ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■インフラ分野のデジタル化施策

(1)現状と今後の方向性
国土交通省が所管するインフラ分野において、社会ニーズに対する施策展開を従来の「常識」にとらわれず柔軟に対応していくことが重要である。特に建設業では、就業者の高齢化が進行し、近い将来高齢者の大量離職が見込まれることから、建設業の魅力向上を図り若年層の入職促進を含めた担い手確保への取組みを一層強化するとともに、デジタル化による課題解決を図っていくことが求められる。陸海空のインフラ整備・管理など社会資本整備の担い手として国民の安全・安心を守るとともに、より高度で便利な行政サービスを提供すべく、関係者との連携・協調によりインフラ分野のデジタル化を推進していく。

これまで、「インフラ分野のDXアクションプラン」を策定し取組みを進めており、今後、ネクストステージとして、本格的な挑戦に取り組んでいくこととしている。具体的には、「インフラ分野のDX」を「デジタル技術の活用でインフラまわりをスマートにし、従来の『常識』を変革」するものであると位置づけるとともに、関連する手続などいつでもどこでも気軽にアクセスでき、コミュニケーションをよりリアルに行え、現場にいなくても現場管理が可能となるよう、取り組んでいく。また、「インフラの作り方」の変革、「インフラの使い方」の変革、「データの活かし方」の変革を分野網羅的に、業界内外や産学官も含め、技術の横展開、シナジー効果の期待など、組織横断的に進めていくこととしている。

「インフラの作り方」の変革とは、インフラ建設現場(調査・測量、設計、施工)の生産性を飛躍的に向上させるとともに、安全性を向上させ、手続等の効率化を実現することである。
「インフラの使い方」の変革とは、インフラ利用申請のオンライン化に加え、デジタル技術を駆使して利用者目線でインフラの潜在的な機能を最大限に引き出すとともに、安全で持続可能なインフラ管理・運用を実現することである。
「データの活かし方」の変革は、「インフラまわりのデータ」を誰にでもわかりやすい情報形式で提供するとともに、オープンに提供することで、新たな民間サービスが創出される社会を実現することを目指していく。国土交通省が所管するインフラは多岐にわたり、分野横断的・組織横断的な取組みを推進していくこととしており、ここでは特に、建設現場の生産性向上の取組み、次世代道路システム構築の取組み等を中心に記述する。

(2)今後の施策展開
① 建設現場の生産性向上の取組み
(「i-Construction」(ICT施工))
建設業の生産性向上は必要不可欠である中、国土交通省では、働き手の減少を上回る生産性向上を図るため、2016年度より建設現場においてICT活用等を進める「i-Construction」を推進している。「i-Construction」のトップランナー施策の一つであるICT施工は3次元設計データを活用することで、UAVやレーザースキャナを用いた3次元測量や自動制御されるICT建設機械等で施工の効率化を図るものである。

2021年度末時点で直轄工事においては公告件数の約8割で実施されるなど普及が進んでいるが、その一方で中小建設企業への普及はまだ途上にあることから、ICTアドバイザー制度や講習・研修の実施による人材育成支援、小規模工事に適用できる基準類の作成等に取り組んでいる。今後はデジタルツイン等の最新のデジタル技術も駆使して、ICTによる作業の効率化からICTによる工事全体の効率化を目指し、ICT施工StageⅡとして更なる生産性の向上を図っていく。

(建設機械施工の自動化・自律化)
現場の生産性向上に資する技術の一つとして、建設機械施工の自動化・自律化・遠隔化の取組みも進めている。2021年度に設置した「建設機械施工の自動化・自律化協議会」及びその下部組織であるワーキンググループにおいて、行政機関や建設施工関係の有識者・業界団体等の多様な関係者の参画のもと、自動・自律・遠隔施工の安全ルールや技術開発の協調領域の検討、自動・自律・遠隔施工機械の現場実証や新たな施工方法に対応する施工管理基準の策定に向けた検討等を進めている。今後も引き続き、自動・自律・遠隔施工技術の普及に向けた取組みを実施していく。

