第20回

「私とマネジメントシステムそしてISO」の第20回目です。第5回の述べたTQC特徴6項目についてセイコーエプソンでの経験を挟みながら話を進めます。

TQC特徴6項目とは、第5回目でお話しした次の6項目です

5.1 全員参加の品質管理
5.2 品質管理の教育・訓練
5.3 QCサークル活動
5.4 QC診断
5.5 統計的方法の活用
5.6 国家的品質管理推進活動

今回は5.5「統計的方法の活用」の2回目についてです。

5.5 統計的方法の活用2
デミング賞へのチャレンジが中途で終わり、統計的方法の活用も表面的には消えたように見えましたが、技術部門ではデータの処理を統計的に行うことは不可欠なことでした。

もっとも、よく使われた手法は、QC7つ道具と言われる第3回でお話しした統計的手法でした。
このデミング賞中断の背景には、東京オリンピックを控え全社が多忙を極めたこと、管理技術と固有技術の取り組みへの力の入れ方がありました。管理技術と固有技術は経営の両輪とよく言われますが、セイコーエプソンは腕時計を起点に、技術開発で拡大を続けてきた会社で固有技術には一方ならぬ力の入れ方をしてきました。戦後スイスから時計加工機械を輸入して、見よう、見真似で国産化に成功したことはこれまで述べてきたとおりです。

1963年、セイコークオーツ・クロノメータが、ニュ-シャテル天文台コンクールで入賞を果たし、翌年の東京オリンピックでこれまでスイスオメガの牙城であるオフィシャルタイマーの地位をSEIKOが奪うと、様相が一転しました。従来の寛容な態度が一転して競争相手に対する態度に変わりました。1964年、スイスは、同国製の時計用製造機械の日本への輸出に規制をかけました。それまでは、日本がスイスに拮抗する程までの技術、技能を獲得するとは思っておらず、スイス政府は時計用製造機械の輸出を工作機械メーカーの自主性に任せていました。時計用製造機械は、他産業にはない高い精度を誇り、自動旋盤、歯割機、プレス、穴明け機、サライ機、Facing機、テンプ錘取機、巻芯穴明け機、外径挽機など特徴のある多くの機械があり、その多くはスイス国内に工作機械メーカーとして確固たる地歩を築いていました。
「時すでに遅し」とはこのような状況を言うのでしょうか、SEIKOは既にこれらの機械を徹底的に分析し、グループ内で同様な工作機械を製作し始めていました。1台のモデル機があれば、時間と頭脳を投入すればほとんどのことは現実化できるという事実をこの時知りました。

今日も米中貿易摩擦が大きな話題になっていますが、古今東西において技術は時間と共に世界で平準化される運命にある、と思います。結局、競争に勝ち残れるのは、自分達だけが持つ技能、ノウハウが他社を圧倒して保有しているということになり、如何に固有技術が重要かをこの時SEIKOグループは知ったのだと思います。管理技術も必要であることは論を待ちませんが、それより重要なものが組織に根付いた固有技術であるということを悟ったということです。

以上