ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■宇宙・海洋分野等の安全・安心への脅威への対応

(宇宙分野の研究開発の推進)
今日、測位・通信・観測等の宇宙システムは、我が国の安全保障や経済・社会活動を支えるとともに、Society5.0の実現に向けた基盤としても、重要性が高まっている。こうした中、宇宙活動は官民共創の時代を迎え、広範な分野で宇宙利用による産業の活性化が図られてきている。また、宇宙探査の進展により、人類の活動領域が地球軌道を越えて月面、深宇宙へと拡大しつつある中、「はやぶさ2」による小惑星からのサンプル回収の成功は、我が国の科学技術の水準の高さを世界に示し、その力に対する国民の期待を高めた。宇宙は科学技術のフロンティア及び経済成長の推進力として、更にその重要性を増しており、我が国におけるイノベーションの創出の面でも大きな推進力になり得る。こうした認識の下、政府は「宇宙基本計画」(令和2年6月30日閣議決定)に基づき、我が国の宇宙開発利用を国家戦略として、総合的かつ計画的に強力に推進している。

(1)宇宙輸送システム
宇宙輸送システムは、人工衛星等の打上げを担う宇宙開発利用の重要な柱であり、希望する時期や軌道に人工衛星を打ち上げる能力は自立性確保の観点から不可欠な技術基盤といえる。我が国は、自立的に宇宙活動を行う能力を維持・発展させるとともに、国際競争力を確保するため、平成26年度からH3ロケットの開発に着手し、各種燃焼試験等を実施している。また、イプシロンロケットについて、より一層の打上げコスト低減と基幹ロケットの高い信頼性との両立や衛星の運用性向上等により国際競争力を強化することを目的として、令和2年度からイプシロンSロケットの開発を進めている。

(2)衛星測位システム
内閣府は、準天頂衛星システム「みちびき」について、平成30年11月1日に4機体制による高精度測位サービスを開始するとともに、令和5年度を目途に確立する7機体制と機能・性能向上に向け、5号機、6号機及び7号機の開発を進めている。また、「みちびき」の利用拡大に向けて関係府省が連携し、自動車や農業機械の自動走行、物流や防災分野など様々な実証実験を進めている。

(3)衛星通信・放送システム
2020年代に国際競争力を持つ次世代静止通信衛星を実現する観点から、総務省と文部科学省が連携し、電気推進技術や大電力発電、フレキシブルペイロード技術等の技術実証のため、令和5年度の打上げを目指して、平成28年度から技術試験衛星9号機の開発を行っている。

(4)衛星地球観測システム
環境省は、平成20年度に打ち上げたGOSAT及び平成30年度に打ち上げたGOSAT-2により、全球の二酸化炭素とメタンの濃度が地球規模で年々上昇している状況を明らかにしてきた。このミッションを発展的に継承し、脱炭素社会に向けた施策効果の把握を目指し、後継機GOSAT-GWを令和5年度の打ち上げに向け開発を進めている。宇宙航空研究開発機構は、地球規模での水循環・気候変動メカニズムの解明を目的に平成24年5月に打ち上げた「しずく」(GCOM-W)及び平成29年12月に打ち上げた「しきさい」(GCOM-C)の運用を行っている。

「しずく」は、平成26年2月に米国航空宇宙局(NASA)との国際協力プロジェクトとして打ち上げた全球降水観測計画(GPM)主衛星のデータとともに気象庁において利用され、降水予測精度向上に貢献するなど、気象予報や漁場把握等の幅広い分野で活用されるとともに、「しきさい」は、海外の大規模な森林火災の把握にも活用されている。現在、水循環観測と温室効果ガス観測のミッションの継続と観測能力の更なる強化を目指して「しずく」と「いぶき2号」の各々の後継センサを相乗り搭載する「温室効果ガス・水循環観測技術衛星」(GOSAT-GW)の開発を進めている。

