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■各国のウクライナ侵略への対応

我が国を含めたG7を始めとする国際社会は、ロシアに対する制裁を強めている。具体的には、IMF、世界銀行、欧州復興開発銀行を含む主要な多国間金融機関からのロシアへの融資の防止、デジタル資産などを用いたロシアによる制裁回避への対応、ロシア中央銀行との取引制限、プーチン大統領を含むロシア政府関係者やロシアの財閥であるオリガルヒ等に対する資産凍結等の制裁、ロシアの特定金融機関及びそれらの子会社に対する保有資産の凍結、SWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシアの特定銀行の排除、ロシア政府による新たなソブリン債の国内発行・流通等の禁止、ロシアへの新規投資の禁止等の金融措置や、WTO協定に基づく最恵国待遇の撤回、贅沢品の輸出禁止、ロシアの軍事関連団体に対する輸出禁止、国際的な合意に基づく規制リスト品目や半導体など汎用品・先端的な物品のロシア向け輸出禁止、ロシア向け石油精製用の装置等の輸出に関する制裁、石炭・石油輸入のフェーズアウトや禁止を含むエネルギー分野でのロシアへの依存低減等の貿易措置等といった、ロシアを国際金融システムや世界経済から隔離させるための対応を講じてきている。その他、各国政府において、入国ビザの発給停止といった措置が講じられていることに加え、民間企業も、ロシア事業の停止やロシアからの撤退等の行動を示している。

(ロシアとウクライナの世界経済とのつながり)
各国におけるロシアとウクライナとのつながりを見ると、金融面での直接的なつながりは大きくはない。具体的には、国際決済銀行(BIS)の国際与信統計によると、ロシアとウクライナに対する金融機関の国際与信残高は、欧州諸国や米国、そして我が国の割合が比較的大きいものの、各国における国際与信残高総額に占めるロシアとウクライナの割合は大きくはない。また、ロシアに対する国際与信残高の推移を見ると、特に2014年以降において残高の減少が顕著となっており、足下の残高(2021年12月末:1,052億ドル)を2013年第4四半期末(2,250億ドル)に比較すると-53.2%と半減している。そうした推移は、各国が、2014年のロシアによるクリミア「併合」以降に、ロシアに対するエクスポージャーを減らしており、金融リスクが管理可能な程度であることが示唆されている。一方で、OECDの報告書で議論されているとおり、ロシアとウクライナが世界経済に与える影響が大きいと見られるのは、貿易を通じた影響である。ロシアとウクライナの貿易動向を概観すると、WTOの集計によれば、両国は、世界の財貿易額に占める規模自体はさほど大きくはない。2021年の財輸出においては、ロシアは4,940億ドルで世界第13位(全体の2.2%)、ウクライナは681億ドルで世界第48位(全体の0.3%)である。また、2021年の財輸入額においては、ロシアは3,039億ドルで世界第22位(全体の1.3%)、ウクライナは725億ドルで世界第49位である(全体の0.3%)。

2021年のロシアの主要な輸出相手国は、中国(全体の14.0%)、オランダ(同8.6%)ドイツ(同6.0%)、トルコ(同5.4%)、ベラルーシ(同4.7%)であり、トルコやベラルーシにおいては、ロシアからの輸入割合が比較的高く、ロシアの主要な輸入相手国は、中国(同24.8%)、ドイツ(同9.3%)、米国(同5.7%)、ベラルーシ(同5.3%)、韓国(同4.4%)であり、ベラルーシの輸出に占めるロシアの割合が比較的高くなっている。また、2021年のウクライナの主要な輸出相手国は、中国(全体の11.7%)、ポーランド(同7.7%)、トルコ(同6.1%)、イタリア(同5.1%)、ロシア(同4.2%)であり、主要な輸入相手国は、中国(全体の15.2%)、ドイツ(同8.5%)、ロシア(同8.5%)、ポーランド(6.9%)、ベラルーシ(同6.7%)であり、主要な輸出相手国にとって、ウクライナは大きな輸入元ではなく、主要な輸入相手国にとって、ウクライナは大きな輸出市場とはなっていない。

