ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■新技術活用による生産性向上

(ロボットの活用による生産性向上・働き方改革)
ロボットは、各種作業の支援・補完に加え、自動化・遠隔制御化等を通じ、省人化を可能とする。国土交通分野において、ロボットを様々な場面で取り入れることにより、人々の業務が支援・補完されるとともに、生産性向上や労働環境の改善等の社会課題の解決に資することが期待される。例えば、ロボットを物流分野で活用し、これまで人手に頼っていた荷物のピッキング作業等を機械化・自動化することにより既存のオペレーションを改善し、物流業務の生産性向上を図っていく動きがみられる。

具体例紹介
・物流施設における機械化・自動化を通じた省人化(ピッキング用ロボット)
物流施設における業務については、人手不足の懸念もある中、自動化・機械化を図ることによる省人化が期待されるところ、現状では多くの人手がかかっている。例えば、倉庫業務のうちピッキング作業は、倉庫内の棚から必要な商品を取り出し、配送用ボックスに格納するという荷積み作業が必要であるが、倉庫内を人が徒歩で移動し棚から商品を取り出し、荷積み作業者に受け渡すといった労働集約的な性質を有する。このようなピッキング作業に「ピッキング用ロボット」を導入することで、商品を指定すればロボットが商品を格納したコンテナを自動的に判別し、必要なコンテナを搬送し、荷積み作業者に受け渡すことが可能となっている。これにより、作業者は移動することなくピッキング作業を行えるなど、作業員の業務がロボットにより支援・補完され、省人化が可能となり、生産性の向上や労働環境の改善等が図られる。三井不動産㈱の物流施設「MFLP船橋Ⅲ」では、2022年より、倉庫業務にピッキング用ロボット(3次元ピッキングシステム)を導入し、倉庫業務のうちピッキング作業の機械化・自動化が可能となったことにより省人化が図られている。今後とも、このようなロボット等の先端技術の活用により、既存のオペレーション改善や働き方改革を図っていくことが期待される。

(ドローンの活用による生産性向上・新たな輸配送の実現)
ドローンは、カメラや輸送用のボックスを搭載することで活用の幅が広がり、様々な産業・分野において導入が進んでいる。人が直接出向くことが難しい、あるいは危険が伴うような場所での撮影・点検などでの活用のほか、人手不足が進行する建設業界や物流業界において生産性向上に寄与することが期待されている。物流分野では、山間部や離島等の生活物資等の災害時を含めた新たな配送手段としての活用が期待されている。前述のロボットとドローンとを連携して活用することで、それぞれの利点を活かした取組みを進める動きもみられる。また、建設分野においても、ドローンを用いた3次元観測とともに自動制御されるICT建設機械や拡張現実技術等を用いることにより、新技術を活用したインフラ整備・維持管理の高度化を図り、生産性を向上していくことが重要である。

具体例紹介
・ドローンと配達ロボットが連携した配達実証実験(日本郵便)
日本郵便㈱は、年間200億通程度の郵便物を配達しており、毎日20万人程度が配達員として従事しているが、今後は人口減少や少子化などにより、人手不足になる可能性がある。また、過疎地域では、ラストワンマイルは、配達する荷物を車で複数回往復して配達している実態がある。このような地域における配達を将来に亘って持続可能なものとするため、ロボット・ドローン等による配達の効率化を目指して、2016年度からドローン等の実証を開始した。例えば、東京都西多摩郡奥多摩町にある奥多摩郵便局では、峰集落をはじめ管内に山間地の集落を複数箇所抱えており、管内における標高差は約240m、集落から奥多摩町の中心部にある奥多摩郵便局まで約15km、車で約30分かかる。そのため、郵便物の配達にはこうした集落を回って戻るのに多大な時間と労力がかかるとともに、冬季の路面凍結や降雪があると、山間地への配達が難しくなるといった課題があった。これらの課題解決に向けて、2019年3月にドローンによる個人宅宛てのラストワンマイル配達の試行を実施し、さらに2021年12月より日本初となるドローンと配達ロボットを連携させた配達の実証実験を実施している(2023年3月現在)。

具体的には、ドローンにより、郵便局から中継地へ荷物を空輸した後、中継地で荷物を積みかえ、中継地から住宅まで配達ロボット(UGV)が集落の道路を走行して住宅まで届けている。こうした配達ネットワークの高度化を通じた省人化・効率化の取組みにより、今後特に人手不足が懸念される山間地において、物流の持続性確保に貢献することが期待される。同社は、今後、2022年12月に実施可能となった「レベル4飛行」(ドローンの有人地帯における補助者なし目視外飛行)の実現に向けて技術開発を進め、2023年3月24日に第三者上空(有人地帯)を含む飛行経路での補助者なし目視外飛行(レベル4)を日本で初めて実現し、今後の社会実装に向けて取り組んでいくこととしている。

具体例紹介
・砂防工事におけるICT施工(ICT施工、国土交通省・㈱鴻治組)
「平成30年7月豪雨」で、広島県安芸郡坂町の総頭川上流域から138,000㎥の土砂が市街地に流入して国道31号、JR呉線が通行止めになり、人家被害839件の甚大な被害が発生したため、再度災害防止に向けて砂防堰提の整備を推進している。国土交通省は、総頭川砂防堰堤工事について、受注者である㈱鴻治組は、ドローンや3次元モデル、ICT建設機械などを活用し効率的に工事を進捗している。具体的には、レーザースキャナやドローンを活用して3次元の地形データを取得し、3次元モデルを活用するなどにより、受発注者間、作業者間で完成のイメージを共有することができるといった現場の見える化に取り組んでいる。現実世界と3次元モデルを重ね合わせるAR技術等を用いることで、現場での完成イメージや問題点の共有が可能になる。また、ICT建設機械を用いることで、熟練者でなくても効率的な施工を行うことができ、工期短縮が可能になる。今後とも国土交通省では、直轄工事等における最新のデジタル技術の導入により、建設現場の生産性向上を目指していく。

