ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■基礎研究・学術研究の振興

(国立大学について)
各国立大学法人は、知識集約型社会において知をリードし、イノベーションを創出する知と人材の集積地点としての役割を担うほか、全国への戦略的な配置により、地域の教育研究拠点として、各地域のポテンシャルを引き出し、地方創生に貢献する役割を担うなど、社会変革の原動力となっている。我が国が知識集約型社会へのパラダイムシフトや高等教育のグローバル化、地域分散型社会の形成等の課題に直面する中、国立大学がSociety5.0の実現に向けた人材育成やイノベーション創出の中核としての役割を果たすためには、教育研究の継続性・安定性に配慮しつつ、大学改革をしっかり進めていく環境を整えていくことが必要である。

令和3年度予算においては、国立大学法人運営費交付金は1兆790億円を計上しており、教育研究活動に必要な経費については、対前年度実質増額を確保するなど、教育研究の充実を図ったところである。また、令和4年度から始まる第4期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方については、6月に取りまとめられた有識者会議の審議まとめを踏まえ、各大学のミッションを実現・加速化するための支援を充実するとともに、「成果を中心とする実績状況に基づく配分」の見直しにより、改革インセンティブの一層の向上を図ることとしている。

(科学研究費助成事業の改革・強化)
文部科学省及び日本学術振興会は科学研究費助成事業(科研費)を実施している。科研費は、人文学・社会科学から自然科学までの全ての分野にわたり、あらゆる学術研究を対象とする競争的研究費であり、研究の多様性を確保しつつ独創的な研究活動を支援することにより、研究活動の裾野の拡大を図り、持続的な研究の発展と重厚な知的蓄積の形成に資する役割を果たしている。

令和3年度は、主な研究種目全体で約10万件の新たな応募のうち、ピアレビュー(研究者コミュニティから選ばれた研究者による審査)によって約2万7,000件を採択し、数年間継続する研究課題を含めて約8万4,000件を支援している(令和3年度予算額2,377億円)。科研費は、これまでも制度を不断に見直し、基金化の導入や、審査システムの見直し、若手支援プランの充実をはじめとする抜本的な改革を進めてきた。令和3年度においては、若手研究者の挑戦を促し、トップレベル研究者が率いる優れた研究チームの国際共同研究を強力に推進するため、「国際先導研究」を創設したほか、一定の要件の下、「若手研究(2回目)」と「挑戦的研究(開拓)」との重複応募・受給制限を、令和5年度公募より緩和することを決定するなどの制度改善を行った。今後も、更なる学術研究の振興に向け、科研費制度の不断の見直しを行い支援の充実を図っていく。

(戦略的創造研究推進事業)
科学技術振興機構が実施している「戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)」及び日本医療研究開発機構が実施している「革新的先端研究開発支援事業」では、国が戦略的に定めた目標の下、大学等の研究者から提案を募り、組織・分野の枠を超えた時限的な研究体制を構築して、戦略的な基礎研究を推進するとともに、有望な成果について研究を加速・深化している。研究者の独創的・挑戦的なアイディアを喚起し、多様な分野の研究者による異分野融合研究を促すため、戦略目標等を大括り化する等の制度改革を進めており、令和3年度目標として、文部科学省では以下を設定した。

(1)戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)
・資源循環の実現に向けた結合・分解の精密制御
・複雑な輸送・移動現象の統合的理解と予測
・制御の高度化・Society5.0時代の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウェア技術
・『バイオDX』による科学的発見の追究
・元素戦略を基軸とした未踏の多元素・複合・準安定物質探査空間の開拓
・「総合知」で築くポストコロナ社会の技術基盤
・ヒトのマルチセンシングネットワークの統合的理解と制御機構の解明

(2)革新的先端研究開発支援事業
・感染症創薬科学の新潮流
・ヒトのマルチセンシングネットワークの統合的理解と制御機構の解明

(創発的研究の推進)
若手を中心とした独立前後の研究者に対し、自らの野心的な構想に専念できる環境を長期的に提供することで、破壊的イノベーションをもたらし得る成果の創出を目指す「創発的研究支援事業」を科学技術振興機構に造成した基金により実施しており、令和2年度から2回の公募で計511件の研究課題を採択している。また、採択研究課題をリサーチ・アシスタント(RA)として支える博士課程学生等に対する追加支援を実施しており、令和3年度予算により当該支援の更なる充実を図った。

