します。そして収入と総利益に影響を及ぼす変数(variables)(評価指標と表現される)を特定し、数値化します。次に、それぞれの変数に影響を及ぼす要素をみます。そして、その次にというように、どんどん続けます。
これらの活動を完成した暁には、最も巨視的なものから、必要とするミクロレベルまで展開した評価指標の階層を構築したことになります。この全体図を描くことで、正しい指標に基づいた評価システムを構築し、全てのプロセス、部門、チームそして個人の組織全体パフォーマンスへの貢献を追跡するという要素間の依存性を理解することを確実にします。

パフォーマンスマネジメントシステムの基礎として評価指標の使用

ほとんどのマネージャーは、有効で、統合されていて、運営管理しやすい一連の評価指標を持っていません。適切で包括的な評価指標を持っている者でも、実際のパフォーマンス情報を集め、目標と比較し、その情報を利用できる者に伝えるメカニズムを含むマネジメントシステムの基礎としてその評価指標を使用するという次のステップに通常なかなか踏み込みません。たとえ評価システムを持っていたとしても、人はしばしばそれを適切に使用しないのです。
最終的にうまくいかなかった事例を示しましょう。我々は、しばらくの間貧弱なパフォーマンスしか示せていない製造工場の評価システムを開発しました。その工場長は、質的、量的に利用可能な十分な情報が全階層のマネージャーに上がってこないこがため、ずっと以前から責任のなすりあいをする腹立たしい内容になってしまっている製造ミーティングを毎日開いていました。新しい評価システムによって創造された最初の情報収集が提示された時、工場長は、「これはすばらしい!やっと誰がへまをしているか分かった。次の製造ミーティングで彼をきつくしかるぞ」といいました。このような評価システムの誤った使い方により、評価システム利用価値は明確に減ってしまいます。
別の例は、我々が経営情報と業績評価システムの指導をしていたホテル・チェーンの例です。地区支配人は、ある晩遅く彼の担当ホテルの1つにチェックインして、ロビーの灰皿が会社の規則どおりに綺麗になっていないことを見つけ、非常にいらいらしました。地区支配人は、翌朝食事時にホテル支配人を呼び整理整頓の一般的な質について、特にロビーの灰皿に関して説教をしました。ホテル支配人は、整理整頓担当の監督者の朝食を中断させ、地区支配人から言われたことを少し増幅して伝えました。 整理整頓担当の監督者はロビーまで走っていって灰皿を掃除しました。
これら両方の事例におけるパフォーマンスデータ(工場長のケースでは正式な報告、地区支配人の事例では非公式な観察)に対するマネージャーの反応は、部下のパフォーマンスも、長期的視野に立った組織のパフォーマンスも高めることになりません。
工場長は、違反者を非難し罰するのに情報を使用しようとしています。その結果、全ての階層のマネージャーは、早晩他の者を非難しようとすることになるでしょう。非難を避けることが、製品を出荷することより重要になってしまいます。我々がこのことを指摘すると、工場長は「では私は何をするのですか?私が知っている唯一の管理方法はこれです。」と言いました。我々は、製造ミーティングの議題を工場長と共同して設計し、質問する際の心がけを指導しました。毎日の製造ミーティングの焦点は「しかりつけること」から、問題の解決を図ることに変化していきました。パフォーマンス情報をより効果的に使用することにより、3カ月の間に、製造ミーティングの長さは2時間から30分までに減少しました。より重要なことは、工場が品質面と生産性の両面で奇跡的に復活したということです。このように、評価システムからの情報の活用方法は、情報の持性や質と広がりと同じ位に重要です。情報は罰するためにあるのではなく、「なぜだ?」の質問に答えるためにあるのです。