ロシアとウクライナの輸出品目の詳細を見ると、ロシアの輸出品目では、石油・同製品、石炭、石油ガスといったエネルギー関連が上位品目に多く、ウクライナの輸出品目では、植物性油脂、トウモロコシ、小麦等といった食料関連が上位品目に多い。両国の主要な輸出品目は、それらを輸入に依存する国において、国民生活に影響を及ぼす重要な品目であるといえる。ロシアの主要な輸出品目であるエネルギー関連品目の2020年の生産動向を概観すると、原油については、ロシアは日量1,067万バレルで、世界シェアの12.1%を占める世界第3位の生産国である。石炭については、ロシアは4.0億トンで、世界シェアの5.2%を占める世界第6位の生産国である。天然ガスについては、ロシアは6,385億立方メートルで、世界シェアの16.6%を占める世界第2位の生産国である。
食料関連については、小麦において、ロシアは世界第1位、ウクライナは世界第5位の輸出国、トウモロコシにおいて、ウクライナは世界第4位の輸出国、ひまわり油(2019年)について、ウクライナは世界第1位、ロシアは世界第2位、そして肥料についてロシアは世界第1位の輸出国である。

上述のとおり、ロシアとウクライナは貿易規模としては大きくないものの、特定の品目については、世界の主要な供給国である。そのようなロシアとウクライナの主要な輸出品目を踏まえて、ロシアからのエネルギー関連の輸出額が多い上位5か国について、それぞれの国の輸入調達動向を見ると、ドイツといった欧州の中でも経済規模の大きい国において、ロシアからの輸入割合が大きい品目があり、ロシアによるウクライナ侵略によって、エネルギーの供給不安が高まった場合に、経済活動への影響が大きいと考えられる。また、特徴的な動向として、例えばドイツが石油及び歴青油(原油に限る)をオランダから輸入しており、オランダにおいても同品目の輸入割合に占めるロシアの割合が高いことから示唆されるように、調達したエネルギー関連品目を欧州各国同士で融通している可能性が挙げられる。

ロシアが世界でも主要な天然ガスの埋蔵量保有国並びに生産国であることを踏まえて、同国の天然ガスの貿易動向を見ていく。天然ガスの輸送では、特に海上輸送では体積を圧縮するために液化した状態での輸送が一般的であり、気体の状態では国家間を繋いだパイプライン輸送が一般的である。それを踏まえて、ロシアの液化天然ガスとガス状天然ガスの輸出を見ると、2021年の液化天然ガスの輸出は6,608万立方メートルであるのに対し、ガス状天然ガスの輸出は2,044億立方メートルとほぼ100%である。ロシアの輸出側から見れば、輸出のほとんどを占めるガス状天然ガスの輸出先は、ドイツ、イタリア、フランスといった欧州主要国が上位となっている。

ロシアの天然ガス輸出のほとんどがガス状天然ガスであることを踏まえて、パイプラインを通した各国のロシアからの天然ガスの輸入動向を見ていく。上述のエネルギー関連品目(石油、その調整品、石炭)の貿易動向を見る上では、貿易品目の国際分類であるHSコードを用いてきたが、ガス状天然ガスについて、ドイツの輸入量は、欧州統計局(ユーロスタット)において2007年を最後に数値が公表されていない。このため、エネルギー関連品目の統計として一般的に用いられる British Petroleum社(BP社)が公表している統計を見ると、ドイツは2020年に1,020億立方メートルの天然ガスをパイプラン経由で輸入しており、その内の563億立方メートルと55.2%もの割合をロシアからの輸入に依存している。オランダやカザフスタンといったパイプラインを経由した天然ガスの輸出国も含まれているものの、ドイツの他にも、ロシア側の輸出統計が示していたとおり、トルコやイタリア等といった国のロシアへの天然ガスの輸入依存度が高い。ロシアによるウクライナ侵略に対して、欧州連合は2022年8月からロシアからの石炭の輸入を禁止する措置を公表しており、更に同年内にロシア産原油(パイプライン経由を除く)を禁輸する措置を公表している。また、リトアニアがロシアからの天然ガスの輸入を2022年4月2日に停止しており、EU組織としての行動ではなくとも、ロシアへの天然ガスの依存を低下させることで制裁を強めている国が出ており、EU組織としてロシアからの天然ガスの輸入を禁止すべきだとの見方の根強さを示唆している。また、ロシア側としても、同国が定める「非友好国」に対して、天然ガスの輸入代金をルーブル払いにしなければ、天然ガスの供給を停止するとの大統領令に署名しており、供給側要因のリスクも高まっている。実際に、ポーランドとブルガリアが、天然ガス代金のルーブル払いを拒否し、ロシア側によって、供給を停止されるという事態も発生している。

