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■ものづくり人材を育む教育基盤
(小・中・高等学校の特色ある取組)
我が国の競争力を支えているものづくりの次代を担う人材を育成するためには、ものづくりに関する教育を充実させることが重要である。学習指導要領においては、小学校の「理科」「図画工作」「家庭」、中学校の「理科」「美術」「技術・家庭」、高等学校の「芸術」の工芸や「家庭」など関係する教科を中心に、それぞれの教科の特質を踏まえ、ものづくりに関する教育を行うこととしている。例えば、小学校の「図画工作」では、造形遊びをする活動や絵や立体、工作に表す活動、鑑賞の活動を通して、生活や社会の中の形や色などと豊かに関わる資質・能力を育成することとしている。その際、技能の習得に当たっては、手や体全体の感覚などを働かせ、材料や用具を使い、表し方などを工夫して、創造的に作ったり表したりすることができるようにすることとしている。
中学校の「理科」では、原理や法則の理解を深めるためのものづくりなど、科学的な体験を重視している。中学校の「技術・家庭(技術分野)」では、技術が生活の向上や産業の継承と発展などに貢献していること、緻密なものづくりの技などが我が国の伝統や文化を支えてきたことに気付かせることなどを明記するとともに、ものづくりなどの技術に関する実践的・体験的な活動を通して、技術によってよりよい生活や持続可能な社会を構築する資質・能力を育成することとている。また、高等学校の専門教科「工業」では、安全・安心な社会の構築、職業人としての倫理観、環境保全やエネルギーの有効な活用、産業のグローバル競争の激化、情報技術の技術革新の開発が加速化することなどを踏まえ、ものづくりを通して、地域や社会の健全で持続的な発展を担う職業人を育成するため、教科目標に「ものづくり」を明記するとともに、実践的・体験的な学習活動を通じた資質・能力の育成を一層重視するなどの教育内容の充実を図っている。
事例1
(地域の材料を活用してものづくりにチャレンジ)
氷見市立海峰小学校では、自然豊かな環境に恵まれた中、「やさしく つよく かしこい子供の育成」を目指し、全校66 名の児童が学んでいる。図画工作科においては、ものや人との関わりを大切にし、創造的に表すことを重視して造形活動に取り組んでいる。
第3学年では、子供たちがのこぎりや金づちという初めての用具を使って、木材を切ったりつないだりして生き物をつくった。「子供たちが大好きな学校の築山に住んでいそうな生き物を考え、もっと楽しい築山にしよう」という設定で、子供たちは想像力を働かせてどんな生き物がいるか考え、表し方を様々に工夫して表した。木の端材は地域の大工さんから、木の皮は総合的な学習の時間で学んでいるリンゴ栽培農家の方からいただくなど、地域の特色を生かし、材料のよさを感じながら活動した。授業の導入では木材に触れる時間を十分に取り、子供たちがそのよさを感じ取ることができるようにし、友達と学び合いながら、1人1人が思いのこもった作品をつくりあげた。本活動を通して、子供たちは、楽しみながら用具を正しく扱う技能を身に付け、作品をつくりだす喜びを味わい、「ものづくり」の楽しさを実感することができた。
事例2
(みんなの役に立つものづくり
宇都宮市立晃陽中学校の特別支援学級の3年生は、技術・家庭科の時間などを使って「みんなの役に立つものづくり」に取り組んでいる。昨年度からは「コロナ対策用消毒液のポンプは大勢の人が触るので、みんな嫌だなあと思っている」という意見を踏まえて、「足踏み式の消毒液スタンド」を製作している。材料は加工のしやすい木材を使用したが、市販品と同様の強度となるような構造にした。また、ペダルとポンプをつなぐ棒の取り付け位置を移動することで消毒液の噴射量を変更できたり、ハンドレバーを追加することで車いすの人も使えるようにしたりと、より使いやすいものとなるよう工夫している。さらに、自分たちだけでなく、より多くの人に使ってもらえるよう、下級生の協力も得てたくさん作ることにした。製作過程で、苦手な作業を助け合い効率的に作業が進められるよう、いくつかのユニットに分け、それを組み合わせることで完成するように設計し直したり、同じ大きさ・形の部品を正確に多く作ることができるような器具を開発したりした。地域からは木材の寄付をいただいた。その木材を用いてこれまで140 台以上を製作し、地区市民センターや郵便局、保育園など50 カ所以上の施設に寄贈している。
