ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■大学改革の促進と戦略的経営に向けた機能拡張

多様な知の結節点であり、最大かつ最先端の知の基盤である大学はSociety5.0を牽引する役割を求められている。不確実性の高い社会を豊かな知識基盤を活用することで乗りきるため、個々の強みを伸ばし、各大学にふさわしいミッションを明確化することで、多様な大学群の形成を目指している。

(国立大学法人の真の経営体への転換)
文部科学省は、第4期中期目標期間に向けて、中期目標の在り方の見直しを行い、国が総体としての国立大学法人に求める役割・機能に関する基本的事項を「国立大学法人中期目標大綱」として提示し、各法人がそれを踏まえた上で中期目標の原案を策定する取扱いとした。また、令和3年通常国会において、国立大学法人法を改正し、年度評価を廃止し、原則として6年間を通した業務実績を評価することとした。さらに、各国立大学法人が「国立大学法人ガバナンス・コード」への適合状況等の報告を公表しており、関係者への説明責任を果たしている。

(戦略的経営を支援する規制緩和)
令和3年5月に成立した「国立大学法人法の一部を改正する法律」(令和3年5月21日法律第41号)により、学長選考会議への学長の関与の排除や学長選考会議の持つ牽制機能の明確化を行った。また、令和4年度開設予定の案件から国立大学における組織の再編手続を簡素化している。さらに、累次の税制改正によって国立大学法人に対する寄附の促進を図っているほか、国立大学法人会計基準については、損益均衡会計の廃止等、多様なステークホルダーからも理解しやすくするとともに、目的積立金を含む繰越に関連する制度のあり方について検討し、施設設備の取替更新のための資金を積み立てることを可能とする改正を行った。内閣府では、大学関係者、産業界及び政府による「大学支援フォーラムPEAKS」を令和元年5月に設立し、大学における経営課題や解決策等について具体的に議論を行い、イノベーション創出につながる好事例の水平展開、規制緩和等の検討、大学経営層の育成を進めている。

(10兆円規模の大学ファンドの創設)
1.10兆円規模の大学ファンドの創設
近年、我が国の研究力は、諸外国と比較して相対的に低下している状況にあり、その一因は、特に欧米のトップレベル大学において、数兆円規模のファンドの運用益を活用し、研究基盤や若手研究員への投資を充実していることにあると指摘されている。このため、我が国においても、世界と伍する研究大学の実現のため、国の資金を活用して10兆円規模の大学ファンドを創設し、令和3年度からその運用を開始した。大学ファンドに関する具体的な制度設計については、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の専門調査会や、文部科学省において開催された世界と伍する研究大学の実現に向けた制度改正等のための検討会議における議論を踏まえ、令和4年2月1日、CSTIにて「世界と伍する研究大学の在り方について・最終まとめ」を決定した。

令和4年2月25日には、この最終まとめに基づき、世界と伍する研究大学となるポテンシャルを有し、改革を行う大学に対し、集中的に大学ファンドから助成を行う等の制度を定める「国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律案」が閣議決定され、令和4年5月18日、参議院本会議において可決・成立した。これらの取組を通じ、大学自身の明確なビジョンの下、研究基盤の抜本的強化や若手研究者に対する長期的・安定的な支援を行うことにより、我が国の研究大学における研究力の抜本的な強化につなげていくこととしている。

2.地域中核・特色ある研究大学総合振興
パッケージ我が国の大学の研究力の底上げには、全国の大学が、個々の強みを伸ばし、各大学のミッションの下、多様な研究大学群を形成することも重要である。そのため、地域の中核大学や特定分野に強みを持つ大学が、“特色ある強み”を十分に発揮し、社会変革を牽引する取組を強力に支援すべく、令和4年2月に「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」が決定された。本パッケージにより、全国に存在する我が国の様々な機能を担う多様な大学が、トップレベルの研究大学とも互いに切磋琢磨できる関係を構築し、日本全体の研究力を向上させることを目指している。今後は、総合振興パッケージの改訂を順次図り、必要な支援等について検討していく。

