第21回

「私とマネジメントシステムそしてISO」の第21回目です。第5回で述べたTQC特徴6項目についてセイコーエプソンでの経験を挟みながら話を進めます。

TQC特徴6項目とは、第5回目でお話しした次の6項目です

5.1 全員参加の品質管理
5.2 品質管理の教育・訓練
5.3 QCサークル活動
5.4 QC診断
5.5 統計的方法の活用
5.6 国家的品質管理推進活動

今回は最後の5.6「国家的品質管理推進活動」についてです。

5.6 国家的品質管理推進活動
「国家的品質管理推進活動」とは、今日でいう「骨太の方針」のように国が重要課題に取り上げ将来の日本になくてはならない存在にしていく、という素晴らしい考えであり特徴であったと思います。
日本に品質管理が根付き、日本式TQCに発展したのは日本全国に張り巡らされたネットワークによるところが大きいと思いますが、1958年日本規格協会は、工業標準化と品質管理に関する「全国標準化大会」を企画、スタートさせました。この大会は、毎年10月の国際標準化デー(10月14日)を中心に、数日間の日程で工業標準化と品質管理についてシンポジュームを開くことで、産業界に標準化と品質管理の普及啓蒙をしていきました。

また、1960年には日科技連が事務局となる品質月間委員会が設立され、以来毎年11月を品質月間として、全国的な規模で各種行事を開催しています。デミング賞の授賞式もこのタイミングに合わせて実施されています。この期間中に実施される催物としては、消費者大会、トップ大会、部課長・スタッフ大会、職組長大会、全日本選抜QCサークル大会等があり、やはり日本の品質管理の普及啓蒙に貢献しました。
世界にはこのような全国規模の推進活動はあまり例をみません。民間を中心に毎年継続的にこのような行事を続けていることは日本式TQCの特徴といってよいでしょう。先にも触れたように、日本には独自な風土があって、皆で一つのことを団結して推進していこうとする良い伝統がこのような運動を可能にしていると言えます。

この品質月間では多くの企業が社内講演会を開催します。セイコーエプソンでも例年10月に開催しておりましたが、1968年頃トヨタの大野耐一氏を講演者に招き「カンバン」について話を聞く機会がありました。
カンバンの生みの親、大野耐一氏は、「カンバンは自動車の多種少量生産システムを開発する必要から生まれた」と言っていました。大野氏は工場長の時代に断固たる決意であらゆる無駄を排除しようとしました。これを実行するため、彼は生産工程で発生する無駄を次の類型に分類しました。

① 作り過ぎの無駄
② 手持ちの無駄
③ 運搬の無駄
④ 加工そのものの無駄
⑤ 在庫の無駄
⑥ 動作の無駄
⑦ 不良を作る無駄

大野氏は、「作り過ぎ」が、あらゆる無駄をもたらす元凶だと考えて、こうした無駄を解消する為に編み出したのが、「カンバン」です。この「カンバン」の考えは、要るものを、要るだけ、要る時に作ることです。これを実施しようとして、通常のプロセスと反対のことを考えました。通常は、部品は加工が終り次第、次の工程に運ばれますが、大野氏はこの常識を反転させ、各生産工程は前工程に行って必要な数量だけ取ってくるようにしました。この結果、在庫水準は大幅に低下しました。

大野氏が1952年に「カンバン」を考え、機械加工、組立作業で試験的にその運用を始めてからトヨタ全工場に全面採用される迄には、ほぼ10年の歳月を要しました。このシステムが完全に出来上がった後、トヨタはそれをトヨタ協力会社にまで拡大しました。初期段階では、協力会社を招いて、トヨタの工場を見学させたり、トヨタの技術者を協力会社に派遣して指導したと聞いています。

以上