平成26年5月に打ち上げられた「だいち2号」は、様々な災害の監視や被災状況の把握、森林や極域の氷の観測等を通じ、防災・災害対策や地球温暖化対策などの地球規模課題の解決に貢献している。現在、広域かつ高分解能な撮像が可能な先進光学衛星(ALOS-3)や先進レーダ衛星(ALOS-4)の開発を進めている。また、令和2年11月に光データ中継衛星の打上げを行い、これらの衛星間の光通信の実証に向けた取組も進めており、災害発生時の被災地の衛星データを即時に地上へ中継することが可能となるなど、将来的に迅速な災害対策に貢献することが期待されている。なお、我が国の人工衛星の安定的な運用に向けて、文部科学省及び宇宙航空研究開発機構は、平成14年度から宇宙状況把握システム(SSAシステム)を構築・運用し、地上からスペースデブリ(宇宙ゴミ)等の把握を行ってきており、今後、令和5年度を目指して、防衛省をはじめ政府機関一体となった新たなSSAシステムの構築を進めることとしている。

(5)宇宙科学・探査
宇宙科学の分野においては、宇宙航空研究開発機構が中心となり、世界初のX線の撮像と分光を同時に行う人工衛星の開発・運用や、小惑星探査機「はやぶさ」による小惑星「イトカワ」からのサンプル回収など、X線・赤外線天文観測や月・惑星探査などの分野で世界トップレベルの業績を上げている。平成27年12月に金星周回軌道へ投入された金星探査機「あかつき」は、金星大気における「スーパーローテーション」の維持メカニズムの解明につながる成果を上げ、平成26年12月に打ち上げた「はやぶさ2」は、小惑星「リュウグウ」に到着後、小惑星表面への人工クレーター作成、ひとつの小惑星への2度の着陸成功など数々の世界初の快挙を成し遂げた。令和2年12月に地球近傍に帰還した「はやぶさ2」は、搭載するカプセルを地球に向けて分離しカプセルはオーストラリアの砂漠地帯で回収された。カプセル内にはリュウグウ由来のサンプルが確認され、現在、国内外の研究機関で詳細な分析が行われており、探査機本体は、新たな小惑星の探査に向かっている(令和13年到着予定)。

このほか、欧州宇宙機関との国際協力による水星探査計画(BepiColombo)の水星磁気圏探査機「みお」(平成30年10月打上げ)が水星に向けて航行中であり、我が国初となる月への無人着陸を目指す小型月着陸実証機(SLIM)やX線分光撮像衛星(XRISM)(共に令和4年度打上げ予定)、火星衛星からサンプルリターンを行う火星衛星探査計画(MMX)(令和6年度打上げ予定)の開発など、国際的な地位の確立や人類のフロンティア拡大に資する宇宙科学分野の研究開発を推進している。また、総務省では、後述の国際宇宙探査計画(アルテミス計画)へ我が国が参画を決定したことを踏まえ、月面活動においてエネルギー資源として活用が期待される水資源の地表面探査を実現するため、令和3年度から、テラヘルツ波を用いた月面の広域な水エネルギー資源探査の研究開発を開始している。

(6)有人宇宙活動
国際宇宙ステーション(ISS)計画は、日本・米国・欧州・カナダ・ロシアの5極(15か国)共同の国際協力プロジェクトである。我が国は、日本実験棟「きぼう」及び宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の開発・運用や日本人宇宙飛行士のISS長期滞在により本計画に参加している。これまでに、有人・無人宇宙技術の獲得、国際的地位の確立、宇宙産業の振興、宇宙環境利用による社会的利益及び青少年育成等の多様な成果を上げてきている。「こうのとり」は、2009年(平成21年)の初号機から2020年(令和2年)の9号機までの全てにおいてミッションを成功させており、最大約6トンという世界最大級の補給能力や、一度に複数の大型実験装置の搭載など「こうのとり」のみが備える機能などによりISSの利用・運用を支えてきた。

