ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■世界的な供給制約の高まり(その3)

(食料)
食料の価格上昇は、家計に直接影響を与えるほか、家畜の飼料や加工品の原材料といった投入財のコストを上昇させるため、エネルギー価格や肥料のコスト等とあいまって、食料品やサービスの価格上昇を招く恐れがある。食料価格全体のすう勢について、FAOが実質食料価格指数として示しており、実質食料価格指数は、2020年5月以降、上昇傾向が続いていることが確認できる。背景は、複合的な要因が考えられるが、北米による高温乾燥や南米における干ばつ、といった天候不順によるものが主因で、生産資材の高騰の影響や、世界的な人口増加に伴う食料需要の増加なども考えられる。また、ロシアによるウクライナ侵略の影響によって、世界的にも多くの穀物等を生産し、世界へ輸出しているロシアやウクライナを含むサプライチェーンが一部途絶することで、国際価格の高騰を招いている。

次に品目別の価格指数について見ていく。品目別の価格動向を見ると、植物油や穀物が全体を押し上げていることが確認できる。植物油に含まれるパーム油は、世界最大の生産・輸出国であるインドネシアにおける供給量が減少したことを背景として、植物油の価格指数を押し上げた。穀物については、ロシアは小麦が輸出額世界1位、大麦は世界2位、トウモロコシはウクライナの輸出額が世界4位と、両国が世界の穀物輸出額に占める割合が大きく、ロシアによるウクライナ侵略の影響により価格高騰が生じている。

日本は、小麦、大麦については、2021年には米国、オーストラリア、カナダの3か国から99%以上を輸入しており、トウモロコシについては、米国とブラジルの2か国から80%以上を輸入している。このため、我が国には、価格高騰の直接的な影響は少ないものの、世界全体での供給量が減少し、国際的な穀物市場のバランスが変化することによって、価格高騰の影響が波及してくる可能性がある。また、食料は、生産資材の価格上昇の影響も受けている。農作物の生育に必要な肥料、家畜の飼育に必要な飼料、家畜小屋や園芸施設の温度管理に必要なエネルギー、ハウスやトンネル等に用いられる被覆材は、いずれも必要不可欠な生産資材であり、いずれもコロナ禍で価格高騰に見舞われている。J. D. Winne and G. Peersman(2019)は、異常気象が農業生産量や価格に与える影響は、一部の地域や品目に影響を与えるのみならず、世界的に影響を及ぼすと指摘している。先進国では、低所得国に比べて家計支出に占める食料の割合が低いにも関わらず影響が大きい。

気候変動が先進国に与える影響は、これまで考えられていたよりも大きい可能性を示唆している。地球環境と食料との関係については、2022年1月15日に発生したトンガにおける大規模な海底火山の噴火の影響も懸念されている。1991年にフィリピン・ピナツボ火山の噴火が発生した際には噴出物に含まれる多量の二酸化硫黄が成層圏に達し、地上に届く太陽光が弱まった影響により、地球全体の平均気温が約0.5度下がり、日本では噴火の2年後にあたる1993年には平均気温が2~3度下がる記録的な冷夏となり、米の生産量が減少した「平成の米騒動」につながったとされている。一方で、今回のトンガの噴火における二酸化硫黄は、1991年のフィリピンの噴火の2.3%であり、気温低下は限定的と見られている。

(肥料)
肥料は、野菜や穀物の生育に欠かせない存在であり、肥料の需給ひっ迫や価格高騰は、食料生産における不作や質の低下、価格高騰につながる恐れがある。肥料は主にN(窒素)、P(リン酸)、K(カリ)の三要素から構成され、世銀が公表しているコモディティ価格を見ると、上記三要素を含む肥料であるリン酸二アンモニウム、尿素、塩化カリウムについて、リン酸二アンモニウムは、2020年後半から価格が高騰しており、尿素は、2021年から価格が急騰している。塩化カリウムは、比較的価格が安定していたものの、2022年に入り価格が急騰している。価格高騰の背景としては、物流価格や投入財価格の高騰が挙げられる。リン酸二アンモニウムや尿素の製造に必要なアンモニアは、石炭や天然ガス等の化石燃料を原料に用いて製造されており、石炭や天然ガスの価格が高騰したことを受けて価格が高騰している。

