ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■海洋分野、防衛分野の研究開発

(海洋分野の研究開発の推進)
四方を海に囲まれ、世界有数の広大な管轄海域を有する我が国は、海洋科学技術を国家戦略上重要な科学技術として捉え、科学技術の多義性を踏まえつつ、長期的視野に立って継続的に取組を強化していく必要がある。また、海洋の生物資源や生態系の保全、エネルギー・鉱物資源確保、地球温暖化や海洋プラスチックごみなどの地球規模課題への対応、地震・津波・火山等の脅威への対策、北極域の持続的な利活用、海洋産業の競争力強化等において、海洋に関する科学的知見の収集・活用に取り組むことは重要である。

内閣府は、総合海洋政策本部と一体となって、第3期海洋基本計画(平成30年5月15日閣議決定)と整合を図りつつ、海洋に関する技術開発課題等の解決に向けた取組を推進している。文部科学省は、第3期海洋基本計画の策定等を踏まえ、科学技術・学術審議会海洋開発分科会において平成28年に策定された「海洋科学技術に係る研究開発計画」を平成31年1月に改訂し、未来の産業創造に向けたイノベーション創出に資する海洋科学技術分野の研究開発を推進している。海洋研究開発機構は、船舶や探査機、観測機器等を用いて深海底・氷海域等のアクセス困難な場所を含めた海洋における調査・研究を行い、得られたデータを用いたシミュレーションやデータのアーカイブ・発信を行っている。また、これらの技術を活用し、いまだ十分に解明されていない領域の実態を解明するための基礎研究を推進している。

(1)海洋の調査・観測技術
海洋研究開発機構は、海底下に広がる微生物生命圏や海溝型地震及び津波の発生メカニズム、海底資源の成因や存在の可能性等を解明するため、地球深部探査船「ちきゅう」の掘削技術やDONETを用いたリアルタイム観測技術等の開発を進めるとともに、それらの技術を活用した調査・研究・技術開発を実施している。また、大きな災害をもたらす巨大地震や津波等、深海底から生じる諸現象の実態を理解するため、研究船や有人潜水調査船「しんかい6500」、無人探査機等を用いた地殻構造探査等により、日本列島周辺海域から太平洋全域を対象に調査研究を行っている。

(2)海洋の持続的な開発・利用等に資する技術
文部科学省は、大学等が有する高度な技術や知見を幅広く活用し、海洋生態系や海洋環境等の海洋情報をより効率的かつ高精度に把握する観測・計測技術の研究開発を「海洋資源利用促進技術開発プログラム」のうち「海洋情報把握技術開発」において実施している。海洋研究開発機構は、我が国の海洋の産業利用の促進に貢献するため、生物・非生物の両面から海洋における物質循環と有用資源の成因の理解を進め、得られた科学的知見、データ、技術及びサンプルを関連産業に展開している。

(3)海洋の安全確保と環境保全に資する技術
食糧生産や気候調整等で人間社会と密接に関わる海洋生態系は、近年、汚染・温暖化・乱獲等の環境ストレスにさらされており、これらを踏まえた海洋生態系の理解・保全・利用が課題となっている。このため、文部科学省は、「海洋資源利用促進技術開発プログラム」のうち「海洋生物ビッグデータ活用技術高度化」において、既存のデータやデータ取得技術を基にビッグデータから新たな知見を見いだすことで、複雑で多様な海洋生態系を理解し、保全・利用へと展開する研究開発を行っている。海上・港湾・航空技術研究所は、海洋資源・エネルギー開発に係る基盤的技術の基礎となる海洋構造物の安全性評価手法及び環境負荷軽減手法の開発・高度化に関する研究を行っている。海上保安庁は、海上交通の安全確保及び運航効率の向上のため、船舶の動静情報等を収集するとともに、これらのビッグデータを解析することにより海上における船舶交通流を予測し、船舶にフィードバックするシステムの開発を行っている。

