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■イノベーションを担う人材
①若手研究者の安定かつ自立した研究の実現科学技術・イノベーションは我が国の成長戦略の重要な柱のひとつであり、我が国が成長を続け、新たな価値を生み出していくためには、博士後期課程学生を含む若手研究者の育成・確保が重要である。そのためには、若手研究者の安定した雇用と流動性の両立を図りながら、自らの自由な発想に基づいた研究に挑戦することができるよう、研究環境を整備していくことが求められている。しかし、近年、我が国における博士後期課程への入学者数は減少傾向にあり、また、大学本務教員に占める40 歳未満の若手の割合も低下しているなど、若手研究者が厳しい状況に置かれている。
文部科学省では、優秀な学生が安心して博士後期課程へ進学し、研究に専念できる環境を整備するため、博士後期課程学生の処遇向上とキャリアパス確保を一体的に実施する大学に対して支援を行う「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」を2021 年度から新たに開始したほか、国立研究開発法人科学技術振興機構を中心に、「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」などの新たな施策にも取り組んでいる。
また、独立行政法人日本学術振興会においても、我が国の学術研究の将来を担う優秀な若手研究者に対して、経済的に不安を感じることなく研究に専念し、研究者としての能力を向上できるよう研究奨励金を支給する「特別研究員事業」などの取組を実施している。
②キャリアパスの多様化
科学技術・イノベーションの推進に向けては、優秀な若手研究者が、社会の多様な場で活躍できるように促していくことが重要であり、多様な職種のキャリアパスの確立を進めることが求められる。文部科学省では、各分野の博士人材などについて、データサイエンスなどを活用しアカデミア・産業界を問わず活躍できるトップクラスのエキスパート人材を育成する研修プログラムの開発を目指す「データ関連人材育成プログラム」を2017 年度から実施している。また、世界トップレベルの研究者育成プログラムを開発し、組織的・戦略的な研究者育成を推進する研究機関に対して支援を行う「世界で活躍できる研究者戦略育成事業」を2019 年度より実施している。なお、国立研究開発法人科学技術振興機構においては、産学官で連携し、研究者や研究支援人材を対象とした求人・求職情報など、当該人材のキャリア開発に資する情報の提供及び活用支援を行うため、「研究人材キャリア情報活用支援事業」を実施しており、「研究人材のキャリア支援ポータルサイト(JREC-IN Portal)」を運営している。
③ 科学技術・イノベーションを担う多様な人材の育成・活躍促進
科学技術・イノベーションの推進のためには、研究者のみならず、その活動を支える多様な人材の育成・活躍促進が重要である。文部科学省では、研究者の研究活動活性化のための環境整備、大学などの研究開発マネジメント強化及び科学技術人材の研究職以外への多様なキャリアパスの確立を図る観点も含め、大学などにおけるリサーチ・アドミニストレーター(URA)等の研究マネジメント人材の活躍促進に向けた取組を実施している。2021 年度からは、URA 等のマネジメント人材に必要とされる知識の体系的な専門研修受講の機会提供や、実務能力を踏まえた客観的な質保証(認定)を行う制度の実施に向けた取組への支援を行っている。
そのほか、国立研究開発法人科学技術振興機構では、我が国の優秀な人材層に、プログラム・マネージャー(PM)という新たなイノベーション創出人材モデルと資金配分機関などで活躍するキャリアパスを提示・構築するために、PM に必要な知識・スキル・経験を実践的に習得する「プログラム・マネージャーの育成・活躍促進プログラム」を実施している。また、科学技術に関する高等の専門的応用能力を持って計画や設計などの業務を行う者に対し、「技術士」の資格を付与する「技術士制度」を設けている。技術士試験は、理工系大学卒業程度の専門的学識などを確認する第一次試験(2021 年度合格者数5,313 名)と技術士になるのに相応しい高等の専門的応用能力を確認する第二次試験(同2,659 名)からなる。2021 年度第二次試験の部門別合格者は表831-7のとおりである。
④次代の科学技術イノベーションを担う人材の育成
次代を担う科学技術人材を育成するため、初等中等教育段階から理数系科目への関心を高め、理数好きの子供たちの裾野を拡大するとともに、その才能を伸ばすため、次のような取組を総合的に推進し、理数系教育の充実を図っている。文部科学省では、先進的な理数系教育を実施する高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定し、国立研究開発法人科学技術振興機構を通じて支援を行うことで、生徒の科学的な探究能力等を培い、将来の国際的な科学技術人材等の育成を図っている。具体的には、大学や研究機関等と連携しながら課題研究の推進、理数系に重点を置いたカリキュラムの開発・実施等を行い、創造性豊かな人材の育成に取り組んでいる。2021 年度は218 校の高等学校等が特色ある取組を進めている。国立研究開発法人科学技術振興機構は、意欲・能力のある高校生を対象とした、国際的な科学技術人材を育成するプログラムの開発・実施を行う大学を「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)」に選定し支援している。合わせて、理数分野で特に意欲や能力を有する小中学生を対象に、その能力の更なる伸長を図るための教育プログラムを提供する大学等を「ジュニアドクター育成塾」に選定し支援している。
