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第31回
現在、経済のグローバル化、ボーダレス化の進展、インターネットの普及、情報通信の高度化などにより従来の時間、空間的制約はいまや崩壊してしまい、今日の社会システムは大きく変貌しています。このような社会システムの大きな変化により、グローバルスタンダードは国際競争の中で組織の市場ポジションに大きな影響を与えるようになっています。
ISO9001の普及により、日本ではISOといえばISO9001のことだと思う人が増えていますが、国際社会ではISOとはもっと広い概念で理解されています。ISOは品質マネジメント規格を制定している組織だと思っている人には、ISOの本当の姿を知ってもらいたいと思います。ISOは、International Organization for Standardizationの略称で、日本語では「国際標準化機構」と訳されています。この略称については、「IOSでなくどうしてISOかと」いう質問をいだく人が多いようです。
◆ ISOとは
ISOの起源は、終戦直後の1946年、ロンドンで開催された連合国18カ国の国家標準化団体によって構成されたUNSCC (国際連合規格調整委員会:United Nations Standards Coordinating Committee)の会議にさかのぼります。UNSCCは、ISOの前身であるISA(万国規格統一協会)の業務を継続する臨時の機関でした。第二次世界大戦後のその日、UNSCCにおいてISAを継続する新しい機関の検討が行われ、現在のISOという名称になりました。このことについて、ISO中央事務局では、正確な理由は明らかでないが次のような理由によると述べています。
- ① ISOとすれば、その英語名(IOS)のみならず他の公用名であるフランス語(OIN)のいずれの頭文字を並べたものではなく、各国の支持を得やすいこと。
- ② ISOは発音しやすく、また前身の機関(ISA)を知っている人たちは、容易に連想できること。
- ③ ISOが「等しいこと」、「一様性」を表すギリシャ語(ISOS)の接頭語であり、多くの科学技術用語の中にみられること(Isotope, Isobar)。
現在、ISOの発足を決議した10月14日は、国際標準化の日(World Standards Day)とされ、世界各国で標準化に関する催しが行われています。日本では、この日に前後して標準化全国大会が開催され、標準化に関する研究や標準化に貢献した人に対する経済産業大臣表彰などが行われています。少し公式的な表現になりますが、ISOのパンフレットでは設立目的を次のように紹介しています。
「物資及びサービスの国際的な交流を容易にし、知的、科学的、技術的及び経済的活動分野の協力を発展させるために世界的な標準化及びその関連活動の発展を図ること」。
ISOには、2020年現在、約160か国が加盟しています。その参加は各国の代表的な標準化団体の一機関に限られ、日本はJIS(日本工業規格:Japanese Industrial Standards)を審議をしているJISC(日本工業標準調査会:事務局経済産業省基準認証ユニット)が1952年に加盟し、現在、米国、イギリス、フランス、ロシア、ドイツと並んで常任理事国となっています。ただ、ISO活動はその発足の歴史から欧州中心と言われがちですが、2003年のISO総会では、Chairmanとして日本規格協会の田中正躬氏(元経済産業省標準部長)が選出されISOへの日本の影響力も強くなってきています。
なお、電気分野の国際標準を進める同様な国際標準化機関としては、1908年に創設された国際電気標準会議(IEC:International Electronic Commission)があります。
◆ ISOとWTO
ISOは、スイス民法第60条に基づくスイス国の法人で非政府間機関です。過去、日本ではISOは国連機関でないからあまり重要でないという認識でした。しかし、ISOは、数多くの国際連合及び関係の国連専門機関の諮問的地位をもっています。例えば、1995に発効したWTO(世界貿易機関)/TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)の第2条(中央政府の技術的規制)は、国際規格を技術的規制の基礎として使用することを義務付けています。また、第5条(中央政府機関による認証手続き)は、加盟国が行う技術的規制または任意規格に対する認証手続について、国際標準化機関(ISOやIECなど)の定める指針や勧告を基礎として使用することを義務付けています。現在、TBT協定の下で、WTOは、次の8つの国際標準化機関を公式オブザーバーとしての地位を与えています。
- 国際標準化機構(ISO)
- 国際電気標準会議(IEC)
- 国際電気通信連合(ITU)
- FAO/WHO合同食品規準委員会(CODEX)
- 経済協力開発機構(OWCD)
