ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■世界的な供給制約の高まり

2020年から続く新型コロナウイルスの感染拡大は、サプライチェーンの上流から下流にわたって大きな影響を及ぼし、今もなおその影響は継続している。ロックダウン等の感染拡大防止のための行動制限、渡航・移動制限といった対策に起因する経済の停滞や人手不足による影響のみならず、大規模な財政措置による急激な需要喚起もあいまって、物流の遅延や価格の高騰を招いている。物流の混乱は、資源・エネルギー価格の高騰を招き、高騰した資源・エネルギー価格は物流価格の高騰を招くという負の連鎖が発生している。また、世界各地での豪雨、ハリケーン、寒波、干ばつ等の異常気象によって資源・食料等の不足や不作が起き、食料価格の上昇も見られる。特に、半導体や自動車部品は、一部の国・地域に偏って製造されていたものもあり、異常気象等の被害がボトルネックとなり、半導体や自動車といった製品全体のサプライチェーンが停滞する事態を招き、大幅な供給遅延や減産を余儀なくされた。

2022年2月には、ロシアによるウクライナ侵略が開始され、サプライチェーンの混乱を悪化させた上、石油や天然ガス等のエネルギー、小麦やとうもろこし等の穀物、希ガスや鉱物資源等の原材料など、ロシアやウクライナが豊富に生産・輸出してきた財について、世界的な需給バランスの乱れや供給への不安から価格高騰を招いている。このように、様々な要因が招く供給制約の影響を受けて、資源やエネルギー等を海外に多く依存する国々では交易条件の悪化もあいまって、広範にわたる財・サービスの需給ひっ迫やインフレの高騰を引き起こしている。ここでは、新型コロナウイルスの感染拡大や気候変動が招く異常気象、ロシアによるウクライナ侵略といった世界規模の不確実性の高まりに伴うサプライチェーンや労働市場、資源・エネルギー供給において多層的に発生している種々の供給制約の実態を見ていく。

(世界的な物品輸送の目詰まり)
物品輸送は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴う行動制限や渡航・移動制限といった対策や、急激な財政措置による需要喚起によって需給がひっ迫し国際物流コストの高騰を招いた。JETROが2021年11月4日から12月7日にかけて実施した調査3によると、日本企業がサプライチェーンの見直しを行う理由として、「需要の増加」、「国内外における移動制限、操業規制」、「原料、部品不足」などを挙げる中で、「国際輸送の混乱・輸送コストの高騰」は、見直しを行う最大の理由となっており、日本企業にとっても大きな課題となっていることが分かる。

(1)海上運輸
我が国において、国外との物品輸送については、重量ベースで99.6%の貨物輸送を海運が担っている。金額ベースでも約7割を海運、約3割を空運が担っており、海運が主要な輸送手段となっている。なお、海運において、金額ベースでその約3分の2は海上コンテナによる輸送となっている。こうした中、海上運賃を見ると、国際的な海上運賃の指標であるバルチック海運指数は、2020年末より上昇し、2021年10月6日には2021年初の4倍超となった後、11月には急落している。その後、2022年は2021年の同等の水準で推移している。一方、コンテナ船の国際的な運賃指数であるフレイトス・バルチック国際コンテナ指数(FBX)のグローバル指数を見ると、2019年には年間を通じて2,000ドル弱の水準で比較的安定していたが、2021年には2019年の5倍超の水準に達し、2022年においても、引き続き10,000ドル弱の高い水準が続いている。今般の物流混乱では、コンテナの需給ひっ迫を背景とした運賃の高騰や物流遅延の影響が継続していることがうかがえる。

コンテナ船の主要航路の運賃を見ると、中国発の航路では、いずれも2021年後半から高止まりの状況にある。また、日本発の航路別運賃を見ると、欧米向け、アジア向けのいずれも価格が大きく上昇しており、特に欧米向けの運賃は、2019年と比べて5倍超の水準で推移している。中国に次いで海運取扱量の多い米国の主要港湾である米国ロサンゼルス港やロングビーチ港では、港湾、倉庫、陸運の労働者不足を受けて、港湾における待機日数が長期化した。港湾におけるコンテナ船の待ち時間は、特に2021年後半に長期化し、ロサンゼルス港では3週間弱、ロングビーチ港では一時4週間弱にまで悪化した。その後、2022年初にはいずれも1週間以内の水準へと改善しているが、これはコンテナ船の待機プロセスの変更や港湾における滞留空コンテナに対する追加課金の導入によるものと考えられる。ロサンゼルス港及びロングビーチ港では、入港に伴う待機プロセスが2021年11月15日に変更され、これまではコンテナ船が港の20海里以内に入ると待機プロセスとされたが、新たなプロセスでは、ロサンゼルス港やロングビーチ港の直前港を出発した時点で待機プロセスとされている。また、72時間以内の着岸予約がないコンテナ船は、港沖合の一定のエリア外で待機しなければならない。こうした待機プロセスの変更に伴い、新たな方式でのコンテナ船滞船数が公表されており、2022年1月9日には109隻が実質的に滞船し、その後も100隻前後で推移していることから、港湾における待機時間は減少したものの、実態として港湾や港湾近郊を含めた海上輸送における混雑が解消されたとは言えない。