(自動運転技術により変わる暮らしと社会)
AI、IoT、ロボット、センサなどの技術を活用した取組みとともに、これらを総合的に活用した自動運転技術については、私たちの暮らしを大きく変えていくことが期待されている。また、自動車の普及により道路交通網が発展し、近代のまちのあり方が変化したように、今後の新技術の進展・普及は、私たちの暮らしとともにインフラやまちの形を大きく変えていく可能性も考えられる。自動運転技術とは、乗り物や移動体の操縦を人の手によらず、機械が自立的に行うシステムのことであり、技術段階に応じてレベル分けされている。大きくは、システムが人間の運転を補助するもの(レベル1~2)と、システムが運転操作するもの(レベル3~5)に分けられる。

我が国では、交通事故の削減や過疎地域等における高齢者等の移動手段の確保、ドライバー不足への対応等が喫緊の課題であり、自動運転車はこれらの課題解決に貢献することが期待されている。これまで人が運転する自動車を前提に道路・街路等を含めたまちづくりが展開されてきたが、自動運転技術等を活用した次世代モビリティを想定した際に必要なインフラのあり方を検討する必要があり、自動運転技術の活用に向けてインフラ側からの自動運転車の走行支援が求められる。なお、諸外国では、自動運転を取り込んだ貨物専用システムの構築など自動運転技術の貨物輸送への活用を検討する動きや、自動運転サービスを移動支援等に活用するための実証実験を実施する動きもみられる。

具体例紹介
・自動運転等の新技術の貨物輸送への活用(「Cargo Sous Terrain(CST)」、スイス)
スイスにおける貨物輸送量は、2010年から2040年にかけて最大37%増加(同国政府予測)する見込みもあり、将来的な輸送能力の不足が懸念されている。そうした中、スイス主要都市間を結ぶ新たな輸送ルートとして、地上の既存の輸送インフラに加え、新たに、地下空間に全長500kmに及ぶ貨物輸送用のトンネル網を建設するプロジェクト(CST)が構想されている。これは、運輸、物流、小売、電気通信、エネルギー分野の多数のスイス企業からなる民間部門による出資で立ち上げられ、同国政府が法制度等の面から支援し、民間が整備・運営を行うものである。CSTが導入されると、全路線(ジュネーブ~ザンクト・ガレンルート)運営時には、総重量3.5トン超の中型・大型トラックで運ばれる国内貨物台数の約40%、鉄道で運ばれる国内貨物台数の約15%が地下空間での輸送に転換されることが見込まれており、貨物輸送能力の改善や輸送ドライバー不足の解消等が期待されている。今後、2045年全線開業に向け、まずは2031年にチューリッヒ~ヘルキンゲン・ニーダービップ間の約70kmの開業を目指して取り組むこととしている。

CSTとは、地下20~100mの深さに直径6mのトンネルを整備し、内部が温度管理されたモジュラー型の輸送ユニットが貨車レーンを時速30kmで走行、トンネル上部には小型荷物専用の輸送レーンを設置し、時速60kmで走行させるプロジェクトである。輸送ユニットは全自動で365日24時間走行するとともに、通常の貨物に加え、生鮮品や冷蔵品等の輸送が可能である。

具体例紹介
・自動運転の移動支援への活用(スマートコロンバス、米国・コロンバス市)
米国運輸省は、交通・運輸網において将来的に予想される人口増加や物流コスト増大等の課題に対応するため、データ駆動型の政策策定や新技術を活用した交通・運輸システムの改善を目的としたプログラムを複数立ち上げており、統合されたスマートな交通システムを実現することにより交通・運輸網の課題解決を目指すスマートシティ・チャレンジ(Smart City Challenge)等の取組みを実施してきた。米国オハイオ州の州都であるコロンバス市(人口約90万人の地方都市)を含むコロンバス地域にはオハイオ州立大学や交通研究センターなどが立地しており、自動運転車の研究開発に関する取組み等が行われているところ、スマートシティ・チャレンジの枠組みを活用し、2017年から2021年にかけてモビリティ分野のスマートシティ化を進める総合的な取組みであるスマートコロンバス(Smart Columbus)を実施した。

本取組みでは、人々の生活の質向上を目的として、レベル4の自動運転シャトルの実証実験が同市の市街地及び住宅地で行われた。このうち住宅地での自動運転については、移動サービスの行き届いていないコミュニティに居住する住民の職場へのアクセス確保、都市内への商品運搬の促進等が課題となっていた中、2020年2月の約2週間、自動運転車により移動手段を提供する実証実験が行われた。具体的には、住宅、職場、育児施設、コミュニティといった地域の拠点と住民とを繋ぐバス路線ルートを設定し、走行中に問題が起こった際に備えてオペレーターが1名乗車し、ルートのうち約7割以上を自動運転モードで運行した。また、コロナ禍を契機にプロジェクトの内容が見直され、当該自動運転シャトルによるフードパントリー活動(食料品や日用品の無償配布)が行われた(2020年7月~2021年4月の期間、約3,600個(約130,000食)のフードパントリーボックスと約15,000枚のマスクを配布)。また、市街地での自動運転については、自動運転車の運用・評価、オハイオ州等の自動運転展開に向けたガイドライン作成を目的として、2018年12月~2019年9月の期間、実証実験が行われた。具体的には、ダウンタウン地域の文化施設などの施設を繋ぐバス路線ルートを設定し、オペレーターが同乗して必要に応じて車両を制御することにより、約16,000回の乗車を提供し、約19,000マイルを走行した。

(つづく)Y.H

(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書