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ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。
文部科学省の令和4年版科学技術・イノベーション白書を紹介します。
■我が国の研究力~科学技術立国の実現~
(我が国の研究力の現状)
科学技術・イノベーションの創出は、我が国及び人類社会の将来の発展をもたらす源泉であり、我が国は、例えば、青色発光ダイオードの発明によるLED照明の実用化、ヒトiPS細胞の樹立による再生医療の実用化への展開など、科学技術・イノベーションに関わる多くの分野で世界に誇れる数多くの成果を上げています。一方で、近年、研究力を測る主要な指標である論文指標については、国際的な地位の低下が続いており、研究力の低下が懸念される状況です。国際比較において、論文数は、20年前(1997-1999年の平均)は米国に次ぐ第2位でしたが、直近(2017-2019年の平均)は第4位、また、注目度の高い論文数(Top10%補正論文)は、20年前は第4位でしたが、直近は第10位になっています。
(岸田内閣の成長戦略の柱~科学技術・イノベーション~)
岸田内閣総理大臣の下、政府では「成長と分配の好循環」をコンセプトに「新しい資本主義」の実現を目指しています。成長を目指すことは極めて重要であり、その実現に向けて全力で取り組むとともに、成長の果実を、しっかりと分配することで、次の成長を実現するものです。「成長も、分配も」実現するため、あらゆる政策を総動員します。「新しい資本主義」実現のための成長戦略について、岸田総理大臣は、令和3年10月の所信表明演説で、「成長戦略の第一の柱は、科学技術立国の実現」であることを表明しました。また、分配戦略について、「人への投資の抜本強化」を柱に据えています。「新しい資本主義」、「科学技術立国」の実現に向け、科学技術分野の人材育成、世界最高水準の研究大学を形成するための大学ファンドや先端科学技術への大胆な投資、スタートアップへの徹底支援などを推進します。
(科学技術・イノベーション基本法への改正)
ICT、AI、ゲノム編集技術など科学技術の急速な進展によって、科学技術・イノベーションと人間や社会の在り方は密接不可分の関係となっています。現代の複雑な諸課題に対峙していくためには、人間や社会の在り方を研究対象とする人文・社会科学の「知」も含めた「総合知」を活用した科学技術・イノベーションの振興が必要です。こうした背景を踏まえ、令和2年、科学技術基本法の改正が行われ、「イノベーションの創出」が柱の一つに据えられるとともに、従来、同法の対象とされていなかった人文・社会科学(法では「人文科学」と記載)のみに係るものが対象に加えられました。
(第6期科学技術・イノベーション基本計画)
我が国では、科学技術・イノベーション基本法に基づき、科学技術・イノベーション基本計画(以下「基本計画」という。)を5年ごとに策定しており、令和3年4月より、現在の第6期基本計画が開始されました。同計画では、Society 5.0の実現のため、多様性や卓越性を持った「知」を創出し続ける、世界最高水準の研究力を取り戻すことが規定されています。
(Society5.0とは)
我が国が目指すべき未来社会として、基本計画において提唱されたコンセプト。「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」であり、「直面する脅威や先の見えない不確実な状況に対し、持続可能性と強靱性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」と定義されている。
(総合知とは)
自然科学の「知」や人文・社会科学の「知」を含む多様な「知」が集い、新しい価値を創造する「知の活力」を生むこと。総合知の活用に向けては、属する組織の「矩り」を超え、専門領域の枠にとらわれず、多様な知を持ち寄るとともに、十分に時間をかけて課題を議論し、「知」を有機的に活用することで、新たな価値や物の見方・捉え方を創造するといった「知の活力」を生むアプローチが重要。
■我が国の研究力の現状と課題
近年、我が国の研究力の低下が指摘されています。今世紀における我が国の自然科学系ノーベル賞受賞者数は米国に次ぐ世界第2位ですが、この受賞者数が、必ずしも現在の我が国の研究力を示しているわけではありません。研究力を測る主要な指標である論文指標については、2000年代前半より、国際的な地位の低下が続いている状況です。定量的な指標のみをもって研究力を判断することはできませんが、このような状況は深刻に受け止めるべきです。本章では、論文数や注目度の高い論文数、論文生産に影響を及ぼす大学等の研究者数、研究者の研究時間割合、研究開発費等の各種データの推移について、主要国と比較し、我が国の研究力の現状と課題を分析します。
(我が国のノーベル賞受賞状況)
2021年(令和3年)10月5日、眞鍋淑郎博士(プリンストン大学客員研究員、国立研究開発法人海洋研究開発機構フェロー)が、クラウス・ハッセルマン博士、ジョルジョ・パリーシ博士とともに、ノーベル物理学賞に選ばれました。我が国のノーベル賞受賞者は、眞鍋博士で28人目、物理学賞では12人目となります。ノーベル賞はアルフレッド・ノーベルの遺言に基づき創設された国際的な賞です。我が国では湯川秀樹博士が1949年(昭和24年)に物理学賞を受賞して以降、自然科学系(生理学・医学賞、物理学賞及び化学賞)では計25名が本賞を受賞しました。今世紀では米国に次いで世界第2位(19人)であり、大きな存在感を示しています。
(眞鍋淑郎博士の2021年ノーベル物理学賞受賞)
