ISO審査員及びISO内部監査員に経産省の白書を参考にした製造業における有用な情報をお届けします。

■物流競争力向上

(デジタル技術を活用した物流)
サプライチェーンにおいて拠点間をつなぐ物流は重要な要素である。近年、IoT やAI 技術の活用により、複数企業の物資や倉庫、車両の空き情報等を見える化し、シェアされたネットワーク上で管理する「フィジカルインターネット」が注目されている。新たな物流システムのコンセプトであるフィジカルインターネットは、インターネット通信の考え方を物流(フィジカル)に適用した新しい物流の仕組みで、IoT やAI 技術の活用により、貨物や倉庫、車両の空き情報等を見える化し、規格化された輸送容器の中の貨物を、複数企業の物流資産(倉庫、トラック等)をシェアしたネットワークで輸送するという共同輸配送システムの構想である。欧州では、多くの企業・研究機関等で構成されるALICE(Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe)において、2040 年までのロードマップが作成されており、その実現に向けた実証実験等が行われている。
フィジカルインターネットは、物流効率化による産業競争力の強化に加え、温室効果ガスの削減等、様々な社会的価値をもたらす可能性を有している。その実現のためには、物流事業者のみならず、製造事業者、卸売事業者、小売事業者、さらには消費者といった、サプライチェーンに関わる関係者が、長期的かつ計画的に取組を進めていくことが必要となる。このため、経済産業省と国土交通省では、2040 年を目標として、我が国におけるフィジカルインターネットの実現に向け、産官学の関係者で構成される「フィジカルインターネット実現会議」を2021 年10 月に立ち上げた。
我が国では、2010 年代前半から、物流需給が逼迫し、物流コストが上昇しており、有効な対策を講じなければ、今後も厳しい状況が続くと見込まれている。需要面の要因としては、EC 市場の成長や、消費者のニーズの多様化による多品種・小ロット輸送の需要が増加している点が挙げられる。この結果、トラックの積載効率が低迷しており、営業用トラックの積載効率は2018 年以降、40% を切っている状況である。供給面の要因としては、少子高齢化及び厳しい労働環境によるトラックドライバーの減少・高齢化が挙げられる。2024 年度には働き方改革関連法の施行に伴い、トラックドライバーの時間外労働の上限規制が罰則付きで適用されることとなり、商慣習の改善等の取組が進まなければ、トラックドライバーの供給が一層制約されることとなり、物流サービスが提供困難になるおそれがある。これは、「物流の2024 年問題」と言われている。
こうした事態を回避し、オールジャパンで物流の効率化を徹底していくために、フィジカルインターネット実現会議において、「フィジカルインターネット・ロードマップ」(以下「ロードマップ」)を2022年3月にとりまとめた。ロードマップにおいては、2040 年にフィジカルインターネットによって実現する社会イメージとして4つの価値を示すとともに、2040 年までに業界横断的に行うべき取組を6つの項目に分けてまとめて示している。実現する4つの価値としては、「効率性(リソースの最大限の活用・CO2 排出の削減等)」・「強靭性(災害にも備える生産拠点や輸送手段の多様化等)」・「良質な雇用の確保(労働環境の改善・新産業の創造等)」・「ユニバーサル・サービス化(買い物弱者や地域間格差の解消等)」が挙げられる。これらの価値は「持続可能な開発目標(SDGs)」における17 の目標のうち、8つの目標(保健、エネルギー、成長・雇用、イノベーション、不平等、都市、生産・消費、気候変動)の達成にも寄与するものである。
また、業界横断的に行うべき取組としては、「ガバナンス」・「物流・商流データプラットフォーム」・「水平連携」・「垂直統合」・「物流拠点」・「輸送機器」の6つの項目に大別し、例えば喫緊で行うべきパレットやコンテナ等の物流資産の標準化・共有化や、データ連携のためのマスタ、プロトコルの整備、企業経営者のサプライチェーンマネジメントやロジスティクス重視への意識変革等、2040 年までに段階的に行うべき取組を示している。また、ロードマップに示す業界横断的な取組と並行して、業界固有の商慣行や課題に対応するため、業界の状況に応じた具体的な対応を進めていく必要がある。2021 年度は、消費財(加工食品・日用雑貨)業界、百貨店業界、建材・住宅設備業界において、それぞれワーキンググループを立ち上げ、業界の特殊性も踏まえた2030 年までの物流効率化に向けたアクションプランを策定した。今後は、ロードマップを産業界へ広く共有するとともに、関係省庁で連携しつつ、フィジカルインターネットの実現に向けた具体的な取組を進めていくことになる。また、日本企業においても、物流事業者がIoT やブロックチェーンを活用し、サプライチェーンの全体を通じた品質保証に取り組んでいる事例や、海外拠点間のデータ共有により業務効率化した事例、企業間のデータ共有により物流の効率化を目指す取組がみられている。