現在は、「こうのとり」で培った経験を活かし、開発・運用コストを削減しつつ、輸送能力の向上を目指し、後継機である新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)の開発を進めている。また、2021年(令和3年)4月には、約半年間のISS長期滞在から帰還間近の野口聡一宇宙飛行士と、滞在を開始した星出彰彦宇宙飛行士の日本人宇宙飛行士2名がISSに同時に滞在することになった。星出宇宙飛行士は日本人2人目となるISS船長を務め、同年11月に帰還した。さらに、同年11月から2022年(令和4年)3月まで、宇宙航空研究開発機構において新しい日本人宇宙飛行士の募集を実施した。

(7)国際宇宙探査
国際宇宙探査計画「アルテミス計画」は、月周回有人拠点「ゲートウェイ」の建設や将来の火星有人探査に向けた技術実証、月面での持続的な有人活動などを民間企業の参画を得ながら国際協力により進めていく、米国が主導する計画である。我が国は、2019年(令和元年)10月にアルテミス計画への参画を決定し、欧州及びカナダも参画を表明している。上記決定を踏まえ、2020年(令和2年)7月には、文部科学省と米国航空宇宙局(NASA)との間で、月探査協力に関する共同宣言に署名した。その後、12月には、日本政府とNASAとの間で、ゲートウェイのための協力に関する了解覚書への署名が行われ、我が国がゲートウェイへの機器等を提供することや、NASAが日本人宇宙飛行士のゲートウェイ搭乗機会を複数回提供することなど、共同宣言において確認された協力内容を可能とする法的枠組みが設けられた。

(8)宇宙の利用を促進するための取組
文部科学省は、人工衛星に係る潜在的なユーザーや利用形態の開拓など、宇宙利用の裾野の拡大を目的とした「宇宙航空科学技術推進委託費」により産学官の英知を幅広く活用する仕組みを構築した。これにより、宇宙航空分野の人材育成及び防災、環境等の分野における実用化を見据えた宇宙利用技術の研究開発等を引き続き行っている。経済産業省は、石油資源の遠隔探知能力の向上等を可能とするハイパースペクトルセンサ(HISUI)の開発を進めており、令和元年12月に国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に搭載後、令和3年度は取得データの解析・利用実証を実施した。また、民生分野の技術等を活用した低価格・高性能な宇宙用部品・コンポーネントの開発支援と軌道上実証機会の提供及び量産・コンステレーション化を見据えた低価格・高性能な小型衛星汎用バス開発・実証等を行っている。加えて、ビッグデータ化する宇宙データの利用拡大の観点から、政府衛星データをオープン&フリー化するとともに、ユーザーにとって衛星データを利用しやすい環境を提供するため、衛星データプラットフォーム(Tellus)の整備を進めた。

(宇宙における食料供給システムの開発を実施)
近年、国際社会において宇宙開発利用の拡大に向けた取組が活発化している。我が国においては、宇宙における国際競争力を強化していくための重要な要素の1つとして、月や火星での持続的な有人活動で活用が期待される、QOL(Quality of Life)重視型の持続可能な食料供給システムの開発に取り組もうとしている。

農林水産省では、内閣府が創設した「宇宙開発利用加速化戦略プログラム」の一環として、令和3年度から「月面等における長期滞在を支える高度資源循環型食料供給システムの開発」戦略プロジェクトを開始した。本プロジェクトでは、将来の月面基地での食料生産を想定した閉鎖空間において、①イネ、ダイズ、イモ類などの作物を対象とした環境制御による栽培技術と発酵系等を利用した資源再生技術を組み合わせた高効率な食料供給システムの開発、②閉鎖隔離環境における心身の健康や良好な人間関係等の維持・向上を図るための食によるQOLマネジメントシステムの開発等を行うこととしている。これらを通じ、将来の宇宙での食料供給の実現に向けて研究開発を進めることにより、我が国の食料生産技術の向上が図られ、世界の食糧問題の解消等へ波及することが期待される。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書