ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■交渉中のFTA(日中韓FTA・日コロンビアEPA・日トルコEPA)

(日中韓FTA)
日中韓3か国は、世界における主要な経済プレイヤーであり、3か国のGDP及び貿易額は、世界全体の約2割を占める。日中韓FTAは、3か国間の貿易・投資を促進するのみならず、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現にも寄与する可能性のある重要な地域的取組の一つである。

2013年3月に交渉を開始して以降、2019年11月までに計16回の交渉会合を実施し、物品貿易、原産地規則、税関手続、貿易救済、物品ルール、サービス貿易、投資、競争、知的財産、衛生植物検疫(SPS)、貿易の技術的障害(TBT)、法的事項、電子商取引、環境、協力、政府調達、金融サービス、電気通信サービス、自然人の移動等の広範な分野について議論を行っている。また、2019年12月の第12回日中韓経済貿易大臣会合では、地域の経済統合や持続可能な発展に貢献するために、3カ国の産業相互補完性を十分に活用し、貿易・投資の協力レベルを高めるべきであるという考えが共有され、日中韓FTA交渉を加速するよう事務方に指示があった。その後、同年同月の第8回日中韓サミットでは、その成果文書「次の10年に向けた3か国協力に関するビジョン」において、RCEP交渉に基づき、独自の価値を有する、包括的な、質の高い互恵的な協定の実現にむけて、日中韓FTA協定の交渉を加速していくことが確認された。

(日コロンビアEPA)
コロンビアは、太平洋と大西洋に面する北米と南米の結節点に位置し、豊富なエネルギー・鉱物資源を有する。また、中南米第3位である約5,100万人の人口を有するほか、平均経済成長率は3.7%と安定(2010-2019年)。新型コロナ感染症の影響で2020年の実質GDP成長率はマイナス6.8%となったが、2021年は7.6%(予測値)と回復する見込み。中南米地域で自由開放経済を主導する太平洋同盟のメンバーであり、米国・カナダ・EU及び韓国とのFTAも発効済である。

日コロンビアEPAを通じた貿易・投資環境の改善により輸出入及び日本企業によるコロンビアへの投資の拡大が期待されている。2012年9月に行われた日コロンビア首脳会談にて、両国はEPA交渉を開催することで一致。同年12月に第1回交渉会合が開催され、2015年8月から9月にかけて第13回交渉会合が開催された。以降,両国間で様々なやりとりが継続している。

(日トルコEPA)
トルコは、人口8,400万人を超え(2021年末時点)、国民の平均年齢が30歳台前半と若い魅力的な国内市場を持つ。加えて、欧州及び周辺国市場への生産拠点として注目されている。

日トルコEPAによって、欧州企業や韓国企業といった競合相手との競争条件の平等化が図られ、トルコへの日本企業の輸出が後押しされるとともに、トルコの投資環境関連制度の改善により、トルコへの日本企業の投資促進も図られることが期待される。トルコと我が国は2012年7月に第1回日トルコ貿易・投資閣僚会合を開催し、日トルコEPAの共同研究を立ち上げることにつき合意した。これを受けて、同年11月に第1回、2013年2月に第2回の共同研究が開催され、同年7月に日本・トルコの両政府にEPA交渉開始を提言する共同研究報告書が発表された。共同研究報告書を受けて、2014年1月に行われた日トルコ首脳会談にて、両国はEPA交渉を開始することで一致し、同年12月に第1回交渉会合が開催され、2019年10月までに計17回の交渉会合を開催した。特に、2019年は1月・6月には閣僚級で議論するとともに、同年中に5回の交渉会合を実施するなど交渉が加速。また、2019年7月に行われた日トルコ首脳会談において、両首脳はEPAの早期妥結に向け更に交渉を加速することを確認した。以降、両国間で様々なやりとりが継続している。