アンモニアの用途の約8割は肥料用途であり、残りの約2割が樹脂や合成繊維の製造、ディーゼルエンジンにおける窒素酸化物の還元プロセスに必要な尿素水の製造といった工業用途である。また、近年では、次世代エネルギーである水素のキャリア(輸送媒体)としての用途や、燃焼しても二酸化炭素を排出しないカーボンフリーの燃料としての用途に注目されており、今後さらに需要が高まることが予測されている。アンモニアの生産量は、年間約2億トン(2019年)であり、主要生産国は上位から中国、ロシア、米国、インドとなっており、中国は全体の約1/4、上位4か国中の過半数を占めている。中国では、アンモニアの多くを石炭から製造しており、中国国内における環境問題等への対応に伴う石炭生産量の抑制によって石炭の生産量が減少したことにより、アンモニア生産が減少した。このアンモニアの生産減によって、尿素や尿素水の需給ひっ迫につながり、中国は2021年10月より輸出を制限した。ディーゼルエンジンが排出する窒素酸化物(NOx)について、尿素を加水分解して得られるアンモニアによって、窒素酸化物を水と窒素に還元する性質を利用した尿素SCRシステムを動かすためには、消耗品として「尿素水(Adblue)」が必要となっている。こうした中、韓国は尿素の消費量のうち約6割を中国からの輸入に依存しており、価格高騰や尿素水不足に見舞われた。日本では、尿素の約3割を中国からの輸入に依存していたことから、尿素水の不足が生じたが、国内事業者への最大限の増産を要請や、ベトナム等、中国以外からの輸入を増加させることによって対応している。

(金属・鉱物)
金属・鉱物は、様々な財を生産するに当たっての原材料としての役割が大きく、その価格や需給ひっ迫は、消費財の価格高騰や供給遅延につながるほか、生産財や資本財の製造についても影響が及ぶことから、より広範にサプライチェーン上の影響をもたらす。特に、脱炭素化に向けたエネルギーシフトに関連する財生産に必要な原材料である金属は、中長期的に需要が高まり、価格高騰や需給ひっ迫の影響が長期化するおそれがある。

金属・鉱物の分類として、埋蔵量・産出量が多く、精錬が比較的簡単な鉄、アルミ、銅などの金属はベースメタルと呼ばれている。一方、産出量が少なかったり、抽出が難しかったりするチタンやコバルト、ニッケルといった希少な金属はレアメタルと呼ばれている。さらに、レアメタルの一部である17元素はレアアースと呼ばれ、先端技術を用いた製品には不可欠な素材となっている。この他、金、銀、白金などは貴金属に分類され、資産としての役割やアクセサリー等の原材料となるほか、一部の鉱物は自動車等の触媒などとして用いられている。

金属の種類別の価格動向を見ると、すずは、電子回路の製造に用いられるはんだや、メッキの原料として用いられており、大半のすず鉱石を産出しているマレーシアやインドネシアにおいてロックダウンによる生産停止や、マレーシアにおける溶解炉の操業停止によって供給量が減少し、価格が高騰している。アルミニウムについては、非鉄金属の中でも生産に必要な電力コストが高く、欧州では製錬所の半数以上が減産または一時閉鎖となり、供給減や投入財価格の高騰を受けて、価格が押し上げられている。また、蓄電池の原料となる鉛や、鋼材のメッキ、ダイカストの原料となる亜鉛についても、アルミニウムと同様に電力コストの高さを背景に価格が高騰している。銅は、エネルギートランジションとも関連するが、世界的な脱炭素の潮流の中で、再生可能エネルギーの送電網や自動車の電動化に必要なモータの銅線への需要の高まりから価格が押し上げられている。銅の価格上昇を背景として、原料を銅からアルミニウムへとシフトする動きもみられているが、アルミニウムの価格についても高騰していることから、生産コストが押し上げられている。鉄については、鉄鉱石の価格は一時落ち着いていたが、中国において政府が建設やインフラ部門における景気刺激策を表明したことによって、今後は鋼材需要が増えることが見込まれている。

