ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■学術、研究施設ネットワーク化促進と大型施設の運営

(SINETの整備、運用)
国立情報学研究所は、大学等の学術研究や教育活動全般を支える基幹的ネットワークとして学術情報ネットワーク(SINET)を整備・運用しており、令和4年度からは、全都道府県を400Gbps(沖縄は200Gbps)での運用を開始する。また、国際的な先端研究プロジェクトで必要とされる国際間の研究情報流通を円滑に進めるため、米国や欧州等多くの海外研究ネットワークとの連携を進めるほか、国立大学等と連携して、セキュリティ強化に向けて引き続き対応を進めている。

(研究施設・設備の整備・共用、ネットワーク化の促進)
科学技術の振興のための基盤である研究施設・設備は、整備や効果的な利用を図ることが重要である。また、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」(平成20年法律第63号)においても、国立大学法人及び研究開発法人等が保有する研究開発施設・設備及び知的基盤の共用の促進を図るため、国が必要な施策を講じる旨が規定されている。このため、政府は科学技術に関する広範な研究開発領域や産学官の多様な研究機関に用いられる共通的、基盤的な施設・設備に関し、その有効利用や活用を促進するとともに、施設・設備の相互のネットワーク化を図り、利便性、相互補完性、緊急時の対応力等を向上させるための取組を進めている。

(1)特定先端大型研究施設
「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(平成6年法律第78号)(以下「共用法」という。)においては、特に重要な大規模研究施設は特定先端大型研究施設と位置付けられ、計画的な整備及び運用並びに中立・公正な共用が規定されている。

ア)大型放射光施設(SPring-8)
SPring-8は、光速近くまで加速した電子の進行方向を曲げたときに発生する極めて明るい光である「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造や機能を解析できる世界最高性能の研究基盤施設である。平成9年の供用開始以降、生命科学、環境・エネルギー、新材料開発など、我が国の経済成長を牽引する様々な分野で革新的な研究開発に貢献している。

イ)X線自由電子レーザー施設(SACLA)
SACLAは、レーザーと放射光の特長を併せ持つ究極の光を発振し、原子レベルの超微細構造や化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析する世界最先端の研究基盤施設である。平成24年3月に供用を開始し、平成29年度より、世界初となる電子ビームの振り分け運転による2本の硬X線自由電子レーザービームラインの同時供用が開始されるなど、更なる高インパクト成果の創出に向けた利用環境の整備が着実に進められている。

ウ)スーパーコンピュータ「富岳」
スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは、理論、実験と並ぶ、現代の科学技術の第3の手法として最先端の科学技術や産業競争力の強化に不可欠なものとなっている。スーパーコンピュータ「富岳」は、我が国が直面する社会的・科学的課題の解決に貢献するため、「京」(平成24年9月~令和元年8月)の後継機として、平成26年度より開発を開始。システムとアプリケーションの協調的開発(co-design)により、世界最高水準の計算性能と汎用性を有するスーパーコンピュータの実現に向けて開発を進め、令和3年3月に共用を開始した。「富岳」は、令和3年11月に発表されたスパコンランキングにおいて、4つのランキング(TOP500、HPCG、HPL-AI、Graph500)で4期連続となる世界1位を獲得した。また、「富岳」を活用した画期的な成果が創出されるように、利用者の裾野拡大や利用しやすい環境の整備などの取組を進め、防災・減災、ものづくり、エネルギーなどの従来スパコンが活用されてきた分野に加え、AI分野など新たな領域での活用も進められ、多様な成果が創出された。

さらに、共用計算環境基盤として、「富岳」も含めた国内の大学や研究機関などのスーパーコンピュータやストレージを学術情報ネットワーク(SINET)でつなぎ、多様な利用者のニーズに対応する革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築を進め、その効果的・効率的な運営に努めながら、様々な分野でのスーパーコンピュータの利用を推進した。加えて、ポスト「富岳」を見据えた我が国の計算基盤のあり方について、科学技術・学術審議会情報委員会の下に設置された部会で検討を進め、令和4年度以降に実施予定の調査研究の方向性を取りまとめた。

エ)大強度陽子加速器施設(J-PARC)
J-PARCは、平成21年度に全施設が稼働し、世界最高レベルのビーム強度を持つ陽子加速器を利用して生成される中性子、ミュオン、ニュートリノ等の多彩な二次粒子を利用して、幅広い分野における基礎研究から産業応用まで様々な研究開発に貢献している。物質・生命科学実験施設(特定中性子線施設)では、革新的な材料や新しい薬の開発につながる構造解析等の研究が行われ、多くの成果が創出されている。原子核・素粒子実験施設(ハドロン実験施設)やニュートリノ実験施設は、共用法の対象外の施設であるが、国内外の大学等の研究者との共同利用が進められている。特に、ニュートリノ実験施設では、2015年(平成27年)ノーベル物理学賞を受賞したニュートリノ振動の研究に続き、その更なる詳細解明を目指して、T2K(Tokai to Kamioka)実験が行われている。

