ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■中南米との関係

(方針)
中南米地域は、6億人超の人口を擁し、巨大な消費市場や中間所得層も多く、日本の高付加価値製品の輸出先として魅力的であるとともに、労働生産人口も比較的若く、また安価な労働力を活用した生産拠点としての役割も担う。

2020年7月、USMCAが発効されたことにより、北米の生産・調達ネットワークの結びつきが強化され、米国市場を見据えてメキシコへの投資も散見される。また、中南米地域は気候変動対策やデジタル関連産業の基盤を支えるリチウム、銅等の重要鉱物の主要供給源であるとともに、大豆、とうもろこし、鶏肉を始めとする食料資源の供給源として、エネルギー、食料等安全保障の観点からも我が国にとって重要な地域であるとともに、日本企業の潜在的な参入先、進出先としても有望な地域でもある。

世界銀行によれば、2021年の中南米における経済成長率は5.2%。2020年のマイナス6.5%から回復傾向にあるが、本格回復までには至ってない。国・地域ごとでは、メキシコ・ブラジル等の主要国では、インフレ・通貨下落の圧力が予想される中、難しい経済・財政政策の舵取りが必要となるが、経済回復が見込まれる。他方、一部の中米・カリブ諸国は低成長が予想され、国・地域等による不均衡なK字型の経済回復となることが予想される。

中南米地域における政治面では、2021年7月にペルーでカスティジョ大統領、同年12月にチリでボリッチ大統領、ホンジュラスでカストロ大統領が誕生するなど、コロナ禍の経済悪化や大衆迎合主義の台頭による左傾化の傾向にある。2022年も5月にコロンビア、10月にブラジルの大統領選挙が控えており注視する必要がある。米国・中国の動向に関して、ブラジル、チリ、ペルー等にとって中国は最大の貿易相手国となり、米国の裏庭とも言われる中南米において積極的なインフラ投資を展開するなど、中国の存在感は増している。

他方米国については、同国への移民流入問題の解決をはじめ、中南米地域におけるデジタル連結性、気候変動対策などに地政学の観点から積極的に関与することが期待される。2022年6月には米国ロス・アンゼルスで米州サミットが開催される予定。米国本土で開催されるのは1994年のクリントン政権下でマイアミで開催された第1回に次ぎ2回目であり、米国の中南米地域への関与にも期待がかかる。中南米地域における新たなビジネス機会として、これまでの太平洋同盟やメルコスール等の地域統合を目指す関税同盟を中心とした内向きの市場経済から、第三国・地域とのFTA締結の推進など、より対外的な経済拡大を目指す動きが中南米地域では活発となっており、その意味ではビジネス機会はこれまで以上に拡大していると言える。

加えて、世界情勢の不安定化による資源・食料価格の高騰等を背景に、中南米へ投資資金が流入しているが、これらの動きは、食料、重要鉱物、水素・アンモニア等、中南米地域の資源・エネルギー分野において、中長期的視点に立った、企業の新たな投資行動にも影響を与え得ると考えている。加えて、社会課題の解決の分野においても、デジタル技術等活用した新たなエコシステムが生まれており、これまで顕在化されてなかったビジネス機会も拡大しつつある。このような新たな社会課題解決型のビジネス・エコシステムによる包摂・多様性が経済回復への推進力となることが期待され、我が国としても本邦企業の参入を支援すべくビジネス環境の整備等を図っていく。

(進捗状況)
メキシコについては、2021年8月に広瀬経済産業審議官とプリーア在京メキシコ大使が対面で会談を行い、メキシコ国内における電力政策変更に対する法的安定性確保の申し入れやUSMCA等について意見交換を行った。また、同年10月、イタリア・ソレントで開催されたG20貿易・投資大臣会合の場で広瀬経済産業審議官とデ・ラ・モラ経済省次官が対面で会談を行い、二国間経済関係について意見交換を行った。その後、双方は、同年12月と2022年2月にオンライン会談を行い、意見交換を継続している。

また、日本政府は2022年2月に日メキシコEPAに基づくビジネス環境整備委員会を開催した。上杉外務省政務官及びデ・ラ・モラ経済省次官を共同議長とし、日本側とメキシコ側からは、関係省庁に加え、双方の産業界等も出席した。本会合において、両国の関心事項である、貿易と投資の促進、中小企業、裾野産業、投資環境、労務、税務、治安、基準認証及び観光等企業が抱えるビジネス環境に係る課題や問題意識について議論・意見交換を行った。また、日本側からは、特に、メキシコにおいてエネルギー分野に進出している日本企業が引き続き円滑に事業を行えるよう、同分野における法的安定性への一層の配慮を要請し、メキシコ側からは、自国の経済・雇用に貢献している日系進出企業からの懸念については、関係当局にも然るべく伝達し、対処していく旨の発言があった。

コロンビアについては、2021年6月田中経済産業審議官、同年11月広瀬経済産業審議官がパルド在京コロンビア大使の表敬を受け、二国間経済協力について意見交換を行った。また商工観光省、在京コロンビア大使館と連携し、①ゲーム業界セミナー(同年6月開催。オレンジ経済協力の一環として、両国のゲーム業界団体等が市場概況について意見交換を行った。)、②貿易投資合同委員会準備会合(同年12月開催。ビジネス環境改善や貿易投資促進を目的とする「貿易投資合同委員会」の設置に向けた準備として、両国のビジネス環境について意見交換を実施した。)を開催した。
また、同年9月、コロンビア鉱山・エネルギー省は、水素ロードマップを公表し、2022年3月細田経済産業副大臣がパルド在京コロンビア大使の表敬を受け、両国の水素政策及び今後の水素協力の可能性について、意見交換を行った。

チリについては、2021年11月、細田経済産業副大臣がジョベットエネルギー大臣兼鉱業大臣の訪日表敬を受け、水素協力の可能性や新鉱業ロイヤリティ法案の懸念等について意見交換を行った。なお、ジョベット大臣は、2021年10月にオンラインにて開催した第4回水素閣僚会議へ参加しており、チリ国内の豊富な再生可能エネルギーを活用し、2030年までに最も安価なグリーン水素を生産し、2040年までに世界トップ3に入る輸出国となることを目指している旨の発言があった。

ブラジルについては、ブラジル鉱山エネルギー省等の政府関係者に対して、日本の建物及び空調機器の省エネ制度についての研修の実施を通じて、ブラジル省エネ制度の見直しに向けた支援を実施した。また、OECD閣僚理事会やG20貿易・投資大臣会合の場で広瀬経済産業審議官とサルキス副次官が対面で会談を行い、二国間経済関係について意見交換を行った。太平洋同盟については、2022年1月コロンビアにて、第16回太平洋同盟首脳会合を開催し、議長国はコロンビアからメキシコに交代となった。加盟国代表らは、域内貿易、デジタル開発、人の移動自由化の促進等の協力を表明する「ブエナベントゥーラ宣言」及び、「太平洋同盟の4加盟国とシンガポールとの自由貿易協定」に署名を行った。また本会合において、エクアドルの正規加盟国入りに向けた交渉を開始すること、2022年前半に韓国の準加盟国入りに向けた交渉を開始することでも合意した。

メルコスールについては、2021年12月、日本経済大臣連合会から林外務大臣に対して日本・メルコスールEPA締結に向けた共同研究会の早期設置の要望がなされた。また、2022年3月、日伯戦略的経済パートナーシップ賢人会議から岸田総理大臣に対して、日本・メルコスール経済関係の強化やカーボンニュートラルに向けた取組の推進等についての要望がなされた。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html