(大学・大学共同利用機関における共同利用・共同研究の推進)
我が国の学術研究の発展には、最先端の大型装置や貴重な資料・データ等を、個々の大学の枠を越えて全国の研究者が利用し、共同研究を行う「共同利用・共同研究体制」が大きく貢献しており、主に大学共同利用機関や、文部科学大臣の認定を受けた国公私立大学の共同利用・共同研究拠点によって担われている。学術研究の大型プロジェクトは、最先端の大型研究装置等により人類未踏の研究課題に挑み世界の学術研究を先導し、また、国内外の優れた研究者を結集し、国際的な研究拠点を形成するとともに、国内外の研究機関に対し研究活動の共通基盤を提供しており、文部科学省では「大規模学術フロンティア促進事業」としてこうしたプロジェクトを支援している。

その代表的な例としては、平成27年度の梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長のノーベル物理学賞受賞につながる研究成果を上げたスーパーカミオカンデ(SK)やその次世代計画であるハイパーカミオカンデ(HK)計画が挙げられる。HKは、SKを飛躍的に上回る観測性能を備え、陽子崩壊探索やニュートリノ研究を通じた新たな物理法則の発見や素粒子と宇宙の謎を解き明かすことを目指しており、令和元年度より建設に着手している。

(コラム:研究計量に関するライデン声明について)
多くの研究評価で、論文の被引用数等の計量データが利用されています。この利用が適切であれば、計量データは、専門家(ピア)による評定をより妥当、公正にするための補完となり得ます。しかしながら、データを補完材料として利用するのではなく、データに主導され、引きずられた評価が往々にして行われています。このような状況に対し、科学計量学の研究者はこれまでもしばしば警告を発し、計量データの適切な利用のあり方を論じてきましたが、それらが結実したものがライデン声明といえます。

ライデン声明の基礎となったのは、2014年(平成26年)9月にオランダのライデン大学で開催された第19回科学技術指標国際会議(STI2014)におけるDr. Diana Hicks (Georgia Institute of Technology)の基調講演です。そこでなされた議論をまとめて、Hicksら5名の連名で、2015年(平成27年)のNature誌に「研究計量に関するライデン声明」(“The Leiden Manifesto for research metrics”)が公表されました。ライデン声明は10項目の原則(principles)から成り、研究評価における計量データの利用についてのベストプラクティスや注意点を示したものであり、研究者、管理者、評価者の全てに対するガイドラインと考えられます。以下に、ライデン声明の10の原則の見出し文のみを記します。

原則1 定量的評価は、専門家による定性的評定の支援に用いるべきである。
原則2 機関、グループ又は研究者の研究目的に照らして業績を測定せよ。
原則3 優れた地域的研究を保護せよ。
原則4 データ収集と分析のプロセスをオープン、透明、かつ単純に保て。
原則5 被評価者がデータと分析過程を確認できるようにすべきである。
原則6 分野により発表と引用の慣行は異なることに留意せよ。
原則7 個々の研究者の評定は、そのポートフォリオの定性的判定に基づくべきである。
原則8 不適切な具体性や誤った精緻性を避けよ。
原則9 評定と指標のシステム全体への効果を認識せよ。
原則10 指標を定期的に吟味し、改善せよ。

ライデン声明のホームページから、Nature記事へのほか、各国語への翻訳記事やビデオへのリンクが張られています。Natureの記事を引用した論文は710件に及びますが(2022年(令和4年)3月1日にWeb of Science Core Collectionにより調査)、主要なものとして、ライデン声明のオルトメトリクスへの適用可能性を論じたもの、学術図書館の立場からライデン声明の実用性を考察したもの、大学での研究評価への計量書誌学データの利用はライデン声明に沿って行うよう図書館が主唱すべきと主張したもの等があります。日本においても、研究活動の把握に論文分析が用いられる場面が多くなっていますが、ライデン声明に指摘されている留意点を踏まえた上での活用が必要です。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書