また、2022年3月からの上海における新型コロナウイルスの再拡大を受けた都市封鎖の影響により、中国国内における陸運が停滞し、米国向けの海運や空運への影響が顕在化している。米国では、需要喚起策の効果もあり、財輸入の需要が急増したが、入港するコンテナ船が増加する一方で、空コンテナが港湾に滞留する状況が続き、世界的なコンテナ不足に拍車をかけている。財輸入が急増している状況において、コンテナを満杯状態にして輸出をすることは難しくなっている。なお、コンテナ船の輸出入におけるコンテナの使用率についてはコンテナの可用性インデックスであるCAx(Container Availability Index)から確認できる。米国最大のロサンゼルス港と中国最大の上海港についてCAxを見ると、ロサンゼルス港では2021年の第13週に0.9を超え高止まりとなっており、相対的に輸入時に満杯のコンテナが多いことが確認できる。一方、上海港については0.5から0.6前後で推移していることから、コンテナの輸出入に関してバランスが取れた状態と言える。

これまでに見てきた港湾におけるコンテナ輸送の不均衡について、往復の輸送のいずれかで輸送容量が全て利用されないことは「バックホール問題」として知られている。バックホール問題が生じる例として、関税や輸入割当といった貿易政策の議論が挙げられる。関税や輸入割当といった輸入制限の政策によって自国の輸入量が減少する際、バックホール問題が生じないようにするためには、輸送企業は輸出量を減少させる必要がある。そのため、輸入量が減少することによって自国向けに生産を行う企業には利益をもたらし得る。一方で、輸出量の減少は、外国向けに生産を行う企業には損失をもたらす可能性も併せ持っている。Anderson J. E. and E. van Wincoop(2004)は、海上輸送のコストに関して、従価換算した割合は、関税や非関税障壁のコストは7.7%である一方、輸送費のコストは10.7%と輸送費がもたらす影響の方が大きいことを示している。これらを踏まえると、平時においても輸送費が与える影響が関税や非関税障壁と比べても大きいことから、サプライチェーンの目詰まりによって輸送費の高騰する昨今の状況下における影響は殊更大きいと言える。これを輸送費の高騰について照らすと、コンテナ輸送の不均衡がロサンゼルス港等の混雑や倉庫能力のひっ迫を招き、さらに、陸運の供給能力などのひっ迫もあいまって、海上輸送運賃の高騰を招いている。これに対して、バックホール問題が生じないような配送とするためには、港湾の処理能力や輸出量に合わせて好調な財輸入を大きく制限する必要がある。これにより、需給がひっ迫し、インフレ圧力となる可能性が生じてしまう。このように、輸送運賃は、貿易政策上の課題よりも影響が大きく、これを平時の状態へと戻していくことは、バックホール問題の観点からも重要である。このためには、早期の港湾混雑の解消や倉庫能力、陸運の供給能力といったボトルネックの解消が必要となる。

(2)航空運輸
これまで見てきた海上輸送における需給ひっ迫を受けて、海上輸送を空運によって代替する動きもあり、国際貨物量は増加し、空運運賃も高騰している。JETROが2022年2月に発表した調査によると、国際物流の混乱による主な影響として、前述したコンテナ船に関する回答のほか、「航空貨物の価格高騰」や「航空貨物のスペース確保が困難」といった空運に関する懸念も見られる。また、海上輸送の混乱や運賃高騰に対する対応として、「特段の対応をとっていない」、「わからない」との回答に次いで、「輸送モードの変更(海上から航空へ、航空から小口海上へ)」が挙げられている。

