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ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。
■国際共同研究・国際頭脳循環の推進
1.国際研究ネットワークの充実
(我が国の研究者の国際流動の現状)
令和4年度に公表した「国際研究交流の概況」によれば、我が国における研究者の短期派遣者数は、調査開始以降、増加傾向が見られたが、令和2年度は前年度に比べて大きく減少した。また、中・長期派遣者数は、平成20年度以降、おおむね4,000から5,000人の水準で推移してきたが、令和2年度は前年度に比べて大きく減少した。
我が国の大学や独立行政法人等の外国人研究者の短期受入者数は、平成21年度まで増加傾向であったところ、東日本大震災等の影響により平成23年度にかけて減少し、その後回復したが、令和2年度は前年度に比べて大きく減少した。また、中・長期受入者数は、平成12年度以降、おおむね1万2,000から1万5,000人の水準で推移していたが、短期受入れに比べ程度は小さいものの令和2年度は大きく減少した。これらの大きな減少は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が令和元年度については令和2年1月から3月までの3か月間であったものが、令和2年度は一年を通じて影響があったためである。
(研究者の国際交流を促進するための取組)
世界規模で進む頭脳循環の流れの中において、我が国の研究者及び研究グループが国際的研究・人材ネットワークの中心に位置付けられ、またそれを維持していくことができるように、取組を進めている。日本学術振興会は、国際舞台で活躍できる我が国の若手研究者の育成を図るため、若手研究者を海外に派遣する諸事業や諸外国の優秀な研究者を招聘する事業を実施するほか、科学研究費助成事業(科研費)において、令和3年度には、「国際先導研究」を創設し、高い研究実績と国際ネットワークを有するトップレベル研究者が率いる優秀な研究チームの下、若手(ポスドク・博士課程学生)の参画を要件とし、国際共同研究を通じて長期の海外派遣・交流や自立支援を行うことにより、世界と戦える優秀な若手研究者の育成を推進している。また、我が国における学術の将来を担う国際的視野に富む有能な研究者を養成・確保するため、優れた若手研究者が海外の特定の大学等研究機関において長期間研究に専念できるよう支援する「海外特別研究員事業」や、博士後期課程学生等の海外渡航支援として「若手研究者海外挑戦プログラム」等を実施している。さらに、国際コミュニティの中核に位置する一流の大学・研究機関において挑戦的な研究に取り組みながら、著名な研究者等とのネットワーク形成に取り組む優れた若手研究者に対して研究奨励金を支給する「国際競争力強化研究員事業(特別研究員(CPD))」を令和元年度より実施している。
優れた外国人研究者に対し、我が国の大学等において研究活動に従事する機会を提供するとともに、我が国の大学等の研究環境の国際化に資するため、「外国人研究者招へい事業」により外国人特別研究員等の受入れを実施しているほか、「二国間交流事業」により我が国と諸外国の研究チームの持続的ネットワーク形成を支援している。また、アジア・太平洋・アフリカ地域の若手研究者の育成と相互のネットワーク形成のため「HOPEミーティング」を開催し、同地域から選抜された大学院生等とノーベル賞受賞者をはじめとする世界の著名研究者が交流する機会を提供している。科学技術振興機構は、海外の優秀な人材の獲得につなげるため、アジアを中心とする41の国・地域から青少年を短期で我が国に招聘「日本・アジア青少年交流事業(さくらサイエンスプラン)」を平成26年度から実施している。令和3年度からは「国際青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプログラム)」と名称を改め、対象を世界の国・地域の青少年に拡大するとともに、自然科学分野に加えて人文・社会科学分野の交流も対象としている。
2.国際的な研究助成プログラム
ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)は、1987年(昭和62年)6月のベネチア・サミットにおいて我が国が提唱した国際的な研究助成プログラムで、生体の持つ複雑な機能の解明のための基礎的な国際共同研究などを推進し、またその成果を広く人類全体の利益に供することを目的としている。現在、日本・オーストラリア・カナダ・EU・フランス・ドイツ・インド・イスラエル・イタリア・韓国・ニュージーランド・シンガポール・スイス・英国・米国の計15か国・極が加盟し、フランス・ストラスブールに置かれた国際ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム機構(HFSPO、理事長:長田重一・大阪大学特任教授)により運営されている。
我が国は本プログラム創設以来積極的な支援を行い、プログラム運営において重要な役割を担っている。本プログラムでは、国際共同研究チームへの研究費助成(研究グラント)、若手研究者が国外で研究を行うための旅費、滞在費等の助成(フェローシップ)及び受賞者会合の開催等が実施されている。1990年度の事業開始から30年以上が経過し、この間、HFSPOは約1,200件の研究課題、4,400名余りの世界の研究者に対して研究グラントを支援するとともに、約3,400名の若手研究者に対してフェローシップの助成を実施してきた。国際的協力による、独創的・野心的・学際的な研究を支援する本プログラムでは、過去に研究グラントに採択された受賞者の中から、2018年(平成30年)にノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶佑・京都大学特別教授はじめ28名のノーベル賞受賞者を輩出するなど、世界的に高く評価されている。
3.国際共同研究の推進と世界トップレベルの研究拠点の形成
我が国が世界の研究ネットワークの主要な一角に位置付けられ、世界の中で存在感を発揮していくためには、国際共同研究を戦略的に推進するとともに、国内に国際頭脳循環の中核となる研究拠点を形成することが重要である。
(諸外国との国際共同研究)
ア) ITER(イーター)計画等
