第45回

ISO/TC176/SC2クアランプール総会について、これまでISO9001:2000の追補についてお話をしてきました。今回はその会議の内容を国内委員会へ報告した資料についてお伝えしたいと思います。以下は私が2005年1月に国内委員会に報告したものをそのまま掲載させていただきます。

クアランプールTC176/SC2/WG18 TG1.16には各国から約30人のエキスパートが参加したが、今回は規格の修正内容を議論する場ではなく、修正のための設計仕様書(変更仕様書といってもよい)をISO Guide 72:2001に沿って作成しようということであった。具体的な規格の修正議論は、設計仕様書が正式に承認された後、規格草案者によってなされていくことになる。そうはいっても、設計仕様書がISO9001:2000規格の修正の枠組みを決めてしまうことになるので、初日から白熱した議論が交わされた。
白熱した理由は、例えば、設計仕様書に「項の配列順序は変更しない」という一項が入ってしまうと、日本の主張している8章から7章への項の移動はできない、ということになってしまうからである。今回の会議で設計仕様書の第一次草案が作成されたが、ポイントは修正による規格のユーザーへの便宜性向上と影響の大きさのバランスをどのように取るのか、というところに絞られることになった。
以下に、ISO9001:2000規格修正(amendment)の設計仕様書の草案作成について報告をする。

1. ISO Guide 72:2001とは
ISO Guide 72:2001は、MSS(management system standards)を新規作成したり、修正したり、改訂する場合は正当性スタディ(Justification study)を実施しなければならないとして、次のような一般的原則を規定している。

マーケットにおける適切性 総てのMSS はユーザー並びに関係する組織のニーズに合致し、付加価値をもたらすべきである。
両立性 種々なMSS、MSS ファミリー規格内の両立性が維持されているべきである。
使用の容易性 ユーザーは一つのMSS、及びそれ以上のMSSを容易に実行できるべきである。
トピックス網羅性 セクターに特有な規格を無くすか、最小にするような十分な適用網羅性をもっているべきである。
柔軟性 関係する総てのセクター、文化、規模の組織に適用できるべきである。組織が他の組織と競争上異質であったり、追加的であったり、規格を越えてMSSを強化したりすることを妨げてはならない。
技術的基盤性 MSSは証明済みのマネジメント手法、科学的に立証されたもの、適切なデータに基づくべきである。
理解容易性 容易に理解でき、あいまいさがなく、文化的な偏見がなく、翻訳がし易く、ビジネスに総合的に適用できるべきである。
自由貿易性 MSSは WTOのTBT(Technical Barriers to Trade)協定に含まれている原則に沿って、製品、サービスの自由貿易を認めるべきである。
適合性への適用性 内部監査、第2者監査、第3者審査適合性評価へのマーケットニーズを評価して、スコープに適合性評価への使用に適することを明記すべきである。 MSSは合同監査を推奨すべきである。
除外 MSSは直接的に、製品(サービスを含む)仕様、試験方法、パフォーマンスレベル(例えば、許容限界)又は特定の組織作成のフォーム、帳票等を含むべきではない。

そして、ISO Guide 72 付表 Aには、ISO/IEC Directives, Part 1, 2001,on annex Cから作成したチェックリストがあり、このチェックリストに基づいてMSSのプロジェクトを推進することを推奨している。
今回2004年9月28日に発行された正当性スタディのレポートは、ISO/TC 176/SC2/WG18 のプロジェクトリーダーである J.Hooper(サブリーダー飯塚悦功教授) とSC2 事務局が付表Aのチェックリスト32項目を確認し作成したが、その要旨は次の通りである。
①使用者のニーズ
 systematic review、規格解釈グループからのインプット、ユーザー調査から使用者のニーズを明確にする。特に次のことに注目すること。
・今回のamendmentに対しては、ユーザーに影響の大きい変更はしない、という大多数の意見があること。
・規格解釈グループから上げられた課題に焦点を当てる必要があること。
・SO 14001:2004規格との整合性に焦点を当てる必要があること。
②範囲
 現在の規格の範囲、目的、タイトル、適用の範囲はそのままであること。
③両立性と一貫性
 多くの組織(various liaison body ,WGs, TGs )から、他のマネジメントシステム規格との両立性の課題が提起されている。特に、ISO TC176 & 207JTG とSC2 / WG18 TG 1.18とは強い関係をもつこと。
・現在のISO 14001とのcompatibility / alignment のレベルを落とさない。
・今回のISO 9001修正で新たに問題となる両立性問題を認識する。
④モデルと構造
 現在の規格が採用しているプロセスに基づくQMSモデルを維持すること。
⑤作成物
 規格(修正版)の草案者(drafter)が有益に使用できるもので、かつ最終草案を検証できるものであること。

