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ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。
■今後のデジタル化による社会課題解決への期待
(デジタル化に対する意識の動向)
国土交通省「国民意識調査」において、デジタル化に対する考え方についてたずねたところ、「デジタル化は私たちの日々の暮らしを便利に・豊かにする」と思う(とてもそう思う、ややそう思う)と答えた人は全体の約85%であり、デジタル化は暮らしを豊かにすると考えている人が多数を占めていることがうかがえる。年齢別に見ると、30歳未満では、「デジタル化は人と人とのつながりを広げる・深くする」と思うと答えた人が約6割だったのに対し、60歳以上の世代では約4割であった。また、「デジタル化は煩雑さやコストを増やし、非効率化や複雑化が進む」と思うと答えた人の割合は、30歳未満で約5割、60歳以上では約3割となった。さらに、「暮らしや社会を支える国土交通行政のデジタル化は進んでいる」と思うと答えた人の割合は全体で5割であり、30歳未満では約6割、60歳以上の世代では4割となった。デジタル化に対する人々の捉え方について、年代により差異があることがうかがえる。
(暮らしにおけるデジタル活用の状況と今後の活用意向)
暮らしの中でのデジタル活用の状況や今後の活用意向についてたずねたところ、「携帯やインターネットで防災情報、災害情報を常に受け取れる」や「公共交通等のルート検索やチケット購入、クーポンの取得にアプリを活用する」、「オンラインサービスで用事を済ます(買い物、旅行、役所手続)」について過半数の人が実践していると答え、取り入れたいと答えた人を合わせると約8割となっており、暮らしに身近なサービスに対するデジタル活用の意向がうかがえる。
(デジタル化による社会課題解決に対する期待度・満足度)
様々な社会課題を解決するため、多くの分野においてデジタル化の取組みが進んでいる中、国土交通省「国民意識調査」では、デジタル化による社会課題の解決に対する人々の期待度と満足度をたずねた。期待度は全分野で5割を超えており、特に「オンライン行政手続や電子証明など(行政手続のDX)」や「デジタル技術による災害の激甚化・頻発化の対策など(防災分野のDX)」、「AI・ドローン等を用いたスマート農業など(農業分野のDX)」、「オンライン診療や電子カルテなど(ヘルスケア分野のDX)」、「新たなモビリティや交通システム、MaaS等による交通のあり方の変革など(交通分野のDX)」、「無人搬送車等ロボットの導入(機械化)やデータ基盤の導入(デジタル化)など(物流分野のDX)」等では、期待度が7割以上と高かった。一方で、期待度に比べて満足度はいずれの項目においても5割を下回り、今後取組みの余地があることがうかがえる。
また、都市規模別で見ると、期待度が最も高かった行政手続について、大都市ほど期待度も満足度も高い傾向となり、都市規模による差異がみられた。我が国は、あらゆる分野でのデジタル化を政府一体となって進めており、国土交通省においても、行政手続のデジタル化推進とともに、防災、交通、まちづくり、物流、インフラの分野において暮らしと社会を支える取組みを推進している。ここでは、これら分野別に意識の動向をみていく。
具体例紹介
・行政手続のデジタル化に関する取組み(X-Road、エストニア)
エストニアは、人口約133万人に対して比較的広い国土4.5万㎢(日本の約9分の1)を有する一方、資源も限られる中、人口減少、GDP成長率の減少という課題を抱えており、行政サービスをデジタル化することで行政経営の効率化を図ることが求められていた。エストニア政府は、1998年に、ICT推進の基本方針「エストニア情報ポリシーの原則」を採択し、これに基づき、電子政府化に向けた各種推進計画を策定し、電子政府の取組みを進めてきた。また、2001年には公的使用における情報アクセスの自由を確立するため公共情報法が制定されるとともに、エストニア国民一人ひとりにデジタルIDが付与されている。こうした取組みと連携し、2001年、エストニア政府は、各省庁・自治体などの行政機関、医療・教育機関などのデータベースを連携させるデータ交換基盤である、「X-Road」を導入している。このX-Roadは、行政機関や民間の医療・教育機関などで個別に構築されてきたデータベースをそのまま活用し、データベース間を繋ぐネットワーク上において、国民の個人IDデータをキーとして情報を紐づけすることにより、データベースとデータベースの相互接続を行い、データベース間でデータの参照が容易にできることが特徴である。なお、X-Road及び関連システムは、エストニア政府が民間企業に委託して構築しており、行政サービスのデジタル化が進められてきた。これにより、納税、選挙、教育、健康保険、警察業務、土地建物・建設手続の取引、運輸・通信事業など幅広い分野で、電子行政サービスをオンラインで利用することが可能となっている。
行政サービスのうち約99%がオンラインでアクセス可能で、約2,600以上の電子行政サービスが提供されている。こうした電子政府化の取組みにより、個人IDカードがあれば、国民は行政機関を訪問せずとも、パソコンと個人IDカードリーダーを用いて、上述の電子行政サービスをオンラインで手軽に利用できるなど利便性向上が図られている。行政側でも紙文書が不要になり、業務効率が向上し労働時間にして年間約300万時間が削減されたとの指摘もあり、職員の負担軽減やコスト削減に大きな効果が得られている。