(具体例紹介)
・自律施工の実現に向けた産学官連携による技術開発の促進(自律施工、土木研究所)
建設機械施工の自律化技術とは、オペレータの搭乗しない建設機械がセンサ等で周辺状況を把握し、把握した情報とあらかじめ与えられた作業指示を基に、建設機械を含むシステムが、全体あるいは一部を自ら判断し施工を行うことが可能となる技術であり、一人のオペレータが複数台の建設機械の監理を遠隔地から行うことができるものである(自律施工)。現在、産学官の関係機関が各々、連携・共同して建設機械施工の自律化の研究開発や実証などを推進しており、ダムなどの一部の工事現場ではこういった技術の導入事例が見られ始めている。また、土木研究所では、自律施工技術の開発や普及の促進に資することを目的として、シミュレータと実機により検証可能な実環境で構成され、産学官がオープンに使用できる自律施工技術基盤OPERAの整備を進めている。今後、建設機械施工が自律化することで、建設従事者の負担軽減、省人化につながるほか、建設現場の働き方改革や生産性の向上が期待される。

(BIM/CIM)
BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)とは、建設事業で取扱う情報をデジタル化することにより、関係者のデータ活用・共有を容易にし、建設生産・管理システムの効率化を図るものである。2023年度からすべての直轄土木業務・工事(小規模なもの等は除く)にBIM/CIMを適用することを原則化し、視覚化による効果を中心に未経験者で取組み可能な内容を義務項目に、高度な内容を推奨項目に設定し、業務等の難易度に応じた効率的な活用を目指している。今後は、より高度なデータ活用に向け解決すべき課題を、プロジェクトチーム等で検討していく。

② 道路システムのデジタル・トランスフォーメーション「xROAD(クロスロード)」の推進近年、技術者不足や厳しい財政状況などの制約がある中で、インフラの効率的な維持管理を可能とする新技術の開発及び活用が必要とされている。一方で、社会全体のデジタル化が喫緊の課題となっており、政府としてデジタル田園都市国家構想といった政策が進められているところである。こうした中で道路分野においても、道路利用サービスの質を高め、国民生活や経済活動の生産性の向上を図るため、道路の調査・計画や工事、維持管理、道路利用者の利便性向上など様々な場面におけるデジタル・トランスフォーメーションを「xROAD(クロスロード)」と名付け、取組みを推進している。今後、道路管理者の業務の高度化のみならず、道路の利用者に安全・安心、そして利便性を確保することを目的に、道路利用者や現場の声、民間の技術や様々な知見も取り入れつつ、「安全(Safe)で、賢く(Smart)使えて、持続可能(Sustainable)な」道路の実現に向けて取り組んでいく。

(デジタル化を支える横断的な取組み)
(1)現状と今後の方向性
国土交通省は、国土交通行政のデジタル化を推進するとともに、国土交通分野における諸施策の総合的かつ効果的な推進を目指し、横断的な取組みを行っている。これまでも、行政手続のデジタル化等や各種情報のオープンデータ化を推進してきた。コロナ禍を契機に、遠隔化・非接触での手続の充実など一層取組みを強化している。今後、デジタル技術の飛躍的な進展を活用し、事業改革・業務改善を通じて国土交通行政の諸課題に対応するべく「国土交通DX」を推進していく。

まず、行政自らがデジタル化に取り組み、デジタル・トランスフォーメーションを牽引することが重要である。法令に基づく国に対する申請等については、原則としてオンラインで実施することとし、行政サービスの利用者の利便性向上や行政運営の簡素化及び効率化を推進していく。また、国土交通省が保有するデータを地図情報活用によってオープンデータ化しながら民間等のデータと連携し、施策の高度化や産学官連携によるイノベーションの創出を目指す取組みが重要であり、国土に関するデータ、経済活動、自然現象に関するデータを連携させ、分野をまたいだデータの検索や取得を可能とするデータ連携基盤(「国土交通データプラットフォーム」)のさらなる拡充などに取り組んでいく。このほか、担い手となる人材の育成及び国土交通省所管分野のサイバーセキュリティの更なる強化を推進していく。

