第41回

ISO9001:2000追補改正仕様書をまとめるに至る経緯を少し詳しく説明します。
ISOGuide72に基づくマネジメントシステム規格の妥当性評価に基づく推奨報告書には,ISO9001追補改正の仕様書について細かく定められていました。

  • 利用者のニーズ
    ユーザ調査,定期見直し,MSS妥当性評価から規格利用者のニーズを明確にすること.特に定期見直しからの次の事項には注意を払うこと。
    —追補(amendment)では,ユーザに影響の大きい新しい要求をしない,という大多数の意見があること。
    —規格解釈WGから指摘された課題に焦点を当てる必要があること。
    —ISO14001:2004との整合性に焦点を当てる必要があること。
  • 範囲
    現在の規格の範囲,目的,表題,適用の範囲はそのままであること。
  • 整合性と一貫性
    多くの関連組織(リエゾン,WG, TG)から,他のマネジメントシステム規格との整合性の課題が提起されている。特に,ISO/TC176とISO/TC207のJTG(Joint Task Group)とSC2/WG18/TG1.18(ISO14001との両立)とは強い関係をもつこと。
    —現在のISO14001との両立性,整合性のレベルを落とさない。
    —今回のISO9001追補で新たに問題となるかもしれない整合性の問題を認識する。
  • モデルと構造
    現在の規格が採用しているプロセスに基づく品質マネジメントシステムモデルを維持すること。
  • 作成物
    規格(追補版)の草案者にとって有益に使用できるもので,かつ最終草案が仕様に適合しているかどうか検証できるものであること。

2005年クアラルンプール総会で規格の仕様書の草案作りが始まりましたが,最初に議論となったのが次の2点でした。

  • 追補(amendment)とはどのような範囲までをいうのか。
  • 仕様書の内容構成をどうするのか。

まず,追補の範囲について,各国からは次のような考えが披露されました。

  • ① 要求事項の追加,削除がない修正,改善のこと
  • ② 認証審査において追加事項がないこと
  • ③ 認証活動において移行処置がないこと

日本は定期見直し投票において,品質マネジメントシステムの論理構造から箇条の構造変更をすべきであるとのコメントを提出していました。この日本の出したコメントにかかわる議論、すなわち追補に箇条(clause)の移動を含むのかどうかも議論されました。

  • ① 日本の主張:規格の品質が向上し,信頼性が高まるならば,箇条の移動は実施すべきである。具体的には“8.2.4製品の監視及び測定”,“8.3不適合製品の管理”は箇条7に移動させるべきである。
  • ② ドイツの主張:箇条8から箇条7に移動することは今回の修正では認められない。次回の改正まで待つべきである。理屈は正しくても箇条7の除外対象になることで規格利用者への影響が大きすぎる。

箇条(clause)の移動以外の意見も議論されました。

  • ③ オーストラリアの主張:除外が支障になるなら,1.2の要求事項に箇条7を除外対象にするが○○は除外できないと追加すればよい。
  • ④ カナダの主張:規格利用者への影響と規格品質の向上とのどちらを優先するかは,難しい問題である。そこで,影響評価法を使用することを提案する。

このように各国の主張はいろいろでしたが、結果的には変更をするかしないかの判断のための一般的方法として,カナダの主張する影響評価法を採用することになりました。そして構造の変更はいかなるものも認めないことになりました。つまり日本の主張は受け入れられませんでした。

さらに,定期見直しの際に各国から提出されている“追補”に関するコメントをめぐって次のような議論がありました。

  • 英国:定期見直しそのものには具体的なコメントが少ないので,各国のコメントを採用するかしないかをここで審議して,有用なものは仕様書に盛り込む。
  • アルゼンチン:有用であるかないかはどのように決めるのか。まずはその基準を議論すべきである。
  • 日本:定期見直しは加盟国の正式なコメントであるから,抽象的なコメントを除く具体的なコメントはすべて内容の是非を問わず仕様書の附属書(AnnexB)に入れるべきである。

このような議論がクアランプール総会(2004年12月)に始まり,カルタヘナ会議(2005年5月),パナマ総会(2005年10月)へと引き続き行われ,パナマ総会の前には仕様書の承認が確認されたのです。
(つづく)