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■事業再構築補助金
コロナ感染症で資金不足に陥った製造業に対して、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業等のグリーン分野を含めた成長を後押しすべく、政府は新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援する「事業再構築補助金」制度を開始した。採択件数をみると、全体に対する製造業の割合は、第4回公募の採択において全体の約2割を占めていることが分かる。
これは、中小企業等が行う革新的なサービス開発、試作品開発、生産プロセスの改善に必要な設備投資等を支援する「ものづくり補助金」に続くものである。
(事業再構築補助金の具体的な活用事例)
事例1
中日本炉工業(株)は1965 年の創業以来、各種工業炉の受託設計・製造を手掛けており、大型炉から小型炉まで、フルオーダーメイド型の工業炉専門メーカーとして確固たる地位を築いている。真空炉を活かした様々な熱処理を実現し、金型、量産部品、表面処理を3つの柱として幅広い業種の顧客からの要望に対してソリューションを提供しており、サプライチェーンの川中産業として日本のものづくりを支えている。
同社の特徴は工業炉メーカーでありながら、自ら熱処理の受託加工も手掛けている点にある。同社の売上のうち、工業炉の設計・製造は約85% で、残りの15%は受託加工である。自ら熱処理の受託加工を手掛けているのは、自社の工業炉で受託加工を行って顧客の立場に立つことで、より良い工業炉の設計にフィードバックができることに加え、受託加工の現場は顧客に対するモデルとしての“魅せる工場” の役割も果たしている。
新型コロナウイルス感染症による感染拡大は同社の業績に大きな影響を及ぼし、一時、売上が前年の5割以上も落ち込んだ。工業炉の設計・製造部門は自動車、プラスチック、鉄鋼、化学といった幅広い業界と取引があったが、特に同社の熱処理受託加工部門の7~8割は自動車部品を手掛けていたこともあり、自動車業界の大幅な減産の影響を受けることとなった。また、今後自動車のEV 化が進むと自動車部品点数は大幅に減るといわれており、今後の産業構造の転換を見据えて半導体へのシフトが必要と考えた。同社は国内外の展示会に定期的に出展し、工業炉と熱処理技術のアピールを行っているが、その際に半導体製造装置メーカーから、最先端半導体の量産に必要とされるEUV 露光装置の光源部品への高品質の窒化チタン(TiN)コーティングに関する相談を持ち掛けられ、テストを繰り返していた。そこで、同社は「事業再構築補助金」を活用し、新たに半導体製造装置の加工分野への進出を図った。半導体製造装置に用いられる部品は耐腐食性、合金化防止が求められることから、熱処理受託加工部門において、これまで自動車部品の加工で培ってきた薄膜コーティング技術を活かせるのではないかと考え、補助金を活用して、半導体製造装置向けに、より高品質のCVDコーティング処理するための設備投資を行った。
事例2
(株)浜島精機は長野県飯田市を拠点とする金属加工業で、単品試作品から量産までの幅広いニーズに対応している中小企業である。以前は航空宇宙関連メーカーに売上の8割以上を依存する協力企業であったが、2013 年から航空宇宙部品、半導体製造機器部品、医療機器部品という3本の矢の経営を目指し、ものづくり補助金等を活用しながら着実に事業の幅を広げてきた。航空機産業は自動車に比べるとモデルチェンジの周期が長く、受注できれば息の長いビジネスへとつながる。一方、半導体産業は極めて重要な産業であるが景気の波が激しく、同社は新たに医療の領域も強化してきた。
このように、分野が異なる業種を経営の柱とすることで、景気の波による影響を最小限にとどめる努力をしてきたが、新型コロナウイルス感染症による感染拡大の影響は、本来安定的な受注が見込めるはずの航空宇宙業界に大きな影響を与え、2020 年は前年の2~3割まで受注が落ち込んでしまった。航空宇宙産業は同社が創業以来取り組んできた根幹をなす事業であり、2013 年には航空宇宙産業特有の要求事を織り込んだ品質マネジメント規格JISQ9100 も取得し、この業界で培ってきた精密加工技術や品質管理が半導体や医療という新領域への開拓にもつながった。大幅な受注の落ち込みがあっても、今後需要が戻った時に備えて航空宇宙事業の生産のキャパシティを維持する必要があると考え、また、医療機器関係の取引先から医療ロボットに必要な部品開発の打診を受けていたこともきっかけとなり、医療分野の強化を目指すため「事業再構築補助金」を活用した。
同社が現在、部品の製造受注を目指している医療ロボットは、病院向けで使われる医療従事者を支援するロボットで、人手不足の解消につながるほか、非接触による作業を支援できることから感染症対策にも貢献するなど、今後も市場ニーズが高まると期待される。既に医療ロボットに使われているモーター関連部品は製造受託している。また、新たに取り組んでいる医療ロボットに搭載される画像処理のレンズ回りの部品などは、同社の光学部品の加工ノウハウを生かすことが可能である。