(次世代放射光施設(軟X線向け高輝度3GeV級放射光源))
次世代放射光施設は、軽元素を感度良く観察できる高輝度な軟X線を用いて、従来の物質構造に加え、物質の機能に影響を与える電子状態の可視化が可能な次世代の研究基盤施設で、学術研究だけでなく触媒化学や生命科学、磁性・スピントロニクス材料、高分子材料等の産業利用も含めた広範な分野での利用が期待されている。文部科学省は、この次世代放射光施設について官民地域パートナーシップにより推進することとしており、量子科学技術研究開発機構を施設の整備・運用を進める国の主体とし、さらに平成30年7月、一般財団法人光科学イノベーションセンターを代表とする、宮城県、仙台市、国立大学法人東北大学及び一般社団法人東北経済連合会の5者を地域・産業界のパートナーとして選定した。令和3年度には加速器等の機器の据付等が開始されており、令和5年度の運用開始を目指して着実に整備が進められている。

(研究施設設備間のネットワーク構築)
ア)先端研究基盤共用促進事業(先端研究設備プラットフォームプログラム)
文部科学省では、国内有数の先端的な研究施設・設備について、その整備・運用を含めた研究施設・設備間のネットワークを構築し、遠隔利用・自動化を図りつつ、ワンストップサービスによる利便性向上を図り、全ての研究者への高度な利用支援体制を有する全国的なプラットフォームを形成する取組を進めている。

(研究機関全体の研究基盤として戦略的に導入・更新・共用する仕組みの強化)
文部科学省は、研究機関全体で設備のマネジメントを担う統括部局の機能を強化し、学部・学科・研究科等の各研究組織での管理が進みつつある研究設備・機器を、研究機関全体の研究基盤として戦略的に導入・更新・共用する仕組みを強化(コアファシリティ化)する取組を進めている。また、大学等における研究設備・機器の戦略的な整備・運用を推進すべく、令和4年3月に「研究設備・機器の共用促進に向けたガイドライン」を決定した。

(知的基盤の整備・共用、ネットワーク化の促進)
文部科学省は、ライフサイエンス研究の基盤となる研究用動植物等のバイオリソースのうち、国が戦略的に整備することが重要なものについて、体系的に収集、保存、提供等を行うための体制を整備することを目的として、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」を実施している。経済産業省は、我が国の研究開発力を強化するため、産業構造審議会産業技術環境分科会知的基盤整備特別小委員会において審議した第3期知的基盤整備計画(案)を令和3年5月に取りまとめ、公表した。これまでの第3期知的基盤整備計画における各分野の進捗は以下のとおりである。

計量標準・計測については、産業技術総合研究所が、グリーン社会実現に貢献すべく、水素ステーションで用いられる水素ディスペンサー評価のためのマスターメーター法による計量精度検査装置の実証試験を実施し、開発技術を基にJIS B 8576改定案の作成に寄与した。新型コロナウイルス感染症対策の非接触検温に関し、赤外線放射率0.998以上の黒体材料「暗黒シート」の製造方法を確立し、拡張不確かさ0.1℃の温度基準となることを実証した。安全かつ効果的ながん治療に貢献すべく、医療用リニアックからの高エネルギー電子線に対する水吸収線量標準や、放射性薬剤として用いられる放射性核種アクチニウ225放射能標準の供給を開始した。

また、老朽化したインフラ設備の迅速・正確な健全性診断のため、高層ビル振動監視に用いられる小型デジタル出力型加速度センサの動的校正方法の開発や、ドローン空撮画像による橋梁の微小たわみ計測に成功した。さらに、コロナ禍での講演会等のオンライン開催、ウェブサイトのコンテンツ拡充など、効果的・効率的な普及啓発・人材育成にも取り組んだ。微生物遺伝資源については、製品評価技術基盤機構が、微生物遺伝資源の収集・保存・分譲を行うとともに、これらの資源に関する情報(系統的位置付け、遺伝子に関する情報等)を整備・拡充し、幅広く提供している(令和4年1月末現在の分譲株数は6,596株)。また、微生物資源の保存と持続可能な利用を目指した15か国・地域の28機関のネットワーク活動(アジア・コンソーシアム、平成16年設立)への参加を通じて、アジア各国との協力関係を構築し、生物多様性条約や名古屋議定書を踏まえたアジア諸国の微生物遺伝資源の利用を支援している。

地質情報については、産業技術総合研究所が、5万の1地質図幅3区画(「豊田」、「桐生及足利」、「和気」)の出版、海洋地質図3図(「種子島付近海底地質図」、「久米島周辺海底地質図」、「久米島周辺海域表層堆積図」)の整備、20万分の1日本シームレス地質図V2の更新を行っている。また、都市域の地下地質を3次元的に表現した地質地盤図として、「東京都区部の3次元地質地盤図」を新たに公開した。