今後の情勢次第では、特にロシアへのエネルギー依存が高い国において、供給リスクがあることには留意が必要である。上述したエネルギー関連品目以外で、ロシアとウクライナの輸出の共通点として挙げられるのは、食料関連が主要な品目となっていることである。以下に議論するとおり、特に中東やアフリカ諸国を中心とした発展途上国において両国への輸入依存度が高くなっている。具体的には、小麦、トウモロコシ、ひまわり油、そして肥料がそうした品目に当たる。
小麦については、ロシアとウクライナのそれぞれの主要な輸出品目であり、更に両国共に世界的に見ても主要な輸出国である(国連統計によれば2020年においてロシアは第1位、ウクライナは第5位)。両国からの小麦の輸入額が、各国の小麦の輸入総額においてどの程度の割合を占めているのかを調べれば主要な輸出国であることがわかる。国によって入手可能な統計の時期が異なるため単純な比較はできないものの、両国からの小麦の輸入割合は発展途上国で高いことが示されている。ロシアによるウクライナ侵略によって、小麦の収穫と作付ができなくなっており、またウクライナ南岸部の港が閉鎖されたことによって、小麦の出荷を含めた物流の混乱も引き起こされている。

ウクライナは、トウモロコシについても、同品目が同国の主要な輸出品目であると共に、世界でも主要な輸出国である(国連統計によれば2020年において第4位)。ロシアについても、ウクライナ程ではないものの、同品目においては世界で主要な輸出国である(国連統計によれば2020年において第11位)。発展途上国や欧州において両国の割合が高い。また、ウクライナの主要な輸出品目であるひまわり油について、同国は世界でも主要な輸出国であり(国連統計によれば2020年において第1位)、またロシアも同様である(同2位)。各国のひまわり油輸入におけるウクライナとロシアの割合を確認するとわかる。これを見ると、小麦の場合と同様に、発展途上国において両国の割合が高いことが示されている。
ロシアのウクライナ侵略による食料価格の高騰は、他の食料油の供給にも影響しており、インドネシアでは、同国内での価格高騰や品薄状態への対応として、2022年4月28日からパーム油と同原材料の輸出禁止が措置され、同年5月23日に同措置の撤廃が発表されている。インドネシアはパーム油の主要な輸出国であり(2021年において世界第1位)、そうした供給制限の措置によって、更に価格が高騰するという影響が懸念される。

肥料については、HSコードを4桁で見るとロシアの主要な輸出品目とは見られないものの、同国は世界で主要な輸出国であり(国連統計によれば2020年において第1位で、第2位は中国、第3位はカナダ、第4位は米国、第5位はモロッコ)、今回の混乱がロシアからの肥料輸入国での食料生産に与える影響も懸念される。実際に、肥料の主要な材料であるリン、カリウム、尿素の価格動向を見ると、リンについては、関連した肥料はロシアの主要な輸出品目ではなく、鉱石の価格にも特異な変動は見られていない一方で、加工品(リン酸二アンモニウム、過リン酸石灰)の価格はロシアによるウクライナ侵略が開始された直後の2022年3月に急激な価格の上昇が見られている。また、同国の主要な肥料の輸出品目に含まれる塩化カリウムと尿素については、同年2月から3月にかけて急激な価格の上昇が見られており、特に塩化カリウムについては、ロシアによるウクライナ侵略の影響だけではなく、ロシアと共にカリ肥料の主要な輸出国であるベラルーシ(2019年において世界第2位の輸出国)に対して、欧州委員会が同年3月2日に同国からのカリ肥料の禁輸を決定したことで供給が制限されていることも関連していると見られる。
新興国と発展途上国については、こうした肥料価格の値上がりによって食料生産のコストが大幅に上昇し、それが国民生活に甚大な影響を及ぼす可能性があることには留意が必要である。2020年の各国の肥料輸入におけるロシアの割合を見ると、特に発展途上国において同国の割合が高いことが示されている。ロシアによるウクライナ侵略が、小麦、トウモロコシ、ひまわり油といった食料品目の直接的な輸入だけではなく、肥料の供給リスクといった形で発展途上国の食料危機につながり得る可能性にも留意が必要である。