このような活動が認められ、本年度はボランティア活動に取り組む青少年を表彰する「第25 回ボランティア・スピリット・アワード」で奨励賞を受賞した。この活動を通して、生徒たちは、ものづくりが多くの人の役に立つことを実感した。そして、今後も様々な問題をものづくりで解決していきたいと考えている。
事例3
(テクノLAB の躍進の取組について)
岐阜県立岐阜工業高等学校(全日制8学科・在校生徒約1,100 )は、2016 年度から「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)」、2019 年度からは「地域との協働による高等学校教育改革推進事業(プロフェッショナル型)」の指定を受け、岐阜県の人口流出を食い止め、人口流入を期待するために、岐阜県成長・雇用戦略とカリキュラムをリンクさせ、地域資源の積極的な活用と学科横断的な学習から、地域で活躍するテクノロジストを育成する取組を実施している。取組の中で誕生した特徴的な組織が「岐阜工テクノLAB」である。この組織は、全校生徒が参画する活動の母体となり、解決すべき課題の内容に応じて、様々な専門教育を受けるワーキンググループを構成したり、都度タスクフォースを設置するなど、有機的に構築される。卒業生とのコラボレーション等も含めた活動を展開しており、現在は全学科男子44 名及び女子9名の計53 名(2020 年度67 名、2019年度63 名)が活躍している。2019 年度は、本校の所在地である笠松町との共同プロジェクトである、ふるさと納税返礼品のプロジェクションマッピングの提案や実践を通して、地域独自のビジネスモデルを創造し、他地域の人材から見た魅力ある仕事を創成するプロセスを体験することにより、たくましい起業家精神を涵養する取組を実施した。2020 年度以降は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で世の中が大きく様変わりしたが、時代のニーズに即座に対応し、マスク・装具製作の研究、非接触型ものづくり体験教室の開催、オンライン需要の急伸によるアーカイブ技術の展開やスイッチャーなどを用いたオンライン配信技術を実践習得した。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大におけるビジネスモデル開発を重点としたカリキュラム開発も行った。
地域の魅力や現状を理解し、課題解決に向けて、地域資源を余すことなく活用し、専門分野のみならず、様々な分野の知識を学科横断的な取組から知識・技術を習得することで、課題解決力が身についた。さらに、普通教科との横断的な取組や、ICT を活用した活動の拡大化を図り、これまで以上に地域住民、外部の教育機関、自治体や企業との更なる連携を教育課程内外で実施し、社会的な課題を解決し、身につけた技術にさらに磨きをかけるとともに、様々な体験から汎用的な経験値を積み重ね、それぞれのストーリーを完遂できる人材群を育成することを目指している。結びに、生活環境が一変した2年であったが、「岐阜工テクノLAB」をはじめ各学科が有機的なつながりを持ち、様々な技能・技術を身につけている先輩後輩とともに研究を継続実施する中で、無意識に技能を伝承・継承することが習慣化されているシーンが数多く見受けられるようになり、このような取組で自然結合している本校独自のリレーションシップにさらに磨きをかけ、新たな校風を生み出し、生徒1人1人が活躍できる機会を提供できる学校であり続けたい。
(大学の人材育成の現状及び特色ある取組)
ものづくりと関連が深い「工学関係学科」では、2021 年度現在、38 万1,554 人(国立12 万987 人、公立2万3,294 人、私立23 万7,273 人)の学生が在籍している。2020 年度の卒業生8万6,796 人のうち約57%が就職し、約37%が大学院などに進学している。職業別では、ものづくりと関連が深い機械・電気分野を始めとする専門的・技術的職業従事者となる者が約81%を占めており、産業別では、製造業に就職する者が約25%を占めている(表821-1)。また、工学系の大学院においては、職業別では、専門的・技術的職業従事者となる者が、修士課程(博士課程前期を含む)修了者で就職する者では約91%(表821-2)、博士課程修了者で就職する者では約90%を占めている(表821-3)。産業別では、修士課程修了後に就職するもののうち、製造業に就職する者では約55%、博士課程修了後に製造業に就職する者では約33%を占めている。