沿岸域地質では、「海陸シームレス地質情報集『相模湾沿岸域』」をウェブ公開した。火山地質では、低頻度大規模噴火災害に対応する大規模火砕流分布図「姶良カルデラ入戸火砕流堆積物分布図」を出版した(第2-2-8図 姶良カルデラ入戸火砕流堆積物分布図)。そのほか、データ統合に向けて、地球科学図類のデジタルデータ化を進め、一部の既存データベースの連携利用のためのAPIを整備して総合ポータルシステム「地質図Navi」で公開した。ゲノム・データ基盤プロジェクトでは、ゲノム・データ基盤の整備・利活用を促進し、ライフステージを俯瞰した疾患の発症・重症化予防、診断、治療等に資する研究開発を推進することで個別化予防・医療の実現を目指すこととしている。

令和3年度においては、厚生労働省の臨床ゲノム情報公開データベース支援事業において臨床情報とゲノム情報等を集積・統合するデータベース(MGeND)への更なるデータ登録と公開を行った。また、同省の革新的がん医療実用化研究事業等において、「全ゲノム解析等実行計画」に基づき、がん・難病領域の約13,000症例の全ゲノム解析等を行うとともに、データ利活用のための基盤情報・体制の構築等を推進した。また、文部科学省の東北メディカル・メガバンク計画においても、一般住民10万人の全ゲノム解析を官民共同で開始するなど、ゲノム・データ基盤の一層の強化を進めている。

(数理・情報科学技術に係る研究)
文部科学省は、大学等の研究機関における、数学・数理科学と諸科学・産業界との共同研究等の取組を加速することによって、社会的課題の解決等に新たな価値(数学イノベーション)を生み出す枠組みを構築するため、平成29年度より「数学アドバンストイノベーションプラットフォーム(AIMaP)」を実施してきた。事業最終年度となる令和3年度は、諸科学・産業界との連携と幹事拠点をハブとする拠点ネットワークによる数学と諸科学・産業との協働の成果を総括し、異分野・異業種研究交流会2021特別企画「アジア・太平洋における数理融合イノベーションの場の形成」(令和3年11月)や、公開シンポジウム「数学イノベーションは社会を変革できるか~AIMaP成果と今後の戦略的展開~」を開催する等成果の社会発信や諸科学・産業界との交流に積極的に取り組んだ。また、AIが一層進展し、DXの推進が求められるウィズコロナ・ポストコロナ時代を迎え、その基盤となる数学・数理科学の重要性のますますの高まりに対応して、令和3年1月より「アジア太平洋数理・融合研究戦略検討会」を全5回にわたり開催した。

本検討会では、数理科学分野を中心とするアジア太平洋地域の高度人材との国際頭脳循環を促進し、我が国の研究力の維持・向上を図るとともに、数理科学を活用したイノベーションや同地域の共通課題の解決に貢献する拠点形成の方策について議論した。同年7月には報告書としてまとめられ、アジア・太平洋地域における国際頭脳循環のハブとなる産学官のプラットフォームの形成の必要性についての提言がなされた。また、理化学研究所では数理創造プログラム(iTHEMS)において、数学・理論科学・計算科学を軸とした諸科学の統合的解明、社会における課題発掘及び解決、さらに民間との共同出資により設立された株式会社理研数理との連携によるイノベーションの創出等に向け取り組んでいる。情報科学技術を用い新たなプラットフォームを構築し、Society5.0の先導事例を実現するため、平成30年度より、知恵・情報・技術・人材が高い水準でそろう大学等において、情報科学技術を核として様々な研究成果を統合しつつ、産業界、自治体や他の研究機関等と連携して社会実装を目指す「Society5.0実現化研究拠点支援事業」を実施している。

(DXによる研究活動の変化等に関する分析)
文部科学省科学技術・学術政策研究所では、DXによる研究活動の変化等に関する新たな分析手法・指標の開発の一環として、研究データの公開・共用やプレプリントの利用状況等のオープンサイエンスに係る実態調査を実施し、経年比較を行ったほか、分野別プレプリントサーバのコンテンツ調査や、英国の競争的資金に基づく多様な研究成果の公開状況の調査を実施した。

(研究DXが開拓する新しい研究コミュニティ・環境の醸成)
地方公共団体、NPОやNGО、中小・スタートアップ、フリーランス型の研究者、更には市民参加など、多様な主体と共創しながら、知の創出・融合といった研究活動を促進する。また、例えば、研究者単独では実現できない、多くのサンプルの収集や、科学実験の実施など多くの市民の参画(1万人規模、令和4年度までの着手を想定)を見込むシチズンサイエンスの研究プロジェクトの立ち上げなど、産学官の関係者のボトムアップ型の取組として、多様な主体の参画を促す環境整備を、新たな科学技術・イノベーション政策形成プロセスとして実践する。

科学技術振興機構は、「サイエンスアゴラ」や、地方自治体や大学等と連携して行うサイエンスアゴラ連携企画、未来社会デザインオープンプラットフォーム(CHANCE)等を通じ、多様な主体との対話・協働(共創)の場を構築し、知の創出・融合等を通じた研究活動の推進や社会における科学技術リテラシーの向上に寄与している。なお、サイエンスアゴラ2021において、「みんなで作って考えよう「1万人のシチズンサイエンス」プロジェクト」というセッションが開催され、多様な主体が関わるシチズンサイエンスの実現に向けた検討が実施された。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書