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第11回
「私とマネジメントシステムそしてISO」の第11回目です。第5回に述べたTQC特徴6項目について話が進んでいます。
TQC特徴6項目とは、第5回目でお話しした次の6項目です
5.1 全員参加の品質管理
5.2 品質管理の教育・訓練
5.3 QCサークル活動
5.4 QC診断
5.5 統計的方法の活用
5.6 国家的品質管理推進活動
今回は5.2「品質管理の教育・訓練」から始めることになります。
5.2 品質管理の教育・訓練
日本式TQCの特徴の一つに教育・訓練があります。全員による品質管理の実践に不可欠なものが、この教育・訓練です。PDCA、顧客志向等の概念を企業の中に広めようとすると、必然的に企業の構成員全員に品質管理に関する教育・訓練をしなければなりません。日本はその国民性からして教育に関して熱心であり、そもそも全員が一定の教育レベルに達しているわけですから、各階層に品質管理教育を実施していくことは、比較的スムーズに行われていきました。欧米のようにラインとスタッフの区別が厳然とあり、職業的組合(ギルド)が影響力を行使している風土の下とは対照的に、多くの組織で全員に向けて徹底した教育が実践されていきました。
当時の様子を石川馨著「TQCとは何か、日本的品質管理」(前出)から引用します。
「私は昔から次のように言っている。“QCは教育に始まって、教育で終わる。”“全員参加でQCを進めるには、社長から作業者まで、全員にQC教育を行わなければならない。”“QCは、経営の一つの思想革命であるから、全従業員の頭の切り換えを行わなければならない。そのためには何回も何回も、繰り返し教育しなければならない。”」
昔から日本くらいQC教育を熱心にやっている国は世界にはありませんでしたが、昨今の企業の実態を見ると、こうした先人の人達の教えを忘れ、教育訓練から手を抜いている組織が多く心配になります。
1970年ごろ、日本のQC研究にきたスウェーデンのQC管理専門家がこう言って驚いていました。“日本へ来て一番びっくりしたのは、企業が従業員のQC教育を熱心にやっていることである。日本は終身雇用制だから、教育すればするだけ、本人は成長するし、企業もよくなる。スウェーデンは転職率が高く、せっかく教育してもすぐ転職してしまうから、とても日本のように教育するわけにはいかない。”
このように言っていたのがとても印象的でしたが、あれから50年経って、日本も欧米の風土に近くなってしまったのでしょうか。
①階層別QC教育
日本では、かって、たとえば日科技連において、社長・重役、経営幹部、部課長、技術者、現場長、QCサークル推進者、リーダー・メンバー、作業者また営業部門、購買部門のためのなど、きめ細かいQC教育プログラムが実施されていました。欧米においては、技術者の教育はありますが、それ以外、特に末端作業者まで含めての品質管理教育はほとんど行われていませんでした。
しかし、2018年に聞いたところでは、欧米では盛んに小中学校教育におけるQC教育を行っているとのことです。1990 年代、日本から品質管理をQC ストーリーを使って理解させようとする教育が海外に広まっていきましたが、2018年現在、アメリカ、カナダ、イギリス、ニュージーランドなどでは、このQC問題解決に関する教育が体系的に行われているようです。本家の日本を超えて、はるかに統一的に、網羅的に小中学校でQCの授業が行われるという逆転現象が起きています。
②長期間のQC教育
欧米では5日間から10日間くらいの教育が普通ですが、日本ではこれでは不十分であるとして、たとえば日科技連の品質管理基礎コース(通称ベーシックコース)は、毎月5日間*6ヶ月の長期コースです。1週間勉強したことを一度、会社へ持ち帰り、3週間かけて、工場の実際のデータを用いて実践してみます。その結果を持ち帰って翌月のコースに参加するというシステムでした。すなわち、学習と実習のくり返しの教育であって、そのため受講生2~3名に1人の指導講師がつき個別指導も行うことになっていました。この指導の進め方は、受講生自身の勉強のためにも、講師自身のためにもなっています。いろいろな全国各地の各種業種の実例を東京に居ながらして知ることができるわけで、講師の訓練にもなっていたのです。こういう教育を70年近くも続けてきたことが、日本のQCの底辺の拡大と、基盤の強化に役立っているのです。
③企業内における教育・訓練
上に述べたことは、品質管理専門機関による教育・訓練であるが、これでは不十分であることから、企業内の教育・訓練も盛んでした。多くの企業では、それぞれ企業独自のテキストまで作成し、全従業員の教育・訓練にとりくんでいました。
④教育は永久に続けなければならない
日本ではデミングが来日した1950年以来、連続的にしかも教育コースの種類を増加させながら、継続してQC教育を行ってきました。人間は年に1歳ずつ年を取っていきますし、若い人も毎年入ってきます。それぞれに応じた教育を毎年続けていかなければならないのです。組織における集合教育は全体の一部でしかありません。上司は実務を通して仕事のやり方を部下に教育します。職場内で行われる教育はOJT(On the Job Training)と呼ばれますが、この実践は上司の責任で部下が育つか育たないかOJTによるところが多いと思います。OJTを通じて徐々に仕事の権限を委譲し、方針、目的だけは明確に示し、あとは自主的に仕事を行わさせることで人は育ちます。
以上述べたように、日本ではどこの組織でも教育・訓練(education & training)と呼称していますが、欧米では訓練(industrial training)としか言わず、教育という言葉は使いません。欧米では、これはどちらかというと訓練して腕を磨かせてうまく使ってやろうという気持ちが強いように思われます。石川の「QCは教育に始まって、教育で終わる」という格言は、その後多くの場面、著書に引用され、教育・訓練を通じてTQCを推進しようとする基盤になっていきました。デミング賞実施賞の審査においても、「教育・普及」については重視され、次のチェックポイントにより審査が行われてきています。
①教育計画と実績
②品質意識、管理意識、品質管理に対する理解度
③統計的考え方および手法の教育と浸透状態
④効果の把握
⑤関連会社の教育
⑥QCサークル活動
⑦改善提案の制度と実態
以上