こうした航空運輸の需要の高まりを踏まえて、航空運賃の状況を見ると、上海発の航空運賃は、中国が世界に先駆けて新型コロナウイルス感染拡大が一時収束し、経済が急速に回復したことを受けて、需給がひっ迫したことにより、2020年5月をピークに高騰していることが確認できる。その後、一時運賃が下落するも、米国では、新型コロナウイルスの感染が拡大する中においても財需要が好調であったことや、海運の需給ひっ迫を受けた輸送モードの変更需要の増加、年末商戦を背景として、2021年末の北米着の運賃は再度高騰し、2020年5月におけるピークを越えている。また、フランクフルト発北米着の航空運賃については2020年に急騰して以来高止まりとなっており、年末商戦に向けて価格上昇がさらに加速した。2022年にはロシアによるウクライナ侵略の影響を受けて、減便による需給ひっ迫、ロシア上空を回避する迂回ルートへの変更に伴う燃料費の増加や、燃料価格の高騰もあいまって、航空運賃は高騰している。

(3)陸上運輸
国外との貿易にあたっては海運、空運に加えて、空港や港湾からの国内輸送や国をまたいだ長距離トラックによる輸送も必要となる。米国の陸上運輸を見ると、港湾の荷役労働者や倉庫業、内陸輸送を担うトラック運転手が不足しており、また、中古トラックの価格高騰もあいまって、港湾に到着したコンテナ船の荷物が国内物流の目詰まりで運送されない事態も発生している。ATA(米国トラック協会)によると、2021年時点で約8万人の運転手が不足しており、2030年には16万人が不足すると試算している。

特に、コロナ禍では貨物需要の増加や早期退職、免許学校の閉鎖等に加えて、カナダにおいても、新型コロナウイルスのワクチン接種の義務化に対するトラック運転手によるデモ活動が広がり、物流の供給ひっ迫に拍車をかけている。米国の輸送部門における離職者数を見ると、一時解雇者数がコロナショック時に急増した後、減少傾向にある一方で、自主退職者は2019年平均の約70万人と比べて2022年3月には102万人と約1.5倍の水準となっている。トラック運転手不足を解消するために、賃金上昇の動きが見られるものの、依然として一般民間企業の賃金水準に比べて低いほか、心身への負担の大きさ、職業への偏見、大学進学を目指す若者の増加などから成り手不足が続き、需給ひっ迫の状況が続いている。もっとも、こうした賃上げ分は輸送費を押し上げる一因となっており、エネルギー価格の大幅な上昇とあいまって、トラック輸送に関する生産者物価指数は2022年4月時点で前年同月比+29.8%、長距離トラックについては+34.7%と物流コストを押し上げている。

こうした状況において、各国政府は物流混乱の解消に向けた対策を講じている。例えば、我が国では、国土交通省が、世界的な国際海上コンテナ輸送力及び空コンテナの不足を受けて、日本発着の国際海上コンテナ輸送の需給のひっ迫状況の改善に向け、2021年2月5日付で、荷主、船社及び物流事業者等の関係団体に対し、コンテナの効率的な利用や輸送スペースの確保等に係る協力要請文書を発出した。2021年4月からは、横浜港においてコンテナターミナルを複数の船社で利用するなど、運用を柔軟化している。さらに、2021年4月、2022年1月には、経済産業省、国土交通省、農林水産省が合同で「コンテナ不足問題に関する連携の促進に向けた関係者による情報共有会合」を実施している。同会合では、主にコンテナ船の物流混乱に焦点を当て、コンテナ不足の主な要因について、「①新型コロナウイルスの感染拡大以前から、新造コンテナの生産量が低下」、「②アジア発北米向け貨物の急増」、「③港湾作業員不足によるコンテナ処理能力低下」、「④欧米で空コンテナが滞留し、アジアにコンテナが回送されない」と分析している。

米国では、物流混乱について、特に海運に関して、港の運営時間を24時間週7日制とする、港湾におけるコンテナの積み上げ制限を緩和する、港湾におけるコンテナ船の停泊やコンテナの保管に対してペナルティを設ける、港湾において海軍が利用するふ頭やコンテナ保管場所の提供を受けるなどの措置により、混雑の解消に向けた取組が行われている。今のところ物流全体としては一部改善の兆しが見られるものの、市場で期待されていた想定より解消は遅れている。今後の見通しについて、JETROの2月調査によると、混雑・輸送費高騰等の解消時期の見通しについて、2022年中までに解消見通しが立っているのは全体の27.7%であり、「2023年以降」の回答が27.3%、「見通しが立たない」が15.7%と、物流混乱の影響が長期化することが見込まれる。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html