ITER計画は、核融合エネルギーの実現に向け、世界7極35か国の国際協力により実施されており、近い時期での運転開始を目指し、フランス・カダラッシュにおいてITERの建設作業が本格化している。我が国は、ITERの主要な機器である超伝導コイルの製作等を進めている。また、日欧協力によりITER計画を補完・支援する先進的核融合研究開発である幅広いアプローチ(BA)活動を青森県六ヶ所村及び茨城県那珂市で推進している。
イ) 国際宇宙ステーション(ISS)
我が国は、日本実験棟「きぼう」及び宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の運用、日本人宇宙飛行士のISS長期滞在等によりISS計画に参加している。
ウ) 国際宇宙探査
我が国は、令和元年10月、宇宙開発戦略本部において、国際宇宙探査(アルテミス計画)への参画を決定した。令和2年12月には、日本政府とNASAとの間で、アルテミス計画の中核を担う月周回有人拠点「ゲートウェイ」のための協力に関する了解覚書が締結された。
エ) 国際深海科学掘削計画(IODP)
IODPは、地球環境変動、地球内部構造や地殻内生命圏等の解明を目的とした日米欧主導の多国間国際共同プログラムで、2013年(平成25年)10月から実施されている。我が国が提供し、科学掘削船としては世界最高レベルの性能を有する地球深部探査船「ちきゅう」及び米国が提供する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて世界各地の深海底の掘削を行っている。2020年(令和2年)10月、さらに2050年(令和32年)までの2050Science Frameworkを策定、次期の活動に向けて科学的目標を明らかにしている。
オ) 大型ハドロン衝突型加速器(LHC)
現在、LHC計画においては、LHCの高輝度化(HL-LHC計画)が進められている。
カ) その他
国際リニアコライダー(ILC)計画については、ヒッグス粒子の性質をより詳細に解明することを目指した国際プロジェクトであり、国際研究者コミュニティで検討されている。
(世界トップレベル研究拠点の形成に向けた取組)
文部科学省は、「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」により、高度に国際化された研究環境と世界トップレベルの研究水準を誇る「国際頭脳循環のハブ」となる拠点の充実・強化を進めている。具体的には、国内外のトップサイエンティストらによるきめ細やかな進捗管理の下で、1拠点当たり7億円程度を10年間支援し、令和3年度末時点で14拠点が活動している。令和2年には、これまでのミッションを高度化し、「次代を先導する価値創造」を加えた新たなミッションを策定し、この新たなミッションの下、今後、定期的・計画的な拠点形成を進めることとしている。
(その他の研究大学等に関する取組)
世界水準の優れた研究大学群を増強するため、研究マネジメント人材の確保・活用と大学改革・集中的な研究環境改革の一体的な推進を支援・促進し、我が国全体の研究力強化を図るため、「研究大学強化促進事業」を実施している。内閣府は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)について、世界最高水準の教育・研究を行うための規模拡充に向けた取組を支援している。
(研究時間の確保)
1.URAの活用
研究者のみならず、多様な人材の育成・活躍促進が重要であり、文部科学省では、研究者の研究活動活性化のための環境整備、大学等の研究開発マネジメント強化及び科学技術人材の研究職以外への多様なキャリアパスの確立を図る観点も含め、リサーチ・アドミニストレーター(URA)の支援方策について調査研究等を実施している。平成25年度より世界水準の優れた研究大学群を増強するため、「研究大学強化促進事業」を実施し、定量的な指標(エビデンス)に基づき採択した22の大学等研究機関に対する研究マネジメント人材(URAを含む。)群の確実な配置や集中的な研究環境改革の支援を通じて、我が国全体の研究力強化を図っている。また、大学等におけるURAの更なる充実を図るため、令和3年度には「リサーチ・アドミニストレーター等のマネジメント人材に係る質保証制度の実施」事業において、URAの質保証(認定)制度の運用が開始された。
2.研究支援サービス・パートナーシップ認定制度(A-PRAS)
文部科学省は、令和元年10月に、民間事業者が行う研究支援サービスのうbr /ち、一定の要件を満たすサービスを「研究支援サービス・パートナーシップ」として認定する「研究支援サービス・パートナーシップ認定制度(A-PRAS)」を創設した。認定することを通じ、研究者の研究時間確保を含めた研究環境を向上させ、我が国における科学技術の推進及びイノベーションの創出を加速するとともに、研究支援サービスに関する多様な取組の発展を支援することを目的とし、令和2年度までに9件のサービスを認定した。令和3年度は認定したサービスについてその普及を促進すべく、利活用促進のための調査を実施した。
3.大学の事務処理の簡素化、デジタル化
文部科学省は、各大学、高等専門学校及び大学共同利用機関に対して、事務処理手続の簡素化、デジタル化を図るべく、公募申請する教員等の希望に応じて電子的な手続きを認めるなど柔軟な対応を求めてきている。令和3年6月には、各大学等の求人公募書類の作成に係る応募者の負担軽減の観点から、各大学等が指定する様式以外の様式で作成された履歴書や業績リスト等の書類を応募書類として活用することを可能とする等、柔軟な対応の検討を各大学等に対して促しており、その後、各大学等の教務担当者向け会議等で累次にわたり周知している。
4.競争的研究費の事務手続に係るルールの統一化・簡素化
政府全体として、研究者の事務負担軽減による研究時間の確保及び研究費の効果的・効率的な使用のため、研究費の使い勝手の向上を目的とした制度改善に取り組んでいる。研究者の事務負担を軽減し、研究時間の確保を図る観点から、従来の「競争的資金」に該当する事業とそれ以外の公募型の研究費である各事業を「競争的研究費」として一本化し、これまで競争的資金の使用に関して統一化・簡素化したルールについて、競争的資金以外の研究資金にも適用を拡大するとともに、各事業が個別に定めていた応募様式を統一し、府省共通研究開発管理システム(e-Rad)を通じて、統一した様式による申請が可能となるよう対応を進めている。
(つづく)Y.H
(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書
科学技術・イノベーション白書