航空宇宙事業においては、4年前に大手航空機内装品メーカーの一次サプライヤ認定を受けている。今後は医療の新規分野を開拓しつつ、3本の矢の事業で培った製造ノウハウを生かして航空機部品の形状や設計にも積極的に提案を行い、日本の航空機産業のコスト、品質、性能に貢献できることを目指している。
(企業の資金繰り)
企業の資金繰りの動向を把握するため、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」の資金繰り判断DI をみると、2020 年第2四半期に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響などにより資金繰りが「苦しい」と判断した企業が増加して以降は資金繰りの改善の傾向が続いていたが、2022 年第1四半期は資金繰りが「苦しい」と判断した企業が7四半期ぶりに増加した。
日本企業全体の資金調達額については、全業種と製造業ともに2020 年第2四半期に入り、短期借入金及び長期借入金による資金調達額が増加したが、2021 年第2四半期以降は減少傾向にあり、特に製造業の短期借入金及び長期借入金が全業種に比べ、大きく減少した。
2021 年度に実施された、主に中小企業を対象とした足下での資金調達動向に関する調査によれば、5割以上の企業が直近1年間で資金調達をしている。資金使途としては、設備資金は「土地・建物・機械・備品・車両の購入」や「修繕資金」の割合が大きく、運転資金は「手元資金の確保」や「材料や商品仕入れ」の割合が大きい。運転資金の資金使途を企業規模別にみると、大企業で「外注費」の割合が中小企業よりも高い。また、経済産業省「2020 年経済産業省企業活動基本調査」によれば、短期借入金額が大きい企業ほど、製造委託を行っている割合が大きいことも分かる。資金調達の方法としては、9割以上の企業が「金融機関からの借入れ」により資金を調達している。また、「金融機関からの借入れ」をしている企業が直近1年間で資金調達をした金融機関については、「地方銀行」の割合が特に大きくなっている。株式市場での資金調達の動向について、IPO(Initial Public Offering: 新規株式公開)企業数の推移をみると、全産業の件数は2021 年は136 社と、2020 年の102 社から約3割増加し、多くの企業が上場した。
(東証再編)
日本最大の証券取引所である(株)東京証券取引所(東証)は4つの市場区分(市場第一部、市場第二部、マザーズ及びJASDAQ(スタンダード・グロース))で構成されているが、以下の2つの課題があり、2022 年4月4日に「プライム市場」、「スタンダード市場」及び「グロース市場」の3つの市場区分に再編された。
1.各市場区分のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとっての利便性が低い。具体的には、市場第二部、マザーズ、JASDAQの位置付けが重複しているほか、市場第一部についてもそのコンセプトが不明確。
2.上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けが十分にできていない。例えば、新規上場基準よりも上場廃止基準が大幅に低いことから、上場後も新規上場時の水準を維持する動機付けにならない。また、市場第一部に他の市場区分から移る際の基準が、市場第一部への新規上場基準よりも緩和されているため、上場後に積極的な企業価値向上を促す仕組みとなっていない。
新市場区分のコンセプト及び上場基準は以下のとおりである。
- <プライム市場>
多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場。 - <スタンダード市場>
公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場。 - <グロース市場>
高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ、一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場。市場コンセプトを反映したこれらの基準のほか、株式の譲渡制限、証券代行機関の選定などの共通の基準を設ける。ベンチャー企業による議決権種類株式を利用した新規上場については現行制度どおり。流動性とは、市場に出回る株式の数・金額の多寡を示す尺度であり、流動性が高いほど、投資者にとって売買しやすい銘柄であるといえる。
また、経過措置として、上場会社が選択先の市場区分の上場維持基準を満たしていない場合、上場維持基準の適合に向けた計画及びその進捗状況を提出し、改善に向けた取組を図ることにより、当分の間、緩和された上場維持基準を適用するとしている。
なお、2022 年1月に公表された「新市場区分の選択結果について」によると、市場第一部の2,185 社のうち、1,841 社( 経過措置の296社含む)がプライム市場を選択し、344 社がスタンダード市場を選択している。
(出典)経済産業省 2022年版ものづくり白書
・https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/index.html
(つづく)Y.H