(コラム:福徳岡ノ場噴火から噴出した大量の軽石漂流を読み解く)
令和3年8月13日、小笠原諸島最南端部に位置する福徳岡ノ場海底火山が噴火し、大量の軽石を放出しました。浮遊する軽石は軽石筏と呼ばれる大きな集団を形成して、海流や風の影響を受けながら海上を漂流しました。その大部分は東から西方向へと漂流し、10月初旬ごろから沖縄・奄美等の琉球列島に漂着し始め、現地の海上交通や漁業、観光等にも影響を及ぼしました。さらに、軽石は黒潮等の海流に乗り、伊豆諸島等にも漂着したことが確認されています。福徳岡ノ場由来の軽石が琉球列島に漂着したのは今回が初めてではなく、昭和61年の噴火の際にも琉球列島で軽石漂着が確認されました。しかし、今回のように、浜や港全体を埋め尽くしたという記録はこれまでになく、白い砂浜に漂着した灰色の軽石は目立ち、多くの人の関心の的となりました。

軽石は、爆発的な噴火で噴出したマグマが、急冷されて固まったものです。地下のマグマには大量のガスが溶け込んでいますが、噴火に伴って、マグマからほとんどのガスが放出されます。時間をかけてマグマが固まると、ガスが抜けて緻密な岩石になりますが、今回のような高い噴煙を形成する爆発的な噴火をすると、ガスが膨張しながらマグマが固まるため、空隙の多い岩石(軽石)となります。空隙のため全体の密度は水よりも軽くなり、沈まずに長い期間漂流を続けることになります。軽石中の鉱物に含まれている化学成分を分析した結果、今回のマグマには、地殻よりも深いところで生まれた玄武岩マグマが含まれていることが明らかになりました。したがって、マントルで生まれた玄武岩マグマが地殻中のマグマ溜まりに注入し、爆発的な噴火を引き起こしたことが示唆されます。今後の更なる解析により、噴火のメカニズムの解明が期待されます。また、海洋研究開発機構(JAMSTEC)では、10月中旬に琉球列島で軽石が問題になり始めたことをきっかけに、どのように福徳岡ノ場から軽石が到達したかシミュレーションを行い、11月末には関東付近にも漂着する可能性があることを予測しました。

上記の予測計算は、軽石漂流の状況をおおよそ捉えていたとはいえ、琉球列島以外の各地にも影響が広がる可能性を示唆していたことから、より精緻な予測計算が必要とされました。そこで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力し、JAXAが人工衛星で発見した軽石の位置から漂流計算を行うことで、より現実に近づけた予測計算も行いました。実際に11月下旬には予測通りまとまった量の軽石が伊豆諸島に到達し、メディアにも多く取り上げられました。また、JAMSTECでは、予測結果をYouTubeで公表しており、各地の自治体や漁業者などに活用されています。JAMSTECでは平常時から、自動昇降型漂流ブイ「アルゴフロート」や船舶による海洋観測を継続的に実施し、そこから得られた観測データを地球シミュレータ等のスーパーコンピュータを用いて解析することにより、海洋予測を行っています。この予測結果は公表され、基礎研究のみならず社会応用研究(漁業、海の温暖化、海洋プラスチック等)にも活用されており、今回のようなシミュレーションにも対応できたといえます。

(防衛分野の研究開発の推進)
「国家安全保障戦略」(平成25年12月17日国家安全保障会議・閣議決定)において、「我が国の高い技術力は、経済力や防衛力の基盤であることはもとより、国際社会が我が国に強く求める価値ある資源でもある。このため、デュアル・ユース技術を含め、一層の技術の振興を促し、我が国の技術力の強化を図る必要がある」と掲げられている。国家安全保障戦略に基づき、国家安全保障上の諸課題に対し、関係府省や産学官の連携の下、必要な技術の研究開発を推進することが求められている。防衛省は、防衛分野での将来における研究開発に資することを期待し、先進的な民生技術についての基礎研究を、公募・委託する安全保障技術研究推進制度を平成27年度から実施している。また、令和3年度には技術シンクタンク機能を立ち上げ将来の我が国防衛にとって重要となる先進的な民生技術の調査及び防衛分野への適用に向けた技術育成方針の検討に資する分析を進めている。加えて、AI等の技術革新のサイクルが速く、進展の速い民生先端技術を技術者と運用者が一体となり速やかに取り込むことで、3年程度の短期間での実用化を図る取組を平成29年度より実施している。さらに、ゲーム・チェンジャーとなり得る防衛装備品の早期実用化のため、防衛省が実施する当該装備品のコア技術の研究と並行し、関連する重要な構成技術を民間企業等に研究委託する取組を令和4年度より開始する。

