ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■その他の科学技術、イノベーションに関する取組み

(ムーンショットに関する取組)
ムーンショット型研究開発制度は、少子高齢化、大規模自然災害、地球温暖化等の我が国が抱える課題に科学技術が果敢に挑戦し将来の成長分野を切り拓いていくために9つの目標を設定している。その中で、目標の4において、「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」という目標を掲げ、地球環境再生のために持続可能な資源循環の実現による地球温暖化問題の解決(Cool Earth)と環境汚染問題の解決(Clean Earth)を目指している。

目標5においては「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出」という目標を掲げ、食料生産と地球環境保全の両立を目指している。

(ゼロエミッション国際共同研究センターについて)
令和2年1月29日に産業技術総合研究所はゼロエミッション国際共同研究センターを設置した。当該センターにおいては、国際連携の下、再生可能エネルギー、蓄電池、水素、二酸化炭素分離・利用、人工光合成等、革新的環境イノベーション戦略の重要技術の基盤研究を実施している他、クリーンエネルギー技術に関するG20各国の国立研究所等のリーダーによる国際会議(RD20)や、東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会(ゼロエミベイ)の事務局を担うなど、イノベーションハブとしての活動を推進している。

(農林水産業に関する取組)
農林水産省は、中長期的な視点で取り組むべき研究開発に加えて、農業現場の課題を科学の力で克服していくため、明確な開発目標の下、現場での実装を視野に入れた技術開発を推進している。例えば、食料の安定供給や農業の生産性向上等を目標に、超多収性作物、不良環境耐性作物、生涯生産性の高い牛等の作出に係る研究を行っている。また、食料自給率の目標達成のため、品質や加工適性等の面で画期的な特性を有する食用作物及び飼料作物の開発や、国産飼料の活用等による畜産物の差別化・高品質化技術の開発に取り組んでいる。

また、衛星測位情報や画像データ等を活用した農業機械の自動走行システム、野菜・果樹の収穫ロボット化等のスマート農業技術の開発や生産現場への導入効果を経済面から明らかにするスマート農業実証プロジェクトを全国182地区で展開した(令和4年3月時点)。さらに、実証成果の普及のため、取組内容を紹介するパンフレットや、実証に参加した農業者や学生の『生の声』を取りまとめた動画、令和2年度採択地区の初年度成果を公表した。加えて、「福島イノベーション・コースト構想」の実現に向け、ICTやロボット技術などを活用した農林水産分野の先端技術の開発を行うとともに、現場が新たに直面している課題の解消に資する現地実証や社会実装に向けた取組を推進した。スマート農業の社会実装を加速化するため、これまでの現場での課題を踏まえ、スマート農業推進総合パッケージ(令和2年10月策定、令和3年2月改訂)として施策の方向性を取りまとめた。

この総合パッケージに基づき、実証の着実な実施や成果の普及、農作業受託や農業機械のシェアリング等を行う農業支援サービスの育成、農業現場への実装に際して安全上の課題解決が必要なロボット技術の安全性の検証やルール作りを進めた。また、農業現場におけるデータ活用の促進に向けて関係省庁とも連携して農業情報の標準化や農業機械等のデータ連携を図るオープンAPIの整備に向けた検討に取り組み、令和3年2月に、農機メーカーやICTベンダー等の事業者の対応指針を「農業分野におけるオープンAPI整備に関するガイドライン」として策定した。このほか、様々なデータの連携・提供が可能なデータプラットフォーム「農業データ連携基盤(WAGRI)」を活用した農業者向けのICTサービスが展開されているほか、農業生産のみならず流通・加工・消費・輸出までをデータでつなぎ、フードチェーンの最適化を目指す「スマートフードチェーン」の研究開発を進めている。

また、SDGsや環境を重視する国内外の動きが加速する中、我が国として持続可能な食料供給システムを構築し、国内外を主導していくことが急務となっている。このため、農林水産省では、令和3年5月に、我が国の食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を策定し、実現に向けて生産者、事業者、消費者等の関係者が戦略の基本理念を共有するとともに、環境負荷低減につながる技術開発、地域ぐるみの活動を促進するため、「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律案(通称みどりの食料システム法案)」を第208回国会に提出した。

