平林良人「パフォーマンスの改善」(2000年)アーカイブ 第70回

組織構造設計におけるプロセス中心のアプローチの利点の1つは、各マネジメント層で付加されるべき価値を評価する手段を提供するということです。我々のある顧客会社の副社長は、いろいろな案件を承認するレベルの数について役割/責任マトリクス(第12章参照)を評価してみました。この際の彼の基準は、一層の人間たけが、「承認」の権限を持つというものでした。余計な承認が無くなったことで業務のいくつかが整理されました。

2番目のガイドラインが示すように、組織構造には1つ以上の実行可能なものがあるので、合理的に見えるいろいろな組織構造を、模擬的にプロセスフローを実行してみて試験することを勧めます。この模擬活動は、プロセスマップを使用してみることによってか、注文か新製品を物理的に実験してみることによって実施することができます。この模擬活動によって、上で述べた評価基準に最も合う組織構造を見極めることができます。
組織構造が本当に機能するかどうかを確かめるために、ステップ2で特定した断絶を排除したあるべき姿“Should”の関係マップを展開してみてください。この関係マップが組織図の精細化の必要性を示唆するかもしれないし、ステップ6で展開された機能モデルへの重要なインプットとしても役立つでしょう。
伝統的な1970年代の電子計算機メーカーのシステムは、図14.1にあるような関係マップで表わされます。カシオ株式会社の電子計算機部門は、競争力優位性として新製品導入スピードを上げました。カシオ株式会社の戦略は、6カ月毎に新しい電子計算機を市場に導入して市場を支配するというものでした(今までの2年毎の新製品導入という業界平均に対して)。カシオ株式会社の高レベルの関係マップは図14.2に示します。
カシオの新しい組織図の主要部門は同じでした。しかしながら、それぞれの部門の役割、及び各部門の中の組織図はかなり変化しました。マーケティング部門の役割を変えたり、集積回路を作るよりむしろ買うことに変更したりして、カシオは新製品の導入プロセスを確立しその競争力を高めました。
いったん組織図を完成させると、組織レベル、プロセスレベル、及び業務/遂行者レベルに、新しい組織構造を次の3ステップに従って適用することができます。

図14.1 伝統的な電子計算機会社の関係マップ(略)

図14.2 カシオ電子計算機事業部の関係マップ(略)

ステップ6:各部門の機能モデルを展開する。第12章にある様式と手順を使用して、アウトプットと目標に関して組織(新組織図の各部門)における各機能を定義してください。これらの機能モデルは、関係マップにより得られるアウトプットと重要なプロセスアウトプットと目標から作成されるべきです。機能モデルには、責任に関し以下について十分詳細に記述されるべきです。

組織における各部門の役割を、明確にそして徹底的に伝える。
部門アウトプットが重複しないことを確実にする。
すべてのプロセスアウトプットと評価指標は部門の責任を反映したものであることを確実にする。
業務モデルの展開の括弧とした基盤として機能する(ステップ7参照)。

我々は、各部門の主要アウトプットを重要なプロセスのステップに結びつける、役割/責任マトリクス(表 14.1参照)が、機能モデルの展開に役立つ背景を提供するということを発見しました。

ステップ7:各業務の業務モデルを展開する。第12章に示されている業務モデル様式を使用して、新組織における各業務が必要とするアウトプットと目標を特定します。もし、新組織が、新業務か新しい責任を伴う業務を必要とするなら、業務モデルが特に重要になります。業務モデルを通してのみ、業務を実施する要員に新しい体制を伝えることができるのです。

ステップ8:各業務のヒューマンパフォーマンスシステムを構造化する。多くの組織変更が失敗するのは、組織図が悪いためではありません。組織変更が失敗するのは、プロセスパフォーマンス(ステップ4参照)を部分最適化してしまったか、又は要員が働いているヒューマンパフォーマンスシステムが新しい組織構造を強化しなかったためです。ヒューマンパフォーマンスシステム(第6章で詳細に説明されている)には、要員の能力、技能、知識、及び要員が働く環境が含まれます。

マネージャーは、パフォーマンス仕様書(業務モデルにおけるアウトプットと目標)の伝達、業務支援(明確なインプット、必要となる資源)、目標達成を促進する考課(報酬)の仕組み、及び業務パフォーマンスを定期的にフィードバックすることによって、新しい組織構造を支援する環境を確立していきます。

ステップ9:マネジメントプロセスを確立する。新しい組織のためのインフラストラクチャが組織レベル、プロセスレベル、及び業務/遂行者レベルで確立されると、システムの運営管理が必要となります。新しい組織体制を適用していくための管理プロセスには、我々が第4、5章及び第6章において紹介した運営管理のセクションの次のような活動を含みます。