上述で見てきたエネルギー関連(石油、その調整品、石炭、天然ガス)や食料は、ロシアとウクライナの主要な輸出品目である一方で、両国にとって主要な輸出品目ではなくとも、品目としての希少性によって、世界経済に影響を及ぼし得るものがある。具体的には、リチウムイオン電池を含めた電池の材料等になるニッケル、硬度が高いため航空機の部品等に使用されるチタン、集積回路の製造工程等に必要となる希ガスの一種であるネオンガス、自動車の排気ガスの有害物質の除去に使用されるパラジウムがそのような品目に当たる。

ニッケルは、リチウムイオン電池を含めた電池素材等として使用されるレアメタルである。ニッケル埋蔵量の世界分布を見ると、ロシアには750万メトリックトンの埋蔵量があるとされ、世界全体(9,500万メトリックトン)の内の7.9%を占める世界第4位の保有国である。ニッケル関連の品目について、ロシアからの輸入額が多い国の動向を見ると、ドイツやフランスといった欧州の主要国は、サプライチェーン上のつながりを通して、間接的にロシアとの関係が強いことが示唆されている。具体的には、ニッケルのくずについて、ドイツはニッケル埋蔵量が多いオーストラリアから直接輸入している。他方、ドイツのニッケルのくず輸入相手国として二番目に大きいオランダは、ニッケルの塊の多くをロシアから輸入している。また、フランスについても、ニッケルのくずの輸入相手国はドイツとオランダがそれぞれ第1位と第2位であり、オランダによるロシアからのニッケルの塊の輸入を通じて、間接的にニッケル資源をロシアに依存していることが示唆されている。ニッケルのくずについて、フランスのロシアからの輸入割合は1.0%(第12位)、ドイツのロシアからの輸入割合は2.6%(第10位)と低くなっているが、オランダのロシアからのニッケルの塊の輸入によって、サプライチェーン上のつながりが生じている。貿易統計で示唆される以上にロシアへの依存度が高い可能性があることには留意する必要がある。

チタンは、硬度が高い性質を利用して航空機部品等に使用されるレアメタルである。チタン埋蔵量の世界分布を見ると、ウクライナは全体の0.8%と埋蔵資源の保有国の中での規模は大きくはないが、加工品であるスポンジチタン等の生産はロシアが世界全体の12.9%を占める第3位の主要国である。チタン及びその製品について、ロシアからの輸入額が多い国の動向を見ると、上位5か国全てについて、それぞれの国のロシアからの輸入割合が上位3位以内に入っており、ロシアへの依存度の高さが目立っている。また、中国、英国、そしてフランスについては、輸入相手国の第1位が米国であり、米国のチタンの主な輸入相手国がロシアである。これらを踏まえると、上述のニッケルの場合と同様に、米国のロシアからの輸入を通して、中国、英国、そしてフランスにはロシアとのサプライチェーン上のつながりが生じていることが示唆されている。チタンについても、貿易統計から直接的に見られるよりも、ロシアからの輸入依存度が高い可能性が示唆されている。

また、ウクライナは、集積回路の製造工程に使用される希ガスの一種であるネオンガスの主要な生産国であることが知られている。貿易品目の国際分類であるHSコードにおいて、ネオンガスが含まれるHS280429(アルゴン以外の希ガス)を見ると、ウクライナの主要な輸出先は、韓国や台湾といった世界で最も微細な半導体の製造技術を有する国である。それらの国において、ウクライナからの輸入割合は必ずしも高くはないが、同HSコードではネオンガス以外の希ガスが含まれていることが背景にあると考えられる。半導体製造といった世界経済への影響が重要である産業が、ロシアの侵略により混乱しているウクライナに依存していることには留意する必要がある。

パラジウムは自動車の排気ガスに含まれる有害物質を除去する触媒等の用途があり、環境への配慮意識が高まっている中で重要な役割を担う金属である。パラジウムについては、2021年の世界生産の動向を示したものである。地域的に埋蔵量と生産量が限定されているとの現状があり、ロシアは全体の37.0%を占める世界第2位のパラジウムの生産国である。同第1位である南アフリカを含めると、ロシアと同国がパラジウムの世界生産の77.0%と大半を占めるという供給側の要因があり、代替調達先が限られていることからも、ロシアによるウクライナへの侵略がもたらす混乱が産業界に与える影響が懸念される。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html