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ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。
■一人ひとりの多様な幸せ(well-being)と課題への挑戦を実現する教育・人材育成
Society5.0を実現するためには、これを担う人材が鍵である。このため第6期基本計画では、自ら課題を発見し、解決手法を模索する、探究的な活動を通じて身に付く能力や資質が重要としており、それらを磨き高めることで、多様な幸せを追求し、課題に立ち向かう人材を育成することを目指している。その実現に向け、政府で行っている施策を報告する。
(STEAM教育の推進による探究力の育成強化)
文部科学省は、令和4年度から年次進行で実施される高等学校新学習指導要領に基づき、「理数探究」や「総合的な探究の時間」等における問題発見・課題解決的な学習活動の充実を図るため、その趣旨を周知した。なお、理数教育の充実に向けた取組として、「理科教育振興法」(昭和28年法律第186号)に基づく観察・実験に係る実験器具等の設備整備の補助や、理科観察・実験アシスタントの配置の支援も引き続き実施している。また、先進的な理数系教育を実施する高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定し、科学技術振興機構による支援を通じて、生徒の科学的な探究能力等を培い、将来、国際的に活躍し得る科学技術人材等の育成を図っている。
具体的には、SSH指定校は、大学や研究機関等と連携しながら課題研究の推進、理数系に重点を置いたカリキュラムの開発・実施等を行い、創造性豊かな人材の育成に取り組んでいる。令和3年度においては、全国218校のSSH指定校が特色ある取組を進めている。科学技術振興機構は、意欲・能力のある高校生を対象とした国際的な科学技術人材を育成するプログラムの開発・実施を行う大学を「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)」において選定し、支援している。平成29年度からは、理数分野で特に意欲や突出した能力を有する小中学生を対象に、その能力の更なる伸長を図るため、大学等が特別な育成プログラムを提供する「ジュニアドクター育成塾」を開始した。また、数学、化学、生物学、物理、情報、地学、地理の国際科学オリンピックや国際学生科学技術フェア(ISEF)等の国際科学技術コンテストの国内大会の開催や、国際大会への日本代表選手の派遣、国際大会の日本開催に対する支援等を行っている。
令和3年度は、全国の高校生等が学校対抗・チーム制で理科・数学等における筆記・実技の総合力を競う場として、中学生を対象とした「第9回科学の甲子園ジュニア全国大会」(令和3年12月3日)が各都道府県会場で分散開催され、東京都代表チームが優勝した(第2-2-12図 第9回科学の甲子園ジュニア全国大会)。また、高校生等を対象とした「第11回科学の甲子園全国大会」(令和4年3月19日)が各都道府県会場で分散開催され、東京都代表の筑波大学附属駒場高等学校が優勝した。
文部科学省では、大学生等の研究能力や研究意欲の向上とともに、創造性豊かな科学技術人材育成を目的として「サイエンス・カンファレンス」を開催し、ポータルサイト上での自主研究の発表動画・発表ポスターの画像の掲載や交流に加え、研究者等による講演、科学コンテスト等優秀者による研究発表、トークセッション、意見交換会で構成するオンラインイベントを実施した。文部科学省、特許庁、日本弁理士会及び工業所有権情報・研修館は、生徒・学生の知的財産に対する理解と関心を深めるため、高等学校、高等専門学校及び大学等の生徒・学生を対象としたパテントコンテスト及びデザインパテントコンテストを開催している。コンテストに応募された発明・意匠のうち優れたものについて表彰を行うとともに、生徒・学生が行う実際の特許出願・意匠登録出願から権利取得までの過程を支援している。なお、コンテストに応募した生徒・学生が所属する学校のうち、本コンテストに際し積極的な取組を行い、生徒・学生の知的財産マインドの向上を図るとともに知的財産制度への理解を深める努力を行った学校に対しては、文部科学省から表彰を行っている。内閣府では、総合科学技術・イノベーション会議に中央教育審議会の委員の参画を得た有識者会議を設置し、イノベーションの源泉となるSTEAM教育の充実に向けた省庁横断的な具体策の検討を進め、政策パッケージを策定した。
(外部人材・資源の学びへの参画・活用)
文部科学省は、高等学校が自治体、高等教育機関、産業界等と協働して、地域課題の解決等の探究的な学びを実現する取組を推進するため、「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」を実施し、その成果普及のための全国サミット等を実施した。また、令和3年5月に「特別免許状に係る教育職員検定等に関する指針」を改訂し、都道府県教育委員会に対して特別免許状の活用を促した。特別免許状や特別非常勤講師制度については「令和の日本型学校教育」の実現に向けて多様な専門性を有する質の高い教職員集団を構築する観点から、複線化された入職ルートとして、より一層機能させていく必要があるため中央教育審議会において検討を行っている。
(教育分野におけるDXの推進)
GIGAクール構想に基づくICT環境の整備がおおむね完了し、1人1台端末環境下での新たな学びが始まっている。教育現場においては、教員のICT活用を支援する「ICT支援員(情報通信技術支援員)」の配置促進に向けて、支援事例等を掲載したリーフレットを配布するとともに、学校教育法施行規則の一部を改正(令和3年8月23日公布・施行)し、情報通信技術支援員として、名称と職務内容を明確にした。また、高等学校情報科等における外部人材の活用促進に向けて、外部人材を活用した授業を行う際の指導モデルや研修カリキュラムを示した手引きを公表・周知した。
