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ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。
■日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針
~イノベーション・マネジメントシステムのガイダンス規格(ISO56002)を踏まえた手引書~
令和元年10月4日 経済産業省 イノベーション100委員会
1.はじめに
「イノベーション100委員会」で経営者との対話から発せられた言葉を紹介する。
「顧客が気付いている問題を解決してできるものはイノベーションでなく、リノベーションに過ぎない。では、イノベーションは何から出てくるかというと、聞いても出てこない。要するに顧客が気付いていない、もっと言うと、諦めている問題からです。この諦めている問題を私たちが発見して、それを解決した時にできるものだけがイノベーションである」
(ネスレ日本株式会社 代表取締役社長兼 CEO 高岡浩三)
「市場そのものが変わるので、CEOそのものが変わらなければ決して守護神にはなれない。ものすごくやっぱり熱い思いを持っている。神ですから、ある意味では。守護神としてリードする場面もあれば、大きな懐で守る場面もある」
(沖電気工業株式会社 取締役会長 川崎秀一)
「大会社になると、意思が伝わるのが5、6階層になってくる。自分のメッセージが、32分の1、64分の1になる。だから、言い続けて声を大きくしてやるか、何回も言い続ける。加えて、途中で同じような理解者を作って、外からも増幅させる」
(東京急行電鉄株式会社 代表取締役会長 野本弘文)
イノベーションの意味、経営者の重要性、やり続けることの価値、この3点が、本手引書で最も発信したいポイントである。
この数年、アベノミクスの成果により、企業収益が最高水準となる中、国内大企業によるアクセラレーションプログラムの創設、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の拡大、スタートアップと連携するための「出島」型組織の設置など、オープンイノベーションへの取り組みが活況となっている。経団連においては、2019年2月に、「Society5.0実現に向けたベンチャー・エコシステムの進化」を発表し、大企業の経営において、「既存事業の継続・成長」と「新規事業の探索・投資・開発」を明確に区別して経営判断を行うことや、大企業に集積する人材、資金、技術、知識・データなどの資産をスタートアップに解放して成長を促進することなどを提言している。
また、政府でも、「成長戦略実行計画」(令和元年6月21日閣議決定)において、オープンイノベーションの推進を掲げ、「第4次産業革命の可能性を最大限引き出すためには、新たなベンチャー企業の創業支援を図るとともに、既存企業が人材・技術・資本の閉鎖的な自前主義、囲い込み型の組織運営を脱し、開放型、連携型の組織運営に移行する必要がある」としている。国際的な動向としては、2013年頃からISOでイノベーション・マネジメントシステムに関する技術委員会(ISO/TC279)が立ち上がって議論が始まり、今年7月にイノベーション・マネジメントシステムのガイダンス規格(ISO56002)が発行されている。
このような状況認識の元、経済産業省では、我が国におけるイノベーション・マネジメントシステムの状況を把握するため、昨年秋から約40社の経営層・ミドル・現場担当者との対話を重ね仮説作りを行った。その上で、本年4月から、第四期の「イノベーション100委員会」を開催し、ISOに準拠した形での「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針」について、大企業経営者、アクセラレーター、スタートアップ経営者をお招きして、6回の議論を行い、今回、とりまとめるに至った。
<「イノベーション100委員会」とは?>
企業がイノベーションを興すための方法を探るために、変革の思いを持ち、行動を起こしている企業経営者が自社のイノベーション経営について自由闊達に議論する場であり、議論は経済産業省内の会議室で行われている。「イノベーション経営を進める大企業経営者が100人になれば、日本は再びイノベーション国家になる」との思いを持ち、経済産業省、株式会社WiL、一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)が2015年より共同運営し、これまで第4期まで開催(計44社参加)。今後も年間を通して開催していく予定。
<「イノベーション」の定義>
研究開発活動にとどまらず、
1.社会・顧客の課題解決につながる革新的な手法(技術・アイデア)で新たな価値(製品・サービス)を創造し
2.社会・顧客への普及・浸透を通じて