(2)今後の施策展開
① 新たな国土形成計画(全国計画)の策定に向けた取組み
地方における人口減少・流出や巨大災害リスクの切迫、暮らし方・働き方の変化等を踏まえ、デジタルとリアルの融合による活力ある国土づくりを基本的な方向性の一つとする新たな国土形成計画の策定に取り組んでおり、計画の確実な実行を推進していく。特に、市町村界に捉われず、官民パートナーシップにより、デジタルを徹底活用しながら、暮らしに必要なサービスが持続的に提供される地域生活圏の形成を進めるため、デジタルインフラ、データ連携基盤等の整備や地域交通の再構築、自動運転、ドローン技術など、先端技術サービスの社会実装等を加速化する。

② 国土交通分野の行政手続のデジタル化に向けた取組み
(eMLIT(業務一貫処理システム)の拡充によるデジタル・トランスフォーメーションの加速)行政手続のオンライン化を加速し、国民等の利便性向上や行政の業務効率化等に資する国土交通行政のデジタル・トランスフォーメーションを推進するため、申請受付から審査、通知等の申請業務に係るプロセスを一貫して処理できるシステムeMLIT(業務一貫処理システム)の対象手続を拡充することで、申請者の利便性向上や行政の業務効率化等に資する国土交通行政のデジタル・トランスフォーメーションを推進していく。

(道路占用許可申請手続)
道路占用許可については、既にオンライン化されているが、今後は占用物件の位置情報をデジタル化することで工事の際の事業者間の調整の円滑化など申請者の負担軽減を可能とし、道路占用申請許可手続の迅速化を推進していく。

(建設業許可等申請手続)
建設業許可、経営事項(経営規模等評価)については、書類での申請のみであり、確認書類も膨大であることから、申請書類準備、審査事務が申請者・許可行政庁双方にとって大きな負担となっていた。そこで、建設業許可等の申請手続を合理化するために、国と都道府県で統一のシステムを構築し、2023年1月から運用を開始した。また、申請の際に添付を求めている登記事項証明書、納税証明書(国税)などの各種確認書類については、各行政機関等が保有する情報を連携(バックヤード連携)させることにより、添付省略を図っていく。

(特殊車両通行手続等)
特殊車両の通行手続は、従来は利用者の申請から許可まで平均で約1か月を要していたが、2022年度から登録を受けた車両について通行可能な経路をオンラインで瞬時に確認できる制度の運用を開始した。また、事業者等が特定車両停留施設に車両を停留させるための許可申請等手続についてもオンライン化を推進しており、2022年度中にオンライン化の整備を実施し、オンラインによる申請の実現を目指していく。今後とも、手続のデジタル化を推進し道路利用者等の生産性向上を図っていく。

(具体例紹介)
・電子車検証(行政手続のデジタル化、国土交通省)
2023年1月より電子車検証が導入され、従来の紙の車検証から大きさや様式が変わるとともに、車検証の情報を電子的に読み取る「車検証閲覧アプリ」の提供や、国から委託を受けた民間車検場(指定自動車整備工場)等が車検証のICタグに記録された有効期間を更新できる「記録等事務代行サービス」が開始されている。電子車検証の券面には、有効期間、使用者住所や所有者情報が記載されず従来の紙の車検証に比べてコンパクトになっている。また、電子車検証のICタグにすべての自動車検査証情報が記録され、その情報は汎用のカードリーダーが接続されたパソコンや読み取り機能付きスマートフォンで車検証閲覧アプリを活用することにより読み取り可能となっている。

自動車保有関係の行政手続については、道路運送車両法に基づく登録・検査のほか、自動車の保管場所の確保等に関する法律に基づく保管場所証明、各種税法に基づく納税など多岐にわたっていることから、これらをオンライン・一括で申請可能とするため、自動車保有関係手続のワンストップサービス(OSS)の運用を行っている。電子車検証の導入に伴い開始された記録等事務代行サービスを活用することにより、OSS申請の際には、車検証の受取りのための運輸支局等への来訪が不要となり、OSSを利用する申請者の利便性向上及び行政事務の効率化を促進する効果が見込まれる。

