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ISO審査員に経産省の白書を参考にした有用な情報をお届けします。
■企業の稼ぐ力
同じ業種の中でも、営業利益率等が高く稼ぐ力がある企業とそうでない企業がある。このため、製造事業者の財務情報を用いて、稼ぐ力を有している企業などについて、設備投資や研究開発投資等の動向を分析した。また、営業利益率や、設備投資、研究開発投資について、日本、米国、EU の企業の比較を行った。財務データベースは、国際比較を行うため、国内外の企業約1億3,000 万件の財務情報を含む企業データベースを使用した。
まず、日本の製造事業者を対象として、2017 年度から2020 年度までの平均値で、営業利益率が上位10% 及び下位10% の企業群に分け、それぞれについて、4年間の有形固定資産増加率、無形固定資産増加率、研究開発費増加率、借入金増加率を比較した。
有形固定資産増加率、無形固定資産増加率、研究開発費増加率については、営業利益率が高いほど高く、借入金増加率は逆の傾向となった。このことから、営業利益率が高い企業においては、有形固定資産、無形固定資産、研究開発に対して、稼いだ利益を積極的かつ継続的に投資していることが分かる。
日本と米国及びEU の製造事業者を対象として、同じく2017 年度から2020 年度の平均値の営業利益率を比較すると、日本企業よりも米国及びEUの企業は高い水準である。さらに、同期間の売上高に対する有形固定資産比率、無形固定資産比率及び研究開発費比率を比較すると、有形固定資産比率を除き、米国及びEU の企業が日本企業よりも高い水準であり、米国及びEU の企業では、無形固定資産や研究開発に対して積極的に投資を行っていることが分かる。
また、総資産に対してどれだけ利益が出ているかを示すROA(Return on Assets: 総資産利益率)と、自己資本に対してどれだけ利益が出ているかを示すROE(Return on Equity:自己資本利益率)についても、同じく2017 年度から2020 年度の平均値を比較すると、米国企業はいずれも日本及びEU の企業より高く、EU の企業はROA については日本企業と同水準であり、ROE については高い水準にある。このことから、米国企業は、日本及びEU の企業と比較して、資本をより効率的に活用した経営を行っている傾向にあるといえる。
日本企業と海外企業の間では、法規制、インフラコスト、商習慣など、事業環境に様々な違いがある。実際に、日本企業が海外企業に比べて競争上不利な状況に置かれていると思われる原因を把握するために行われた調査によれば、「人件費が高い」を筆頭に、「電力等のインフラコストが高い」や「人員整理がしにくい」などを認識している事業者が多かった、「電力等のインフラコストが高い」に関し、直近約5年間の産業用向け電気料金推移をみると、2021 年初頭に最低値(16.55 円/ kWh)となった後、同年10 月にかけて上昇傾向にあることが分かる。これは、液化天然ガス、石炭及び原油等の価格高騰や新型コロナウイルス感染症の感染拡大からの経済急回復に伴う電力需要増加等の複合要因が考えられる。
財務情報から、営業利益率が高い企業においては、有形固定資産、無形固定資産、研究開発に対して、稼いだ利益を積極的かつ継続的に投資していることが分かった。また、米国及びEU の企業では、無形固定資産や研究開発に対して積極的に投資を行い、日本企業よりも営業利益率が高いことが分かった。さらに、ROA、ROE の国際比較からは、米国企業が、日本及びEU の企業と比較して、資本をより効率的に活用した経営を行っている傾向にあることが分かった。今後も続くと考えられる事業環境の変化に対応するには、我が国製造事業者は、稼いだ利益を元にして、有形及び無形の資産や研究開発などに積極的かつ効率的に投資し、稼ぐ力を高めていくことが重要である
経済産業省では、2021 年11 月、「産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会」を設置し、コロナ禍後に向けて、世界各国がグリーン・デジタルを中心にこれまでにない規模と形式の政府支援策を展開する中、我が国でもこの機を捉え、長期低迷から脱却するため、あらゆる政策手法を総動員してこれまでの限界を超える「経済産業政策の新機軸」の検討を開始した。
2022 年3月には、「第6回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会」を開催し、「事務局説明資料 ~グローバル競争で勝ちきる企業群の創出について~」において、主要株価指数の構成企業のうち、非財務資本がゼロを下回る(PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)注4が1倍未満であり、時価総額が企業の解散価値を下回る)企業の割合は、米国(S&P) で3%、欧州(STOXX) で約2割に対し日本(TOPIX)では約4割であり、東証一部上場企業ではPBR0.5~0.6倍が最頻値となっている点に言及した
