ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■中間財貿易と付加価値貿易
(中間財貿易へのシフト)
世界貿易は、国際的な生産分業の展開を反映して、最終財の貿易から中間財主体の貿易へシフトしてきている。近年、中間財へのシフトはスロートレードと言われるように頭打ちの兆候も見られるが、グローバルバリューチェーンの展開が進んでいるアジア域内では機械産業を中心に中間財が高い水準で推移している。アジア主要国を中心に貿易フローと中間財の占めるシェアを見ると、日本・韓国・台湾から中国・ASEANへの輸出は中間財のシェアが高く、域内で生産分業が行われていることを示唆している。一方、中国・ASEANから欧米への輸出は最終財のシェアが高く、組み立てられた最終財が輸出されている様子がうかがわれる。

(付加価値貿易)
このような国際的な生産分業とそれに基づくグローバルバリューチェーンの様子は、通常の貿易統計だけでは実態の把握が困難になってきている。ある財の中には、中間財の集積という形で、諸外国で生産された付加価値成分が含まれているためである。そこで、財の中に含まれる付加価値をその原産国ごとに分けて考察することで貿易動向を整理してみる。そのために、OECDが作成した付加価値貿易統計(OECD TiVA)を利用する。

①日本のグローバルバリューチェーンと前方参加・後方参加
グローバルバリューチェーンへの参加は、その国の立ち位置で二通りのケースがある。
単純なグローバルバリューチェーンを想定した場合、生産工程の上流に位置して他国に中間財を供給する場合が前方参加、下流に位置して自国の生産のために他国からの中間財供給を受ける場合が後方参加となる。例えば、日本から米国への輸出をめぐって、総輸出額とその中の日本の付加価値成分をみてみると、日本にある親会社から中国やASEANに立地する子会社に基幹部品などの中間財を輸出して、現地で組み立てた完成品を米国に輸出する、いわゆる三角貿易のような場合の日本の立ち位置が前方参加となる。中国やASEANから米国への輸出の中には、日本で生産された付加価値成分が含まれており、この額が大きいほど前方参加の度合いが大きいことになる。反対に中国やASEANから中間財を輸入して、日本で組み立てた完成品を米国に輸出する場合が後方参加に当たり、日本の輸出の中には、中国やASEANなどの付加価値成分が含まれることになる。OECD TiVAでは、ある国の総輸出に対する、これら付加価値の比率から、前方参加、後方参加の程度を指標として公表している。日本のグローバルバリューチェーン参加の変化を長期的に見ると、2000年代まで前方参加の程度が緩やかに拡大し、それ以降はほぼ20%台半ばの水準を安定的に推移している。一方、後方参加は、2000年代に入ってから急速に拡大し、OECD TiVAが対象としている1995年から2018年までに約3倍に拡大した。

どちらのタイプの参加形態かによって、生じる課題も異なってくる。例えば、前方参加を巡る問題としては、米中貿易摩擦とそれによる生産拠点の見直しのように、後方参加国とその貿易相手国との関係の変化による影響を受けることが挙げられる。一方、後方参加が近年拡大した背景には、中間財が労働集約的又はそれほど高い技術水準を要求されない汎用品である場合など、国内生産を輸入で代替することで日本における生産をより高付加価値な部門に調整することができるというような効率化に向けた企業の動きが指摘できる。しかし、コロナショックのときのように、何らかの理由で供給網が有効に機能しなくなった場合には、前方参加国からの輸入が途絶し、日本における生産活動が停止するなどの供給混乱の背景ともなり得る。近年はむしろ、後方参加がグローバルバリューチェーンの問題として注目を集めるケースが増えている。

②中国の対米輸出における付加価値
まず、日本が前方参加する場合、例えば、日本が中国に中間財を輸出して、中国が日本の付加価値を含む形で米国に製品を輸出する場合を考える。これは日本に限らず、アジア・欧米主要国の「世界の工場」である中国を介した前方参加の例といえる。付加価値貿易の分析で、よく指摘されるのは、中国の対米輸出額が通常の貿易統計で見た場合と付加価値ベースで見た場合で相違することである。既に見たように中国は日本、韓国、台湾、ASEAN等から中間財を輸入しており、その中間財を利用した完成品の輸出には、これら諸国・地域の付加価値成分が含まれることになる。

例えば中国から米国への輸出における付加価値成分を原産国・地域別に推移を考えてみると、2018年の総輸入の8割強が中国国内で生産された付加価値で、2割弱が中国以外で生産された付加価値で構成されている。中国以外の付加価値の原産国・地域としては、EU、韓国、ASEAN、米国、日本、台湾が挙げられ、さらに豪州、ロシア、サウジアラビア、ブラジルなどの資源国が続いている。原産国・地域の長期的変化を見ると、日本やEU等の付加価値シェアが2000年代中頃まで拡大したものの、それ以降は縮小に転じている。

