ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■自然災害への対応力の向上

SIP第1期「レジリエントな防災・減災機能の強化」(平成26~30年度)において開発した、災害情報を電子地図上で集約し、関係機関での情報共有を可能とするシステムである「基盤的防災情報流通ネットワーク」(SIP4D)を活用し、令和3年7月1日からの大雨、令和3年8月の大雨において、内閣府(防災担当)が運用する「災害時情報集約支援チーム(ISUT)」が、関係府省庁や地方自治体、指定公共機関の災害対応に対して情報面からの支援を行った。また、平成30年度より開始したSIP第2期「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」において、衛星、AIやビッグデータ等の最新の科学技術を最大限活用した災害発生時に国や市町村の意思決定の支援を行う情報システムを構築するため、研究開発及び社会実装を推進している。

災害時にSNS上で、AIを活用し人間に代わって自動的に被災者と対話するシステムである防災チャットボット等について、自治体等との実証実験を通じた研究開発を進めている。また、準天頂衛星システム「みちびき」のサービスを平成30年11月1日に開始し、みちびきを経由して防災気象情報の提供を行う災害・危機管理通報サービス及び避難所等における避難者の安否情報を収集する安否確認サービスの提供を行っている。

総務省は、情報通信等の耐災害性の強化や被災地の被災状況等を把握するためのICTの研究開発を行っている。また、これまで総務省が実施してきた災害時に被災地へ搬入して通信を迅速に応急復旧させることが可能な通信設備(移動式ICTユニット)等の研究成果の社会実装や国内外への展開を推進している。防災科学技術研究所は、各種自然災害の情報を共有・利活用するシステムの開発に関する研究を実施するとともに、必要となる実証と、指定公共機関としての役割に基づく行政における災害対応の情報支援を行っている。令和3年7月1日からの大雨、令和3年8月の大雨においては、「SIP4D」に収集された情報や被災地で収集された情報を一元的に集約し、各災害に関連した過去の情報や分析結果等とともに、「防災クロスビュー」(bosaiXview;一般公開)やISUT-SITE(災害対応機関に限定公開)と呼ばれる地図を表示するウェブサイトを介して災害対応機関へ情報発信を行い、状況認識の統一等を支援した。

消防庁消防研究センターでは、令和3年度からの新たな5年間の研究計画を設定し、①ドローンなどを活用した土砂災害時の消防活動能力向上に係る研究開発、②地震発生時の市街地火災による被害を抑制するための研究開発、③危険物施設における地震災害を抑制するための研究を自然災害への対応として進めているところである。情報通信研究機構は、天候等にかかわらず災害発生時における被災地の地表状況を随時・臨機に観測可能な航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR)の高度化を実施している。また、機構等が開発した、公衆通信網途絶地域においてサーバ機能を内蔵する可搬型通信装置同士を物理的に移動させ、装置同士が接近時に高速無線通信を行うことにより情報を同期して共有できるシステムについては、自治体への導入等が行われている。

そのほか、SNSへの投稿をリアルタイムに分析し災害関連情報を抽出する情報分析技術の開発では、利便性を向上させたユーザーインターフェースを整備し、自治体等と連携して、防災訓練等での実証実験に取り組んでいる。国土技術政策総合研究所は、地震を受けた地方自治体の拠点建築物(庁舎等)の健全性迅速判定技術の開発、災害後における居住継続のための自立型エネルギーシステムの設計目標に関する研究を行っている。

土木研究所は、国内外の水災害に対応するリスクマネジメント支援技術の開発、大地震に対する構造物の被害最小化技術・早期復旧技術の開発を実施している。宇宙航空研究開発機構は、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)などの人工衛星を活用した様々な災害の監視や被災状況の把握に貢献している。また、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて、経済産業省は、EdTechの学校への導入や在宅教育を促進するオンライン・コンテンツの開発を進めることとした。また、越境ECの利活用促進や、デジタル商談プラットフォームの構築、スマート保安の推進など、非対面・遠隔での事業活動への支援を充実することとした。

