ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■経済連携協定(EPA/FTA)の意義

経済連携の推進は、締結国間の貿易投資を含む幅広い経済関係を強化する意義を有するところ、より具体的には、輸出企業にとっては、関税削減・撤廃等を通じた輸出競争力の強化の面で意義があり、他方で、外国に投資財産を有する企業やサービスを提供する企業にとっては、海外で事業を展開しやすい環境が整備されるという点で意義がある。

輸出の面では、関税削減・撤廃によって我が国からの輸出品の競争力を高められる。例えば、タイ向け自動車部品(20%)、インドネシア向け完成車(60%)、インド向け鉄鋼製品(5%)や電気電子機器(10%)といった産品の関税が撤廃されたほか、日ASEAN包括的経済連携協定、RCEP協定、CPTPPといった広域経済連携協定によって、企業のサプライチェーンの効率化や強靱化が実現している。海外で事業を行う企業に対しては、投資財産の保護、海外事業で得た利益を我が国へ送金することの自由の確保、現地労働者の雇用等を企業へ要求することの制限・禁止、民間企業同士で交わされる技術移転契約の金額及び有効期間への政府の介入の禁止等の約束を政府同士で行うことにより、海外投資の法的安定性を高めている。また、外国でのサービス業の展開に関しては、外資の出資制限や拠点設置要求等の禁止、パブリックコメント等による手続の透明性確保等、日本企業が海外で安心して事業を行なうためのルールを定めている。この他にも、我が国のEPAでは、締約国のビジネス環境を改善するための枠組みとして、「ビジネス環境の整備に関する委員会」の設置に係る規定を設けていることが多い。「ビジネス環境の整備に関する委員会」では、政府代表者に加え、民間企業代表者も参加して、外国に進出している日本企業が抱えるビジネス上の様々な問題点について、相手国政府関係者と直接議論することができる。これまでの「ビジネス環境の整備に関する委員会」では、貿易・投資の促進、電力・ガスの安定供給、模倣品対策の強化、関税・税務に関する事務手続の簡素化・透明化、外資規制緩和等につき議論し、ビジネス環境整備の一助となっている。

(経済連携協定(EPA/FTA)を巡る動向)
世界を見渡すと、これまでに多くの国がEPA/FTAを締結してきている。WTOへの通報件数を見ると、1948年から1994年の間にGATTに通報されたRTA(FTAや関税同盟等)は124件であったが、1995年のWTO創設以降、多くのRTAが通報されており、2022年3月28日時点でGATT/WTOに通報された発効済RTAは577件に上る。

特に、アジア太平洋地域においては、2010年3月にTPP協定交渉が開始(我が国は2013年7月に交渉に参加)、その後、米国を除く11か国での交渉を経て、2018年3月にはCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)が署名、2018年12月に発効し、2021年9月から英国の加入手続が進行中。2013年3月には日中韓FTA、5月にはRCEP協定についてそれぞれ交渉が開始され、RCEP協定は2022年1月に発効した。CPTPPやRCEP等をあり得べき道筋として、APEC参加国・地域との間で、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現が目指されている。また、2019年2月には日本とEUの間で日EU・EPAが発効するなど、各地域をつなぐ様々な経済連携協定の取組も進行している。近年の動きとして、英国は、EU離脱によりEPAの締結を活発化させており、ブレクジットに伴い、日英をはじめ30本以上のEPAを発効。2021年12月に英豪FTA、2022年2月に英NZFTAに署名した。インドとも近く交渉入りと見られる。

中国・韓国の両国においても、例えば2022年1月に中国カンボジアFTA発効、2021年5月に韓国中米FTA署名が全ての締約国について発効など、多様な国々とEPA交渉を推進している。UAEも、独自にEPAを締結する動きを加速し、2021年9月に輸出拡大のため、インドを含む8カ国(インド、インドネシア、トルコ、英国、イスラエル、ケニア、韓国、エチオピア)との包括的経済協定の締結目標を表明。2022年2月には、インドとのCEPAに署名し、本年4月にはイスラエルとのFTAの交渉完了を、発表した。地域大の取組においても、CPTPPやRCEPの動向に加えて、多様な動きがみられる。2021年のASEANサミット議長声明にてASEAN+1FTAの見直し(豪州・ニュージーランド、中国、インド、韓国とASEAN)について言及され、アフリカではアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が2021年1月から運用開始された。

また北米では、NAFTAの後継となるUSMCAが2020年7月1日に発効している。近年の傾向として、包括的なEPAに加えて、分野別の協定を締結する動きも活発になっている。米伯貿易円滑化協定が2020年10月に署名され、議会承認を要さずに「行政取極」の形式で発効。デジタル分野では、シンガポール、ニュージーランド、チリの3か国によるデジタル経済パートナーシップ協定(Digital Economic Partnership Agreement)が2020年6月に署名され、2021年1月(チリは2021年11月)に発効した。同協定には、2021年10月に韓国が、11月には中国が加入申請の動きを見せている。また、このほかにも星豪DEA(2020年3月署名、12月発効)、星韓DPA(2021年12月交渉妥結)、星英DEA(2022年2月署名)、EU・星・デジタルパートナーシップ協定(2022年2月、交渉開始に合意)など、様々なデジタル経済協定(Digital Economic Agreement, DEA)やデジタルパートナーシップ協定(Digital Partnership Agreement, DPA)を締結する動きが活発化している。環境分野においても協定を形成しようとする動きが見受けられる。グリーン経済協定(Green Economy Agreement, GEA)の締結は、環境物品・サービスの貿易や投資における非関税障壁を取り除き、低排出技術の導入を加速化することを目的としている。2021年10月に星豪GEAの枠組みが発表されている。

(日本の経済連携協定を巡る取組)
我が国は、2022年3月現在50か国との間で21の経済連携協定を署名・発効済みである。2021年1月には、英国との間でEU離脱移行期間の終了後切れ目なく日英EPAが発効した。また2022年1月には、中国・韓国とは初のEPAとなるRCEP協定が発効された。自由貿易の拡大、経済連携協定の推進は、我が国の通商政策の柱であり、世界に「経済連携の網」を張り巡らせることで、アジア太平洋地域の成長や大市場を取り込んでいくことが、我が国の成長にとって不可欠といえる。

2021年6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021日本の未来を拓く4つの原動力~グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策~」(骨太方針2021)において、「多国間主義を重視し、TPP11やRCEP協定等で推進してきた自由で公正な経済圏の拡大、ルールに基づく多角的貿易体制の維持・強化に取り組み、世界経済の発展を我が国の経済成長に取り込むとともに、望ましい経済秩序の形成に主導的役割を果たす。」と記載があるとおり、我が国はインド太平洋地域での協力等を通じ、経済連携を更に推進し、自由で公正な貿易・投資ルールの実現を牽引する。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html