大学では、その自主性・主体性の下で多様な教育を展開しており、我が国のものづくりを支える高度な技術者などを多数輩出してきたところである。工学分野については、専門の深い知識と同時に幅広い知識・俯瞰的視野を持つ人材育成を推進するため、2018 年6月に学科ごとの縦割り構造の見直しなどを促進するために大学設置基準などを改正したところである。引き続き社会や産業ニーズの変化を捉えながら、工学系教育改革の実施などを通じて、工学系人材の育成を戦略的に推進していくところである。例えば、実際の現場での体験授業やグループ作業での演習、発表やディベート、問題解決型学習など教育内容や方法の改善に関する取組が進められているほか、教員の指導力を向上させるための取組などが進められている。また、工学英語プログラムの実施、海外大学との連携による交流プログラムなど、グローバル化に対応した工学系人材の育成に向けた取組が行われている。
(高等専門学校の人材育成の現状及び特色ある取組)
高等専門学校は、中学校卒業後の早い年齢から、5年一貫の専門的・実践的な技術者教育を特徴とする高等教育機関として、2021 年度現在、57 校(国立51 校、公立3校、私立3校)が設置されており、5万3,662 人(国立4 万8,307 人、公立3,600 人、私立、1,755 人、専攻科生を除く)の学生が在籍している。2020 年度の卒業生、9,710 人のうち約6割が就職しており、近年はAI、ロボティクス、データサイエンスなどにも精通した人材を輩出している。産業別では、製造業に就職する者が約5 割となっており、職業別では、ものづくりと関連が深い機械・電気分野を始めとする専門的・技術的職業従事者となる者が9割を占めている。
高等専門学校は、実験・実習を中心とする体験重視型の教育に特徴がある。具体的な取組としては、産業界や地域との連携による教育プログラムの開発や、長期インターンシップの実施、学生の創意工夫の成果を発揮するための課外活動を実施しているほか、教員の指導力を向上させる取組として、企業からの教員派遣や企業での教員研修などが実施されている。これらの取組を通じて、高等専門学校は社会から高く評価される実践的・創造的なものづくり人材の育成に成功している。文部科学省としても、社会的要請が高く、人材不足が深刻化しているサイバーセキュリティ分野の人材育成など、高等専門学校教育の充実に向けた取組を進めている。また、近年は、工業化による経済発展を進める開発途上国を中心として、高等専門学校教育における15歳という早期からの専門人材育成が高く評価されている。そのため、(独)国立高等専門学校機構において、各国のニーズを踏まえた技術者教育の充実に向けて、教育カリキュラムの開発や教員研修などの支援を進めている。
(高等専門学校における取組)
高等専門学校を対象に、ものづくりを土台とした、様々なコンテストが開催されている。その中で、「全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト」(通称:DCON)は、高等専門学校生が、日頃培った「ものづくりの技術」と、AI(人工知能)分野で特に成果を出す「ディープラーニング」を活用した事業計画を制作し、その事業計画によって生み出される事業性を企業評価額で競うコンテストである。2021 年4月に開催されDCON2021 本選には、書面による1次審査、プロトタイプを作成しての2次審査を通過した10 チームが参加し、審査の結果、福井工業高等専門学校プログラミング研究会が制作した「D-ON(だおん)※」が最優秀賞(優勝相当)を獲得し、起業資金100 万円と、日本ディープラーニング協会若手奨励賞が授与された。このように、本コンテストは起業を志す学生を後押ししている。※ 「全ての老朽化から人の命を守る」をテーマとし、トンネルや橋の点検のために行われる打音検査を低コストで実現するシステム
(出典)経済産業省 2022年版ものづくり白書
・https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/index.html
(つづく)Y.H