2. システマチックレビュー(systematic review)
システマチックレビューとは、各国のTC176登録組織(日本はJISC/JSA)が実施する正式な意見表明である。
日本はシステマチックレビューで次のような報告をしている。
①ISO 9001:2000 規格の移行が終了してまもなく大きな変更をすることは適切ではない。
②しかし、過去3年間の活動を通じて、規格の正しい理解のためにはより明確にした方がよい幾つかのポイントが存在することも事実である。
③したがって、要求事項を変更することなく、規格の誤解を避ける幾つかの変更を提案する。例えば、次のような変更である。
 ・規格の整合性を高めるために順序を変える。
  例)「8.2.4 製品の監視及び測定」と「8.3 不適合製品の管理」の2つの項は、8章から7章へ移動する。
 ・概念の明確化
  例)アウトソースはガイダンス文書N544R2の内容を反映させる。
 ・要求事項の明確化
  例)品質マネジメントシステムの計画 (5.4.2 a):4.1に規定するQMSに合致する計画とは何か、品質目標に合致する計画とは何かを明確にする。
  例)内部コミュニケーション (5.5.3):“appropriate communication processes”を “appropriate communication activities”に変更する。
 ・他の規格との整合性
  例)内部監査 (8.2.2):ISO 19011規格との整合性のために、“objectivity and impartiality”を “independence”に変更する。
 
4.ユーザー調査(User Feedback Survey )
ユーザー調査はTG1.11の要請により、2004年1月から10月まで実施したウエブによる広範囲な調査である。2004年9月28日、正当性スタディへのインプットのため取り敢えずの纏めとして2004年1月から7月までの調査結果が発表された(10月末までの正式な集計は再度行われる)。それによると、60カ国から882人の参加があり、1,400件を超えるコメントを得た(7月31日現在)。もっとも応募が多かった国はアメリカであった。882人の内約80%の人が3つの規格(ISO9000、9001、9004)とサポーティング文書に満足していると回答している。ISO9001規格に関しての1,334件のコメント内容の多くは、「規格の曖昧さのため審査において混乱が起きている」ということに関してのものである。

5.WG18規格解釈グループからのインプット
WG18に組織された規格解釈グループは、2002年からISO9001:2000規格への質問し対して解釈を与える活動をしてきた。今回の正当性スタディへのインプットの主たるものを下記に掲げるが、これらは今後の規格修正作業へのあくまでも一つのインプットであり、決してこのような修正がされると決まっているわけではないので、誤解のないようにしていただきたい。ここに具体的な例を幾つか掲げる理由は、今回の修正に当たってどのようなレベルの議論がされようとしているのかを理解していただきたいからである。

①「4.1 一般要求事項」
 「アウトソース」という用語が総てのユーザーに同じように理解されていない。「アウトソース」と購買との関係に混乱がある。「アウトソース」は ISO 9000に定義がされておらず、Oxford辞書の定義ではISO 9001の意味と合うとは思えない。
【解決案】
 「アウトソース」という用語は削除し、4.1項の最後のパラグラフを次のように変更する。「組織は、組織の外で行われているプロセスも含めて、製品適合性に影響を及ぼす総てのプロセスを管理することを確実にすること。そのような管理は、組織のQMSの中に明確にされていること。」

②「4.2.4 記録の管理」と関係する総ての項
 4.2.4項は、「記録は、要求事項への適合…効果的運用の証拠を示すために、作成し、維持すること」と述べている。 これを文字通り解釈すると、規格に“shall”という言葉が現れる都度、記録が要求されることになる。
【解決案】
  4.2.4項は、 記録を要求することよりも記録を管理することを要求している、ということを明確にする。次のような解決法が考えられる。1) 4.2.1 e)項、他の項総てから(4.2.4参照)を削除する。2) 4.2.4の最初のセンテンスを「QMSが要求する記録を管理すること」に置き換える。3) 4.2.4の最初のセンテンスの “shall be”を “are”に置き換える。どこで記録が要求されるかを見直す。4) 4.2.4項の最初のセンテンスを削除する。

③「5.6.3 b マネジメントレビューからのアウトプット」
 5.6.3 b)項の要求は、製品の改善が QMSの継続的改善に要求される一部であるとの誤解を与える。
【解決案】
  “product” が(単数だと)翻訳の上で問題を与えるので、 “products”と(複数)にする。

④「7.2.1 製品に関連する要求事項の明確化」
 ISO 9001.2000規格の文脈、背景から、法令・規制要求事項の意味するところへの疑問がある。
【解決案】
 これらの用語を定義し、ISO 9001規格を通じて一貫して用いられていることを、例えば、1.1 a) とb)においてチェックする。