我が国経済の価値創造力向上に向けた基本的な考え方として、「グローバル競争に直面している企業も、例えば、PBR が1倍を割る企業が東証一部上場企業の半数近くを占めるなど、企業価値を十分伸ばし切れていない現状にある。その背景となる市場構造等の要因を分析し、政策対応で解消すべき課題には政府として全力で取り組む必要がある。また、日本企業の取組がしっかりと資本市場でも評価されるよう取り組む必要がある。」とし、今後さらに検討を進めることとしている
鉱工業生産活動の全体的な水準を示す鉱工業生産指数をみると、2020 年前半は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による需要の低迷や生産調整などにより、輸送機械工業を始めとして大幅に低下した後、同年後半から国内外での経済活動の回復が進み、上昇に転じた。2021 年に入ると、はん用・生産用・業務用機械工業が好調に推移する一方、同年7月以降、世界的な半導体不足などの影響により、輸送機械工業や電気機械工業が低下した。その後、同年10 月には一時的に上昇に転じたが、部材供給不足などの影響を受け、2022 年1月に輸送機械工業が再度低下した。
直近1年間の生産量の動向把握を目的に実施された、生産量の変化についての事業者の認識に関する調査によれば、2021 年度の生産量については、「増加」及び「やや増加」の割合が約4割を占めている。また、資本金別に比較すると、資本金100億円超の企業において、「増加」及び「やや増加」の割合が約7割となっており、大企業を中心に生産量が増加していることが分かる。業種別に比較すると、非鉄金属において「増加」及び「やや増加」の割合は約6割となっているのに対し、輸送用機械は約4割にとどまっている。
次に、出荷の状況について、生産活動によって産出された製品の出荷動向を総合的に表す鉱工業出荷指数をみると、2021 年4月には新型コロナウイルス感染症の感染拡大前の水準まで回復したが、7月以降低下及び上昇を繰り返している。直近1年間の出荷量の動向把握を目的に実施された、出荷量の変化についての事業者の認識に関する調査によれば、2021 年度の出荷量については、「増加」及び「やや増加」の割合が約4割を占めている。また、資本金別に比較すると、資本金100 億円超の企業において、「増加」及び「やや増加」の割合は約7割となっており、生産量の傾向と同様に、大企業を中心に出荷量が増加している。
業種別に比較すると、非鉄金属においては、出荷量が「増加」及び「やや増加」の割合が約6割となっているのに対し、輸送用機械は約3割にとどまっており、生産量と同様の傾向を示している。続いて、在庫の状況について、生産活動によって産出された製品が出荷されずに生産者の段階に残っている在庫の動きを示す鉱工業在庫指数をみると、2020年5月以降低下傾向が続いていたが、2021 年6月以降上昇に転じている。在庫量の直近1年間の動向把握を目的に実施された、在庫量の変化についての事業者の認識に関する調査によれば、2021 年度の在庫量については、「増加」及び「やや増加」の割合が約3割を占めている。生産及び出荷については「増加」及び「やや増加」が約4割を占めていたことから、在庫の増加は生産及び出荷のそれよりも若干緩やかである。在庫について資本金別に比較すると、資本金100 億円超の企業では、資本金100 億円以下の企業よりも「減少」及び「やや減少」の割合が大きい。業種別に比較すると、電気機械、化学工業において「増加」及び「やや増加」の割合は約4割となっているのに対し、鉄鋼業においては約2割にとどまっている。
(社会情勢変化の影)
影響がサプライチェーン全体に広がる中で、サプライチェーンの強靭化が一層重要となっている。2021 年度に行われた、強靭なサプライチェーンの構築に向けた事業者における今後の取組に関する調査によれば、約半数の企業が「調達先の分散」を挙げており、また、「国内生産体制の強化」、「標準化、共有化、共通化の推進」の割合が多くなっている。さらに、2020 年度に行われた同様の調査結果と比較すると、「国内生産体制の強化」が約2割から約4割に増加している。このことから、世界的な半導体不足などにより生産活動が影響を受ける中で、国内サプライチェーンの強靭化に対して、より多くの経営資源を投入しようとする事業者が増加していることがうかがえる。
企業規模別に比較すると、中小企業、大企業ともに「調達先の分散」が最も多く、また、「国内生産体制の強化」、「標準化、共有化、共通化の推進」、「調達先に関する情報の定期的な更新・メンテナンス」の割合が多くなっている。また、大企業においては、「代替調達の効かない部材の排除、汎用品への切り替え」、「調達先の地域的分散」、「消費地生産」といった、設計変更や、調達先や生産拠点の複線化など、多くの経営資源が必要となる項目が高くなっている。
特に我が国製造事業者への影響が大きかった、東南アジアにおける新型コロナウイルス感染症の感染拡大と、環境規制強化等に伴う中国の電力不足の事例を紹介する。2021 年夏以降、東南アジアでは新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、工場の操業停止が相次ぎ、部品供給の停滞が日系自動車メーカーの国内の工場稼働にも大きな影響を及ぼした。