事例1
(IoT 、ブロックチェーンを活用した医薬品デジタルプラットフォーム構築)
NIPPON EXPRESS グループは、製品が工場で出荷されてからユーザーの手元に届くまで、物流プロセスを含むサプライチェーン全体での品質管理の重要性に注目している。例えば、新型コロナウイルス感染症対策として接種が進められた新型コロナワクチンでは、輸送中の温度上昇が原因でワクチンを廃棄したケースがみられた。このような中、物流事業者として、調達・生産・販売という一連のサプライチェーン最適化を図ると同時に、産業全体の最適化を図ることで社会課題解決に向けた取組を進めており、特に、電機・電子、自動車、アパレル、医薬品、半導体の5産業を重点分野として産業別プラットフォームの構築を目指している。中でも、医薬品の品質は人命にも影響するため、製造時の品質保証だけでなく、輸送・保管中にも温度管理等の厳格な品質管理が求められる。また、偽造医薬品が正規流通経路へ流入することも防ぐため、世界各国でGDP(Good Distribution Practice:医薬品の適正流通基準)と呼ばれる規制の採用が進んでおり、日本でも2018 年に厚生労働省から日本版GDPのガイドラインが発出され、医薬品物流ではGDP に準拠した取扱いが求められている。そこで、同社は2021 年2月から医薬品デジタルプラットフォームの段階的な取り扱いを開始した。同社が構築したのは、温度管理を含む様々な物流情報をEnd-to-End につなぐ、IoT デバイスとブロックチェーンを活用したデジタルプラットフォームで、2021 年7月からは物流トレーサビリティデータを活用したサービスも開始している。同社としては、医薬品デジタルプラットフォームを医薬品業界に関わるオープンプラットフォームとしたいと考えており、このことで、医薬品の品質を担保でき、「安心」かつ「安全」に医薬品を服用できる社会の実現に貢献したいと考えている。

事例2
(サプライチェーンを担う物流の効率化を図るための取組み)
大和ハウス工業(株)ほか、京セラコミュニケーションシステム(株)では、サプライチェーンを担う工場等の拠点を結ぶ国内の物流について複数組織で効率を目指している。貨物自動車が主な輸送手段となっている現状は、将来的にトラックドライバーの不足が見込まれており、物流の効率化が喫緊の課題となっている。物流の効率化の実現には、サプライチェーン上の複数企業や業界全体で協力して取り組む必要がある。大和ハウス工業(株)ほか4社は、2021 年9月より、経済産業省「AI・IoT 等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金」の採択を受けて、発着荷主間の入荷、出荷のタイミングと運送事業者のトラックの運行計画をデータ連携させることで、物流拠点での自動運転フォークリフトの活用と併せて、サプライチェーン全体の効率化・省エネ化を図るための共同事業に取り組んでいる。トラックドライバー不足だけでなく、物流施設ではフォークリフト運転者などの不足も課題となっており、省人化が必要となっている。施設内では保管棚から必要な物品を取り出すピッキング作業や施設内の商品運搬作業など、一部はロボットにより自動化が進んでいるものの、入荷、出荷については荷積み、荷卸しの対象である荷物の形状やトラック積載状況が多様で作業が複雑であることから、未だに大半が人手による作業で行われている。本事業では2023 年度までに、AI 技術を活用した自動運転フォークリフトやパレタイジングロボット(パレットへの荷積みと荷卸しをするロボット)を用いることで入荷、出荷工程の自動化を推進する。また、事業者間で共通システムを構築し、物流施設の入荷と出荷のタイミングにトラックの運行計画を連携させることにより、ドライバーの待機時間を削減するなど、発着荷主間で連携した輸送の効率化を実現することを目指している。また、トラックドライバーの不足は、最後の物流拠点からエンドユーザーへの配送(ラストワンマイル配送)においても大きな課題となっている。経済産業省では、運送事業者やメーカー、法規制などを所管する関係省庁を集めた「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」において、自動走行ロボットの社会実装に向けた検討を進めてきた。これが実現すれば、ラストワンマイル配送のみならず、商業施設などでの館内配送や買い物支援など、新しいサービス展開や地域課題解決につながることも期待される。このような取組の一つとして、京セラコミュニケーションシステム(株)は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」の採択を受けて、2021 年8月、地域内の事業者でシェアする無人自動配送ロボットが企業間輸送貨物などを配送する、工業地域向けロボットシェアリング型配送サービスの実証実験を行った。これまで国内での自動配送ロボットの公道走行実証では、小型・低速のロボット(最高速度6km/h)の歩道での走行が主だったが、本実証では、広域にわたる工業団地での配送を想定し、超小型モビリティ(ミニカー)に準じた大きさ(長さ2.5m 以下×幅1.3m 以下×高さ2.0m 以下)で、高速(最高速度15km/h)のロボットが車道を走行した。無人の自動配送ロボットが車道を自動走行する実証は国内初である。実証試験においては、工業地域内の小売店商品や企業間輸送貨物を集荷し、効率的なルートを選択し、配送した。また、ロボットへの荷物の預け入れ・受け取り、ロッカーの開閉などはスマートフォンで管理した。このような実証試験を経て、急ブレーキ時の映像分析や走行データの分析など安全性確保のための技術面並びにロボットのシェアリングや共同運用など経済面での検討を進め、早期の実用化を目指している。2022 年3月には、千葉市幕張新都心において、店舗で購入した商品を指定マンションまでロボットがとどけるサービスの実証実験を行った。今後も、自治体や協力企業と連携し、各地域のニーズや課題に即したサービスの実証を行い、自動走行ロボットの社会実装に向けて継続的に取り組んでいく。