- 国際獣疫事務局(OIE)
- 国際法定度量衡機関(OIML)
- 国連欧州経済委員会(UNECE)
WTOは、世界の自由貿易体制を守るために日本にとっては重要な国連専門機関のひとつです。国際標準化機関として、ISO、IRC、ITUの3つの機関がWTOの公式オブザーバーに入っていることは、ここで発行される国際規格に重要な意味を与えます。欧州では、この3機関に対応して3つの公的欧州標準化機関(EOS)が存在しています。ISOに対する地域標準機関として欧州標準化委員会(CEN)、IECに対しては欧州電気標準化委員会(CENELEC)、ITUに関しては欧州電気通信規格協会(ETSI)です。この3つの公的欧州標準化機関への各国の加盟機関は、ISO、IEC及びITUのものと同じ加盟機関でもあることから、欧州標準化機関と国際標準化機関との間には強い一体感CEN会議が併せて開催されます。この結果、相互の作業の重複や対立を防ぐために、1991年にISOとCENとの間でウィーン協定、1996年にIECとCENELECとの間でドレスデン協定、2000年にITUとETSIの間でMOU(合意文書)が結ばれています。
結果として、機関間の連続性は担保される一方で国際規格の作成における欧州標準化機関の存在が大きくなっています。また、最近ではCEN/CENELEC/ETSIの活動に対して欧州以外の多数の会員も抱えるようになってきています。
また、ISO加盟国のうち、発展途上国では工業省、商務省という政府の機関がISOに直接参加しています。先進国(日本は政府機関)では、政府機関が直接加盟していませんが、機関の理事会には政府機関の代表も参加しており政府と密接に結びついています。このことは、海外とのビジネスでは、国際貿易を容易にする見地からもISOのルールは無視してならないということを意味します。特に、経済活動のグローバル化が進むなかで、試験データの受け入れや認証結果の受け入れを行う場合、国際規格のもつ意味は年々重要になってきています。
従来、日本では「任意規格」と訳して軽く考えられてきたISOやJIS規格は、「自主規格」と訳すべきです。例えば、米国への自動車輸出の規制ボランタリーVER(Voluntary Export Registration)は、輸出自主規制であり任意規制とは言いません。規格の世界では、ボランタリーの意味は「守らなくてもよい」「どちらでもよい」というのではなく、もっと強い意志が働いているものです。社会奉仕活動のボランタリーも社会貢献という強い意志が働いてこそ出来るものです。われわれは、長い間、規制のなかに居すぎたことから、本来のボランタリーの意味を認識できてこなかったかもしれません。
◆ ISOの活動と基準認証
ISOの活動は、IECで標準化が進められている電気分野の標準化を除くすべての分野を対象としており、日本の国家規格であるJISよりも所掌の範囲が広くなっていました。しかし、JISも2019年法律改正を行い、従来の「日本工業標準化法」を名称変更して「日本産業標準化法」として、従来対象としてこなかった「サービス分野」も扱うようになりISOの所掌と同じ範囲となりました。ISOの活動は、1960年代から活発化してきた。これは、60年代の欧米での国際企業の登場や貿易拡大に伴う政府のハーモナイゼーションへの関心の高まりの結果です。また、60年代に独立した数多くの発展途上国は、法規制の不備を補足する寄りどころとしてISOを導入し始めたことも背景にあります。
1987年のISO9000の発行は、ISOのイメージを大きく変えることになったと言われています。ISO中央事務局の広報官は、「昔はISO中央事務局です」と言うと、「ISO?」という答えが返ってきたが、最近では、「ISO9000ですか?」と言われ、軒下の借家人に母屋を取られた」と苦笑していたことを思い出します。
ISOの国際会議は2000年には、世界33カ国の国のどこかで、毎日、平均15回開催されています。現在は、コロナ禍の影響でISO会議は全面的にWEB会議になっていますが、開催頻度は相変わらず世界で毎日15回は開かれていると思ってよいでしょう。いかにISOの活動が広範囲で、頻度多く開催されているかがわかります。競争の激しい市場では、世界的な政策プロセスに参加することなく、世界的な地位を占めることができないと言われるように、日本もさらいISO国際会議に参加して存在感を示していくことが重要だと思います。
ISO規格と製品認証(MS認証とは異なる)の相互関係に関わる基準認証業務には、トレサビリティの確保という業務があります。ISO9000という国際規格はISOから発行されますが、ISO9000の要求事項の一つであるトレサビリティ確保にはISO17025(試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項)計測標準に基づく認証が必要で、その標準を供給する認定試験所にはILACから証明書が発行されます。
(つづく)