■EPAの利用や見直し
グローバルに展開するビジネスの要請に応えるには、上述の新たな協定締結に向けた取組に加えて、EPA/FTAの利用の促進、既存EPAの見直し等も重要である。CPTPP、日EU・EPA日米貿易協定及び日英EPAに加え、RCEP協定が発効に至り、以前にも増して、EPA等の利活用が重要な段階にある。そこで、経済連携協定等を最大限に活用するとともに、新型コロナウイルス感染症の下で生じた社会経済活動の変化や明らかになった課題へ対応するため、2020年12月に「総合的なTPP等関連政策大綱」が改訂され、中堅・中小企業等の新市場開拓のための総合的支援体制を強化し、原産地証明書等のデジタル化を含む貿易に係るビジネス環境の整備に取り組む旨が明記された。こうした背景も踏まえつつ、経済産業省としては、JETROや関係省庁と協力しつつ、EPAの利活用促進を目的として、①原産地証明書の電子化等を通じた貿易関連の国際手続のデジタル化、②EPA関連の国内手続のデジタル化、③きめ細やかな中小企業支援等に取り組んでいる。

①貿易関連の国際手続きのデジタル化
まず、海外と連携して取り組んでいる課題として、原産地証明書(以下、CO)の電子化が挙げられる。これまでCOは紙でやりとりされることが多く、事務コストが高いこと、COの紛失・遅延等のリスクがあることから、EPA等を利用する事業者からは、貿易円滑化の観点から電子化のニーズが高まっている。このため、前述の「総合的なTPP等関連政策大綱」においても、COのデジタル化について政府一丸となって取り組むこととされている。

日本国税関では、既にCOのPDFファイル等による提出を認めているが、日本で発給するCOについても、2022年1月より、日タイEPA及びRCEP協定を対象に、原則としてPDFファイルでの発給を開始した。なお、日豪EPAでは、2016年11月から、紙を原本としつつPDFファイルもCOの写しとして発給している。また、当局間で直接やりとりを行うCOのデータ交換は、取引コストをさらに引下げることが期待されており、こうした仕組の構築に向けて、タイ、インドネシア、ASEANとの間で協議が進められている。

②EPA関連の国内手続きのデジタル化
国内における取組として、2021年8月、JETROが原産地証明書の申請書類作成を支援するソフト(通称、「原産地証明書ナビ」)を公表し、同ツールの無償提供を開始した。これにより、輸出に当たってEPAを利用/検討している企業(特に中小企業)が、CPTPPを含むEPAの原産地証明書を簡易かつ効率的に作成できるようになった。また、令和3年度補正において、中堅・中小企業が簡易かつ低コストでEPAを利用するためのデジタルプラットフォームを整備するための実証を実施している。

当該実証を通じて、①輸出品及び原材料に対応するHSコードの検索、②各EPAの関税率・PSRの比較による最適なEPAの選択、③原産性の証明に必要な書類の準備、④原産性の証明に必要なサプライヤーからの情報提供等のプロセスをワンストップでサポートするプラットフォームを開発する。

③ きめ細やかな中小企業支援等
中堅・中小企業等の新市場開拓のための総合的支援体制の強化に取り組んでいる。具体的には、TPP等を活用した中堅・中小企業等の市場開拓のための新輸出コンソーシアムの活用、RCEP協定・CPTPP・日英EPA・日EU・EPA・日米貿易協定等のEPAを利用するに関するセミナーの実施、相談窓口の充実、解説書等の作成・配布等の取組を通じて、EPA/FTAの利活用支援・海外展開支援を行っている。また、中小企業を含めた我が国企業によるEPA利活用をきめ細かく支援するために、経済産業省と業界団体と連携した取組も進めている。

例えば自動車業界においては、業界団体が主導して原産地証明関連のシステムを開発し、関連する手続の円滑化や、輸出者とサプライヤーとの連携に取り組む事例が見られる。経済産業省の「自動車産業適正取引ガイドライン」においても、こうした業界団体の取組を、EPA/FTAの利用の促進のためのベストプラクティスとして推奨している。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html