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第39回
規格の仕様書という概念
規格開発の初期に仕様書を書くという方法は,実はISO9000ファミリー規格の2000年改正版の開発のときから採用されています。
規格の審議において,ISOのルールに従って,NWIP(New Work Item Proposal:新業務項目提案)が承認されると,いずれかのTC(Technical Committee:専門委員会)又はSC(Sub Committee:分科委員会)の下にWG(Working Group:作業グループ)が結成され,ここで検討が行われます。
NWIPにはどのような規格を開発するかの記述はありますが,概要だけです。この文書に従って担当WGが作業を進めるうちに,当初の提案内容とはかなり異なる規格が作成されることもあります。実際,ISO/TC 176における1994年版ISO9001〜9003の改正においては,当初の計画を上回る変更がなされました。よかれと思ってやっているのだが,担当WGは暴走しやすいのです。
この反省から,ISO9000ファミリー規格の2000年改正のときには,開発予定の規格の仕様書を作成しました。2000年版ISO9001についても仕様書を作成しました。しかしながら,できあがったISO9001:2000は,その仕様書の範囲を超えて,品質保証+αの規格になっていたし,表題も変更されていました。規格の原案作成作業を進めるうちに,規格の性格を変更したくなることは十分に考えられますが・・・.そのような場合には仕様書を変更して作業を進めればよいのですが,2000年改正のときには,仕様書の変更手続きは一切なされなかったのです。
実は,2000年版ISO9001の最終投票においては,日本だけが反対票を投じています。これは,投票の対象になっている規格が仕様書に反しているものだし,日本としてはISO9001の2000年改正版は依然として“品質保証”システムの規格であったほうがよいと考えたからです。品質保証システムがマネジメントシステムに代わるということは大きな変更になるのですが、だれも反対を言いません。この投票には,当時多くの国から最後の最後まで、日本一国だけ反対するのはいかがなものか,いずれ後悔することになるなどと忠告・警告があり,変更するように強い説得がありました。しかし、飯塚日本代表は、頑固にも変えませんでした。ISO9001:2000のその後の受け入れられ方を考えると,反対したことは,世界が品質保証から踏み出す品質マネジメントシステムモデルを求めることになるという世の情勢を見誤っていたことになるのではないかと、私(平林)は当時思っていました。しかし,規格という製品とその仕様書との一致を問題にして,筋を通したことは正しかったといまでは思っています。
また、品質保証システムがマネジメントシステムに代わったことで多くの組織にシステムの形骸化がもたらされたと思っています。
こうした背景もあって,SC2は今回の改正作業の初期段階に規格の仕様書の変更手続きをある程度厳格にすることを決めていました。ISO9001:2000改正のときの日本の投票行動の論拠に配慮したということです。
以下は、飯塚先生の回想からの引用です。
「SC2事務局のCharles Corrieは,ISO審議のプロとして,公式なプロセスを尊重しつつも現実的な対応案を考察し,私(飯塚)にこれでよいかと聞いてきた。私がWG18リーダのJeffの代理を務めているし,私がその問題の日本代表だったからでもある。それは,仕様変更提案文書を回付して3か月程度の期間を設けて投票すると時間がかかるので,会議を開催している週の総会に付議して賛成多数なら変更を承認するという方法である。変更提案は,原案審議の週の間に生まれる可能性が高い。だから,その週のうちに了承されれば,実質的に原案審議を停止することなく進めることができる。」
(つづく)