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■レジリエントで安全・安心な社会の構築
政府は、頻発化・激甚化する自然災害に対し、レジリエントな社会の構築を目指している。あわせてサイバー空間等の新たな領域における攻撃や、新たな生物学的な脅威から、国民生活及び経済社会の安全・安心を確保するとともに、先端技術の研究開発を推進し、適切な技術流出対策の実施も行っていくこととしている。
(頻発化、激甚化する自然災害への対応)
1.予防力の向上
文部科学省は、「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」において、政府関係機関、地方公共団体や民間企業等が保有する地震観測データを統合し官民連携による超高密度地震観測システムを構築するとともに、実大三次元震動破壊実験施設を用いた非構造部材(配管、天井等)を含む構造物の崩壊余裕度に関するセンサー情報等を収集し、都市機能維持の観点から官民一体の総合的な災害対応や事業継続、個人の防災行動等に資する多種多様かつ大量なデータを集積し、産官学で共有・解析することで、新たな価値の創出につながる取組を進めている。
国土交通省は、海上・港湾・航空技術研究所等との相互協力の下、全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS)の構築・運営を行っており、全国各地で観測された波浪・潮位観測データを収集し、ウェブサイトを通じてリアルタイムに広く公開している。
土木研究所は、顕在化・極端化してきた河川災害の被害軽減技術開発及び顕在化してきた津波や海面上昇による被害の軽減技術開発、突発的な自然現象による土砂災害の防災・減災技術の開発、極端気象がもたらす雪氷災害による被害を軽減するための技術開発を実施している。
建築研究所は、自然災害による損傷や倒壊の防止等に資する建築物の構造安全性を確保するための技術開発や建築物の継続使用性を確保するための技術開発等を実施している。
海上・港湾・航空技術研究所は、地震災害の軽減及び地震後の早期復旧・復興のため、沿岸域における地震・津波による構造物の変形・性能低下を予測し、沿岸域施設の安全性・信頼性の向上を図るための研究を実施している。
気象研究所は、大学等研究機関との連携の下、令和4年出水期に西日本を中心とする水蒸気の集中観測を実施する等により、線状降水帯の発生・維持機構を解明するための研究を一丸となって加速化するため、令和4年2月に線状降水帯の機構解明の研究を立ち上げた。さらに、気象研究所は、局地的大雨をもたらす極端気象現象を、二重偏波レーダやフェーズドアレイレーダー、GPS等を用いてリアルタイムで検知する観測・監視技術の開発に取り組んでいる。また、局地的大雨を再現可能な高解像度の数値予報モデルの開発など、局地的な現象による被害軽減に寄与する気象情報の精度向上を目的とし研究を推進している。
2.予測力の向上
我が国の地震調査研究は、地震調査研究推進本部(本部長:文部科学大臣)(以下「地震本部」という。)の下、関係行政機関や大学等が密接に連携・協力しながら行われている。
地震本部は、これまで地震の発生確率や規模等の将来予測(長期評価)を行っている。隣接する複数の領域を震源域とする東北地方太平洋沖地震や活断層を起因とした熊本地震の発生を踏まえ、長期評価の評価手法や公表方法を順次見直しつつ実施している。また、東北地方太平洋沖地震での津波による甚大な被害を踏まえ、様々な地震に伴う津波の評価を実施している。文部科学省は、南海トラフ地震を対象とした「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」を開始し、「通常と異なる現象」が観測された場合の地震活動の推移を科学的に評価する手法開発や、被害が見込まれる地域を対象とした防災対策の在り方などの調査研究を実施している。