OECD TiVAが対象としている1995年から2018年までの変化幅を見ると、日本、EUのシェアが低下し、中国国内やアジア域内の韓国、ASEANのシェアが上昇していることが分かる。サウジアラビアなど資源国のシェアも上昇している。日本のシェアが大きく低下した背景としては、当初、日本から基幹部品などの中間財輸入が拡大したが、日本を始め、部品サプライヤーの現地進出や現地地場企業の技術向上等から、次第に中国の現地調達比率が上昇したことなどが関係していると考えられる。また、ASEANのシェアが上昇している背景には、国際生産分業においては、新興国でも技術レベルに見合った工程への参加が可能である点が大きい。中国の付加価値シェアが総じて上昇しているものの、業種別の特徴も見られる。例えば、労働集約的な繊維業においては中国の付加価値シェアが高く、反対に高度な部品を必要とするコンピューター・電気電子産業においては中国のシェアはより低い。後者については、外国からの中間財を比較的多く受け入れているためと考えられる。

③日本の対米輸出における付加価値
ここまで見た中国の輸出は日本の前方参加の例であったが、ここからは、日本の後方参加の例として、日本の対米輸出における付加価値の動きを見てみる。例えば、日本の対米輸出の中に含まれる各国・地域の付加価値をみてみると、日本国内の付加価値のシェアは緩やかに低下していることが分かる。一方、米国及びEUのシェアも上昇しているが、何より中国のシェアが急速に上昇していることが目につく。さらに、ASEANのシェア上昇などアジア域内との結びつきも強まっている。既に見たように、日本のグローバルバリューチェーンへの後方参加が拡大していることが確認できる。そして、このことが、中間財輸入の途絶による日本国内の生産停止という比較的新しい問題に脚光を当てている。

(モノの貿易に対価されたサービスの間接貿易)
ここまで財の輸出を中心に考えてきたが、財の中にはサービス業からの中間投入も活用されていることを見ておく。日本の製造業者の輸出における付加価値をOECD TiVAを利用して生産業種別に見ると、製造業からの付加価値が約2/3を占めるが、農業及び鉱業からは原料となる一次産品として、電気・ガス・水道業からはエネルギーという形で中間投入がされていることが分かる。それに加えて様々なサービス分野で生産された付加価値も含まれている。サービスに属する各業種のシェアの変化を長期的に見ると、「卸小売業」や「運輸業」のシェアが大きいものの、近年は縮小傾向にあり、反対に「その他業務サービス」のシェアが拡大してきている。

既に世界のサービス貿易のところで見たように、研究開発や法務など専門サービスが拡大しているという世界的趨勢とも符合する。日本のモノの輸出に当たっても、研究開発活動やコンサルタント、法務・財務・経理等の貿易に付随する活動が、製品の高度化や競争力向上にますます重要になってきていることをうかがわせる。

(調達先・生産拠点の変化)
①日系製造業の海外展開とグローバルバリューチェーンの現状
まず、日系製造業の海外展開の現状を確認する。経済産業省「海外事業活動基本調査」によれば、世界で操業中の日系製造業現地法人は、約11,000社。そのうち、約8割に当たる約8700社がアジアに展開している。アジアの中では、中国、ASEANの立地が多い。業種別には、輸送機械、一般機械、情報通信機械、電気機械など機械関係、鉄鋼・金属、化学など素材関係が多い。

これら日系製造業の生産拠点間の調達の流れを見ると、アジア域内の日本、中国、ASEAN、NIEs間に相互に調達の流れがあり、特に中国、ASEANには日本やアジアの他の地域からの資材が流入している。既に世界貿易において中国やASEANにアジアから中間財が集まっているのを見たが、日系製造業の調達網においても同様の動きが見える。一方、アジアと北米、欧州のように地域をまたがる調達も存在するが規模は限られている。本節冒頭で見たように、輸送費の関係から近距離の貿易が多く、域内貿易比率が高まる動きと整合的である。

②日系製造業の調達活動の特徴、長期的変化
アジアに立地する日系製造業の調達活動について、長期的な変化を見ると、日本から一定の調達額は維持されているものの、現地に進出した日系企業からの調達も含めた現地調達額が次第に拡大してきていることが分かる。その背景には、最終組立業者だけでなく、部材の供給業者が現地進出するとともに、現地地場企業の指導・開拓が進んだことなどが指摘されている。このため、総調達額に占めるシェアは日本からの調達比率が低下して、現地調達率が上昇している。
また、調達においては、業種別の特徴も見られる。情報通信機械は、日本からの調達率が大きい一方で、反対に、輸送機械の代表である自動車産業は、組立工場の周囲に部品サプライヤーを配置する傾向が強く、現地調達率が高い。このような違いが生じる背景の一つには、部材の重量による輸送コストの相違がある。また、自動車のように、すりあわせ型で、何かあれば企業間の連絡調整が必要な製品なのか、情報通信機械のように、モジュール型で、規格化が進んだため、比較的連絡調整の必要のない製品なのかといった製品の特性による影響も指摘されている。その他に、情報通信機械の場合、高度な電子部品など現地では生産できない高付加価値な基幹部品の有無などの要因も考えられる。先の付加価値の分析で、コンピューター・電気電子製品は、中国の国内付加価値が比較的低い業種であることを見たが、その基幹部品は国内生産が難しいことを示唆している。