教育データについては、効果的な活用に向けてデータの標準化を推進する観点から、文部科学省では、令和2年に「教育データ標準」の第1版として「学習指導要領コード」及び「学校コード」を公表したほか、令和3年12月には、これまでの制度に基づき学校において普遍的に活用されてきた「主体情報」を中心に定義し、「教育データ標準」(第2版)として公表した。全国の公立学校における、教員の業務分担の軽減を可能とする統合型校務支援システムの導入については平成30年度からの地方財政措置が講じられており、平成30年3月現在は52.5%、令和3年3月現在は73.5%と着実に増加している。GIGAスクール構想による1人1台端末が整備されたことにより、校務でのICT機器やシステムの利用の状況が変化してきていることもあり、「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議」を令和3年12月に立ち上げ、今後の校務の情報化の在り方を検討している。
(人材流動性の促進とキャリアチェンジやキャリアアップに向けた学びの強化)
厚生労働省と文部科学省は、令和4年度に「job tag(職業情報提供サイト(「日本版O-NET」))」(以下、「job tag」という。)と、大学等における社会人向けプログラムを紹介するサイト(「マナパス」)との機能面での連携を実施するため、準備を進めている。令和3年度は、マナパスに掲載されている一部の正規課程・履修証明プログラムにおいて、「マナパス」側から「job tag」の職業情報との情報連携を行った(令和4年3月時点)。文部科学省は、大学等における実践的な工学教育に向けた取組を推進しており、各大学では、例えば、連携する企業における課題を用いた課題解決型学習や、産業社会構造を見据えた分野を融合した教育など、教育内容や方法の質的充実に向けた取組が進められている。また、文部科学省は、科学技術に関する高等の専門的応用能力を持って計画や設計等の業務を行う者に対し、「技術士」の資格を付与する「技術士制度」を設けている。
技術士試験は、理工系大学卒業程度の専門的学識等を確認する第一次試験(令和3年度合格者数5,313名)と技術士にふさわしい高等の専門的応用能力を確認する第二次試験(同2,659名)から成る。科学技術振興機構は、技術者が科学技術の基礎知識を幅広く習得することを支援するために、科学技術の各分野及び共通領域に関するインターネット自習教材を提供している。文部科学省及び経済産業省は、人材の流動性を高める上で、クロスアポイントメント制度の導入を促進している。また、平成28年11月に策定された「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」、令和2年6月に取りまとめた追補版、及び令和4年3月に公表したFAQにおいてもクロスアポイントメントを促進している。
(学び続けることを社会や企業が促進する環境・文化の醸成)
職業人生の長期化や働き方の多様化、また、デジタル化等の産業構造の変化に伴い、個人のキャリアアップ・キャリアチェンジのため、リカレント教育を推進する必要性が高まっている。その際、企業における人材育成の取組の推進や教育機関におけるリカレント教育プログラムの充実など、幅広い観点から必要な施策を講じていく必要がある。このため、内閣府、文部科学省、厚生労働省及び経済産業省を構成員とした検討の場を設置し、関係府省庁の人材育成施策についての情報共有等を行っている。また、文部科学省はリカレント教育を推進する社会の機運を高めるため、リカレント教育の社会人受講者数のほか、その教育効果や社会への影響を評価できる指標を開発することとし、リカレント教育に係る委託事業の取組内容や成果を踏まえるとともに、教育界、産業界等の意見を踏まえ関係省庁と連携して検討を進めている。
(大学・高等専門学校における多様なカリキュラム、プログラムの提供)
国立大学法人に対しては、「国立大学法人ガバナンス・コード」において、各国立大学法人に対し、学生が享受した教育成果を示す情報の公表を求めている。文部科学省は、全学的な教学マネジメントの確立等を実現しつつ、今後の社会や学術の新たな変化や展開に対して柔軟に対応し得る能力を有する幅広い教養と深い専門性を両立した人材育成を支援する「知識集約型社会を支える人材育成事業」を実施している。令和3年度には、文理横断・学修の幅を広げる教育プログラムや、出る杭を引き出す教育プログラムの構築を行う大学の取組を引き続き支援するとともに、授業科目を絞り込み、質と密度の高い学修の実現を目指す取組について公募を行い、3件を採択した。また、平成30年度より、卓越した博士人材を育成するとともに、人材育成・交流及び新たな共同研究が持続的に展開される卓越した拠点を形成するため、各大学が自身の強みを核に、これまでの大学院改革の成果を生かし国内外の大学・研究機関・民間企業等と組織的な連携を行いつつ、世界最高水準の教育力・研究力を結集した5年一貫の博士課程教育プログラムを構築することを支援する「卓越大学院プログラム」を実施し、令和2年度までに17大学30プログラムを採択している。さらに、令和3年5月に成立した国立大学法人法の一部を改正する法律により、全ての国立大学法人が大学の研究成果を活用したコンサルティング、研修・講習等を実施する事業者へ出資することを可能としている。高等専門学校では、中学校卒業後からの5年一貫の専門的・実践的な技術者教育を特徴とし、他分野との連携強化、社会ニーズを踏まえた教育、海外で活躍できる能力の向上等の取組を通じて技術者の育成を進めている。
(つづく)Y.H
(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書
科学技術・イノベーション白書