第37回

私のISO体験談をお話ししています。
私は2000年から日本規格協会からISO/TC176の専門家(エキスパート)として10年間国際会議に参加してきました。
前々回から2003年10月ルーマニア・ブカレスト会議の様子をお話ししています。
年が明けて2004年1月〜10月に,ウェブサイトを利用したオンラインユーザ調査が実施され,規格利用者から直接,ISO 9001:2000に対する評価や改善すべき点などについての意見収集が行われました。その結果,63か国,941ユーザからの回答,1477の個別コメントが得られました。総合的な評価は,全回答の75%が満足,19%が改善の必要性あり,6%が無回答又は該当しないでした。意味のある回答のうちでは約80%が2000年版ISO 9001に満足しているという,大変よい結果であったのです。
また,2000年版ISO 9000ファミリー規格の売りであったプロセスアプローチに対しては,支持849,反対70,無回答22ということで,ユーザはプロセスアプローチを本当に理解しているかどうかはわかりませんが,圧倒的な支持を受けていることがわかったのです。
1,477件の個別のコメントには,箇条ごとに“理解が難しい”,“明確でない”などの要望が出されていました。

ユーザ調査と並行して,ブカレスト会議での決議の注記3にあるように,マネジメントシステム規格に対して要求されている妥当性評価(Justification Study)が実施されました。ここで基準となるISO Guide 72には,MSS(Management System Standard:マネジメントシステム規格)の新規作成,修正,改正にあたり,一般原則に従って妥当性評価(Justification Study)をしなければならないと規定されていたのです。この規定は今でも引継ぎされています。ISO 9001:2000の改正についてISO Guide 72に基づく評価が実施されたとはいうものの,元々Guide 72という指針は,ISO 9001準拠のセクタ規格の自己増殖や,品質・環境以外のマネジメントシステム規格のいわば粗製乱造に対する抑止策として設けていたものです。前述したように,ISO 9001の改正は,追補改正ということで,事実上ISO 9001:2000を継承することにしているので,この妥当性評価が問題にしている事項について重大な問題は生じ得ないところでした。
これらを踏まえて,SC 2は,ISO 9001(とISO 9004)の改正規格開発に関する推奨報告書(Recommendation Report)の作成を行いました。“SC 2は”といいましたが,事実上はWG 18のPOTGが検討を行ったのです。私もその議論に加わりましたが、正直なところ,出来レースのシナリオ確認を行っているようなもので,3年間の改正論議凍結の間に,次はこうだろうなどとウラで議論してきたことを,オモテに出すだけのことでしたが,国際会議の一面を見た気がしました。
報告は,SC 2/WG 18のプロジェクトリーダJeff HooperとSC 2事務局のCharels Corrie名で2004年9月に発行されました。この報告には,Annex Aチェックリストの32の質問に答える形で上記の原則を確認しています。以下に,最初の二つの質問と回答を参考に掲げます。
A.2.1 a)提案するMSSの目的と範囲は何か?
 答え:ISO 9001:2000の追補(amendment)が目的である。範囲(scope)についてはISO 9001:2000からの変更はない。
A.2.1 b)提案するMSSは,国際規格(IS),ISO(/IEC)ガイド,技術仕様書(TS),技術報告書(TR),公開仕様書(PAS),国際ワークショップ協定(IWA)のどれに当たるか?
 答え:国際規格(IS)である。

シナリオは決まってはいても,それを公式プロセスで実施すると1年近くかかってしまうのが国際的合意を得るということである。非効率ではあるが重要な経緯を経て,公式に,2008年におけるISO 9001改正は,要求事項には変更を加えず,規格の明解さと使いやすさを大幅に改善するための表現の変更にとどめることが決まりました。すなわち,ISO 9001:2000に対して行う変更の目的は,

  • 要求事項の表現の明解さ,翻訳のしやすさ,規格の使いやすさの改善
  • 解釈要請に現れたような要求事項のあいまいさへの対応
  • ISO 9000ファミリー規格との整合性の向上
  • ISO 14001:2004との両立性の向上

にあり,ISO 9001の追補改正内容の検討への主たるインプットには,

  • ISO/TC 176の解釈プロセスで承認された解釈
  • ISO 9001:2000の導入・支援パッケージ(Introduction & Support Package)の文書
  • ISO 9001:2000(とISO 9004:2000)に対して実施した定期見直し(Systematic Review)

結果

  • ISO/TC 176/SC 2が実施したウェブサイトベースでのユーザ調査結果
  • ISO 14001:2004
  • ISO Guide 72:2001

などがあることが確認されました。
上記のうち“解釈”とは,ISO/TC 176の解釈プロセスを経て,ウェブサイトで公開されている合計37のISO/TC 176の公式解釈のことをいっています。ここでは、このような解釈が必要なくなるように要求事項の表現を検討しようということです。導入・支援パッケージも趣旨は同じで,規格本体以外の支援文書の必要性を極力減らすことができるように,要求事項の表現を工夫しようということでした。また,ユーザ調査を通して多くのコメントを受けたが,こうした意見・質問を受けないように要求事項の表現を工夫するということでもあります。
ISO 14001との両立性の向上は,2000年版のときからの課題であり,ISO全体としても重要課題と認識されていて,ISO/TMB(Technical Management Board:技術管理評議会)からは様々な“干渉”がありました。ISOの方針に従うという意味もあるが,実は各国からの強い希望もあり,可能な限り“同じような”規格にするように求められていたのです。ここでISO 9001とISO 14001の両立性(compatibility)とは,二つの規格の共通の要求事項が,不必要な重複や矛盾なく同時に実施できる状態のことをいっています。決して,共通の要素は同じ表現,同じ用語でなければならないとか,同じ章節番号でなければならないとか,同じモデル,同じ構造でなければならないとか,異なる指針,注記,附属書があってはならないというような,外面的,形式的なことを意味しているわけではありませんでした。
こうして,ISO 9001:2008追補改正の基本方針は,次のように決められました。

  • 現在の範囲(scope),目的,規格表題,適用範囲(field of application)は変えない。
  • 新たな要求事項は追加しない。
  • 規格はどのようなセクタの,あらゆる規模,種類の組織にも適用できる一般的なものとする。
  • 品質マネジメントの8原則を変えることなく,適用する。
  • プロセスアプローチを維持する。
  • 変更は,規格利用者への影響を最小限にとどめるようなものに限定する。
  • ISO 14001:2004との両立性を維持し,可能なら向上する。
  • ISO 9001:2008への適合の認証は,“向上・進歩”(upgrade)ではない。過渡期間において,ISO 9001:2000認証は,ISO 9001:2008認証と同じ資格とみなされるべきである。

(つづく)