③調達等の直近の動向、見直しの方向
直近の調達・立地動向やその見直しの方向性を見ていく。アジア・オセアニアに立地する日系企業に対してJETROが行った調査によれば、調達の約5割を現地、約3割を日本、残りをASEAN、中国、その他で分け合っている。立地国・地域別に見れば、中国が最も現地調達比率が高く、タイが次いでいる。これらの国では、日系企業や地場企業など関連企業の産業集積が進んでいることが示唆される。反対に、カンボジア、ラオスは、現地調達率が低く、現地の関連産業が未成熟なことを表している。このため、これらの国では、他のASEAN諸国や国境を接する中国などアジア域内からの調達比率が高い。

日本からの調達は、韓国、台湾、フィリピン、シンガポールの順に高くなっている。また、同調査では、サプライチェーンに関連して、今後の調達の見直し等についても調査しており、2割強の企業が調達を見直す予定があると回答している。見直しの内容については、見直しを行う企業のうち、8割以上が「調達先の見直し」、5割以上が「複数調達化」を挙げており、適切な調達先の模索や調達先の多様化が志向されていることがうかがわれる。その理由としては、既に見たように世界的な供給制約の下で生産コストが上昇していることから、「コスト適正化」が最大の理由として挙げられ、次の理由として「新型コロナ感染の拡大」、さらに「通商環境の変化」が続いている。

調達先をどこからどこへ変更するのかを見ると、見直し対象として件数ベースで最も多く挙げられたのが日本からの調達で、変更後は現地調達に切り替えるケースが多く、中国、ASEANからの調達となる場合も見受けられる。次いで多いのが中国からの調達で、ASEAN、現地、日本からの調達へと変更されている。総じて見れば、日本からの調達は減り、代わりに現地調達やASEANからの調達が増える傾向にある。中国からの調達は増減両方の動きがあって、結果として大きくは変わらない見込みとなっている。

こまでは現地日系企業にアンケートした結果を紹介したが、JETROが海外ビジネスに関心の高い日本国内の企業(本社)に対して行った調査も同様の傾向が見られた。本社の立場で対象地域も特定されていないが、調達の見直しを行うと回答した企業は2割強で、2020年度調査に比べて2021年度調査の方が見直しを行う企業割合は増えていることが注目される。そのうち、調達については、「調達先の切り替え」「複数調達化の実施」の回答が増え、適切な調達先の模索や調達先の多様化が志向されていることがうかがえる。

JETROのアジア・オセアニアの日系企業に対する調査では、生産拠点の見直しについても調査しており、回答の2割弱が見直しを予定している。受注増、生産コストの適正化等を背景に、「新規投資・設備投資の増強」、「自動化・省人化の推進」の割合が高いほか、見直しを行う企業の約1/4が「生産地の見直し」を予定している。JETROの日本国内の企業(本社)への調査において、海外で事業展開を図る国・地域を調べた結果が図である。中国については、賃金の上昇などの課題や米国との貿易摩擦などリスクが指摘されるが、2010年代初頭からは低下したものの、近年は50%弱というほぼ一定の水準を推移している。

その他には、米国、ベトナム、タイなどが高水準にある。国際協力銀行による国内企業を対象とした有望投資先の調査でも、中国は長期的に低下してきたものの、近年は一定の水準を維持している。また、米国、ベトナム、タイも有望視されており、インドも高水準にある。中国について、現地に立地する日系企業に事業展開の方向性を聞いた調査では、過去10年にわたって「現状維持」又は「拡大」との回答が9割以上を占め、「縮小」は1割以下、「第三国への移転・撤退」は非常に限られている。中国は、通商環境の変化のほか、賃金や生産コストの上昇、競争相手の台頭など課題も多いが、企業から見て有望なマーケットとして魅力が高いことを物語っている。

(研究開発)
ここまで調達や生産に焦点を当ててきたが、現地生産の高度化に伴って、企業の研究開発も現地で行う部分が拡大してきている点も確認する。経済産業省「経済産業省企業活動基本調査」及び「海外事業活動基本調査」の集計を利用して、日本国内の製造業の設備投資と日系製造業海外現地法人の研究開発費の推移を比べてみる。日本国内の製造業企業の研究開発費が緩やかな伸びに留まっているのに対して、海外製造業現地法人の研究開発費は2005年と比べて、金額ベースで倍近くに拡大している。また、売上高に対する研究開発費比率を見ると、米国に立地する企業の研究開発費比率が上昇しているほか、中国に立地する企業はまだ水準は低いものの、次第に上昇してきている。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html