(大学の基盤を支える公的資金とガバナンスの多様化)
1.大学の基盤を支える公的資金
令和3年度予算においては、国立大学法人運営費交付金は1兆790億円を計上しており、教育研究活動に必要な経費については、対前年度実質増額を確保するなど、教育研究の充実を図っている。また、令和4年度から始まる第4期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方については、令和3年6月に取りまとめられた有識者会議の審議まとめを踏まえ、各大学のミッションを実現・加速化するための支援を充実するとともに、「成果を中心とする実績状況に基づく配分」の見直しにより、改革インセンティブの一層の向上を図ることとしている。

2.世界と伍する研究大学の実現に向けて
また、世界と伍する研究大学の実現に向けて、文部科学省において「世界と伍する研究大学の実現に向けた制度改正等のための検討会議」を令和3年9月から開催し、同年12月に論点整理を取りまとめた。

3.国立大学法人等の施設整備
国立大学等の施設は、将来を担う人材の育成の場であるとともに、地方創生やイノベーション創出等教育研究活動を支える重要なインフラである。一方、昭和40年~50年代に大量に整備された施設が一斉に老朽改善のタイミングを迎えている中で、老朽施設が十分に改善されていないため、安全面・機能面等で大きな課題が生じている。このような状況の中、文部科学省では、新たに令和3年度から令和7年度までを計画期間とする「第5次国立大学法人等施設整備5か年計画」(令和3年3月31日文部科学大臣決定)を策定した。同計画のもと、老朽改善整備等による安全確保を着実に行いつつ、キャンパス全体をソフト・ハードが一体となり、地域や産業界等の様々なステークホルダーによる共創活動が展開される「イノベーション・コモンズ(共創拠点)」の実現を目指すこととしている。

各国立大学等における「イノベーション・コモンズ」の実現に向けて、令和3年10月より開催されている「国立大学法人等の施設整備の推進に関する調査研究協力者会議」において、先導的な共創活動の取組事例を踏まえて、現状・課題等を整理するとともに、国の支援策を含めた、更なる推進方策等を検討している。また、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、地球温暖化対策計画や地域脱炭素ロードマップ等において、公共施設等におけるネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の率先した取組が求められており、政府として2030年度以降に新築される建築物についてZEB基準の水準の省エネルギー性能の確保が目標とされている。このため、国立大学法人等における新増改築及び改修事業について、徹底した省エネルギー対策を図り、他大学や地域の先導モデルとなる施設のZEB化を推進している。

(国立研究開発法人の機能・財政基盤の強化)
平成26年に「独立行政法人通則法」(平成11年法律第103号。以下「独法通則法」という。)が改正され、独立行政法人のうち我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため研究開発の最大限の成果を確保することを目的とした法人を国立研究開発法人と位置付けた(令和4年3月31日現在で27法人)。さらに、平成28年には「特定国立研究開発法人による研究開発等の促進に関する特別措置法」(平成28年法律第43号)が成立し、国立研究開発法人のうち、世界最高水準の研究開発成果の創出・普及及び活用を促進し、イノベーションを牽引する中核機関として、物質・材料研究機構、理化学研究所、産業技術総合研究所が特定国立研究開発法人に指定された。

また、研究開発力強化法が平成30年に改正され、名称を「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」とするほか、出資等業務を行うことができる研究開発法人及びその対象となる事業者の拡大、研究開発法人等による法人発ベンチャー支援に際しての株式等の取得・保有の可能化等が規定された。令和2年6月には同法が改正され、成果を活用する事業者等に出資可能な研究開発法人が更に拡大するとともに、研究開発法人の出資先事業者において共同研究等が実施できる旨が明確化された。また、本改正を受けて、令和3年4月に内閣府及び文部科学省において「研究開発法人による出資等に係るガイドライン」(平成31年1月17日内閣府科学技術・イノベーション推進事務局統括官、文部科学省科学技術・学術政策局長決定)を改定した。本改正により、研究開発法人等を中心とした知識・人材・資金の好循環が実現し、科学技術・イノベーション創出の活性化がより一層促進されることが期待されている。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書