中長期的な金属価格の動向に関して、IMFは、世界が脱炭素に向けて大きく舵を切ることによって、電気自動車の蓄電池など、エネルギーの貯蔵に必要な、銅、ニッケル、コバルト、リチウムといった金属の需要がかつてなく高まり、価格が高騰する可能性について指摘している。

各金属の価格予測について考察する。仮に排出量実質ゼロシナリオに基づく消費量を満たさなければならない場合、これらの価格は類例のないほど長期にわたって史上最高値に達する可能性がある。2020年の水準と比較して、コバルト、リチウム、ニッケルは数百%、銅は約60%値上がりし、2030年頃にピークに達することが予測されている。銅については、需要の増加がそれほど急激ではないことから、ボトルネックにはならないとされている。また、上述した4種の金属に加え、コンゴ民主共和国がコバルトの生産量が世界全体の約7割、埋蔵量の約5割を占めていることなど、一部の鉱物の産出が一部の国・地域に集中していることから、一部の鉱物産出国・地域にとっては経済成長や財政収支の改善として恩恵を受ける可能性があると指摘している。一方で、こうした重要鉱物の生産を一部の国・地域に依存することは、サプライチェーンにおけるリスク要因となりうるため、エネルギートランジションに当たっては、こうした重要鉱物の需要、生産動向に加えて、地政学リスクを捉えた動向の把握が必要である。

(為替動向・交易条件の変化)
これまでに物流の混乱や人手不足、資源・エネルギー価格の高騰について概観してきたが、サプライチェーン全体の各プロセスにおける動きと関連する為替動向や交易条件について見ていく。為替動向を見ると、足下では円安ドル高の状況が続いており、我が国にとっての資源・エネルギーを含む製品の輸入価格が押し上げられている。2022年4月13日には1ドル126円台となり、約20年ぶりの円安水準となっている。円安の背景としては日米における金利差や、エネルギー価格の高騰を受けて貿易赤字が定着していることなどが考えられる。為替動向や、物流価格や資源・エネルギー価格の上昇を踏まえて、交易条件の変化について見ていく。

交易条件は財の輸出価格を輸入価格で除することにより算出され、輸出価格が輸入価格に比べて高い場合には交易条件は改善し、逆に輸出価格に対して輸入価格が高い場合には交易条件は悪化する。交易条件は、主に各国通貨の為替動向や輸出構造、輸入構造によって動向が異なる。例えば、食料やエネルギーが豊富で自給率が高い国であれば、コモディティ価格に左右されにくく、交易条件の変動は他国と比べて抑えられるが、我が国を含め食料やエネルギーの多くを海外へ依存する国は、コモディティ価格の影響を受けやすく交易条件の変動は大きくなりやすい。国別の交易条件の推移は以下のとおりとなっている。我が国では、資源やエネルギー、食品の海外依存度が高く、輸入価格の上昇による影響が大きいことに加えて、円安の影響もあいまって交易条件の悪化につながっている。中国では、輸入価格上昇に伴って交易条件は悪化していたが、2021年中頃から電気機械等の輸出価格上昇に伴って交易条件が改善しつつある。米国では、輸入に比べて輸出のウェイトが大きい工業製品や燃料、農作物等の輸出価格上昇を受けて、交易条件は改善している。ドイツでは、天然ガスや石炭といったエネルギーを海外に依存する割合が大きく、エネルギー・資源価格の上昇を受けて交易条件が悪化している。イタリアでは、原燃料や農産物について海外に依存する割合が大きく、ユーロ安の影響もあいまって交易条件が悪化している。フランスでは、食料自給率(カロリーベース・2018年)が125%と、100%を超えており、また、エネルギーについても原子力発電の割合が大きいことを背景に、エネルギーの総供給量に占める国内生産比率が高いため、コモディティの値動きの影響を受けにくい。コロナショック時に交易条件が一時改善したものの、他国のように大きく変動はせず、2020年4月以降は悪化している。

(半導体・自動車部品の供給制約)
最終製品の価格高騰や納期遅延として個人消費や企業活動に大きな影響を与えた半導体や自動車部品の供給制約について見ていく。JETROが在ASEAN企業に対して行ったサプライチェーンに関する調査によると、製造業において特に不足している原材料として、半導体や電子部品、樹脂/ナイロンが挙げられている。半導体が不足している背景としては、コロナ禍では巣ごもり需要やテレワーク需要の増加に加え、自動車の電動化シフトやサービス・労働のデジタル化を受けたデータセンターでの需要増等が挙げられる。また、国内外の半導体メーカーや半導体製造装置メーカーにおける工場火災や、米国の寒波による工場閉鎖の影響も需給ひっ迫の一因となっている。

