第19回

「私とマネジメントシステムそしてISO」の第19回目です。第5回で述べたTQC特徴6項目についてセイコーエプソンでの体験も挟みながら話を進めます。

TQC特徴6項目とは、第5回目でお話しした次の6項目です

5.1 全員参加の品質管理
5.2 品質管理の教育・訓練
5.3 QCサークル活動
5.4 QC診断
5.5 統計的方法の活用
5.6 国家的品質管理推進活動

今回は5.5「統計的方法の活用」についてです。

5.5 統計的方法の活用
セイコーエプソンでは1964年ころデミング賞にチャレンジするという方針が出されました。早速、全社で品質管理の勉強が始まりましたが、スタッフ部門ではSQC(Statistic Quality Control:統計的品質管理)を中心とした勉強会が定期的に開かれました。

①工程能力指数
製品の特性に与えられている上側、下側規格限界の規格幅に比べて、該当加工寸法のばらつきがどの程度の大きさかを評価する尺度として用いられる。

②検定・推定
たとえぱ 10 個程度の少数のデータから、データを生み出すもとである母集団がどのような状態になっているのかについて、数理統計学の理論に基づいて調べる方法である。検定は、事前に設定した仮説が成り立っているかどうかを、推疋は興眛のある対象がどの範囲にあるのかを調べる。

③相関分析
2つの対になった変数データについて、相関係数を求めるなどして 2変数問の関係を探索する手法である。相関係数とは2つの変数の関係を、マイナス1からプラス1の間の値で表現するもので、相関係数プラス1 の場合には両者が右肩上がりの直線で表現でき、 一方マイナス1の場合には右肩下がりの直線となる。

④回帰分析
結果などを表す目的変数と、それと関連すると思われる説明変数について、すでに収集されているデータをもとに、これらの関係を調べる方法である。目的変数と説明変数の関係に、パラメータに関して線形回帰モデルを設定し、 そのパラメータをデータから推定する。

⑤実験計画法
対象についてのデータを計画的に収集し、それを統計的に解析することで、もっとも好ましい条件などを効果的に求める方法である。

⑥多変量解析
設計における各種分析、工程設計解析、顧客満足度解析などに用いられる。たとえぱ、ホテルの満足を構成する要素について、どんな項目が強く満足に関係しているかを探るため、複数の項目(仕事にやり易さ、インターネット環境など)について質問をして主成分分析を実施する。

これらは、当時の設計、技術部門の品質管理の勉強会のカリキュラムの一部です。
一方、日本では1964年、アジアで初めてのオリンピックが東京で開催されることが決定され、セイコーエプソン社内は俄かに多忙となりました。Seiko Groupは、オフィシャルタイマー会社として、それまでオメガが独占してきた公式計時・記録を担当することになりました。そこで、活用された技術、製品は次のようなものです。
a.クリスタル・クロノメーター QC‐951
1963年、スイスのニュ-シャテル天文台で実施された、国際クロノメータコンク-ルにおいて、スイス以外では初めて入賞した、Marine Chronometer の後継機種として、水晶時計を東京オリンピック用に開発、製作しました。

・小型軽量でどこへでも携帯可能
・精度は驚異の平均日差±0.2 Sec
・消費電力(0.003Wat)が極めて省エネで単一乾電池の交換は一年に一回
・乾電池(1年間/単一2本)駆動で保守、取扱が非常に簡単
・外部から遮断され電気的騒音影響は皆無

特に長距離レ-スや時間制限レ-ス等の親時計として使用され、内蔵された時刻接点により、出発合図時計やストップウオッチを遠隔操作する装置も実装されていました。

b. プリンティングタイマー EP-101
その名の通り、時刻印刷機構と時間計測機構を一つに組み合わせた電子記録装置です。主として人が測定することが困難なスピード競技において、ピストル、光電管、写真判定器等と連動し、自動的に競技の所要時間を記録する装置として開発、製作されました。時間計測機構には、前述のクリスタル・クロノメータ-が使用され、時刻印刷機構は前者からの時刻信号による、1/1000 Sec の分解能で、1/100Secまでのタイムを、着順、コ-ス、回数(Lap)等と同時に内蔵のロールペーパー(巻取紙)に瞬時に印刷する機構を持っていました。EP101は、片手に載せる事が出来る程の小型、軽量で、消費電力も従来の1/20に抑えた画期的なディジタル プリンターでした。

・印字Cycle Time:約350ms
・桁数:21桁
・文字数:16文字
・印字方式:ラインプリント
・カラ-:赤黒2色リボン
・記録紙:普通紙(紙幅89mm
・外形寸法:幅163.5*奥行き135*高さ102mm
・重量:2.5Kg

紙に記録が残るので、オリンピック時の選手からのアピール(クレーム)に即刻に対応できました。
この騒ぎの中で、社内ではいつしかデミング賞へのチャレンジは消え失せ、統計的手法の活用も、「工程能力」に関しての算出以外、セイコーエプソングループではあまり見られなくなりました。

以上