平林良人「パフォーマンスの改善」(2000年)アーカイブ 第73回

第15章 パフォーマンスベースの人材能力開発機能の創造。

-天才は、教育訓練しなくても生き長らえます。
– Margaret Fuller

ほとんどの組織において、教育訓練はかなりの額の投資であり、幹部マネージャーが思っているより高額です。彼らは、人材能力開発部門の予算は知っています。しかしながら受講者の給料を含めた教育訓練の総投資額は、あまり目に触れず、ほとんどの経営幹部にとって驚きでしょう。もっと重要なことは、その投資がもたらす利益を彼らの大部分が知らないという事実です。あなたは、彼が行なった5万ドルの情報通信システム投資に寄る利益を説明することができないマネージャーを想像できますか?あなたは、マネージャー向けのコミュニケーション教育に対する5万ドルの投資による利益を説明できるマネージャーを想像できますか?
教育訓練は、目に見える利益を出すことが期待されてない従業員の恩典(会社のピクニックや保険プランへの補助金のような)の様に見受けられることがあります。教育訓練とは、賢明なマネジメントの一部で、本質的に優れており、測ることはできないが疑問の余地が無いほど価値があるものではないでしょうか?
いいえ。教育訓練も、その他の投資と同様に扱われるべきです。

もしもある教育訓練投資による利益が簡単に定量化されないならば、その教育訓練活動が組織にもたらす具体的な利益をマネージャーはどのように説明することができますか?
教育訓練への投資は、どのように評価される(他の可能性のある投資とどのように比較される)べきでしょうか?
最高経営層が教育訓練に一定比率の収入を費やすことにコミットしているなら、正しい教育訓練に投資しているということをどのように確信できるでしょうか?

上記3つの質問の答えはすべて同じです。新規業務に対する従業員の能力開発を除けば、教育訓練の目標は現在のパフォーマンスを改善することです。したがって教育訓練は、パフォーマンスへの影響度で評価されるべきです。

パフォーマンス改善の2つの見方

パフォーマンスには、2つの見方があります。一般的な見方では、要員は真空状態にいます。一定のパフォーマンスのアウトプットを確立したいか、又は改善したいなら、マネージャーがするべきことは適切な教育訓練というインプットを要員に対し準備することだけです。図15.1はこの限定した見方を示します。人材能力開発部門の要員がこの見方を持っている場合には、教育訓練要求への彼らの応答は「了解しました。いつそれが必要ですか?あなたはマルチメディアプログラムのための十分なお金がお持ちですか?」となる傾向があります。
あいにくパフォーマンスの世界は、単に「スキルと知識をインプットし、パフォーマンスをアウトプットする」ものではありません。この現実がシステム的見方というパフォーマンスの2つ目の見方を導きました。この本のテーマとなっている9つの変数によって示されるシステム的見方では、ヒューマンパフォーマンスは以下の関数です。

業務/遂行者レベル。そこでは業務のアウトプットが定義され、ヒューマンパフォーマンスシステムが要員の働く環境を確立します。
プロセスレベル。そこではワークフローが定義されます。
組織レベル。そこでは戦略が方向を示し、組織構成が要員の働く体制を提供します。

受講者(又は潜在的受講者)それぞれが、3レベルのパフォーマンスすべての中で機能して、9つのパフォーマンス変数のそれぞれから影響を受けています。表15.1が示すように、スキルと知識(すべて教育訓練が提供することができる)は、9つのパフォーマンス変数の小さな部分の1つです。3レベルの見方がなければ教育訓練は、教育訓練はその必要がないときに規定されがちです。ヒューマンパフォーマンスシステム、作業プロセス、戦略及び体制に支援されない時には、教育訓練はどんなで場合も失敗します。
特に教育訓練はマネージャー好みのパフォーマンス改善策の1つなので、システム的(3レベルの)見方は、人材能力開発(HRD)機能に対する重要な含みがあります。HRDは、しばしば、表15.1に示す小さなレバーで大きな組織変化を引き起こすように要請します。9つの変数の枠組みをレビューすると、業務パフォーマンスが、スキルと知識が6つの要素の内の1つである業務目標、業務設計及び業務マネジネントの関数であることがわかります。我々の30年の経験では、スキルと知識(教育訓練)の要素だけを扱って著しく改善できた業務パフォーマンス問題をほとんど見出せませんでした。経営幹部は、HRDにより長期的なレバーを持たせるか、又は組織パフォーマンスへのHRDの影響は重要であるが、非常に限られていると認識するかのいずれかです。
3レベルの内容とツールは、HRDのすべての領域に意味を持っています。我々は、本章の残りで次の4つの領域について述べます:

教育訓練と人材能力開発ニーズの決定
教育訓練の設計
教育訓練の評価
HRD機能の設計と運営管理