世界的な半導体不足の状況についてリードタイム(発注から納品までにかかる時間)を見ると、コロナ禍前には10週から15週程度で推移していたが、2022年3月現在、2017年以来最長となる26.6週を記録し高止まりの状態となっている。半導体や電子部品に次いで不足している樹脂・ナイロンは、エアバッグやワイヤハーネスなど、多くの自動車部品に多く用いられている。中でも、エアバッグやワイヤハーネスの主な素材であるナイロン66について、原料となるアジポニトリルはコロナ禍前から不足する状況が続いてきた。背景にはアジポニトリルの製造業者が世界で数社と限られている中、2015年に発生した中国の生産工場における爆発事故、2018年における欧州でのストライキや自然災害による工場停止、米国におけるハリケーンによる停電や工場火災が供給不足の原因となっている。こうした中、2021年2月の米国テキサス州における寒波の影響を受けて化学プラントが停電し、生産停止を余儀なくされたことにより、原料不足を招き、複数の関連企業がフォース・マジュール(不可抗力条項)を宣言するに至った。さらに、国内のワイヤハーネス製造企業が多く製造拠点を持つASEANでは、ロックダウンによって生産が抑制、停止し、供給不足を招いてきた。これに、原材料価格の高騰や物流の混乱の影響もあいまって、入荷遅延や価格高騰が引き起こされている。

コロナ禍ではテレワーク需要の急増や、データセンターの能力増強の必要性から半導体の需給ひっ迫を招いてきたが、今後はこうした要因の影響が一服し、半導体市場の拡大は減速する可能性がうかがえる。世界半導体市場統計(WSTS: World Semiconductor Trade Statistics)によると、2020年の世界半導体市場は約4,400億ドルと前年比+6.8%であったが、新型コロナウイルスのワクチン接種の進展に伴う経済活動の再開を受けて、2021年には約5,530億ドルとなり同+25.6%と大幅な拡大が予測されている。一方、2022年は同+8.8%と伸び率が鈍化する予測となっている。半導体関連製品の需要増加が今後も継続する見込みがあることに加えて、半導体市場では、ロシアは自動車の触媒に用いられる白金や、半導体製造に用いるネオンガス等の希ガス、パラジウムといった原材料を多く生産、輸出していたことから、ロシアによるウクライナ侵略を受けて、世界的な供給減への懸念が高まり、サプライチェーン見直しの必要性が高まっている。

こうした状況を踏まえて、各国は半導体産業の成長や経済安全保障に向けて大規模な投資や戦略策定を進めている。我が国では、国内における半導体に関連する原材料の供給確保を進めるほか、半導体や製造装置・素材の生産能力の増強を進めている。半導体産業基盤の強化や人材育成・確保に向けた取組として、TSMCとソニー株式会社、株式会社デンソーが合弁で熊本県にJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)株式会社を設立し、10~20nmプロセスの半導体製造を行うことが予定されている。また、同拠点の設立によって約1,700名の先端技術者の雇用創出が見込まれている。半導体をめぐっては、中長期的な生産体制の強化に向けた投資が進められる一方、工場の新設や増産体制の構築には時間を要することから、ファウンドリーや半導体製造装置メーカー、最終財メーカーによると、半導体不足の解消は2023年、部品によっては2024年や2025年にずれ込むという見通しとなっている。

また、半導体ウエハを製造するメーカーは、2026年までに製造する半導体ウエハについて、新設の工場による増産分を含めて長期契約を済ませており、今後も需給ひっ迫が続く見通しを示している例も存在する。今後、脱炭素に向けた世界的な潮流の中で、前述したような自動車の電動化に加えて、ロボットやAI、5G/6G、IoT、メタバース等様々なデジタル関連技術の活用需要が高まっており、こうした新興技術に必要不可欠な半導体等の製品、部品、素材については今後も需要けん引型の需給ひっ迫が続いていく可能性がうかがえる。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html