また、文部科学省では「サイエンス・カンファレンス」として、大学生・高校生等の自主研究のポータルサイト上での発表、研究者等の講演、高校生等による研究発表、トークセッション、意見交換会等で構成するオンラインイベントを2022 年3月に開催した。
さらに、国立研究開発法人科学技術振興機構では、数学、物理、化学、生物学、情報、地理、地学の国際科学オリンピックや国際学生科学技術フェア(ISEF)注11 などの国際科学技術コンテストの国内大会の開催や、国際大会への日本代表選手の派遣、国際大会の日本開催に対する支援等を行っている。2021 年度は、全国の中学生が都道府県代表のチームで科学の思考力・技能を競う「第9回科学の甲子園ジュニア全国大会」が2021 年12 月3日(金)に各都道府県会場で分散開催され、東京都代表チーム(筑波大学附属駒場中学校・東京都立小石川中等教育学校)が優勝した。同じく全国の高校生等が、学校対抗・チーム制で理科・数学などにおける筆記・実技の総合力を競う「第11 回科学の甲子園全国大会」が2022年3月19 日(土)に各都道府県会場で分散開催され、東京都代表の筑波大学附属駒場高等学校が優勝した。
(量子技術イノベーション人材)
量子科学技術は、ビッグデータの超高速処理を可能とするなど、新たな価値創出の中核となる強みを有する基盤技術であり、海外では、これまでの常識を凌駕し、社会に変革をもたらしうるものとして「第2 次量子革命」と謳われるなど、米欧中を中心として、政府主導で研究開発戦略を策定し、研究開発投資額を増加させるとともに、大手IT 企業の積極的な投資や、ベンチャー企業の設立・資金調達が進められている。このような動向を鑑み、政府は2020 年1月に統合イノベーション戦略推進会議決定した「量子技術イノベーション戦略」において、①生産性革命の実現、②健康・長寿社会の実現、③国及び国民の安全・安心の確保を将来の社会像として掲げ、その実現に向けて、「量子技術イノベーション」を明確に位置づけ、日本の強みを生かし、①重点的な研究開発、②国際協力、③研究開発拠点の形成、④知的財産・国際標準化戦略、⑤優れた人材の育成・確保を進めている。一方、2020 年1月の戦略策定以降、量子コンピュータの研究開発の加速や従来計算システムと量子計算が融合したサービスの発展、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機としたDX 化の進展など、量子技術を取り巻く環境が変化し、量子技術に期待される役割も増大してきたため、「量子技術イノベーション戦略の戦略見直し検討ワーキンググループ」を設置して2021年10 月から、産業競争力強化/社会課題解決等に向けて量子技術を活用すべく戦略の見直しに取り組んでいる。内閣府では、2018 年度から実施している「戦略的イノベ―ション創造プログラム(SIP)第2期」において、①レーザー加工、②光・量子通信、③光電子情報処理と、これらを統合したネットワーク型製造システムの研究開発及び社会実装を推進している。そのうち①におけるフォトニック結晶レーザー(PCSEL)の研究開発では、従来の3分の1の体積という、クラス最小のLiDAR システムの開発に成功するとともに、超小型レーザー加工システムに向けた更なる高輝度・高性能化に取り組んでいる。また、2020 年6月、「官民研究開発投資拡大プログラ(PRISM)」に「量子技術領域」を設置し、官民の研究開発投資の拡大に資する研究開発を支援している。さらに、2019 年度にムーンショット型研究開発制度において「2050 年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」とするムーンショット目標を設定し、挑戦的な研究開発を推進している。
総務省及び国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、計算機では解読不可能な量子暗号技術や単一光子から情報を取り出す量子信号処理に基づく量子通信技術の研究開発に取り組んでいる。また、総務省では、2020 年度から地上系の量子暗号通信距離のさらなる長距離化技術(長距離リンク技術及び中継技術)の研究開発を推進している。さに、地上系で開発が進められている量子暗号技術を衛星通信に導入するため、宇宙空間という制約の多い環境下でも動作可能なシステムの構築、高速移動している人工衛星からの光を地上局で正確に受信できる技術及び超小型衛星にも搭載できる技術の研究開発に取り組んでいる。加えて、2021 年度より地上系及び衛星系ネットワークを統合したグローバル規模の量子暗号通信網構築に向けた研究開発を実施している。
文部科学省では、2018 年度より実施している「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」において、①量子情報処理(主に量子シミュレータ・量子コンピュータ)、②量子計測・センシング、③次世代レーザーを対象とし、プログラムディレクターによるきめ細かな進捗管理によりプロトタイプによる実証を目指す研究開発を行うFlagship プロジェクトや基礎基盤研究開発を推進している。