⑤「7.2.1 製品に関連する要求事項の明確化」
 顧客と最終ユーザーとの混乱がある。ISO 9001 規格3項における、供給者―組織―顧客のチェーン図はユーザーに自分達の組織の次が顧客であるとの見解を与え、もし最終消費が組織から直接製品を受け取らないならば、彼らは顧客ではないとの考えを与えている。
【解決案】
  次のような解決案がある。1) ISO 9001:2000規格3項の顧客は自分達の次の組織であるとの示唆を取り除くため、供給者―組織―顧客のチェーン図は見直しする。 ISO 9001でいう「顧客」とは、使用者、消費者を含めていることを明確にする。 2) ISO 9001規格 に0.5項を追加して、TC 176/SC2 にインプットされている規格解釈を明確に述べる。3) 顧客の定義を一貫性の面から見直す。

⑥「7.2.1c 製品に関連する…」
 「製品に関連して」の意味が、総てのユーザーに同じように理解されていない。
“…requirements related to …” が“…requirements indirectly related to ….” も含むのかという質問が多くある。規格は「製品に関連して」、「直接的」とか「間接的」とかの特定的はしていない。しかし、もしこれらの表現をしないのならユーザーの間に不明確さが残り議論が続く。
【解決案】
 「製品に関連して」の意味を明確にして、他の表現方法を考える。

⑦「7.3 設計・開発」
 規格は、7.3項が最終目的地まで製品を保存するためのパッケージデザインを要求事項に含むのか、明確でない。 1.1項の参考は、顧客が要求も意図もしていないが組織が適切と考えて包装のデザインをするようなケースを想定していない。
【解決案】
 最終目的地まで製品を保存するためのパッケージは、製品の一部であるかどうかを明確にする。次のような解決案がある。1) 1.1項の参考を削除する。2) ISO 9000規格の「製品」の定義を修正する。3) 7.2.1項において明確にする。 4) 7.3.1項において明確にする (例えば最初のセンテンスの後ろに「製品保護に必要なパッケージする」を追加する)。5) 7.3.2項において明確にする( 例えば、“7.3.2 d)に「購買、製造、サービス提供及び製品保護で求められる場合」を追加し、7.3.2 d) を7.3.2 e)に番号を変更する)。6) 7.3.3項において明確にする ( 例えば、“7.3.3 b)に「製品保護のため」を追加する)。

⑧「7.5.2 製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認」
 7.5.2項の最初のパラグラフ第2センテンスには、「これには…又はサービスが提供されてからでしか不具合が顕在化しないようなプロセスが含まれる」とあるが、是正の機会が有るサービス提供、又はサービスが提供される前に顕在化する不具合ケースについて述べていない。
【解決案】
 7.5.2項の第2センテンスを次のものに置き換える。「これには製品が使用され、又はサービスが提供される前に不具合が是正されえないような総てのプロセスが含まれる」

⑨「8.3 不適合製品の管理」
 8.3項第2,4,5パラグラフはサービス産業においては適用させることが難しい。例えば、遅延したサービスにはどう対応するのか (遅れた飛行機)。
【解決案】
 8.3項は、サービス産業にも適用できるように書き換える、又はサービスには適用しないことをはっきりさせるか、その代り行うことを明確にする。

6.主な議論と設計仕様書草案
正当性スタディに沿って会議が進む中、焦点となったのは、「修正(amendment)とはどんな範囲までをいうのか」ということであった。まず次のような、修正に関する各国の考え方が披露された。
① Small changes and improvements in a ISO9001:2000 standard without adding & reducing the requirement
② No new requirement to the certification
③ No major transitional requirement、他
次に、より具体的に「修正は項の配列順位を変えることも含むのか」を巡って、次のような議論が交わされた。
① 日本の主張:規格の品質が向上し、信頼性が高まるならば項の移動は実施すべきである。具体的には8.2.4(製品の監視、測定)、8.3(不適合品の管理)は7章に移動させるべきである。
② ドイツの出張:8章から7章に移動することは今回の修正では認められない。次回の改定まで待つべきである。論理的には正しくても、7章は除外対象になっているのだから、そこへ絶対に除外してもらっては困る8.2.4、8.3等を持ち込むことは第3者審査に多大な影響を与える。

3日目からは、以上のような議論をベースに、30人が3グループに分かれて設計仕様書の内容を検討した。そして3日目の午後から4日目にかけて3グループが集まって、全体で草案の検討を行った。この期間中にほぼ90%の文案が出来、残りはメンバー同士でメール、SC2/TGウエブサイト等により、2005/1/23までに完成にもっていくことで合意された。

(つづく)