土木研究所は、食料供給力強化に貢献する積雪寒冷地の農業生産基盤の整備・保全管理に関する研究、食料供給力強化に貢献する寒冷海域の水産基盤の整備・保全に関する研究を実施している。農林水産省は、農林水産分野における気候変動緩和技術として、令和2年度からバイオ炭やブルーカーボン、木質バイオマスのマテリアル利用による炭素吸収源対策技術の開発に取り組んでいるほか、水田・畑作・園芸施設等の現場における温室効果ガス排出削減と生産性向上を両立する気候変動緩和技術の実装スケールでの開発、炭素貯留能力に優れた造林樹種の育種期間を大幅に短縮する技術の開発を新たに開始している。また、牛の消化管内発酵由来メタン排出削減技術等の開発や、BNI強化作物の開発や利用、AWDの実用化などの国際連携を通じた農業分野における温室効果ガス排出削減技術の開発等を推進している。さらに、気候変動適応技術として、流木災害防止・被害軽減技術、病害虫や侵略的外来種の管理技術の開発に取り組んでいる。

農林水産省は、民間企業等における海外の有用な植物遺伝資源を用いた新品種開発を支援するため、特にアジア地域の各国との2国間共同研究を推進し、海外植物遺伝資源の調査・収集及びその評価を行っている。また、農業・食品産業技術総合研究機構は、農業生物資源ジーンバンク事業として、農業に係る生物遺伝資源の収集・保存・評価・提供を行っている。文部科学省は、我が国で日常摂取される食品の成分を収載した「日本食品標準成分表」を公表している。日本食品標準成分表の充実・利活用を含めた在り方等の検討を目標として、現代型の食生活に対応した質の高い情報の集積が求められていることを踏まえた食品成分分析等の調査を行った。

(乳用牛の胃から、メタンの発生抑制が期待される新種の細菌を発見)
―牛のげっぷ由来のメタン排出削減への貢献に期待―

農業・食品産業技術総合研究機構は、乳用牛の胃から、メタンの発生抑制が期待できる新種の細菌を発見した。令和3年11月の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において、世界全体のメタン排出量を2030年までに2020年比30%削減することを目標とするグローバル・メタン・プレッジが発足し、100か国以上が参加を表明するなど、温室効果ガスであるメタンの排出削減は国際的に重要な課題になっている。

特に、牛などの反すう動物のげっぷにはメタンが含まれており、牛1頭から1日当たり200~600リットルのメタンがげっぷとして放出されている。年間に換算するとその量は全世界で約20億トン(二酸化炭素換算)と推定され、これは全世界で発生している温室効果ガスの約4%(二酸化炭素換算)を占めると考えられている。このような中、新たな細菌は乳用牛の第一胃で発見された。第一胃では微生物の働きで飼料が分解・発酵され、メタンやプロピオン酸が生成されている。プロピオン酸は牛のエネルギー源として利用される物質で、第一胃においてプロピオン酸が多く作られると、メタンは逆に作られにくくなることが分かっている。この新たな細菌は、プロピオン酸の元となる物質を、今までに知られていた細菌より多く作る特徴があることから、メタンの発生抑制が期待できることが分かった。今後、研究が進み、第一胃でエネルギー源のプロピオン酸を多く生成できるようになれば、乳用牛をはじめとした反すう動物からのメタン発生の削減やエネルギー効率を高めることによる生産性の向上への貢献も期待されている。

(社会インフラ設備の省エネ化・ゼロエミッション化に向けた取組)
国土交通省は、技術のトップランナーを中核とした海事産業の集約・連携強化を図るため、次世代船舶(ゼロエミッション船等)の技術開発支援を行うとともに、環境省と連携し、LNG燃料システム及び最新の省CO₂機器を組み合わせた先進的な航行システムの普及を図るためのLNG燃料船の導入促進事業を行った。海上・港湾・航空技術研究所は、船舶からの二酸化炭素排出量の大幅削減に向け、ゼロエミッションを目指した環境インパクトの大幅な低減と社会合理性を兼ね備えた環境規制の実現に資する基盤的技術に関する研究を行っている。また、国内外に広く適用可能なブルーカーボンの計測手法を確立することを目的に、大気と海水間のガス交換速度や海水と底生系間の炭素フロー等の定量化など、沿岸域における現地調査や実験を推進している。

土木研究所は、下水道施設を核とした資源・エネルギー有効利用に関する研究を実施している。国土技術政策総合研究所は、温室効果ガス排出を抑制しエネルギー・資源を回収する下水処理技術に関する研究を行っている。海上・港湾・航空技術研究所は、海中での施工、洋上基地と海底の輸送・通信等に係る研究開発、海洋資源・エネルギー開発に係る基盤的技術の基礎となる海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷軽減手法の開発・高度化に関する研究を行っている。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書