(観測・予測データを統合した情報基盤の構築等)
文部科学省は、「地球環境情報プラットフォーム構築推進プログラム」において、地球環境ビッグデータ(観測情報・予測情報等)を蓄積・統合解析し、気候変動等の地球規模課題の解決に資する情報基盤として、「データ統合・解析システム(DIAS)」を開発し、これまでに国内外の研究開発を支えつつ、台風等による洪水を予測するシステム等の成果を創出してきた。また、研究者や企業等国内外の多くのユーザーに長期的・安定的に利用されるための運営体制を構築するとともに、エネルギー、気象・気候、防災や農業等の社会的課題の解決に資する共通基盤技術の開発を推進している。また、宇宙航空研究開発機構と共同で開発した超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES)で取得されたデータを解析することにより、新たな知見に基づく地球環境変動への警告を行うとともに、観測データの無償公開を令和2年度より開始した。

また、温室効果ガス観測技術衛星GOSATをはじめとした地球環境観測データの独自な数理アルゴリズム解析を推進している。さらに、電波の伝わり方に影響を与える、太陽活動及び地球近傍の電磁環境の監視・予警報を配信するとともに、宇宙環境観測データの収集・管理・解析・公開を統合的に行っている。また、これらの観測技術及び論理モデルとAIを用いた予測技術を高度化する宇宙環境計測・予測技術の開発を進めている。さらに、気象庁では、「ひまわり8号」及び「ひまわり9号」を運用し、熱帯低気圧や海面水温等を観測しており、我が国のみならずアジア太平洋地域の自然災害防止や気候変動監視等に貢献している。

(デジタル化等による効率的なインフラマネジメント)
内閣府は、PRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)「革新的建設・インフラ維持管理技術/革新的防災・減災技術領域」において、i-Constructionの推進等の関係府省の施策に追加予算を配分し、これを加速することにより、イノベーション転換等を推進する。また、着実かつ効率的なインフラメンテナンスを実現するとともに、データの効果的な活用がもたらすオープンイノベーションの加速を図るため、国と地方公共団体、民間のデータを連携させる国土交通データプラットフォームの構築を国土交通省と連携し、推進している。この取組を中心に、内閣府において「連携型インフラデータプラットフォーム」の構築を進め、令和3年度にモデル事業においてデータ連携を試行した。

国土交通省は、社会インフラの維持管理及び災害対応の効果・効率の向上のためにロボットの開発・導入を推進している。国土交通省は、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいてICT等を活用する「i-Construction」を推進し、令和7年度までに建設現場の生産性2割向上を目指している。さらに、新型コロナウイルス感染症対策を契機として、デジタル技術を活用して、管理者側の働き方やユーザーに提供するサービス・手続なども含めて、インフラ周りをスマートにし、従来の「常識」を変革する「インフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)」を推進しており、例えば、3Dハザードマップを活用したリアルに認識できるリスク情報の提供、現場にいなくても現場管理が可能になるリモートでの立会いによる監督検査やデジタルデータを活用した鉄筋検査の試行、及び無人化施工・自動化施工等に取り組んでいる。令和3年度末には施策ごとの今後の具体的な工程や「実現できる事項」を示したアクションプランを策定した。令和4年はアクションプランの具体的な工程に基づき、DXによる変革に果敢に取り組む「挑戦の年」として一層取組を加速化していく。

国土地理院は、「i-Construction」を推進し、インフラ分野のDXを加速させるため、調査・測量、設計、施工、検査、維持管理・更新の各工程で使用する位置情報の共通ルール「国家座標」を整備している。また、3D測量の正確性・効率性・信頼性向上に資する測量新技術に関する技術開発を行っている。

国土技術政策総合研究所では、建設事業のDX化による労働生産性向上に向けて、BIM/CIMモデル等のデジタルデータの活用に向けたシステムの検討、新技術の活用・施工現場データの分析に基づく建設技能者の作業改善による労働生産性向上・安全性向上に繋がる技術開発を行う「建設事業各段階のDXによる抜本的な労働生産性向上に関する研究」を行っている。そのほか、国土交通省本省関連部局と連携し、既存の住宅・社会資本ストックの点検・補修・更新等を効率化・高度化し、安全に利用し続けるため、下水道施設の効率的な維持管理手法の開発、既存建築物や敷地の利活用に関する手法・技術の開発を行っている。