阪神・淡路大震災以降、陸域に地震観測網の整備が進められてきた一方、海域の観測網については、陸域の観測網に比べて観測点数が非常に少ない状況であった。このため、防災科学技術研究所では、南海トラフ地震の想定震源域において、地震計、水圧計等を備えたリアルタイムで観測可能な高密度海底ネットワークシステムである「地震・津波観測監視システム(DONET)」を運用している。また、今後も大きな余震や津波が発生するおそれがある東北地方太平洋沖において、地震・津波を直接検知し、災害情報の正確かつ迅速な伝達に貢献する「日本海溝海底地震津波観測網(S-net)」を運用している。さらに、南海トラフ地震の想定震源域のうち、まだ観測網を設置していない高知県沖から日向灘の海域において、「南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)」の構築を進めた。
火山分野においては、平成26年の御嶽山の噴火等を踏まえ、平成28年度から「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」を開始し、火山災害の軽減に貢献するため、従前の観測研究に加え、他分野との連携・融合を図り、「観測・予測・対策」の一体的な研究の推進及び広範な知識と高度な技術を有する火山研究者の育成を行った。また、令和3年度から開始した「火山機動観測実証研究事業」において、火山の噴火発生や前兆現象発現などの緊急時等に、迅速かつ効率的な機動観測を実現するために必要な体制構築に係る実証研究を実施している。
国土技術政策総合研究所は、土砂・洪水氾濫発生時の土砂到達範囲・堆積深を高精度に予測するための計算手法の開発等の「激甚化する災害への対応」を行っている。防災科学技術研究所は、日本全国の陸域を均一かつ高密度に覆う約1,900点の高性能・高精度な地震計により、人体に感じない微弱な震動から大きな被害を及ぼす強震動に至る様々な「揺れ」の観測を行っている。海域においては約200点の地震計・津波計を運用しているほか、国内16火山の「基盤的火山観測網(V-net)」を含む、全国の陸域と海域を網羅する地震・津波・火山観測網である「陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS)」の本格運用を平成29年11月より開始した。MOWLASを用いた地震や津波の即時予測、火山活動の観測・予測の研究、実装を進めており、気象庁に観測データの提供を実施するほか、各研究機関や地方自治体及び鉄道事業者をはじめとする民間での観測データの活用を推進した。また、マルチセンシングに基づく土砂・風水害の発生予測に関する研究、変容する雪氷災害や沿岸災害等の自然災害による被害の軽減に資する研究等を実施している。例えば、AIを用いた積雪・冠水などの道路状況判別、過去の雨量統計情報に基づく大雨の「稀さ」を踏まえた豪雨災害危険域の抽出、レーダと積雪変質モデル等を用いた高解像度面的降積雪情報など新しい情報の創出、及び、「雪おろシグナル」提供地域拡大、ニセコ吹きだまり情報サイト構築、既存消雪装置IoT化による降雪・融雪情報の自治体提供など雪氷防災情報の社会適用、雲レーダを用いたゲリラ豪雨早期予測技術の開発等に取り組んでおり、開発された技術を活用し、民間企業との協働によるイノベーション創出を進めている。
気象庁は、文部科学省と協力して地震に関する基盤的調査観測網のデータを収集し、処理・分析を行い、その成果を防災情報等に活用するとともに地震調査研究推進本部地震調査委員会等に提供している。また、自動震源決定処理手法(PF法)を開発し導入するとともに、緊急地震速報については、東北地方太平洋沖地震で課題となった同時多発地震及び巨大地震に対応するため、IPF法及びPLUM法を導入し、更なる高度化のための技術開発を防災科学技術研究所等と協力して進めている。津波については、沖合の津波観測波形から沿岸の津波の高さを精度良く予測する手法(tFISH)を導入している。
気象研究所は、津波災害軽減のための津波地震などに対応した即時的規模推定や沖合の津波観測データを活用した津波予測の技術開発、南海トラフで発生する地震の規模、破壊領域やゆっくりすべりの即時把握に関する研究、火山活動評価・予測の高度化のための監視手法の開発などを実施している。