3.ビジネス上の対価(キャッシュ)を獲得する一連の活動を「イノベーション」と呼ぶ
2.策定の目的・意義
新たな事業創造は、トップマネジメントの理解及び実践が最重要であることは言うまでもない。他方、その方法論については、これまで確立したものはなく、各企業で試行錯誤の中で実践されてきており、その教訓については必ずしも形式知化されてこなかった。
本手引書は、2019年7月15日に発行されたイノベーション・マネジメントシステムに関する国際規格(ISO56002)の考え方を基にして、我が国の大企業が新たな事業創造をする際に直面している課題を踏まえ、これまでの既存事業の維持だけでなく、新たなイノベーションを生み出すための変革を目指し挑戦をしている企業向けに策定したものである。
具体的には、この手引書の中では、企業が新規事業創造を行う際に直面する課題に対して、それを克服するための重要項目、我が国企業の先進的な取り組み、ISOにおける該当箇所等について、今後の経営の変革の一助となるような、考え方や実践方法等を紹介させていただいている。当然、企業が直面する環境は業種・業態により異なっており、また、変革の方向性についても、その企業独自の組織風土や文化に大きく依存するものである。他方、AI、IOT、ビックデータ、ブロックチェーンといったデジタル技術の革新が組織変革に与える影響は大きく、新たな事業創造をするためには、各組織が時代に合わせてスピード感をもって進化していくことが必要となっている。
こうした組織変革を行うためには、組織内外での多層的な対話が重要となってくる。経営層同士、経営層とミドル、ミドルと現場など、組織内で重層的な対話を行うとともに、顧客、投資家、スタートアップ等の外部関係者との協創も必要不可欠である。本手引書で提案した各行動指針に関して、組織内でのイノベーション活動の確認を行うとともに、こうした対話により、自組織の理念、目指す方向性、それを実行するための活動計画を、ホームページやアニュアルレポート等で積極的に情報発信することを期待したい。
3.「イノベーション・マネジメントシステムの産業史上初の国際規格ISO56002」
既存組織(大企業・中堅・中小企業含む)からイノベーションを生み出すことは、どの国の組織にとっても難しい。その世界共通の課題に対して2013年からISO(国際標準化機構)にてイノベーション・マネジメントシステムの国際規格の設計が行われてきた。
欧州主要国、アメリカ、カナダ、南米各国、日本、中国などの59カ国により規格設計が行われ、2019年に産業史上初のイノベーション・マネジメントシステムの国際規格が発行された。イノベーション経営の国際規格化が求められるようになってきた背景は次の2つ。
1,世界各国で既存組織からイノベーションを起こす必要性が高まり、問題意識が醸成されてきたこと。
2,各国から持ち寄れる実践的な知恵が蓄積されてきたこと。
既存組織からイノベーションを起こす活動は世界各国でこの数年加速しており、成功例、失敗例を含む知見が世界各国に蓄えられてきた。問題意識の醸成と経験値の蓄積が相まって、イノベーション・マネジメントの新しい規格を作る機運が高まり、世界の知恵を総動員した極めて実践的な国際規格がこの度発行されるに至った。
これらはマネジメントシステムの構成要素であり、これらがシステムとして連携して初めてイノベーションによる価値創造が実現するという考え方が特徴である。
【0】:序文
【1】:適用範囲
【2】:引用規格
【3】:用語及び定義
【4】:組織の状況
【5】:リーダーシップ
【6】:計画
【7】:支援体
【8】:活動:イノベーション活動を5段階の非線形(non-liner)の活動と定義。
1.機会の特定
2.コンセプトの創造
3.コンセプトの検証
4.ソリューションの開発
5.ソリューションの導入
【9】:パフォーマンス評価
【10】:改善
世界各国が当規格を活用して「既存組織からのイノベーション創出の加速」をする時代が始まっている。各国でスタートアップの勃興と既存組織からのイノベーションの二本足の活動が活発化しており、当規格は今後のイノベーション活動の共通言語になっていくと予想されている。
4.第四期イノベーション100委員会登壇経営者の主な声
イノベーションを起こすためには、完全に自己否定しなければならない。非常識だと思わないことが常識化していると、何かを変えなければならないという発想・モチベーションは出てこない。
(日本郵便株式会社代表取締役社長 横山 邦男)
大きな会社からイノベーションが出ないというのは、スタートアップのやっている仕組みがないということ。
(ネスレ日本株式会社 代表取締役社長兼 CEO 高岡 浩三)
比較的規模の大きい会社がイノベーションを起こすことのゴールは、出島が3つできました、4つできましたではない。本丸そのものが変われるかどうかということ。
(コニカミノルタ株式会社 代表執行役社長兼 CEO 山名 昌衛)