土木研究所は、橋梁、舗装及び管理用施設を対象とした既設構造物の効果的(効率化・高度化)なメンテナンスサイクルの実施に資する手法の開発、並びに橋梁、土工構造物及びトンネルを対象とした管理レベルに対応した維持管理や長寿命化を可能とする構造物の更新・新設手法の開発、凍害・複合劣化等を受けるインフラの維持管理・更新技術の横断的(道路・河川・港湾漁港・農業分野)技術開発と体系化について進めている。

航空技術研究所は、我が国の経済・社会活動を支える沿岸域インフラの点検・モニタリングに関する技術開発や、維持管理の効率化及びライフサイクルコストの縮減に資する研究を実施している。物質・材料研究機構は、社会インフラの長寿命化・耐震化を推進するために、我が国が強みを持つ材料分野において、インフラの点検・診断技術、補修・更新技術、材料信頼性評価技術や新規構造材料の研究開発の取組を総合的に推進している。

(攻撃が多様化・高度化するサイバー空間におけるセキュリティの確保)
「サイバーセキュリティ基本法」(平成26年法律第104号)に基づき、サイバーセキュリティに関する施策を総合的かつ効果的に推進するため、内閣に設置された「サイバーセキュリティ戦略本部」(本部長:内閣官房長官)での検討を経て、令和3年9月28日に「サイバーセキュリティ戦略」を閣議決定した。これに基づき、サイバーセキュリティに関する技術の研究開発を推進している。内閣府は、平成30年度より、SIP「IoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティ」に取り組んでいる。本課題では、セキュアなSociety5.0の実現に向け、IoTシステム・サービス及び中小企業を含む大規模サプライチェーン全体を守ることに活用できる「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策基盤」の開発と実証を行い、多様な社会インフラやサービス、幅広いサプライチェーンを有する製造・流通・ビル等の各産業分野への社会実装を推進している。

総務省は、情報通信研究機構等を通じて、サイバー攻撃観測やサイバーセキュリティ分野の研究開発を推進している。さらに、当該研究開発等を通じて得た技術的知見を活用して、巧妙化・複雑化するサイバー攻撃に対し、実践的な対処能力を持つセキュリティ人材を育成するため、同機構に組織した「ナショナルサイバートレーニングセンター」において、国の機関、地方公共団体等を対象とした実践的サイバー防御演習(CYDER)の実施や、若手セキュリティ人材の育成(SecHack365)に取り組んでいる。また、同機構が有するこれらの技術・ノウハウや情報を中核として、同機構において、我が国のサイバーセキュリティ情報の収集・分析とサイバーセキュリティ人材の育成における産学の結節点となる「サイバーセキュリティ統合知的・人材育成基盤」(CYNEX)を構築し、試験運用を実施している。経済産業省は、IoTやAIによって実現される「Society5.0」におけるサプライチェーン全体のサイバーセキュリティ確保を目的として、産業に求められる対策の全体像を整理した「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF)」を平成31年4月に策定し、CPSFに基づく産業分野別(工場、電力、自動車等)のガイドラインの作成等を進めている。

また、CPSFに連なる考え方として、サイバー空間におけるデータの取扱いやIoT機器のセキュリティに係るフレームワークの作成を進めている。平成30年11月に産業技術総合研究所が設立した「サイバーフィジカルセキュリティ研究センター」では、サイバー空間とフィジカル空間が融合する中で、高度化・複雑化する脅威の分析と、脅威に対するセキュリティ強化技術の研究開発を推進・実施している。また重要インフラや我が国経済・社会の基盤を支える産業における、サイバー攻撃に対する防護力を強化するため、情報処理推進機構に設置する産業サイバーセキュリティセンターにおいて、官民の共同によりサイバーセキュリティ対策の中核を担う人材の育成等の取組を推進している。