2021 年度4月から9月の自動車販売台数は累計で3,897 万台となり、前年同期から約229 万台増(前年同期比6.3%増)となっているが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前の2018 年度同期と比較すると約686 万台減(2018 年度同期比15.0%減)となっている。また、2021 年度4月から9月の自動車生産台数は累計で3,682 万台となり、前年同期から約204 万台増(前年同期比5.9%増)となっているが、2018 年度同期と比較すると約1,016 万台減(2018 年度同期比21.6%減)となっている。(一社)日本自動車部品工業会では、2021 年度第2 四半期の自動車部品工業の経営動向を取りまとめている(ここでは、2021 年11 月1日現在の会員企業数429 社のうち、上場企業かつ自動車部品の売上高比率が50%以上であり、前年同期比較が可能な62 社を対象に分析を実施)。それによると、業績については新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響の反動から、2021 年度第2 四半期は増収増益となっているが、2018 年度比では、半導体不足や東南アジアでの新型コロナウイルス感染症の感染拡大による部品供給難に伴う自動車生産の減産、原材料価格の高騰などの影響で「減収減益」となっている。
(新型コロナウイルス感染症の感染拡大による自動車生産への影響)コラム
2021 年夏以降、東南アジアでは新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、工場の操業停止が相次ぎ、部品供給の停滞が日系自動車メーカーの国内の工場稼働にも大きな影響を及ぼした。2021 年度4月から9月の自動車販売台数は累計で3,897 万台となり、前年同期から約229 万台増(前年同期比6.3%増)となっているが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前の2018 年度同期と比較すると約686 万台減(2018 年度同期比15.0%減)となっている。また、2021 年度4月から9月の自動車生産台数は累計で3,682 万台となり、前年同期から約204 万台増(前年同期比5.9%増)となっているが、2018 年度同期と比較すると約1,016 万台減(2018 年度同期比21.6%減)となっている。
なお、(一社)日本自動車部品工業会では、2021 年度第2 四半期の自動車部品工業の経営動向を取りまとめている(ここでは、2021 年11 月1日現在の会員企業数429 社のうち、上場企業かつ自動車部品の売上高比率が50%以上であり、前年同期比較が可能な62 社を対象に分析を実施)。それによると、業績については新型コロナウイルス感染症の感染拡大による部品供給難に伴う自動車生産の減産、原材料価格の高騰などの影響で「減収減益」となっている。
中国政府は、二酸化炭素の排出量を2030 年までに減少に転じさせ、2060 年までに実質ゼロにする目標を掲げている。この目標達成に向けて、2021 年のエネルギー強度(GDP1 単位当たりのエネルギー消費量)を前年に比べて3%削減する目標を設定した。しかし、2021 年前半に目標を達成したのは、30 の省や地域のうち10 省・地域にとどまった。目標未達の地方政府が二酸化炭素排出量削減措置を強化し、電源構成で約7割の比率を占める石炭火力発電所が次々と操業停止に追い込まれたことから、深刻な電力不足が生じた。なお、2021 年秋頃に発生した深刻な電力不足は、環境対策に加えて、発電用石炭の不足に伴う発電所の稼働率低下も原因と考えられている。
(独)日本貿易振興機構の調査によると、2021 年秋頃に発生した中国全土にわたる電力不足により操業に影響が発生し、生産停止を余儀なくされた中国企業も少なくない。(独)日本貿易振興機構が広東省各地の日系商工会を通じて進出日本企業の電力制限状況を調査したところ、回答した180 社の過半数が、1 週間の大半で操業できない状況にあることが判明した。業種別では自動車関連、電気電子関連、プラスチック製品製造関連、金属製品製造関連の企業が多かった。なお、2022 年に入ると環境対策や石炭不足に伴う中国における全国的な電力不足は解消に向かいつつある。
一連の中国の電力不足は、中国現地に進出している日本企業にとどまらず、ASEAN 各地に展開している日本企業や海外から部材を調達している日本企業のサプライチェーンにも影響が及び、需要があるにもかかわらず、生産できないという事態が発生した。
(出典)経済産業省 2022年版ものづくり白書
・https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/index.html
(つづく)Y.H