トップの役割で重要なことは3つ。ビジョンを示し共感させること。様々な意見を取り入れ、決断し行動に移すこと。リスクに対応すること。
(東京急行電鉄株式会社 代表取締役会長 野本弘文)
新規事業は全く利益が出ていない段階で覚悟して投資することが必要。揺るがぬ意志が大事。まいていない種は絶対に芽は出ない。
(ソニー株式会社 シニアアドバイザー 平井一夫)
ただ2階建てにすればいい訳ではない。経営者が先頭に立って全社教育を行い、理解を浸透させて1階のリソースで2階を支援する体制を作ることが必須だ。
(沖電気工業株式会社 取締役会長 川崎秀一)
他社の採用実績がない中、08年伊藤忠商事から業務と資本における協力が得られた。伊藤忠商事という大企業の信頼を得ることで、ミドリムシで世界を救うという事業が一気に加速した。スタートアップでは、5年で0から10億のビジネスを立ち上げる、5年で10倍にする等を経験することができる。スタートアップの活力や技術を大企業にうまく取り込んでいただくとともに、大企業とスタートアップの連携が加速していくことを願っている。
(株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲充)
未来のあるべき社会創造を透けて見ることが重要。それは大企業もスタートアップも同じであり、創業の理念が大切である。スタートアップの事業拡大には大企業との協業が必要であり、弊社は数多くの大企業等からの業務・資本における協力で新たな金融の仕組みを構築している。長期的目線でイノベーションを進めるには、両社の理念の下、同じ方向を向いていることが重要。このような出資関係が増えるとともに、大企業とスタートアップの連携が増えることを願っている。
(Global Mobility Service 株式会社 代表取締役 社長執行役員/CEO 中島徳至)
大企業の現場発の新規事業開発活動を通して、いかに大企業がイノベイティブになるかこそがポイント。起業家よりもイノベイティブなサラリーマンは作れるという信念で活動している。社内起業家を育成するための人財育成プログラムおよび新規事業創出プログラムに予算をしっかりと投下し、実際に新規事業をやる・やらせるという経験を継続していくことが重要。たとえば、会社全体で毎年10%の社員が5%のパワーででも価値創造活動に取り組むことができれば、10年続ければ、社員で1回も価値創造活動をしたことがない人の方が少なくなる。すべての大企業は新規事業開発力を備えることができると確信し、大企業から数々のイノベーションが起こる日本経済をつくりたい。
(株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO 麻生 要一)
大企業で新規事業をやろうとすると初年度売上の壁にぶつかることが多い。そのような呪縛を離した上で、予算を投下し、10年くらいコミットして続けることが重要。また、経営者は、価値創造活動を黙認しつつ、時には防御壁になることで、NANDフラッシュのような新たな技術が生まれたりする。経営者が価値創造活動を行う社員を見守り、大企業から新しい事業が生み出されることを願っている。
(MISTLETOE Chief Investment Officer 兼 Spirete 代表取締役 中島 徹)
取り組みが進んでいる企業は大きな投資をしている。数多くの事例(小さい失敗)から、次の勝ち筋を早く見つけることができる。スピーディに新規事業をビジネス化するにはオープンイノベーションが重要。一緒に作る、パートナーシップの意味での対等な関係を築き、大企業同士、大企業とスタートアップとのオープンイノベーションが加速することを願っている。
(Plug and Play Japan 株式会社 執行役員 CMO 藤本 あゆみ)
<ファシリテーター総括コメント>
イノベーション100委員会において、優れた経営活動を進めている経営者の皆さんや加速支援者の皆さんと率直な議論を行うことが出来た。経営者の皆さんの鋭い時代感覚、変革へのコミットメント、具体的な事例に触れることにより、変革がすでに始まっていることを実感した。今後は、経営者のみならず、ミドルも含めた変革の事例が多数生まれることにより暗黙知が実践知に昇華されることで、日本の産業界の一層の飛躍が可能であると強く感じた。
(一般社団法人 Japan Innovation Network 代表理事 西口 尚宏)
(つづく)Y.H
(出典)
経済産業省 イノベーション100委員会
日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針~イノベーション・マネジメントシステムのガイダンス規格(ISO56002)を踏まえた手引書~
日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針