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■バブル崩壊から33年経って4
失われた30年を考えるに当たってここで日本再興戦略を作成した2013年当時、成長戦略をどう描いたか追ってみます。
(1)異次元のスピードによる政策実行
今回の成長戦略と、これまでの成長戦略との最大の違いは、まず、何を目指すのかを明示し、それを実現するための施策を、メニューの羅列にとどめずに、その施策を実行に移すのに必要なステップ(法改正、予算・税制措置、制度改正、審議会付議など)をいつまでに終わらせるのかを工程表という形で可能な限り明らかにするところに在ります。これから行動を起こそうとしている民間にとって、いつ何ができるようになるのかの情報が決定的に重要となります。特に、20年の停滞から日本経済を再起動するためには、即効性の高い政策やメッセージ性の高い政策はスピード感を持って実施する必要があります。(2)「国家戦略特区」を突破口とする改革加速が必要です。日本経済を中長期的な成長軌道に乗せていくためには、成長戦略を着実に実施し、浸透させていく地道な努力が不可欠です。一方で、日本が本気で変革する姿勢を内外にアピールし、本当に物事を動かしていくためには、スピード感をもって規制・制度改革やインフラの整備を実現してみせる必要があります。このためには今回の成長戦略に盛り込まれた施策を迅速かつ確実に実施していくことが基本ですが、新たな手法として、国主導で国の成長戦略を実現するため、大胆な規制改革等を実行するための突破口として、「国家戦略特区」を創設するという考えもいいと思います。この「国家戦略特区」では、国・自治体・民間の各主体が対峙するのではなく三者一体となって取り組む案件であって、これまでの特区では実現が期待できなかった、世界からの投資を惹きつける程度にインパクトのあるものに限って対象とし、スピード感を持って実現していくことが大切です。
政府はこのような考えで成長戦略を推進しましたが、2024年の今日から見ると次のようなことが足りなかったのではないかと思います。
2013年の成長戦略では、大きな政策群毎に、達成すべき「成果目標」(KPI)を示しました。国際比較を含め、客観的、定期的、及び総合的に政策の成果を評価できるように、国際機関が示す指標も含めて「成果目標」を設定しました。また、「成果目標」を実現するために必要な個別施策を方向性、手段、実施時期等を明確にしました。しかし、これらの個別施策の中には、計画策定以降、詳細設計を実施し、法律を改正し、予算を要求し、税制改正等を行い実行するものも多く含まれていました。個別施策を実現するために環境を整えることも重要ですが、タイムスケジュールに沿って「進捗管理」するためには、ボトムアップ型の PDCAの実施も必要でした。しかしながら、達成すべきは、あくまで「成果目標」であって、戦略で示されている個別施策を実行することはそのステップの一つです。現実には、そのインパクトが不十分であったり、新たな状況変化が生じたりすることなどにより、「成果目標」を達成できない場合が出て来ました。2013年の成長戦略では、ボトムアップ型の PDCA に加えて、これまでとは次元の異なる「成果目標レビュー」を行いました。具体的には、①掲げられた「成果目標」は達成できたのか、②できなかった場合には何が足りないのか、③既存の施策の問題点は何か、④効果のない施策の廃止も含め改善すべき点は何か、といったことを「成果目標達成の可否」という観点から検証も行いました。そして、検証結果を踏まえ、成果が出るように、施策を柔軟に見直し、経済状況等の変化により、「成果目標」そのものを見直すことになったものも多数出て来ました。
次に、成長戦略においては日本の中長期的な経済成長を実現するためのシナリオ及び鍵となる制度改革が重要なものとして盛り込まれていましたが、戦略策定時までに全ての課題において詳細な制度設計が固まったわけではなかったため、成長を実現するために我が国の抱える全ての課題に完全に応えきれていませんでした。例えば、我が国のエネルギー需給構造をどうするか、それに伴って地球環境問題にかかる定量的な目標をどうするか、などは一つの例として上げられます。また、多様な価値観や経験、ノウハウ、技術をもった海外の優秀な人材を惹きつけ、その受入れを拡大するための総合的な環境整備についてもあまり議論されておらず、今後取り組む必要があると思われます。医療や介護、保育や年金などの社会保障関連分野は、少子高齢化の進展等により財政負担が増大している一方、制度の設計次第で巨大な新市場として成長の原動力になり得る分野です。健康長寿産業を戦略的分野の一つに位置付け、健康寿命延伸産業や医薬品・医療機器産業などの発展に向けた政策、保育の場における民間活力の活用などが盛り込まれていますが、医療・介護分野をどう成長市場に変え、質の高いサービスを提供するか、制度の持続可能性をいかに確保するかなど、中長期的な成長を実現するための課題が残されました。農業については、担い手への農地集積・集約や、企業参入の拡大などに係る施策が盛り込まれていますが、農業・農村全体の所得の倍増を達成するためには農業生産性を飛躍的に拡大する必要があります。そのためには、企業参入の加速化等による企業経営ノウハウの徹底した活用、農商工連携等による6次産業化、輸出拡大を通じた付加価値の向上、若者も参入しやすいよう「土日」、「給料」のある農業の実現などを追求し、大胆な構造改革に踏み込んでいく必要があったのですが、残念ながら実現できませんでした。
(つづく)Y.H