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第三回
「私の品質管理そしてISOとの関わり」の第3回目です。私は諏訪精工舎の子会社信州精器において、腕時計部品を製造するスイス製機械の稼働を効率的に行うために品質管理の勉強をせざるを得ませんでした。今思うに、この頃の実践経験が大変役に立っていると改めて感じます。
4.1 TQC(日本式品質管理)の誕生
1950年代日本には、アメリカにおいて第二次世界大戦中に大きな成果を上げたといわれるSQCが導入され、しだいに産業界で成果を上げるようになりました。その一つのきっかけは、1950年のデミング(W.E.Deming)博士の来日だといわれています。デミングは1947年と1950年にGHQ(占領軍総本部)の統計調査のコンサルタントとして来日しましたが、1950年の来日の節、(財)日本科学技術連盟(日科技連)はデミングを招聘してSQCに関する8日間の講習会を開催しました。デミングは、我が国の産業界にPDCAの使い方、管理図、サンプリング等を中心としたSQCを教えました。この講義は大きな反響を呼び、翌1951年にはデミングの芳志による印税を基金に、同博士の業績と友情を長く記念し、わが国の品質管理の発展に資する目的で、日科技連がデミング賞を創設しました。
これ以降、統計的手法に基づく品質管理が各種企業に紹介され、またPDCA(管理のサイクル)の概念を含めた総合的な品質管理のカリキュラムが開発され、大学の正規の授業でも教えられるようになりました。1954年には、今度はジュラン(J.M.Juran)博士が来日し、技術者を中心としたSQCだけでは限界があるとして、マネジメントのツールとしての品質管理の実施法を日本の産業界に講義しました。
デミング賞は、品質管理手法を用いて顕著な経営改善を達成した企業を表彰するものであったため、各企業はSQCに留まらず更に多彩な経営改善手法に工夫を凝らすようになりました。朝香鉄一・石川馨編「品質保証ガイドブック」(1974年、日科技連出版社)には、この辺の経緯が次のように書かれています。
① 「企業では、トップマネジメント(会長、社長)から現場の作業者に至るまで、各職位に応じて品質管理の意味をよく理解し、品質の維持と改善を通じて企業経営の水準を向上する努力が行われるようになった。
②1960年頃より次第に日本の産業界にとって大きな課題となってきた貿易自由化論が台頭し、このために、これに関連を有する自動車、機械及び電気工業会においては、外国製品に対する競争力のある安くてよい品質の製品を生み出す企業体質を身につける必要が焦眉の急となってきた。このために、品質管理を積極的に導入することは当然のこととなった。
③日本のQCサークル活動が盛んとなり、1962年にQCサークル事務局が設立された。」
このように、1960年代には各企業においてトップの明確な方針のもと、各部門がその垣根を越えて全社的に品質管理活動を実施するようになっていったが、これらの活動はTQC(Total Quality Control)と総称するようになりました。このTQCという用語はGEの品質管理部長であったファイゲンバウム(A.V.Feigenbaum)が、1961年にその著書「TQCの概念化:総合的品質管理 ; Total Quality Control」で初めて使ったものであるとされています。
ファイゲンバウムによれば、TQCとは「顧客に十分満足してもらえるかぎりにおいて、最も経済的に品質水準の製品を生産し販売していくために、組織内のいろいろなグループが払う品質開発、品質維持、品質改良の努力を1本にまとめて効果的ならしめる総合的な活動」です。アメリカでは、当時QC(品質管理)は品質管理屋ともいわれる一部の専門家(professional)の業務とされ、会社全体への影響は限られていたため、それへの警鐘として定義付けしたといわれています。しかし、日本で育っていったTQCは、単にこのように全社をカバーする専門家組織/システムという概念を超えて、常に次のステップに上がっていく継続的改善を核にした幾つもの概念と手法の集合の活動でした。このため1965年当時には、日本式TQCは海外のそれとは区別すべきであるとして、CWQC(Company-wide Quality Control)と呼称しようという動きが起こりました。当時のJIS Z 8101によれば、CWQCとは「品質管理を効果的に実施するためには、市場の調査、研究・開発、製品の企画、設計、生産準備、購買・外注、製造、検査、販売およびアフターサービスならびに財務、人事、教育など企業活動の全段階にわたり、経営者をはじめ管理者、監督者、作業者など企業の全員の参加と協力が必要である。このようにして実施される品質管理を、全社的品質管理(company-wide quality control,略してCWQC)という」と定義しています。
このようにJISでは、日本式品質管理をCWQCと定義しましたが、以降CWQCという呼び方はあまり使われず、日本式TQCあるいは単にTQCと呼ばれていきました。ここで強調しておきたいのは、TQCは日本の中で独自の発展を遂げていき、ファイゲンバウムが想定した枠組みを大きく超えていったということです。この日本式TQCは、各大学、各企業、そして各研究所の優秀な人材が参加することで、切磋琢磨しながら次々と新しい論理が開発されていきました。そしてこれらの論理が強固な基盤となって1970~1985年の日本産業界の大飛躍をがっちりと支えていくことになりました。
4.2 TQCの応用―データをベースにした分析
信州精器でいろいろな加工機械を自由自在に使いこなせるようになるために、いろいろな実験をしました。最適加工条件を探り当てるにはTQCの各種手法の活用が有効でした。地板、受、番車などの加工条件を決定するには、加工条件(スピンドル回転数)、切削油量、刃工具切れ味など多くの要因をパラメータとして選択して、外乱と組み合わせた加工試験が必要でした。TQCの手法、別名「QC7つ道具」と呼ばれるものは、次の7つの手法の組み合わせです。
① 特性要因図
課題/問題の結果と原因の関係を図表に表し、原因の数値データを解析しようとする手法です。図表で一番右に位置する「特性」は結果を表していますが、それに関係して線図で結ばれる「要因」は原因を意味しています。
② チェックシート
データを取るときには、データの取り忘れないように、また何かを検査し点検する時の点検表です。検査や点検のし忘れを防ぐために、項目を一覧表にしておくと便利であり、解析もし易くなります。製品の検査や設備の点検、5Sや安全などの活動状況を点検するときにも用いました。
③ パレート図
問題とする事象(例えば、不良品数、クレーム数、損失金額等)の数を縦軸にとり、これを原因別、工程別、製品別、顧客別等に分類して、その数の大きさの順に並べた図(棒グラフ)です。パレート図からは、問題とする事象の重点項目とその全体に占める割合等を評価しました。
④ ヒストグラム
多くのテータを纏めて、その分布状況を見やすくしたものがヒストグラムです。ヒストグラムからは、分布の状態が分かります(分布の型、ゆがみ、モード、離れ島)。工程能力の調査、平均値、標準偏差の計算に便利でいろいろな活用ができました。
⑤ 散布図
要因と特性、特性と特性、要因と要因などの2つの変数間の関係を表した点グラフです。取り上げた2つの変数間の相関関係は、直線的な傾向か、要因の寄与率はどのくらいか等を調べることに使いました。
⑥ 管理図
プロセスの管理状態を調べることができる便利な手法で、管理図を使用することで次のことが分かります。
・プロセスが管理されているか。
・プロセスに時系列的な変化があるか。
・層別の仕方が適切か。
⑦ グラフ
折れ線グラフ、棒グラフ、円グラフ、レーダーチャート、上記のパレート図、ヒストグラム、管理図、散布図等の数値データを分かり易く表現したもので、QC活動でよく用いました。現在では、エクセルで簡単に描けるようになっています。