産業技術総合研究所は、防災・減災等に資する地質情報整備のため、活断層・津波堆積物調査や活火山の地質調査を行い、その結果を公表している。全国の主要活断層に関しては、地震発生確率や最新活動時期が不明な活断層のうち5つ(標津、津軽山地西縁、濃尾、菊川、雲仙)を調査し、地震発生確率や規模の算出に必要なデータ等を取得した。また、活断層データベースのデータ更新やシステム改善を実施した。津波堆積物については、日本海溝南部の千葉県九十九里浜において、歴史記録にない約1,000年前の津波浸水の証拠を提示し、それを説明するための波源の断層モデルを構築した。そのほか、南海トラフ巨大地震の短期予測に資する地下水等総合観測点を運用・整備し、地下水位(水圧)、地下水温、地殻歪や地震波の常時観測を継続した。
火山に関しては、噴火活動があった福徳岡ノ場及び阿蘇中岳に対して、衛星データ解析や現地調査、火山噴出物の観測・分析等を行い、現在の噴火の規模・様式等の解明や今後の活動推移予測に資する情報を取得し、関係省庁や自治体等への情報提供やウェブ発信を実施した。海洋研究開発機構は、南海トラフの想定震源域や日本周辺海域・西太平洋域において、研究船や各種観測機器等を用いて海域地震や火山に関わる調査・観測を大学等の関係機関と連携して実施している。さらに、これら観測によって得られるデータを解析する手法を高度化し、大規模かつ高精度な数値シミュレーションにより地震・火山活動の推移予測を行っている。国土地理院は、電子基準点等によるGNSS連続観測、超長基線電波干渉法(VLBI)、干渉合成開口レーダー(InSAR)等を用いた地殻変動やプレート運動の観測、解析及びその高度化のための研究開発を実施している。
また、気象庁、防災科学技術研究所、神奈川県温泉地学研究所、東京大学地震研究所等による火山周辺のGNSS観測点のデータも含めた火山GNSS統合解析を実施し、火山周辺の地殻変動のより詳細な監視を行っている。海上保安庁は、GNSS測位と音響測距を組み合わせた海底地殻変動観測や海底地形等の調査を推進し、その結果を随時公表している。気象庁は、線状降水帯の予測精度向上等に向けた取組を強化・加速化している。令和3年6月には、線状降水帯の発生をいち早くお知らせする「顕著な大雨に関する気象情報」の運用や、九州の西から南東の沖合を中心に海上保安庁と連携した洋上観測を開始した。
(コラム:地下の地質構造を立体的に表現する次世代の地質図(地質地盤図))
我が国では大都市の多くが海に面した平野部に立地しており、ひとたび大地震が発生すると、湾岸地域で液状化現象が生じたり軟弱地盤によって揺れが増幅したりして、都市インフラに甚大な被害が生じる。このような災害リスクを適切に評価し効率的に都市インフラを整備するために、地下浅部の地質地盤に関する情報が極めて重要である。しかし、従来の平面的な地質図では地下の地質構造を正確に表現することが難しかった。そうした背景を踏まえ、産業技術総合研究所では、都市域の地下地質を3次元的に可視化する新たな地質図「地質地盤図」の整備を進めており、平成30年には千葉県北部地域、令和3年には東京都区部の地質地盤図をウェブ公開した。
地質地盤図は、独自に掘削採取したボーリングコア試料に見られる地層の特徴や年代、物性などを基に基準となる地質層序を構築した上で、自治体から提供を受けた数万地点分もの土木・建築用ボーリングデータについて地層の対比を行い、地下の地質構造を3次元的に解析することで作成されている。地質地盤図の整備により、最終氷期(最盛期は約2万年前)に海面の低下によって形成された谷を埋める軟弱な堆積物(沖積層)の分布がこれまでにない精度で描き出された。さらに、良好な地盤と考えられていた武蔵野台地の地下にも、軟らかい泥層が谷埋め状に分布することも明らかになった。
地質地盤図では、地下の地層の3次元的な広がりをパソコン画面上で立体図として、誰でも簡単に閲覧することができる。また、任意箇所の地質断面図を作成することができ、興味のあるエリアを拡大して詳細に見ることも可能である。今後、地質地盤図の利活用が進むことにより、地質災害リスク評価や都市インフラ整備の高精度化・効率化が進展するだけでなく、地下水流動や地質汚染調査、不動産取引などへの貢献も期待される。
(つづく)Y.H
(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書
科学技術・イノベーション白書