また、エストニア政府は、2014年からエストニア非居住者でも電子国民の登録を行って個人IDが付与されれば、エストニアの電子行政サービスが利用できる制度「e-Residency」を開始している。これにより、国外からでも、一部の電子行政サービスが利用できるとともに、ビジネス銀行口座の開設やエストニア国内での法人登記ができるなど、スタートアップ企業の誘致にも貢献している。179か国以上の国々における80,000人以上の人々が「e-Residency」に登録した(2023年3月現在)。エストニアの電子政府は、データベースを中央で一括管理するのではなく、各主体が独自のシステムを選択して管理するという分散型であることが特徴であるが、エストニア政府では、政府の基幹データのバックアップを国外に持ち、サイバー攻撃や大規模自然災害など非常事態が起こっても、すぐにシステムを再稼働できるようにする「データ大使館」と呼ぶ構想を打ち出した。2018年には、これを実践し、同盟国であるルクセンブルクにデータセンターを設置する取組みを開始している。
(交通分野・まちづくり分野のデジタル化に対する意識の動向)
地域公共交通のうち、一般路線バスは、生活サービス提供機能など暮らしを支えるまちの機能の維持・向上を図るうえで欠かせない一方、ドライバー不足や赤字路線の増加等により路線維持が困難化する地域もあり、近い将来、人口減少の著しい地方部等において公共交通の空白地域の増加が懸念される。国土交通省「国民意識調査」では、交通分野、まちづくり分野について、特に今後の地域路線バスの方向性の観点から人々の意向をたずねたところ、「安全性や利便性の確保、市民への十分な説明・周知・ケアなど条件が揃えば、路線バスにおける自動運転車の導入など先進技術を活用した課題解決を推進すべき」や「公共交通の問題を強く認識しており、路線バスにおける自動運転車の導入など先進技術を活用した課題解決を積極的に推進すべき」と答えた人の割合が高かった。安全性や利便性の確保、市民への十分な周知等を前提として、自動運転車の導入など先進技術を活用した課題解決に肯定的である人が一定数存在することがうかがえる。
実際に、公共交通の課題が認識されている地域において、路線バスにおける自動運転車の導入という先進技術を活用した課題解決を図る動きがみられる。諸外国では、自動車の交通量や道路の使い方など交通に係る課題を含め、地域課題の解決を図る際に、市民参加型の地域づくりを支えるデジタルプラットフォームの活用により、住民の意見を取り入れたまちづくりを展開している動きがある。また、加古川市では、デジタル技術を活用して、高齢者や子どもも安心して暮らせるよう、小学生の登下校時などにおける見守り支援への取組みを強化するとともに、市民の幸福感向上に向け、参加型民主主義のためのデジタルプラットフォームを活用し、市民の多様なニーズやアイデアを取り入れたまちづくりへの取組みが進んでいる。
具体例紹介
・地域で支える地域の足(自動運転バス、茨城県境町)
境町は、鉄道駅がなく、路線バスを中心とした公共交通が脆弱なため、高齢者や子育て世代の移動手段の確保などの課題があった。課題の解決を図るため、境町では、高齢者や子育て世代をはじめとした、「住民の誰もが生活の足に困らない町」を目指して、2020年11月から自動運転バスの社会実装を開始した。この社会実装は、境町が民間企業と連携して、生活路線バスとして定時・定路線で運行するものであり、自治体が自動運転バスを公道で定常運行する国内初の取組みである。運行に使用する自動運転バスは海外製(走行実績の高いフランス製のナビヤ・アルマ、レベル2の車両)であるものの、境町の特性に応じた改良を行いつつ徹底した安全管理のもとで、2020年11月の運行開始から現在(2023年2月取材)に至るまで無事故で運行している。
当初、スーパーマーケット、病院、郵便局、そして子育て支援施設など、主要生活拠点を結ぶルートから運行を開始し、2021年8月には境町高速バスターミナルから道の駅などの観光拠点を結ぶルートを新設、さらに2022年7月にも新たなバス停を追加するなど、住民ニーズに応じて運行ルートを随時見直し、住民と観光客などの来訪者双方の利便性の向上を図っている。このほか、道の駅やカフェなどの飲食店、美術館などの拠点整備も並行して行い、外出目的となる魅力ある行先づくりを行うことで、地域内移動を増加させて地域経済の活性化に寄与するまちづくりを目指している。これら境町における自動運転バスの発展は、地域の支えがなくては成り立たないものであり、例えば自動運転バスの停留所が私有地の提供により賄われていたり、沿線上の路上駐車の削減や自動運転バスを見かけた通常車両の譲り合い運転が行われていたりするなど、沿線住民をはじめ町全体でこの自動運転バスの運行を支援していく姿が特徴的である。時速20km程度の低速であるものの、地域の足としての機能が地域で支えられている。さらに、高速バスターミナルなど交通結節点の整備により、東京からの高速バスでの訪問者による自動運転バスやシェアサイクルへの乗り換えを容易とするなど環境整備が行われている。
今後について、運行ルートは住民のニーズに合わせて順次延伸するとともに、MaaSアプリによるオンデマンド運行も予定しており、住民の誰もが生活の足に困らないまちづくりを一層推進していくこととしている。このような地域に根差した取組みが他の公共交通機関の空白地域の参考となることが期待される。
(つづく)Y.H
(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書