眞鍋博士は、地球温暖化予測に関わる大気と海洋の動きを組み込んだ気候モデルの開発に世界で初めて成功しました。地球の気候変動は、大気、陸及び海の間で熱や水が移動し時間とともに複雑に変化が起きる現象ですが、複雑な関係をシンプルに定式化し世界で初めてコンピュータを用いて計算しました。1967年(昭和42年)に発表した論文では、地球大気中の二酸化炭素の濃度が2倍になると、地球の平均気温がおよそ2.3度上がるとし、二酸化炭素濃度の増加が地球の気温上昇を引き起こすとの予測を世界に先駆けて明らかにしました。この気候モデルは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第1次評価報告書の温暖化予測に取り入れられ、2015年(平成27年)開催の「気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」において国際枠組みとして採択された「パリ協定」にも影響を与えるなど、現在の世界の気候変動対策の基盤に活用されています。受賞発表後の末松文部科学大臣との対話においては、眞鍋博士から、「(地球物理学は)大変おもしろい分野だから、学生がもっと増えてほしい」、「好きこそ物の上手なれ。自分が好きなことをやってほしい」と、子供たちや学生たちへのメッセージをいただきました。眞鍋博士の研究成果は、地球規模の課題となっている地球温暖化の解明にとどまらず、私たちの暮らしに身近な天気予報などにも活かされています。我が国にとって大きな誇りと励みになるものです。
(論文指標)
近年、研究力を測る主要な指標である論文指標について、国際的な地位の低下が続いています。文部科学省科学技術・学術政策研究所の調査によると、2000年代前半以降の日本の大学の論文数の停滞要因として、教員の研究時間割合の低下、教員数の伸び悩み、博士課程在籍者数の停滞、原材料費のような直接的に研究の実施に関わる費用の停滞といった要因が挙げられます。なお、科学技術立国の実現に向けた最新の取組については後で紹介しています。
(論文指標の世界ランク)
主要国の自然科学系における論文数と注目度の高い(他の論文からの被引用数の高い)論文数(TOP10%補正論文数)の世界ランクを確認します。
・論文数における日本の順位は、20年前(1997-1999年の平均)は第2位でしたが、直近(2017-2019年の平均)は第4位であり、2000年代前半から低下しています。
・TOP10%補正論文数における日本の順位は、20年前は第4位でしたが、直近は第10位です。
・直近の集計における論文数は、中国、米国、ドイツ、日本の順です。
・TOP10%補正論文数は、直近の集計でインドに抜かれ、10位に順位を落としています。
(整数カウント法、分数カウント法とは)
整数カウント法、分数カウント法は論文のカウント方法である。整数カウント法は、国単位での関与の有無の集計であり、例えば日本のA大学、日本のB大学、米国のC大学の共著論文の場合、日本1件、米国1件と集計することで、「世界の論文の生産への関与度(論文を生み出すプロセスにどれだけ貢献したか)」の把握に用いられる。一方で、分数カウント法は、機関レベルでの重みづけを用いた国単位での集計であり、例えば日本のA大学、日本のB大学、米国のC大学の共著論文の場合、日本2/3件、米国1/3件と集計することで、「世界の論文の生産への貢献度(論文1件に対しどれだけ貢献をしたか)」の把握に用いられる。
(論文数とTOP10%補正論文数の推移)
論文数及びTOP10%補正論文数の推移を確認します。
・日本の論文数は、一時的な増加を除いて2005年から2015年にかけて減少し、それ以降は微増しています。
・日本のTOP10%補正論文数は一貫して減少傾向です。
(組織別の論文数の推移)
論文数の推移を組織別に見ます。
・国立大学は、2000年代半ばから減少傾向で、2016年からは微増に転じています。
・私立大学は、一貫して増加傾向です。
・国立研究開発法人等は、2000年代半ばから微減傾向です。
・企業は、バブル経済崩壊から5年後の1996年から減少傾向です。以上のように、私立大学は一貫して増加する一方、企業は1990年代半ばから、国立大学、国立研究開発法人等は2000年代半ばから減少してきたことが分かります。国立大学については2016年から微増に転じています。
(部門別・大学グループ別の論文数及びTOP10%補正論文数の推移)
論文数とTOP10%補正論文数について、部門別に分けて確認します。
・日本の論文の7割以上は大学等部門が生産しています。
・大学について、論文数シェアでグループを分け、2000年と2018年を比較すると、論文数については第1G(トップ4大学)と第3G(地方国立大学中心)が減少しています。TOP10%補正論文数については、どのグループも減少していますが、特に、第1Gと第3Gの減少幅が大きくなっています。
(論文数の要因分析)
文部科学省科学技術・学術政策研究所において、日本の大学を対象として1980年代からの論文数、研究者数、研究開発費の長期マクロデータを整備し、論文数の増減についての要因分析を行っています。分析結果からは、論文数の増減について、次のような傾向が見えています。
・1980年代後半~1990年代の主な増加要因は、博士課程在籍者数や教員数の増加・2000年代半ば~2010年の主な減少要因は、教員の研究時間割合の低下と教員数の伸び悩み
・2010年代の主な減少要因は、博士課程在籍者数や原材料費のような直接的に研究の実施に関わる費用の停滞以上のように、論文数の増減には複合的な要因が影響しますが、近年の減少要因としては、教員の研究時間割合の低下、教員数の伸び悩み、博士課程在籍者数や原材料費のような直接的に研究の実施に関わる費用の停滞といった要因が挙げられます。
(日英独の大学の論文数比較)
大学が産出する論文数についてのドイツ、英国と日本との比較します。3か国の比較から、次のような傾向が見えています。
・日本の上位大学は、ドイツより論文数が多く、英国と同程度です。
・日本の上位に続く層の大学は、ドイツと英国より、論文数が少ないです。
・日本は論文数規模の小さい大学が多いです。
以上のように、我が国は、ドイツ・英国と比べ、上位に続く層の大学の論文数が少ないことと、論文数規模の小さい大学の数が多いことが分かります。
(つづく)Y.H
(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書
科学技術・イノベーション白書