ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■サプライチェーンにおける特定国への依存の状況

(米国と欧州における重要品目の輸入依存の分析)
米中対立を始めとする地政学的状況の変化を受けて課題となっていた特定国への生産拠点の集中度の高まりとサプライチェーンのぜい弱性が、新型コロナウイルスの感染拡大によって、改めて浮き彫りとなった。そのような状況において、2021年、米国とEUは、より多様で強靱なサプライチェーンを構築するために、サプライチェーンのぜい弱性に関する調査を政府主導で実施した。

米国では、2021年2月に署名された大統領令(Executive Order 14017)に基づき、サプライチェーンのレジリエンスを強化するため重要品目(半導体、大容量電池、重要鉱物・素材、医薬品)の調査が行われ、同年6月に結果が報告された。同報告書の中で、重要品目に共通している米国のサプライチェーンぜい弱性として、①米国内の生産能力不足(低賃金国との競争による雇用損失)、②民間市場におけるインセンティブ不足と短期成果主義(利益は投資家に還元されることで研究開発に回らない)、③同盟国や競争国が採用した産業政策の影響(他国での公的産業支援増加)、④調達相手国の過度な集中、⑤国際協調の欠如(サプライチェーン関係国との外交的交渉の不足)の5点が指摘された。安価な労働力と生産国の産業支援政策の影響等により、サプライチェーンが一部地域に地理的に集中した結果、特に先進的な電池や医薬品の原薬の多くを中国に依存していることが判明し、米国のサプライチェーンのぜい弱性につながっていると結論づけた。

欧州では、2021年5月、相互依存関係から脱却し、欧州委員会の目指す開かれた戦略的自律性を推進するため、「新産業戦略2020アップデート版(2020 New Industrial Strategy)」が公表された。同レポートでは、5,200の輸入品目のうち、137品目は輸入依存度が高く、その中で特にぜい弱である34品目(輸入総額の6%)は内外価格差が大きいため、輸入相手国の分散と代替生産が特に困難であるとの結果が示された。また、輸入依存度が高い137品目のうち52%が中国に依存していることが判明した。同レポートでは、新型コロナウイルスの感染拡大や半導体不足問題をきっかけに、不測の事態が発生した場合、特定国への過度な依存はサプライチェーンの混乱につながるという認識が共有されたことから、可能な限り調達先を多様化し、必要に応じて備蓄や自律的行動を行うとされている。2020年9月には、欧州の原材料における特定国への依存を減らすため、「原材料アライアンス」が発足され、さらに半導体、電池、水素等の戦略分野の「産業アライアンス」の立ち上げ等が進められている。

(日本における重要品目の輸入依存の分析)
日本について、地政学的状況の変化や新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえて、特定国への生産拠点の集中度やそれがもたらすサプライチェーンのぜい弱性を把握するため、日本の重要品目等の輸入依存度を分析する。なお、ロシアによるウクライナ侵略による影響を踏まえた分析については、以前「世界経済に対する地政学的不確実性の高まりと経済リスク」において実施していることから、ここではそれ以外の部分について取り扱う。

欧州委員会の「新産業戦略2020アップデート版」で用いられた分析手法を用いて、産業連関表における鉱工業品、特に半導体、電池、レアメタル・レアアース、医薬品の重要品目について、3つの指標(輸入依存度、輸入品の国内代替生産可能度、ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI・輸入相手国への集中度)から日本の対外依存度を見ていく。鉱工業品の中で輸入依存度が高い品目は、パソコンや携帯電話で、それぞれ63.4%、94.1%となった。輸入依存度は50%を上回っており、国内生産より輸入の方が多いことが示されている。また、国内代替可能度は、それぞれ8.83倍、114.83倍と輸入額が輸出額を大きく上回ることから、国内での代替可能性は低いことが示されている。輸入相手国は、中国が大半を占めている。この分析では、パソコンも携帯電話も共に、完成品の輸入が中国に依存していることが示されているが、バリューチェーンにおける中流工程の組立ては、上流工程の製品設計・デザインや下流工程の販売・アフターサービスに比べて付加価値が低くなることから、費用の面で中国が選ばれていると推測される。このような付加価値の低い品目では、生産拠点の多元化等による供給体制の強化の検討が求められるであろう。

幅広い産業で欠かせない半導体関連品目では、半導体素子の輸入依存度が33.1%、代替可能度が0.54倍、集積回路の輸入依存度が35.9%、代替可能度が0.86倍、電池の輸入依存度が14.8%、代替可能度が0.40倍となっている。輸入依存度は50%を下回っており、代替可能度が1倍を下回っていることから、輸入依存度と国内代替可能度の面においては、供給途絶リスクは高い水準ではないものの、一定程度のリスクが示されている。もっとも、この後に説明する、ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)が示す輸入相手国の集中度にも注意する必要がある。生命の安全に直結する医薬品では、輸入依存度は28.9%と低いものの、代替可能度が4.82倍と輸入額が輸出額を大きく上回っており、国内代替生産が困難となっている。輸入相手国は品目により異なるが、アイルランド、米国、ドイツ、スイス等から輸入されている。輸入依存度が高く、代替可能性が低い場合、輸入が特定国に集中しているとさらなるリスクとなりうる。

次に、ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)50を用いて、輸入相手国への集中度を見ていく。HHIは、最大値(=100)に近いほど輸入相手国が少なく、HHIが低いほど輸入相手国が多いことを示す。重要品目であるレアメタル、レアアースは、電気自動車を始め様々な産業で欠かせない素材であり、デジタル社会を支える重要基盤にもなっている。レアメタルとレアアースに該当する貿易品目のHHIを見ると、輸入が少数の国に集中するものが多く、供給途絶リスクの高さが示されている。HHIが高い値を示している品目をまとめると、携帯電話、ノートパソコンのHHIはそれぞれ71.3、98.7で高い値を示しており、輸入相手国は中国が大半を占めている。半導体素子では光電性半導体デバイス及びLEDのHHIが45.9を示し、中国からの輸入が突出している。集積回路のうちプロセッサー及びコントローラーと記憶素子のHHIはそれぞれ36.0、38.8となっており、台湾からの輸入が過半数を占めている。重要品目の中でもHHIが高い値を示す品目が多くあることから、輸入相手国の集中度や輸入依存度が高く、国内生産代替可能性が低い重要品目については、経済安全保障の観点から早期に国内での供給体制整備や輸入相手国の多様化等の安定供給確保に向けた対応が求められるといえる。

また、我が国は、石油や天然ガスのほぼ全てを輸入に依存しており、石油や天然ガスの安定供給確保のためには、我が国企業が直接その開発・生産に携わる海外の上流権益確保と国内資源開発を通じた自主開発を進めることが極めて重要である。特に、国内資源開発は、地政学リスクに左右されず安定的なエネルギー供給の確保が可能となることから、引き続きメタンハイドレートを含む国内資源開発を推進することが重要である。このため、日本周辺海域に相当量の賦存が期待されるメタンハイドレートについて2027年度までに、民間企業が主導する商業化に向けたプロジェクトが開始されることを目指し、可能な限り早期に成果が得られるよう技術開発等を推進している。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html