第29回

ISO9001:2000版の投票では、日本は原案に反対をしましたが、国際規格としては多数をもって成立しました。ISO9001は、<品質保証規格>から<品質マネジメントシステム規格>へと、その性格を変えて第三者認証の基準規格となりました。組織には品質の他いろいろな経営要素があります、ISOの狙いはそこにあったのだと思います。組織における環境、安全衛生、情報セキュリティ、エネルギー、事業継続、文書管理、設備管理、財産管理、CSRなど、品質以外いろいろなマネジメントシステムが考えられます。既にその前哨戦としてISO14001:1996が、環境マネジメントシステム規格として発行されていましたが、2000年以降多くの分野のマネジメントシステム規格が続々と制定されることになりました。
そのようにしてISOマネジメントシステム規格は、1987年に発行されたISO9001の初版以来多くのマネジメントシステムが世界に溢れることになりました。ISOマネジメントシステム規格は、2021年今日、Aタイプ、Bタイプに分かれ、約50種類ずつ合計100種類位の数が制定されています。ISO自体が発行している規格は約20,000種類ありますので、有名になったとはいえマネジメントシステム規格はずいぶん少数派です。
Aタイプは要求事項規格、Bタイプはガイド規格と区分されています。認証用に用いられる規格はAタイプの規格です。

◆ システムの中にシステムがある?

このようにして現在多くのマネジメントシステム規格が氾濫していますが、私はシステムの中にシステムがあるのはおかしいと思いました。そのような状態を表現したいのであれば、システムの中にサブシステムがあると言うべきだと思いました。しかし、必ずしもそうではないということが、後日には理解することになりますが、それは次回お話しします。

当時(2000年)多くのマネジメントシステムが世界に溢れることになったため、組織に影響を与え、かつ課題を突き付けたと前回お話ししましたが、それは「システムの中にシステムがある」という状態にどう対処するのかという課題を意味しています。すなわち、組織には創業以来作り上げてきた組織固有のマネジメントシステムがありますが、そのシステムにISOマネジメントシステムが入り込むという構図が出来ていることへの対応です。

システムとは、「ある目的を持った外界から取り込んだ必要な資源を繋げたすべての要素(狩野)」、あるいは「方針及び目的(目標)、並びにその目的(目標)を達成するためのプロセスを確立するための、相互に関連する又は相互に作用する、組織の一連の要素(ISO)」です。
「ある目的」とは、企業においては明らかに顧客創造、あるいは顧客価値提供です。企業はお客様に支持されて生きていけます。組織は、一義的に顧客満足を地道に、根気よく、継続的に改善を目指して全員参加で推進していけば、結果として収益が市場からもたらされます。そのための仕組みが組織のマネジメントシステムです。品質、環境、安全衛生、情報セキュリティ、エネルギー、事業継続、文書管理、設備管理、財産管理、CSR(SDGs)などはいずれも組織の方針と目的を達成するために必要な要素であり手段です。
「組織に課題を突き付けた」とは、ISOマネジメントシステムが組織固有のマネジメントシステムの中にどのように位置づけるかとう課題を生み出したことを意味しています。