(具体例紹介)
・開発許可DX(PLATEAU、国土交通省)
開発許可制度は、申請のあった開発行為が対象エリアの土地利用の計画や災害リスク等の状況と適合しているかの審査を行うものである。審査は、必要な関連資料の収集や関係者との協議等が多岐にわたるため、審査側の行政と申請側の民間の双方で多大な事務負担になっている。また、開発許可に関する申請と審査の煩雑さから、関係者が情報を把握しきれないために既存の施策と整合しない開発等が行われてしまうことが懸念されている。

これらの解決策の一つとして、土地利用、都市計画、各種規制等の情報を3D都市モデルに統合し、対象エリアにおける開発行為の適地診断・申請システムを開発する取組みを推進している。このシステムは、土地利用、都市計画、景観規制、環境規制、災害リスク等の様々なデータを、3D都市モデルに統合してデータベース化し、開発行為の申請に対して適地診断を行うことができ、ワンストップかつオンラインで申請と審査が可能となる。今後とも行政と民間の双方の事務作業の効率化を目指していく。

③ データ・プラットフォームの整備に向けた取組み
デジタル庁など関係省庁と連携し、デジタル社会の実現において不可欠なデータ基盤強化を図るため、「包括的データ戦略」に基づき、医療・介護、教育、インフラ、防災に係るデータ・プラットフォームを早期に整備することとされている。

(国土交通データプラットフォーム)
国土に関するデータ、経済活動、自然現象に関するデータを連携させ、分野を跨いだデータ検索・取得を可能とするデータ連携基盤として「国土交通データプラットフォーム」の構築を進めている。2023年4月には、検索性の高度化やデータ閲覧が容易になるユーザーインターフェースへの改良を実施し、リニューアル公開した。引き続き、データ連携を拡充するとともに、ユーザビリティ・可視化機能の高度化や、データの利活用促進のためのユースケースの創出に取り組み、これにより、業務の効率化や施策の高度化、産学官連携によるイノベーションを目指す。

④ デジタル社会形成を支える各種取組み
(DX社会に対応した気象サービスの取組み)
気象情報・データは、全国を面的かつ網羅的にカバーするとともに、過去から現在、将来予測に至る内容を含むビッグデータとしての特性を有し、「DX社会」の基盤的なデータセットとして非常に重要である。気象情報・データの作成、流通、利活用を推進すべく、気象庁は、最新技術を踏まえた洪水等の予測精度の向上のため、民間の予報業務に関する許可基準の最適化を行うなど、民間気象事業者等によるきめ細かな予報の高度化に資する法制度の改正や、気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)等と連携したセミナーの開催等を通じた気象情報・データの高度な利活用の促進等に取り組んでいる。

また、気象庁が持つ気象情報・データへのアクセス性を向上させ、研究や事業での活用等が促進されることを目指し、大容量の気象データを共有し利用できるクラウド環境を2024年3月から運用開始すべく整備を進めていく。

(位置情報の共通ルールである国家座標の取組み)
i-Construction、自動運転など、高精度かつリアルタイムな衛星測位を活用したDXの取組みが進んでいる。これらの取組みで使用される位置情報が互いに整合し、データ連携を容易にするためには、あらゆる位置情報をその国の位置の基準である国家座標に準拠させる必要がある。この共通ルールに基づいた位置情報の流通を図るため、国土地理院では、電子基準点網の適切な運用、民間等電子基準点の登録制度の普及促進、新たな標高基準の整備等を実施している。一方で、地殻変動が激しい我が国では、時間の経過によって位置が変化し、国家座標とズレが生じるという問題がある。国土地理院では、このズレを補正する地殻変動補正の仕組みを構築し、地殻変動があっても国家座標に準拠できる取組みを行っている。今後とも、高精度測位の恩恵をどこでも、すぐに、誰もが安心して享受できる環境を整備するため、位置情報の共通ルールである国家座標の取組みを推進していく。

(つづく)Y.H

(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書