(サイバーセキュリティ対策)
2021 年版ものづくり白書では、製造業におけるIT(情報技術)とOT(制御技術)の融合が進展し、これまでインターネットに接続されていなかった生産設備やコンピューターなどが接続されることにより、サイバーセキュリティ対策の重要性が一層増していることを述べた。2022 年版ものづくり白書では、大企業と共にサプライチェーンを構成する中小企業に焦点を当て、サイバーセキュリティ対策の現状や、対策の推進に向けた政府の取組について述べる。中小企業においても、サイバー攻撃による被害は多く発生している。例えば、警察庁によれば、ランサムウェア被害件数の内訳は中小企業が過半数を超えている。(独)情報処理推進機構では、2019 年度から2年にわたり、中小企業のサイバーセキュリティ対策を支援する仕組みの構築を目的として、損害保険会社、IT ベンダー、セキュリティ企業、地域の団体等が実施体制を組んで攻撃実態や対策ニーズの把握等を行う実証事業を行い、2年間で延べ2,181 社の中小企業が参加した。2020 年度の事業においては、中小企業に対しサイバー攻撃の探索活動である「ポートスキャン」が数多く行われていることが確認されるとともに、ランサムウェアやトロイの木馬などのウイルスを検知、無害化を実施した件数も1,345 件に上ったことも明らかとされ、同機構は、本事業の報告書において、中小企業の実態として「業種や規模を問わず不審な通信等の脅威にさらされており、ウイルス対策ソフト等の既存の対策では防ぎきれていない実態が明らかとなった。」と指摘している。他方で、同機構が2021 年度に実施した「中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」によると、情報セキュリティ関連の被害を防止するために講じている組織面・運用面の対策として「重要なシステム・データのバックアップ」(37.5%)に次いで、「セキュリティ対策を特に実施していない」とする回答が約3割(30.0%)に上るなど、中小企業に対して、サイバーセキュリティ対策の必要性の更なる訴求とともに対策実践に向けた支援の必要性も明らかとされたところである。
同機構では、以上のような背景も踏まえ、中小企業のセキュリティ対策に不可欠な、システムの異常監視、緊急時の対応支援、簡易サイバー保険、相談窓口といったサービスをワンパッケージで安価に提供することを要件としてまとめた「サイバーセキュリティお助け隊サービス基準」を策定し、同基準を満たす民間のサービスを「サイバーセキュリティお助け隊サービス」として登録・公表(2022 年3月31 日現在12 サービス)することで、これらのサービスの普及を促進し、幅広い中小企業において無理なくサイバーセキュリティ対策を導入・運用できるよう支援している。

(出典)経済産業省 2022年版ものづくり白書
 ・https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/index.html

(つづく)Y.H