2019年にJIS Q 19011が発行されましたが、認証審査においてはこのJIS Q 19011に沿って内部監査を行うことが推奨されています。「平林良人の部屋」に掲載されている「内部監査とマネジメントレビューに関する質問100選」に加え、内部監査でのポイントをJIS Q 19011:2019に沿って分かりやすく解説します。なお、以下の文中ではJIS Q 19011:2019をISO19011:2018と表記しているところがあります(JIS Q 19011:2019はISO19011:2018の翻訳規格)。

C:監査の実施
ここでは内部監査の実施段階の質問を扱います。

【質問12】
内部監査は経験が豊富で力量のある人が実施する、と言われていますが、具体的に詳しく教えてください。またISO19011では個人的な行動も要求しているそうですが、それについても教えてください。

【回答12】
監査はいろいろな分野で行われています。一番知られているのが税務監査でしょう。これは国が定めた法律に沿って行われるもので、税金が正しく収められているかを確認するために行われています。税金は誰しもできるだけ少なくしたいと思っていますので、法律の隙間を突いていろいろ節税、悪意のある人は脱税まで行ない、新聞紙上に定期的に追徴課税の話題となる社会現象になっています。税務監査は「性悪説」に基づいて行われますので、税務職員は最初から不適切の事象があるであろう、何か隠しているに違いないと疑ってかかって監査に臨んでいます。

内部監査はどうでしょうか、内部監査に臨む姿勢を「性悪説」とするか、「性善説」とするかは今までもいろいろ議論されてきました。組織内の人たちを初めから疑ってかかることは、仲間への信義として与することはできない、という意見が多かったように思います。
私は、内部監査は性善説でもなく性悪説でもなく、「真実説」(という言葉は無いとは思いますが)で臨むべきだと考えています。その心は、先入観を持たずに監査基準を正として、それに合っているか合っていないかだけを確認する姿勢が大切であると思っています。

この観点から考えますと、内部監査員には基本的に次の2つの力量が必要なものであると思います。
① 監査基準を詳しく知っている。
② 「合っているということはどんな証拠から言えるのか」を説明できる。

質問にある「経験が豊富で力量のある人」とは、具体的に言うと上記①、②を満足する人であると思います。経験が豊富な人は、社内の仕事のことをよく知っているはずです。仕事の基準となる手順書、社内規定、業界標準、関係法令などを含め、業務を長く経験した人でないと得られないノーハウを保有していると思います。さらに、抜け道も知っていると思います。抜け道とは悪い意味でなく要領のことを意味しています。手順書には1から10までやるべきことが沢山書かれていますが、実際の仕事の実行においては重点ポイントがあります。手順書を読むだけでは平面的(縦*横)にしか分かりませんが、経験すると立体的(高さ)なことが分かります。決して手を抜いてはいけないところが見えてきます。経験が豊富な人が監査すると、長い仕事から得た経験により重点(高さ)を見分けることが出来ます。そして、きちんとした仕事をしたという証拠には何があるべきであるということが分かっています。ISO19011に関しては次回に回答します。

回答のまとめです。
内部監査員は、経験が豊富な人が担当すべきです。仕事の基準となるべき手順書、社内規定、業界標準、関係法令などの監査基準をよく知っていること、及びきちんとした仕事をしたという証拠には何を確認すればよいかということを理解していることの2要件が内部監査員の力量です。
加えて、JIS Q 19011:2019のa)~m)に書かれている行動を行えれば理想的です。

「JIS Q 19011:2019の該当する部分」(抜粋)
 
7.2.2 個人の行動
監査員は,箇条 4 に示す監査の原則に従って活動するために必要な特質を備えていることが望ましい。 監査員は,監査活動を実施している間,専門家としての行動を示すことが望ましい。望ましい専門家としての行動には,次の事項を含む。
a) 倫理的である。すなわち,公正である,信用できる,誠実である,正直である,そして分別がある。
b) 心が広い。すなわち,別の考え方又は視点を進んで考慮する。
c) 外交的である。すなわち,目的を達成するように人と上手に接する。
d) 観察力がある。すなわち,物理的な周囲の状況及び活動を積極的に観察する。
e) 知覚が鋭い。すなわち,状況を認知し,理解できる。
f) 適応性がある。すなわち,異なる状況に容易に合わせることができる。
g) 粘り強い。すなわち,根気があり,目的の達成に集中する。
h) 決断力がある。すなわち,論理的な理由付け及び分析に基づいて,時宜を得た結論に到達することが できる。
i) 自立的である。すなわち,他の人々と有効なやりとりをしながらも独立して活動し,役割を果たすことができる。
j) 不屈の精神をもって活動できる。すなわち,その活動が,ときには受け入れられず,意見の相違又は 対立をもたらすことがあっても,責任をもち,倫理的に活動することができる。
k) 改善に対して前向きである。すなわち,進んで状況から学ぶ。
l) 文化に対して敏感である。すなわち,被監査者の文化を観察し,尊重する。
m) 協力的である。すなわち,監査チームメンバー及び被監査者の要員を含む他の人々とともに有効に活動する。

(次号へつづく)

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