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2019年にJIS Q 19011が発行されましたが、認証審査においてはこのJIS Q 19011に沿って内部監査を行うことが推奨されています。「平林良人の部屋」に掲載されている「内部監査とマネジメントレビューに関する質問100選」に加え、内部監査でのポイントをJIS Q 19011:2019に沿って分かりやすく解説します。なお、以下の文中ではJIS Q 19011:2019をISO 19011:2018と表記しているところがあります(JIS Q 19011:2019はISO 19011:2018の翻訳規格)。
C:監査の実施
ここでは内部監査の実施段階の質問を扱います。
【質問14】
ISO 19011に書かれている内部監査員の個人的な行動について、「倫理的である」、「心が広い」、「外交的である」について教えてください。
【回答14】
内部監査員の個人的な行動が「倫理的である」、「心が広い」、「外交的である」とは、JIS Q 19011:2019の箇条7.2.2 「個人の行動」のa)、b)、c)に書かれていることだと思います。
a) 「倫理的である」とは、公正である,信用できる,誠実である,正直である,そして分別があることだとされています。内部監査においてもっと具体的に言いますと、人間として守るべきことを基準に行動することを言います。人として守るべきことには、善悪の判断、正邪などの判断を普遍的な規準に基づいて行うことがあります。道徳とかモラルとか言われますが、金品を貰ったり、接待などを受けて判断を歪める行為は「倫理にもとる行為」とか、「倫理観」が無いとか言われ批判の対象になります。金品を貰う、接待を受けるなどは極端な例ですが、内部監査で友達とか、仲が良いとかを理由に「正しいと思われること」を主張しないことも倫理に反すると考えるべきです。倫理的とは簡単に言うと、「事実」に対して忠実に行動することであると考えると良いと思います。
b) 「心が広い」とは、物事をおおらかに受け入れ、他人を厳しく咎め立てることのないことを言います。 あの人は、寛大だとか、寛容であるとか表現することもあります。a)で述べたことの反対のように思われますが、概念が異なるということを理解する必要があります。内部監査において「心が広い」とは、例えば、監査を受ける人が内向的な性格の人で質問に対してすぐに答えられなくてもゆっくり待ってあげる、というようなことを言います。非倫理的な行動をして、「俺は心が広いからこの位のことは黙っている」というようなことは在ってはならないことです。
c) 「外交的である」とは目的を達成するように人と上手に接すること、すなわち文字通り人と交流することを言います。人には外向的な人と内向的な人がいます。「外交的」と「外向的」とは似たような意味と考えがちですが、字が一時違うように、外向的とか内向的とかは人の性格を言うのに対して、外交的は行動、活動を意味します。外向的な性格の人は一般に外交が得意と思って良いでしょうが、必ずしも最も肝心なコミュニケーションに優れているとは限りません。相手の気持ちを察して親密な関係を築ける「内向的」な人の方が、コミュニケーション能力が高いとも言われます。それに対して、外向的な人は、良くも悪くも相手の気持ちには鈍感で物怖じせずに話しかけることができます。内部監査において「外交的であれ」と言われるのは、相手の気持ちを上手に扱い、事実を引き出すことに努力をすることを意味しています。
回答のまとめです。
内部監査において「倫理的である」とは、「事実」に対して忠実に行動することです。「心が広い」とは、監査を受ける人の置かれた状況、性格、応対のリズムなど被監査者から見て包容力のあることを言います。「外交的」とはインタビューなどで相手の気持ちを推し測りながら事実を明らかにすることです。
「JIS Q 19011:2019の該当する部分」 (抜粋、赤字は筆者追加)
7.2.2 個人の行動
監査員は,箇条 4 に示す監査の原則に従って活動するために必要な特質を備えていることが望ましい。 監査員は,監査活動を実施している間,専門家としての行動を示すことが望ましい。望ましい専門家としての行動には,次の事項を含む。
a) 倫理的である。すなわち,公正である,信用できる,誠実である,正直である,そして分別がある。
b) 心が広い。すなわち,別の考え方又は視点を進んで考慮する。
c) 外交的である。すなわち,目的を達成するように人と上手に接する。
d) 観察力がある。すなわち,物理的な周囲の状況及び活動を積極的に観察する。
e) 知覚が鋭い。すなわち,状況を認知し,理解できる。
f) 適応性がある。すなわち,異なる状況に容易に合わせることができる。
g) 粘り強い。すなわち,根気があり,目的の達成に集中する。
h) 決断力がある。すなわち,論理的な理由付け及び分析に基づいて,時宜を得た結論に到達することが できる。
i) 自立的である。すなわち,他の人々と有効なやりとりをしながらも独立して活動し,役割を果たすことができる。
j) 不屈の精神をもって活動できる。すなわち,その活動が,ときには受け入れられず,意見の相違又は 対立をもたらすことがあっても,責任をもち,倫理的に活動することができる。
k) 改善に対して前向きである。すなわち,進んで状況から学ぶ。
l) 文化に対して敏感である。すなわち,被監査者の文化を観察し,尊重する。
m) 協力的である。すなわち,監査チームメンバー及び被監査者の要員を含む他の人々とともに有効に活動する。
(次号へつづく)
ISO関連用語解説「19011とは」はこちらから