(防衛分野におけるAIに係る研究開発)
近年、人工知能(AI)技術は、医療、農業、物流等あらゆる分野において大きな影響を与えると期待されており、日々の暮らしを変えつつある。これは防衛分野においても同様であり、情報処理の高速化・省力化、状況判断・作戦立案、無人機を利用した高度な索敵等へのAI技術の活用が期待され、米中をはじめ多くの国がAI技術に係る研究開発に積極的な投資を行い、装備品等への適用を着実に進めている。防衛省においても、AI技術をゲーム・チェンジャーとなり得る重要技術として、投資を行うとともに、早期の適用を実現させるべく様々な取組を実施している。例えば、常時継続的な情報収集・警戒監視活動等を効率的に実施するため、レーダ画像の識別をAI技術により自動化する技術の研究、水中監視用無人機の自律監視技術に関する研究等に着手している。

その他、新たな取組として、令和4年1月から同年3月にかけて実施した空対空戦闘に活用可能なAIモデルに関するコンペティションがあげられる。AI技術は民間セクターでの技術進展が著しく、防衛分野への早期の適用・高度化にあたっては、優れた民生技術の発掘が重要となっており、コンペティションといった取組により、広く一般から情報を収集することは、研究を促進させる効果的な手段の一つとなっている。本コンペティションでは、677件の応募があり、広く民間のAI技術情報が収集された。今後、防衛省において、上位入賞者のAIモデルの優位性等を分析し、将来のAI技術の研究に活かしていく。今後も進展し続けるAI技術を防衛分野で早期実装させるためには、防衛省と企業・大学、産学官の一層の連携が必要となる。

(警察におけるテロ対策に関する研究開発の推進)
科学警察研究所においては、都市部における放射線テロを想定した被害予測シミュレータの開発を実施している。疑似線源とスマートフォンを活用した仮想放射線測定システムの改良も進め、核セキュリティ事案を想定した初動対処訓練や医療分野における放射線教育等に活用している。また、国際テロで用いられている、市販原料から製造される手製爆薬に関する威力・感度の評価や実証試験を実施するとともに、爆発物原料管理者対策に資する研究を実施している。

(安全・安心確保のための「知る」「育てる」「生かす」「守る」取組)
内閣府は国内外の技術動向、社会経済動向、安全保障など多様な視点から科学技術・イノベーションに関する調査研究を行うシンクタンク機能について令和5年度の本格的な立ち上げを目指し、令和3年秋から令和4年度にかけてシンクタンク機能に関する試行事業を実施している。また、経済安全保障の確保・強化の観点から、AIや量子、宇宙、海洋等の技術分野に関し、民生利用や公的利用への幅広い活用を目指して先端的な重要技術の研究開発を進める「経済安全保障重要技術育成プログラム」について令和3年度補正予算により予算措置し、令和4年3月に基金を造成した(令和4年度中に公募を開始する予定。)。

更に、研究活動の国際化・オープン化に伴う新たなリスクに対し、大学や研究機関における研究の健全性・公正性(研究インテグリティ)の自律的確保に向けた取組を行った。経済産業省は、令和3年度に、文部科学省等の関係省庁と連携し、大学・研究機関等向けの安全保障貿易管理説明会を開催するとともに令和4年5月1日に施行する外為法の「みなし輸出」管理の運用明確化の周知・説明、安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンスの改訂等を通じて、大学等の内部管理体制の強化及び機微な技術の流出防止の取組を促進した。また、政府研究開発事業の契約に際し、安全保障貿易管理体制の構築を求める安全保障貿易管理の要件化の取組を進めるため、内閣府と経済産業省が連携して資金配分機関や関係府省等に対して働きかけを行った。機微技術の輸出管理のあり方などについて、国際輸出管理レジームを含めた関係国間において議論を行っている。内閣情報調査室をはじめ、警察庁、公安調査庁、外務省、防衛省の情報コミュニティ各省庁は、相互に緊密な連携を保ちつつ、経済安全保障分野を含む情報の収集活動等に当たっており、令和4年度当初予算では経済インテリジェンスに係る人員について、約130人の定員増を計上した。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書