ISO審査員及びISO内部監査員に国土交通省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■メタバースをはじめとする仮想空間の進展

メタバースという言葉があります。メタバース(Metaverse)は「Meta(超越)」+「Universe(世界)」を組み合わせた造語で、オンライン上の仮想空間を意味しています。仮想空間では、各人がどこにいても実際に一つの場所にいるかのような体験ができることなどの特徴があります。メタバースを活用したサービスの市場規模は拡大しており、例えば、メタバースはインターネット上の利用者に自身の模擬体(アバター)を作り出すことで、他者と交流し仮想空間上で商品購入等を行うことを可能にします。。例えば、現実世界を模したメタバース上の店舗において商品を販売する、店舗従業員がメタバース上でアバターとして接客をするなど新たなサービス提供の機会を創出することも考えられています。

メタバースは、これまでに全く存在していなかった概念ではなく、複数の既存の概念を一段と抽象化した上位概念として捉えることができます。メタバースによって新たな市場が創出、拡大していくことで新たなサービスの創出への機会が増えます。一方で、メタバースによって、時間や空間の制約が取り払われ、仮想空間において価値が生み出され、移動をせずとも目的を達成できるようになることは、現実空間や移動の価値について再定義が求められているとも考えられ、その特性を捉えていくことが必要になると考えられます。将来、技術の進展により十分なリアリティを持つ仮想空間が普及した場合、「現地に行く」ための移動需要が変わり得ます。

国土交通省「国民意識調査」は、仮想空間の普及によって、仮に「現地に行かなくてもあらゆることが体験できるようになる」としたら、仮想空間をどのように活用したいかを調査しました。全世代の過半数の人は、「日常的な買い物をデジタル仮想空間上で商品を確認し、オンラインで購入する」、「引っ越しや住宅見学など、住まいに直結する空間をデジタル仮想空間上で確認する」と答えました。一方で、「懇親会やデートなど人との交流」について、利用したいと答えた人は3割程度にとどまり、交流目的の場合はリアルで交流したいと望む人がある程度いることがわかりました。
さらに「今までリアルで対応しなければいけなかったものも、デジタル仮想空間上で対応すれば、わざわざ移動する必要がない将来」については、全世代の80%以上の人が「デジタル仮想空間では代替できないことがある」として、「直接五感で感じたい」こともあると答えています。

コロナの期間にリモート会議が普及しました。テクノファでも2020年の後半からZOOMを使ったリモートのセミナーを多く開催しました。ある意味メタバースのさきがけのような経験をしましたが、スクリーン越しに見る受講者の方は実際に面談するときとは受けるイメージが全く違いました。国土交通省の調査にあるように「デジタル仮想空間では代替できないことがある」という感覚とまさしく一致するものでした。

リモートの普及により、多くの企業で在宅勤務が行われました。自宅にいながら仕事が可能となり、物理的な障害に制約されず活動できるとともに、移動時間を節約できる利便性を経験しましたのでメタバースへの抵抗は少なくなっていくように思います。を余儀なくされる機会が減少することも考えられる一方で、人との交流や現地の状況を五感で感じるなど、リアルに対する価値が存在し、「現地に行く」ための移動需要は存続することが予想される。仮想空間の活用により、移動時間の短縮など効率化のみならず、物理的制約のために普段訪れることのできない観光地や商業施設を体験することなどが可能となることや、旅行意欲・消費意欲が誘発されて交流人口の拡大が図られるなど、多様な効果も考えられる。また、物理的制約のために連携できなかった主体とコミュニケーションを図ることが可能となり、創造的な製品・サービスの開発も期待される。以下の記事は、立命館大学情報理工学部 教授 木村朝子氏にデジタル時代を支える仮想空間の活用に関し、国土交通省がインタビューしたものを引用いたしました。木村氏は複合現実感などの技術とともに、ユーザーインタフェースなどに習熟していない利用者への使いやすさの観点などを研究されています。

(立命館大学情報理工学部 教授 木村朝子氏)
仮想空間の活用に関しユーザーや国土交通行政に求められる視点について、お話を伺った。
●仮想空間の活用可能性はユーザー次第
コロナ禍で日本においてもデジタル化が進み、例えば「会議は対面で」という従来の常識が薄れ、オンライン会議が違和感なく浸透したと思う。これらオンライン化や、ロボット等の活用による作業の遠隔化は、人々の移動時間の節約を通じ、時間制約のある子育て世代含め、働き手・働き方の多様化につながる。また、場所を選ばず仕事ができ、過疎化など地方の課題解決に資する可能性もある。仕事以外でも移動を伴わず活動が可能となることで、高齢者や障がい者含め、人に優しいデジタル化の面でも利点がある。コロナ禍を通じて、世代による考え方の差異も浮き彫りになり、年配の方を中心に対面でなければ伝わらないと考えている一方、若年層を中心にオンラインや仮想空間でも十分伝わると考えているなど、見解の相違も見受けられる。オンラインや仮想空間の活用可能性は、ユーザー次第の部分がある。例えば、私の教え子の中には、仮想空間で多くのことを成し遂げ、よりリアルで質の高い意思疎通をユーザー同士で密に行っている人がいるが、これはメタバース上でアバターの表情を豊かに表現することができるなど、仮想空間でのツールをユーザーが使いこなしている部分が大きいと思う。
●対面での価値を意識した使い分けが大切
既にインターネットショッピングなどオンラインでの買い物も普及しているが、今後、メタバース等での買い物など情報量の増大が伴えば、利便性は更に向上する。既に仮想空間の取込みが様々な業界で進められており、例えば住宅関係では、360度で室内を内見するサービス、ARでインテリアをシミュレーションする新しいサービスなども出てきている。一方、技術がどれほど進展してもすべてメタバースなど仮想空間に頼る必要はなく、旅行や人とのコミュニケーションなど対面での価値が残る場面もある中、使い分けが重要である。例えば、教育の現場では、オンライン授業で移動時間を節約し、対面でしかできない実機を使った実験等にその時間を充てるなど、私自身も工夫を図っている。オンラインと対面の双方の価値を熟成することが大切である。また、オンラインのみならず、PLATEAUなど仮想空間について、シミュレーションやプランニングに活用することで、現実の活動に活かすことも重要である。例えば、旅行前に仮想空間で観光地を予習し、優先順位をつけ、現実空間でリアルに旅行する際には効率よく観光地を回ることもできる。予習の段階で旅行意欲が増加し、旅行日程が増えることもあるかもしれない。さらに事前にバリアフリールートを仮想空間で確認するなど、人に優しいデジタル化としても期待できる。

出典:国土交通省 令和5年版国土交通白書

(つづく)Y.H