経済産業省では、2018 年度より開始した「高効率・高速処理を可能とするAI チップ・次世代コンピューティングの技術開発事業」において、社会に広範に存在している「組合せ最適化問題」に特化した量子コンピュータ(量子アニーリングマシン)の当該技術の開発領域を拡大し、量子アニーリングマシンのハードウェアからソフトウェア、アプリケーションに至るまで、一体的な開発を進めており、2019 年度からは新たに、共通ソフトとハードを繋ぐインターフェイス集積回路の開発を開始した。加えて、クラウドコンピューティングの進展などにより課題となっているデータセンタの消費電力抑制に向けて、「超低消費電力型光エレクトロニクスの実装に向けた技術開発事業」において、電子回路と光回路を組み合わせた光エレクトロニクス技術の開発に取り組んだ。
(カーボンニュートラル研究開発人材)
温室効果ガスの大幅な削減と経済成長を両立させるためには、非連続なイノベーションにより、社会実装可能なコストを可能な限り早期に実現することが重要であり、2021 年10 月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」に基づき、2020 年1月に統合イノベーション戦略推進会議において「革新的環境イノベーション戦略」が決定された。2020 年10 月の臨時国会での総理所信表明においても、気候変動問題への対応が国家としての最重要課題のひとつとして位置付けられ、2050 年までのカーボンニュートラルの実現という目標が掲げられた。本目標は2021 年12 月の総理所信表明においても引き続き掲げられており、エネルギー供給のみならず需要側のイノベーションや設備投資など需給両面を一体的に捉えた「クリーンエネルギー戦略」の検討が進められている。また、2020 年12 月には、脱炭素化に向けた革新的技術を着実に社会実装するための「グリーン成長戦略」が策定され、2021 年6月に更なる具体化が行われた。環境エネルギー分野における技術革新を支えるため、従来の延長線上にはない技術の創出などが必要となっている。カーボンニュートラルを達成するためには、デジタル化や電化を進めていくことが必要不可欠であり、半導体・情報通信産業は、グリーンとデジタルを両立させるための鍵であるため、文部科学省においては、超省エネ・高性能なパワーエレクトロニクス機器等の実用化に向けた一体的な研究開発を推進するとともに、次世代の半導体集積回路創生に向けた新たな切り口による研究開発と将来の半導体産業を牽引する人材育成の中核となるアカデミア拠点の形成を進めていく。このほか、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は、温室効果ガス削減に大きな可能性を有し、かつ従来技術の延長線上にない革新的技術の研究開発を競争的環境下で推進している。例えば、2019 年のノーベル化学賞を受賞したリチウムイオン蓄電池の発明に代表される、我が国が強みを有する蓄電池分野については、現在の蓄電池を大幅に上回る性能を備える次世代蓄電池技術に関する基礎から実用化まで一貫した研究開発を推進している。
さらに、これら環境・エネルギー分野における研究開発を技術確立に向けて力強く推進するため、世界の叡智を幅広く結集すべく、2020 年1月に国立研究開発法人産業総合技術研究所内にゼロエミッション国際共同研究センターを設立したところ。研究センター長として、2019 年にノーベル化学賞を受賞された吉野彰博士が就任し、欧米等の研究機関との国際連携を実施していく。
事例:アントレプレナーシップ醸成の取組事例 - Tongaliプロジェクト-
文部科学省では、我が国全体のアントレプレナーシップ醸成をより一層促進するとともに、我が国のベンチャー創出力の強化に資することを目的として、「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)」を2017 年度から実施しており、複数大学からなるコンソーシアムに対し、アントレプレナー育成に係る高度なプログラム開発等、エコシステム構築を支援している。例として、Tokai-EDGE(Tongali)プロジェクトでは、名古屋大学、名古屋工業大学、岐阜大学、三重大学、豊橋技術科学大学が、それぞれの得意分野や特徴的な取組を活かし、東海地区の大学生等を対象としたアントレプレナーシップ教育のプログラムを実施している。名古屋工業大学では、2016 年4月、「創造工学教育課程」が誕生し、長きにわたり地域産業と向き合ってきた「ものづくり精神」を軸に、様々な技術要素を組み合わせ、新しい「価値」を生み出す能力を持つ人材の輩出を目指している。必修科目「イノベーション論」では、新規事業創出に挑むスタートアップ起業家、投資家等を講師に迎え、専門分野横断の学生チームが創意工夫や実際のプロトタイピングを経て新規事業創出に挑戦している。
(出典)経済産業省 2022年版ものづくり白書
・https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/index.html
(つづく)Y.H