◆ Aタイプは要求事項規格

参考に現在どのようなAタイプのマネジメントシステム規格がISOから発行されているか、主なものを下記に示します。

  1. ISO 9001:2015 品質マネジメントシステム—要求事項
  2. ISO 10012:2003 測定管理システム—測定プロセスと測定機器の要求事項
  3. ISO 13485:2016 医療機器—品質管理システム—規制⽬的の要求事項
  4. ISO 14001:2015 環境マネジメントシステム—使⽤に関するガイダンス付きの要求事項
  5. ISO 14298:2013 グラフィックテクノロジー—セキュリティ印刷プロセスの管理
  6. ISO 15378:2017 医薬品の⼀次包装材料—適正製造基準(GMP)に関連したISO 9001:2015の適⽤に関する特定の要求事項
  7. ISO 16000-40:2019 室内空気—パート40︓室内空気品質管理システム
  8. ISO 18788:2015 プライベートセキュリティ運⽤の管理システム—使⽤に関するガイダンス付きの要求事項
  9. ISO 19443:2018 品質マネジメントシステム—核安全に重要な製品とサービスを供給する核エネルギーセクターのサプライチェーン内の組織によるISO 9001:2015の適⽤に関する特定の要求事項(ITNS)
  10. ISO / IEC 19770-1:2017 情報技術— IT資産管理—パート1:IT資産管理システム—要求事項
  11. ISO / IEC 20000-1:2018 情報技術—サービス管理—パート1:サービス管理システムの要求事項
  12. ISO 20121:2012 イベントの持続可能性管理システム—使⽤に関するガイダンス付きの要求事項
  13. ISO 21001:2018 教育機関—教育機関の管理システム—使⽤に関するガイダンス付きの要求事項
  14. ISO 21101:2014 未踏調査—安全管理システム—要求事項
  15. ISO 21401:2018 観光および関連サービス—宿泊施設の持続可能性管理システム—要求事項
  16. ISO 22000:2018 ⾷品安全管理システム—フードチェーン内のあらゆる組織の要求事項
  17. ISO / TS 22163:2017 鉄道アプリケーション—品質管理システム—鉄道組織のビジネス管理システム要求事項:SO9001:2015 および鉄道セクターでのアプリケーションの特定要求事項
  18. ISO 22301:2019 セキュリティと回復⼒—ビジネス継続性管理システム—要求事項
  19. ISO 24518:2015 飲料⽔および廃⽔サービスに関連する活動—⽔道事業の危機管理
  20. ISO / IEC 27001:2013 情報技術—セキュリティ技術—情報セキュリティ管理システム—要求事項
  21. ISO / IEC 27701:2019 セキュリティ技術—プライバシー情報管理のためのISO / IEC27001およびISO / IEC 27002の拡張—要求事項とガイドライン
  22. ISO 28000:2007 サプライチェーンのセキュリティ管理システムの仕様
  23. ISO 28001:2007 サプライチェーンのセキュリティ管理システム—サプライチェーンのセキュリティ、評価、計画を実装するためのベストプラクティス—要求事項とガイダンス
  24. ISO 28002:2011 サプライチェーンのセキュリティ管理システム—サプライチェーンの回復⼒の開発—使⽤に関するガイダンス付きの要求事項
  25. ISO 28007-1:2015 船舶および海洋技術—船舶に⺠間契約の武装警備員(PCASP)を提供する⺠間海事保安会社(PMSC)のガイドライン(およびプロフォーマ契約)—パート1:⼀般
  26. ISO 29001:2020 ⽯油、⽯油化学、天然ガス産業—セクター固有の品質管理システム—製品およびサービス供給組織の要求事項
  27. ISO 30000:2009 船舶および海洋技術—船舶リサイクル管理システム安全で環境に配慮した船舶リサイクル施設の管理システムの仕様
  28. ISO 30301:2019 情報と⽂書化—記録の管理システム—要求事項
  29. ISO 30401:2018 ナレッジマネジメントシステム—要求事項
  30. ISO 34101-1:2019 持続可能で追跡可能なカカオ—パート1:カカオの持続可能性管理システムの要求事項
  31. ISO / TS 34700:2016 動物福祉管理—⾷品サプライチェーンの組織に対する⼀般的な要求事項とガイダンス
  32. ISO 35001:2019 研究所およびその他の関連組織のバイオリスク管理
  33. ISO 37001:2016 贈収賄防⽌管理システム—使⽤に関するガイダンス付きの要求事項
  34. ISO 37101:2016 コミュニティにおける持続可能な開発—持続可能な開発のための管理しステム—使⽤のためのガイダンスを伴う要求事項
  35. ISO 39001:2012 交通安全(RTS)管理システム—使⽤に関するガイダンス付きの要求事項
  36. ISO 41001:2018 施設管理—管理システム—使⽤に関するガイダンス付きの要求事項
  37. ISO 44001:2017 協調的なビジネス関係管理システム—要求事項とフレームワーク
  38. ISO 45001:2018 労働安全衛⽣マネジメントシステム—使⽤に関するガイダンス付きの要求事項
  39. ISO 46001:2019 ⽔効率管理システム—使⽤に関するガイダンス付きの要求事項
  40. ISO 50001:2018 エネルギー管理システム—使⽤に関するガイダンス付きの要求事項
  41. ISO / TS 54001:2019 品質管理システム—政府のすべてのレベルの選挙組織にISO 9001:2015を適⽤するための特定の要求事項
  42. ISO 55001:2014 資産管理—管理システム—要求事項
  43. ISO / AWI 56001  [ 開発中 ]イノベーションマネジメント—イノベーションマネジメントシステム—要求事項
  44. ISO / IEC 80079-34:2018 爆発性雰囲気—パート34︓Ex製品製造のための品質管理システムの適⽤ など

このように、第三者認証に使えるAタイプのマネジメントシステム規格が44以上もあるとは驚きです。
(つづく)