第24回

「私とマネジメントシステムそしてISO」の第24回目です。
今回は、トヨタ生産方式の特徴である、「人偏の付いた自働化」と「 Just in Time 」の2つについて述べていきます。

◆トヨタ生産方式

1.人偏の付いた自働化

トヨタ生産方式の基本思想である「徹底したムダの排除」では、「作り過ぎのムダ」を最大のムダとしており、この作り過ぎと不良品の防止を実現するのが、「人偏の付いた自働化 」です。人偏が付いているのは、単なる「自動化」ではなく、機械をそのまま使わず、機械に人間の知恵を授けることを意味しています。
過去、高度成長期、工場の使命は製品を大量に製造して旺盛な需要を満たすことでした。これには大量加工の作業を自動的に行う機械が必要となり、自動化機械を時間とお金かけて開発しました。企業は開発投資した機械の償却を早くするために、更に製品を大量に製造しました。しかし、機械に不具合がある途端に、大量の不良品が発生することになりました。大量の不良品が出た上に、最悪の場合機械自体が壊れることにもなり、やむを得ず機械に監視役の作業員を配置しました。これでは、自動化の狙いと全く本末転倒なことが起きたことになります。

トヨタではこれらの事態の打開に、機械に良否の判断を、つまり不良品の発生を機械に判断させて、ラインが停止する仕組を考えました。トヨタではこの機械のことを、人間の知恵が与えられるとして「人偏の付いた 自働化」と呼んだのです。「 自働化 」には、不良品発生防止だけでなく、作り過ぎの防止の役目もあります。物作りは、トラブルが付きものです。機械が故障してストップしたら、その前工程もストップしないと前工程の機械は部品を作り続け、現場に部品が溢れてしまいます。そこで例えば、作業台に完成した部品を置く場所と量を決めて、部品の置き場がなくなったら作業を一時停止して、置き場が空いたら再び作業をするようにして作り過ぎを防止しました。

これらの「 自働化 」という考え方は、機械設備だけで無く、組立ラインの人間が作業する所にも拡大されていき、人も機械もラインも、異常があれば直ちに止めるシステムを総称してトヨタでは「 自働化 」と呼びました。作業者の自働化の「 自 」は、作業者自身の自であり、自分のやっている作業で、「これはいけない!」「不良である」と思った場合に、作業者自身がコンベアを停止させるルールにしました。通常、ライン作業の場合は、ラインを止めれば瞬間的に確実に生産量は落ちますので、作業者、監督者としてはラインを止めることは気の進まないことです。トヨタでも、止めたいわけでなく、ラインを止めることによって問題点をはっきりさせる為に止めるのです。停止の都度、これらの問題に一つ一つ対策を取り、結果的には、素晴らしいラインにすることを目的としていました。トヨタがアメリカに工場を設立した時の初代工場長張富士夫氏(後のトヨタ社長)は、「文化の違うアメリカで、問題があったときにラインを止めることは非常に難しかった。数年の年月がかかった」と述懐しています。

2.「 Just in Time 」

必要な物を、必要な時に、必要なだけ、各工程に供給することを「 Just in Time 」といいます。「 Just in Time 」は、すでに説明した「カンバン」の活用にその核心があると言われていますので、重複を避け簡単に要点を述べます。トヨタだけでなく、どこの会社でも、生産計画を組むことで、計画的に生産を行い、ムダ、ムリ、ムラを無くして生産効率を上げることを志向しています。しかし、トヨタの「 Just in Time 」は、普通の考えを深く掘り下げて仕組化したところに特徴がありますが、その発想は大野耐一氏が昭和30年代、アメリカ視察旅行で、スーパーマーケットを観察した時に生まれたと言われています。

「必要な食材を、必要な時に、必要な量だけ」購入出来るスーパーマーケット(以下Super)は、まさに家庭にとっての、「 Just in Time 」を実現しています。Superには肉も魚も野菜も全て揃っているという魅力があります。昔は、肉は肉屋に、魚は魚屋に、野菜は八百屋にと個別に足を運んだものですが、そうでなくなった今日、Superには利用者が欲しい商品が用意されていなければ営業は成り立ちません。陳列棚の商品には、数時間で棚から無くなる人気商品もあります。その商品を売り切れたまま放置したら、後から来店したお客は買えませんし、買えないお客は別の店に流れてしまいます。その為、商品を必要な量だけ店舗の倉庫に保管しておき、棚の商品が減ったらすぐに倉庫から補充して、常に商品が店頭に置かれるようにしておきます。

Superの多くの商品は賞味期限や消費期限がある食料品なので、在庫を大量に持ちすぎれば期限が過ぎてしまい廃棄しなければなりません。その為Superでは、売れた商品を、日々売れた分だけ仕入れるようにして、過不足の無い在庫を目指しています。この管理を行うには前提条件があります。それは、お客様がコンスタントに商品を買ってくれること、欲しい商品の補充がすぐにできることです。
Superでの「 Just in Time 」の条件は、工場にも当てはまります。生産ライン側の条件は、平準化した物作りをすることです。前工程や取引先側の条件は、要求された部品を短期間で納品することです。工場は、生産ラインが量や種類を毎日平準化して組み立てて、前工程への部品の量や種類の要求を平準化します。前工程や取引先は、要求された部品をこまめに作り、こまめに運びます。

そこで、トヨタの大野氏は、いる物を、いる時に、いる所が、いるだけ取りに行けばいいと考えました。どこの会社でも、だいたい前工程が完成した部品を後工程へ持って行きますが、それを逆に考えたのです。組立工程は、欲しい時に、欲しい部品を前工程に取りに行くことにしました。欲しい時に取りに来られる前工程は、組立工程が持っていった数量を補充しておけばいいという考え方です。このシステムの利点は、付随的に、中間倉庫が不要になり、作っただけの量の置き場があればよく、置き場が一杯になったら作ることを止めればよいと理屈では考えられました。

しかし、自動車のように何万点もの部品から成り立っている完成製品では、工程の数は膨大なものとなり、その膨大な全ての工程の生産計画を一糸みだれずに「 Just in Time 」の状態にして、所期の目的を達成するということは現実には不可能でした。そこで、製造工程の最後は総組立ラインであるから、ここを出発点として組立ラインだけに生産計画を示し、前工程は生産計画を知らずに、後ろ工程から指示された部品数量だけを生産する、置き場が空いたらまた生産を開始する、という仕組みを「カンバン」で実現させました。トヨタ生産方式には多くの特徴がありますが、「人偏の付いた自働化」と「 Just in Time 」が、世界中から注目を浴びる生産方式の核心であると思います。

以上