経済産業省は、非対面・遠隔での活動の基盤として、サイバーセキュリティに関する検証技術構築支援や中小企業の対策支援を行うとともに、中小企業のデジタル化促進のための設備投資を後押しすることとしている。

(新たな生物学的な脅威への対応)
新型コロナウイルス感染症に対する研究開発等については、治療法、診断法、ワクチン等に関する研究開発等に対して支援を行っている。治療法については、新型コロナウイルスの国内感染例が確認されて以降、迅速に治療薬を創出する観点から、当初は既存治療薬を用いてその有効性・安全性の検討を行うドラッグリポジショニングによる研究開発を中心に日本医療研究開発機構を通じて支援してきたところである。また、新規創薬の観点から、基礎研究及び臨床研究等に対して支援を行い、SARS-CoV-2増殖阻害活性を示す複数の新規化合物を見出す等の成果が得られている。診断法についても日本医療研究開発機構を通じ、遺伝子増幅の検査に関する迅速診断キット、抗原迅速診断キット、検査試薬等の基盤的研究を支援し、実用化されたほか、抗体検査キットの性能評価結果については、厚生労働行政推進調査事業費補助金による研究事業において作成された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引きに反映された。

また、ウイルス等感染症対策技術の開発事業において、感染症の課題解決につながる研究開発や、新型コロナウイルス感染症対策の現場のニーズに対応した機器・システムの開発・実証等への支援を実施した。ワクチンについては、国内におけるワクチンの開発の加速・供給体制強化の要請に対応するため、日本医療研究開発機構を通じて、国内の企業・大学等による基礎研究、非臨床研究、臨床研究の実施を支援しており、治験の最終段階に入ったものもある。また、今回のパンデミックを契機にわが国においてワクチン開発を滞らせた要因を明らかにし、解決に向けて政府が一体となって必要な体制を再構築し、長期継続的に取り組む国家戦略として「ワクチン開発・生産体制強化戦略」(令和3年6月1日閣議決定)を策定した。この戦略に基づき、今後の感染症有事に備えた平時からの研究開発・生産体制強化のため、日本医療研究開発機構に先進的研究開発戦略センター(SCARDA(スカーダ))を設置し、医学、免疫学等の様々な専門領域や、バイオ医薬品の研究開発・実用化、マネジメントに精通した人材によるリーダーシップの下、国内外の感染症・ワクチンに関する情報収集・分析を幅広く行う体制を整備し、ワクチン研究開発・実用化の全体を俯瞰して研究開発支援を進めている。

この新たな体制の下では、新たな創薬手法による産学官の実用化研究の集中的な支援、世界トップレベルの研究開発拠点の形成、創薬ベンチャーの育成等の事業に取り組む。また、日本医療研究開発機構における取組の他にも、デュアルユースのワクチン製造拠点の整備等、ワクチンの迅速な開発・供給を可能にする体制の構築のために必要な取組を行っている。そのほか、新型コロナウイルスの流行により、グローバルな対応体制の必要性が改めて明らかになったことを踏まえ、日本医療研究開発機構を通じた支援により、国内外の感染症研究基盤の強化や基礎的研究を推進(「新興・再興感染症研究基盤創生事業」(文部科学省所管))するとともに、感染症有事の抜本的強化として、感染症危機対応医薬品等の実用化に向けた開発研究まで一貫して推進している(「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」(厚生労働省所管))。また、日本が主導するアジア地域における臨床研究・治験を進めるための基盤構築を進めているところである(「アジア地域における臨床研究・治験ネットワーク構築事業」(厚生労働省所管))。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の早期探知のため、無症状者に焦点を当てたPCR検査等を行うモニタリング検査を実施したほか、アカデミアや企業から研究テーマの公募を行い、スーパーコンピュータ「富岳」を用いた飛沫シミュレーションをはじめとする感染拡大防止に資する新技術に係る研究開発や、新規陽性者数・重症者数等の感染状況に関するシミュレーションを実施した。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書