第35回

私のISO体験談をお話ししています。
私は2000年から日本規格協会からISO/TC176の専門家(エキスパート)として派遣され、10年間国際会議に参加してきました。最初の国際会議は2002年メキシコのアカプルコで開催されたISO/TC176の総会でした。翌年2003年にはルーマニアのブカレストでやはりISO/TC176の総会が開かれました。

この総会には私の妻と娘を連れて行きました。勿論私費です。1週間のホテル代、往復の飛行機代を入れますと少なくない出費ですが、イギリスに10年住んでいたこともあり彼女らは久しぶりの海外だと大喜びでした。ISOの国際会議には多くの人が同伴、家族連れで来ていました。日本の専門家でも飯塚先生の奥さん、加藤さんの奥さん、娘さんが来ていました。ISO事務局も心得ていて国際会議には出席しない彼/彼女たちのためのツアープランを作っていましたので、専門家たちは安心して議論に集中できる体制が出来ていました。

さて、WG 18の推奨を受けて,SC 2は,ISO 9001:2000及びISO 9004:2000の定期見直し(Systematic Review)を開始しました。
(注記)

  1. 定期見直しの目的は既存の規格の変更の必要性を明らかにすることにある。定期見直しの結果,確認(変更せず維持),廃棄,修正・改正のいずれかに決める。
  2. 定期見直しは2003年末に開始されたとしても,ISO 9001,ISO 9004の修正・改正は,2008年の第2四半期以前には終了しないと予想される。
  3. 定期見直しの結果,修正・改正となったら,ISO Guide 72に規定されている妥当性評価(Justification Study)が実施されることになる。

この決議は要するに,3年間凍結してきたISO 9001/9004改正審議の開始を承認するものです。この決議に妙な注記が付いています。本来このような注記は決議文には必要ないはずですが,関係者への確認の意味もあって記されています。何を確認しようとしているのでしょうか。
実はISO/TC 176/SC 2は,以前からISO/TC 207(環境管理)/SC 1(環境管理システム)との間で,ISO 9001とISO 14001の両立性・整合性の向上,さらには統合の可能性について密な検討を続けてきていました。当時の構想では,2012年にISO 9001とISO 14001の同時改正を行い,規格の構造は完全一致,内容的にも用語はもちろん類似の要求事項も可能な限り同じ表現にすることを考えていました。それもあって,SC 2のコアメンバの間では,凍結期間中になされていた意見交換によって,2008年と想定される改正では,ISO 9001は最小限の変更にとどめ,ISO 9004は思い切った改正も辞さないものにしようという合意が何となく得られていたのです。
だから,この注記には,内部的には何となく路線を引いているが,改正審議はルールに従ってきちんと行うという意思表明,あるいは注意喚起という意味があります。すなわち,ISO/IECのルールに従った方法・手順で,根拠ある情報に基づいて現行規格の確認(維持),廃棄,変更(修正・改正)のいずれかの判断を行い,また,ISO 9001関連規格の無用な増殖を防止するために,マネジメントシステム規格についてその正当性や内容に関して定められた指針ISO Guide 72の規定に従って,厳密に検討するということになるという確認をしているのでした。
実際,この決議案をめぐっては少しもめました。ISO 9001は追補(amendment),ISO 9004は改正(revision)を示唆する表現とか,次期改正が2008年になりそうであるとか,いろいろ書かれているからです。またISO 14001の改正との関連で,この見直しを開始する時期について懸念が表明されました。さらに,ISO 9001について,簡単な修正で済むようであれば,ISO中央事務局に作業を任せてはどうかといった意見もありました。しかし,ISO 9001ではいかなる変更も重要な変更になりかねず注意を要するとの判断から,きちんとした手順で透明性をもって作業を行うことで合意されました。この判断は,後年思えば正しかったのです。後述しますが何らかの変更をするということは,簡単に見えて,大変であることを,後年思い知ることになったのです。
(つづく)